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(1)国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの[18都府県](61)-(117)


57件 不当と認める国庫補助金 671,049,858円

国民健康保険は、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)等が保険者となって、被用者保険の被保険者及びその被扶養者等を除き、当該市町村の区域内に住所を有する者等を被保険者として、その疾病、負傷、出産又は死亡に関して、療養の給付、出産育児一時金の支給、葬祭費の支給等を行う保険である。

市町村が行う国民健康保険の被保険者は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づき、一般被保険者と退職被保険者(注1)及びその被扶養者(以下「退職被保険者等」という。)とに区分されている。国民健康保険の被保険者の資格を取得している者が退職被保険者となるのは、当該被保険者が厚生年金等の受給権を取得した日(ただし、国民健康保険の資格取得年月日以前に年金受給権を取得している場合は国民健康保険の資格取得年月日。以下「退職者該当年月日」という。)となっている。そして、退職被保険者等となったときは、年金証書等が到達した日の翌日から起算して14日以内に市町村に届出をすることなどとなっている。

(注1)
退職被保険者  被用者保険の被保険者であった者で、退職して国民健康保険の被保険者となり、かつ、厚生年金等の受給権を取得した場合に65歳に達するまでの間において適用される資格を有する者

国民健康保険については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、市町村が行う国民健康保険の事業運営の安定化を図るために、同法に基づき療養給付費負担金(以下「国庫負担金」という。)が交付されている。

国庫負担金の交付の対象は、一般被保険者に係る医療費となっており、退職被保険者等に係る医療費については、被用者保険の保険者が拠出する療養給付費等交付金等で負担することとなっていることから、国庫負担金の交付の対象となっていない。

毎年度の国庫負担金の交付額は、「国民健康保険の国庫負担金等の算定に関する政令」(昭和34年政令第41号)等に基づき、次のとおり算定することとなっている。

国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたものの画像

(注2)
保険基盤安定繰入金  市町村が、一般被保険者の属する世帯のうち、低所得者層の負担の軽減を図るために減額した保険料又は保険税の総額について、当該市町村の一般会計から国民健康保険に関する特別会計に繰り入れた額
(注3)
前期高齢者納付金等  「高齢者の医療の確保に関する法律」(昭和57年法律第80号)の規定により社会保険診療報酬支払基金の高齢者医療制度関係業務に要する費用として納付する前期高齢者納付金及び後期高齢者支援金並びに介護納付金(前期高齢者交付金がある場合には、これを控除した額)
(注4)
国の負担割合  平成18年度から23年度までは34/100、24年度以降は32/100

このうち、一般被保険者に係る医療給付費は、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額と入院時食事療養費、療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額との合算額とすることとなっている。

ただし、届出が遅れるなどしたため退職被保険者等の資格が遡って確認された場合には、一般被保険者に係る医療給付費から、退職者該当年月日以降に一般被保険者に係るものとして支払った医療給付費を控除することとなっている。

また、都道府県又は市町村が、国の負担金等の交付を受けずに自らの財政負担で、年齢その他の事由により、被保険者の全部又は一部について、その一部負担金に相当する額の全部又は一部を当該被保険者に代わり医療機関等に支払う措置(以下「負担軽減措置」という。)を講じている場合がある。そして、負担軽減措置の対象者の延べ人数の被保険者数に占める割合が一定の割合以上の市町村については、負担軽減措置の対象者に係る療養の給付に要する費用の額、高額療養費の支給に要する費用の額等に、被保険者の負担の軽減の度合いに応じた所定の率を乗じて減額調整(注5)を行うこととなっている。

(注5)
減額調整  負担軽減措置により被保険者が医療機関等の窓口で支払う一部負担金が軽減されると、一般的に受診が増えて医療給付費が増加する(波及増)傾向があるとし、波及増に係る医療給付費を国庫負担対象費用額に含めると、負担軽減措置を講じていない市町村との公平を欠くことになるとして、この波及増に係る国庫負担対象費用額を減額するために行われる調整

国庫負担金の交付手続については、①交付を受けようとする市町村は、都道府県に交付申請書を提出し、②これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査した上で厚生労働省に提出し、③厚生労働省は、これに基づき交付決定を行って国庫負担金を交付することとなっている。そして、④市町村は、当該年度の終了後に都道府県に事業実績報告書を提出し、⑤これを受理した都道府県は、その内容を審査した上で厚生労働省に提出し、⑥厚生労働省は、これに基づき交付額の確定を行うこととなっている。

