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  • 平成26年度|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(3)子育て支援対策臨時特例交付金により造成した基金を活用して実施する賃貸物件による保育所整備事業における消費税の取扱いが適切に行われ、これにより同基金が効率的に活用されるよう是正改善の処置を求めたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)子ども・子育て支援対策費
部局等
厚生労働本省
補助の根拠
予算補助
補助事業者
5都府県
賃貸物件による保育所整備事業の概要
都市部を中心とした保育所の整備が困難な状況の地域において、子どもを安心して育てることができるような体制整備を行うために、賃借料、借上時における改修費等に要する費用の一部を助成するもの
実施主体
29市区
助成事業数及び助成対象事業費
205事業 87億3296万余円(平成21年度~24年度)
上記に係る助成金額
21億4248万余円
助成対象事業費のうち仕入税額控除された消費税額
2億5374万余円
上記に係る助成金相当額
6318万円

【是正改善の処置を求めたものの全文】

子育て支援対策臨時特例交付金により造成した基金を活用して実施する賃貸物件による保育所整備事業における消費税の取扱いについて

(平成27年4月28日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 制度の概要

(1)子育て支援対策臨時特例交付金の概要

貴省は、「平成20年度子育て支援対策臨時特例交付金(安心こども基金)の交付について」(平成21年厚生労働省発雇児第0305005号)等に基づき、保育所の整備等を実施することなどにより、子どもを安心して育てることができるような体制整備を行うことを目的として、都道府県に対して、平成20年度以降、子育て支援対策臨時特例交付金(以下「交付金」という。)を交付して基金を造成させている。そして、その交付額は、20年度958億6700万円、21年度1631億7500万円、22年度967億8700万円、23年度1276億9751万余円、24年度1675億0764万余円、計6510億3415万余円となっている。

都道府県に造成された基金を活用して行われる保育所の整備等の事業については、「平成20年度子育て支援対策臨時特例交付金(安心こども基金)の運営について」(平成21年雇児発第0305005号。以下「管理運営要領」という。)等に基づき、都道府県が、事業に必要な経費を必要に応じ基金から取り崩して市町村(特別区を含む。以下同じ。)に助成金として助成することとなっている。そして、都道府県は、市町村が行う当該助成金を活用した事業に係る助成金の助成申請及び助成決定の事務に係る手続等について助成要綱を定めることとなっている。また、市町村は、保育所の整備等を行う事業者に対して当該助成金を助成する場合に、管理運営要領に定められた助成に当たっての条件(以下「助成条件」という。)を付すこととなっている。

(2)賃貸物件による保育所整備事業の概要

都道府県に造成された前記の基金を活用して行われる保育所の整備等の事業のうち、賃貸物件による保育所整備事業は、都市部を中心とした保育所の整備が困難な状況の地域において、同事業の実施主体である市町村が、保育所の設置主体となる事業者に対して、保育所の設置に当たって必要な建物の賃借料、借上時における改修費等の費用(以下「助成対象事業費」という。)の一部を助成するものである。そして、同事業における事業者は、市町村以外の者であって、継続的に保育を実施できる者とされているため、従来、保育所の設置等を行っている社会福祉法人等だけでなく、株式会社が事業者となることがある。

(3)消費税額の仕入税額控除の概要

消費税法(昭和63年法律第108号)等に基づき、消費税(地方消費税を含む。以下同じ。)は、事業者が課税対象となる取引を行った場合に納税義務が生ずるが、生産及び流通の各段階の取引で重ねて課税されないように、事業者による確定申告において、課税売上げ(消費税の課税対象となる資産の譲渡等)に係る消費税額から課税仕入れ(消費税の課税対象となる資産の譲受け等)に係る消費税額を控除(以下「仕入税額控除」という。)する仕組みとなっている。

(4)賃貸物件による保育所整備事業における消費税の取扱い

賃貸物件による保育所整備事業の事業者が消費税の課税事業者であり、かつ、同事業の対象となる建物の賃借、改修等により事業者が得る売上げが課税売上げとなるなどの場合、当該建物の賃借、改修等は課税仕入れに該当する。そして、事業者が確定申告の際に課税仕入れに係る消費税額を仕入税額控除した場合、事業者はこれらに係る消費税額を実質的に負担していないことになる。