本院は、32都道府県の310市区町村において、平成21年度から25年度までの間に交付された国庫負担金について、会計実地検査を行った。その結果、18都府県の57市区町において、負担軽減措置の対象者に対する高額療養費の一部を減額調整の対象としていなかったり(「国民健康保険に係る療養給付費負担金及び財政調整交付金の交付に当たり、都道府県に対して減額調整の対象となる高額療養費及びその集計方法等を具体的に示して、これを都道府県を通じて市町村に対して周知徹底することにより、その交付額の算定が適正に行われるよう是正改善の処置を求めたもの」参照)、一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定していたり、遡及して退職被保険者等の資格を取得した者(以下「遡及退職被保険者等」という。)に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったりするなどしていたため、国庫負担金交付額計436,234,503,783円のうち計671,049,858円が過大に交付されていて、不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、上記の57市区町において制度の理解が十分でなく事務処理が適切でなかったこと、上記の18都府県において事業実績報告書の審査が十分でなかったことなどによると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

栃木県宇都宮市は、平成25年度の国庫負担金の実績報告に当たり、一般被保険者に係る医療給付費の算定において、遡及退職被保険者等について、退職者該当年月日以降に一般被保険者に係るものとして支払った24年度以前分の医療給付費の一部を控除していなかったため、国庫負担対象費用額を過大に算定していた。