このため、管理運営要領では、保育所の整備等を行う事業者に対し市町村が助成することにより実施する事業に対して都道府県が助成金を助成する場合、都道府県は、市町村に対して、助成要綱において、アの消費税の取扱いに関する条件(以下「消費税取扱条件」という。)を付し、イのとおり事業者が仕入税額控除した消費税額に係る助成金相当額を納付させることとなっている。

  • ア 市町村において、事業者に対して、事業完了後に消費税の確定申告により仕入税額控除した消費税額に係る助成金相当額が確定した場合、事業者は速やかに市町村長に対して報告を行うこと、当該助成金相当額を市町村に納付することなどを、助成条件として付すこと
  • イ 上記の助成条件により事業者から市町村に当該助成金相当額の納付があった場合には、都道府県は市町村に対してこれを納付させること

しかし、事業者が仕入税額控除した消費税額に係る助成金相当額が確定した場合に当該事業者が行う報告及び当該助成金相当額の納付に関する具体的な事務処理の手続については、都道府県及び市町村に対して示されていない。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

近年、待機児童に対する国民の関心が高まっており、保育所の整備の一層の促進等が強く求められる状況になっていることから、多くの保育所の整備が進められている。そして、賃貸物件による保育所整備事業においては、事業者の中に株式会社等の消費税の課税事業者が多数含まれていると見込まれる。

そこで、本院は、合規性、効率性等の観点から、上記の事業における消費税の取扱いが適切に行われ、これにより交付金により造成された基金が効率的に活用されているかなどに着眼して、5都府県(注)において、21年度から24年度までの間に、31市区が、事業者である46の株式会社に助成金を助成した282事業(助成金計29億6873万円)を対象に消費税の取扱いに関する調書、実績報告書等の提出を求めて、内容を確認し、分析するなどして検査した。

(注)
5都府県  東京都、大阪府、神奈川、愛知、兵庫各県

(検査の結果)

検査したところ、5都府県の29市区が事業者である27の株式会社に助成金を助成した205事業(助成対象事業費計87億3296万余円、助成金計21億4248万余円)において、当該事業者は、消費税の課税事業者であり、事業の対象となる建物の賃借、改修等により事業者が得る売上げが課税売上げとなることなどから、確定申告により課税売上高に対する消費税額から、上記の助成対象事業費計87億3296万余円に係る消費税額計2億5374万余円を仕入税額控除していた。

そこで、上記の仕入税額控除された消費税額に係るその後の取扱いの状況についてみたところ、次のような事態が見受けられた。

(1)東京都及び東京都管内の23市区における状況

東京都は、事業の実施に当たり、消費税取扱条件を助成要綱において管内の市町村に明示しておらず、事業の実施主体である管内の23市区も、事業者に助成するに当たり定めた要綱、要領等に消費税取扱条件を助成条件として明示していなかった。このため、上記205事業のうち23市区に係る126事業において仕入税額控除された消費税額に係る助成金相当額計3071万余円が、事業者に対して交付されたままとなっていた。

(2)4府県及び4府県管内の6市における状況

大阪府、神奈川県、愛知県及び兵庫県は、事業の実施に当たり、消費税取扱条件を助成要綱において管内の市町村に明示していたが、事業の実施主体である4府県管内の6市は、事業者に助成するに当たり定めた要綱、要領等に消費税取扱条件を助成条件として明示していなかった。このため、前記205事業のうち6市に係る79事業において仕入税額控除された消費税額に係る助成金相当額計3247万余円が、事業者に対して交付されたままとなっていた。

この結果、のとおり、事業者から29市区を経て5都府県に納付されないままとなっている助成金相当額は205事業に係る計6318万余円となる。

表 事業者から29市区を経て5都府県に納付されないままとなっている助成金相当額の内訳

都道府県名 市町村名 消費税取扱条件の明示の有無 助成事業数 助成対象事業費 助成金額 助成対象事業費のうち仕入税額控除された消費税額 左のうち助成金相当額
都道府県から市町村に交付する助成要綱 市町村から事業者に交付する要綱、要領等 (千円) (千円) (千円) (千円)
東京都 千代田区 2 234,108 22,325 5,619 535
中央区 7 232,814 64,998 5,429 1,530
港区 12 440,001 101,458 10,348 2,537
文京区 2 73,865 21,006 3,330 947
台東区 4 201,463 35,165 4,560 786
品川区 12 666,760 125,707 12,146 2,495
目黒区 4 183,106 46,666 5,999 1,420
大田区 10 411,349 76,026 10,847 1,985
杉並区 3 142,957 45,372 6,332 1,989
北区 2 59,976 12,810 1,720 367
荒川区 2 64,387 16,568 900 231
板橋区 9 210,239 59,171 3,213 929
練馬区 24 902,089 195,184 30,838 6,730
足立区 2 32,144 13,603 274 116
江戸川区 5 202,969 37,778 6,722 1,153
三鷹市 1 57,435 12,500 2,582 562
府中市 2 44,245 13,250 1,856 556
調布市 9 265,418 63,232 11,660 2,713
町田市 1 89,144 16,666 2,434 455
小金井市 5 106,420 27,900 2,458 658
小平市 1 74,025 12,500 3,328 562
国分寺市 2 122,915 22,500 2,771 507
西東京市 5 202,876 46,675 3,965 945
東京都の計 23市区 126 5,020,715 1,089,060 139,341 30,715
神奈川県 横浜市 49 2,069,551 690,820 65,118 21,595
川崎市 20 1,289,668 250,000 39,811 7,917
大和市 5 103,960 55,894 2,609 1,424
大阪府 八尾市 3 52,727 24,687 1,303 611
愛知県 長久手市 1 149,200 20,025 4,074 546
兵庫県 伊丹市 1 47,145 12,000 1,484 377
4府県の計 6市 79 3,712,253 1,053,426 114,402 32,473
合計 29市区 205 8,732,968 2,142,486 253,744 63,189

(是正改善を必要とする事態)

事業者が仕入税額控除した消費税額に係る助成金相当額が事業者から29市区を経て5都府県に納付されないままとなっていて、この結果、交付金により造成された基金が効率的に活用されないこととなっている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、東京都及び東京都管内の23市区並びに4府県管内の6市において、事業者が株式会社等の消費税の課税事業者である場合、助成対象事業費に係る消費税額を確定申告の際に仕入税額控除できる場合があることについての理解が十分ではないことにもよるが、貴省において、次のことなどによると認められる。

  • ア 都道府県が消費税取扱条件を助成要綱に記載して市町村に明示する必要があること、また、市町村が当該助成要綱に従って消費税取扱条件を事業者に対して明示する必要があることについての都道府県及び市町村に対する周知徹底が十分でないこと
  • イ 事業者が仕入税額控除した消費税額に係る助成金相当額が確定した場合に当該事業者が行う報告及び当該助成金相当額の納付に関する具体的な事務処理の手続を、都道府県及び市町村に対して示していないこと

3 本院が求める是正改善の処置

貴省は、25年度の補正予算及び26年度の当初予算においても、各都道府県に対して交付金を交付して基金の積増しを行っており、賃貸物件による保育所整備事業は27年度以降も引き続き実施されることが見込まれる。

ついては、貴省において、都道府県に対して通知を発するなどして、基金を活用して実施する事業における消費税の取扱いが適切に行われ、これにより基金が効率的に活用されるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。

  • ア 都道府県が消費税取扱条件を助成要綱に記載して市町村に明示する必要があること、また、市町村が当該助成要綱に従って消費税取扱条件を事業者に対して明示する必要があることを、都道府県に対して周知徹底するとともに、都道府県を通じて市町村に対して周知徹底すること
  • イ 事業者が仕入税額控除した消費税額に係る助成金相当額が確定した場合に当該事業者が行う報告及び当該助成金相当額の納付に関する具体的な事務処理の手続を示して、都道府県に対して周知するとともに、都道府県を通じて市町村に対して周知すること