その結果、国庫負担金が6,917,389円過大に交付されていた。

以上を部局等別・交付先(保険者)別に示すと次のとおりである。

  部局等 交付先
(保険者)
年度 国庫負担対象費用額 左に対する国庫負担金 不当と認める国庫負担対象費用額 不当と認める国庫負担金 摘要
        千円 千円 千円 千円  
(61) 青森県 黒石市 21~25 9,146,560 3,037,238 18,552 6,105 負担軽減措置の対象者に対する高額療養費の一部を減額調整の対象としていなかったもの
(62) 上北郡
七戸町
24、25 1,634,450 522,227 3,984 1,274 一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定していたものなど
(63) 上北郡
おいらせ町
21~24 4,474,461 1,499,158 13,644 4,493 負担軽減措置の対象者に対する高額療養費の一部を減額調整の対象としていなかったものなど
(64) 山形県 山形市 21~24 32,555,876 10,912,955 64,146 21,481 負担軽減措置の対象者に対する高額療養費の一部を減額調整の対象としていなかったもの
(65) 栃木県 宇都宮市 25 17,902,116 5,713,198 20,571 6,917 遡及退職被保険者等に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(66) 芳賀郡
益子町
25 1,130,356 361,873 △616 1,435 計算を誤って国庫負担金を過大に算定していたもの
(67) 埼玉県 草加市 24 8,594,669 2,735,595 18,630 6,145 遡及退職被保険者等に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(68) 大里郡
寄居町
24 1,522,548 484,802 5,785 1,967
(69) 千葉県 柏市 21~24 50,065,558 16,773,260 8,443 2,794 一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定していたもの
(70) 市原市 21~24 45,767,175 15,315,400 7,693 2,512 負担軽減措置の対象者に対する高額療養費の一部を減額調整の対象としていなかったもの
(71) 我孫子市 22~24 11,659,080 3,973,218 7,222 2,741 遡及退職被保険者等に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったものなど
(72) 浦安市 23 4,676,182 1,589,902 189,173 64,318 一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定していたもの
(73) 東京都 港区 24 10,141,831 3,247,040 33,984 10,874
(74) 江東区 24 19,595,776 6,266,474 7,362 2,501 遡及退職被保険者等に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(75) 杉並区 22 23,777,625 8,084,523 10,095 3,432 遡及退職被保険者等に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったものなど
(76) 青梅市 24 4,309,279 1,367,119 5,305 1,803 遡及退職被保険者等に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(77) 羽村市 24 2,146,646 684,603 10,504 3,361 一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定していたもの
(78) 神奈川県 小田原市 21、22、24 22,396,926 7,456,719 24,157 7,959 負担軽減措置の対象者に対する高額療養費の一部を減額調整の対象としていなかったもの
(79) 足柄下郡
湯河原町
22 1,230,637 418,416 14,750 5,026 遡及退職被保険者等に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったものなど
(80) 新潟県 上越市 24 5,724,058 1,828,042 11,375 3,857
(81) 富山県 富山市 21~25 56,483,431 18,724,285 155,384 51,829 負担軽減措置の対象者に対する高額療養費の一部を減額調整の対象としていなかったもの
(82) 魚津市 21~25 6,843,075 2,268,037 13,566 4,503
(83) 石川県 金沢市 21~23 50,168,775 17,059,667 49,706 19,312 一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定していたものなど
(84) 小松市 24 3,463,786 1,101,693 13,277 4,514 遡及退職被保険者等に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(85) 能美市 24 1,334,163 422,958 7,977 2,712
(86) 岐阜県 多治見市 21~25 17,044,191 5,650,291 74,120 24,524 負担軽減措置の対象者に対する高額療養費の一部を減額調整の対象としていなかったもの
(87) 関市 21~25 17,959,338 5,956,449 60,907 20,146
(88) 美濃市 21~25 4,363,728 1,449,269 20,139 6,659
(89) 瑞浪市 21~25 5,318,747 1,769,197 13,762 4,558
(90) 羽島市 21~25 13,020,949 4,321,534 85,226 28,214
(91) 恵那市 21~25 7,481,042 2,480,326 61,763 20,463
(92) 美濃加茂市 21~25 8,979,934 2,978,568 31,865 11,023
(93) 愛知県 清須市 22 2,510,005 853,378 3,235 1,100
(94) 弥富市 25 1,323,507 422,151 10,173 3,428 遡及退職被保険者等に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったものなど
(95) 大阪府 大阪市 24、25 245,870,602 78,740,121 210,532 67,374 負担軽減措置の対象者に対する高額療養費の一部を減額調整の対象としていなかったもの
(96) 堺市 21~24 130,083,349 43,547,959 36,053 12,062
(97) 吹田市 21~24 44,461,879 14,892,093 15,761 5,278
(98) 貝塚市 24 3,582,289 1,144,550 62,340 19,294 一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定していたもの
(99) 茨木市 21~24 35,522,883 11,891,286 12,850 4,295 負担軽減措置の対象者に対する高額療養費の一部を減額調整の対象としていなかったもの
(100) 八尾市 21~24 45,626,858 15,282,049 17,092 5,713
(101) 泉佐野市 23、24 8,683,977 2,862,997 10,247 3,366 一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定していたもの
(102) 寝屋川市 22~24 27,549,341 9,171,665 10,232 3,444 負担軽減措置の対象者に対する高額療養費の一部を減額調整の対象としていなかったもの
(103) 摂津市 24 3,668,028 1,169,376 35,122 11,239 一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定していたもの
(104) 泉南郡
熊取町
24 1,584,226 502,893 31,905 10,208
(105) 奈良県 桜井市 23 2,575,250 875,585 4,430 2,088 遡及退職被保険者等に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(106) 香芝市 24 1,920,647 610,413 26,890 8,808 一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定していたものなど
(107) 和歌山県 和歌山市 24 13,389,827 4,278,233 5,507 1,872 遡及退職被保険者等に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(108) 山口県 山口市 25 5,617,312 1,790,805 9,954 3,207
(109) 大島郡
周防大島町
24 1,110,893 354,155 5,978 1,913 負担軽減措置の対象者に対する高額療養費の一部を減額調整の対象としていなかったもの
(110) 福岡県 福岡市 21~24 226,193,763 75,777,332 274,207 92,044
(111) 飯塚市 24、25 10,841,367 3,467,638 10,586 3,387
(112) 柳川市 23、24 7,633,874 2,509,999 25,519 8,449
(113) 宗像市 23、24 6,421,609 2,120,823 26,096 8,527 負担軽減措置の対象となっている医療給付費に係る減額調整を誤っていたもの
(114) 古賀市 21~25 9,588,200 3,175,823 71,167 23,519
(115) 佐賀県 佐賀市 25 9,890,479 3,158,399 18,532 6,243 遡及退職被保険者等に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(116) 武雄市 24 2,219,268 708,658 3,348 1,071 一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定していたもの
(117) 三養基郡
みやき町
25 1,472,567 472,060 9,197 3,637 遡及退職被保険者等に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったものなど
(61)―(117)の計 1,320,254,998 436,234,503 2,010,043 671,049  
(注6)
芳賀郡益子町は、遡及退職被保険者等に係る医療給付費の集計を誤り、国庫負担対象費用額を過小に算定するとともに、その後の国庫負担金の算定の際には計算を誤って国庫負担金を過大に算定していた。このため、同町の「国庫負担対象費用額」は過小に算定していた額となり、また、「不当と認める国庫負担対象費用額」はマイナス表示の額となることから、当該金額については集計の対象としていない。