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(7)特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者雇用開発助成金)の支給について、障害者の就労・離職状況等を把握するとともに、これらを十分に踏まえて障害者に対する定着指導等を一層効率的、効果的に行うことなどにより、障害者の雇用の安定に資するものとなるよう意見を表示したもの


会計名及び科目
労働保険特別会計(雇用勘定) (項)高齢者等雇用安定・促進費
部局等
厚生労働本省、16労働局
特定就職困難者雇用開発助成金の概要
障害者等の就職が特に困難な者を、公共職業安定所等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れた事業主に対して賃金の一部に相当する額を助成するもの
支給の対象となった障害者に係る助成金の支給件数及び支給額
3,236件 38億5606万余円(平成23年度〜25年度)
上記のうち早期に離職していた障害者に係る助成金の支給件数及び支給額
1,364件 10億9151万円

【意見を表示したものの全文】

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者雇用開発助成金)の支給に係る障害者の離職状況等について

(平成27年10月29日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 制度の概要

(1)特定就職困難者雇用開発助成金の概要

貴省は、雇用保険で行う事業のうちの雇用安定事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、特定の求職者(60歳以上65歳未満の高年齢者や障害者等の就職が特に困難な者(以下「就職困難者」という。)、65歳以上の離職者等をいう。)の雇用機会の増大及び雇用の安定を図るために、特定の求職者を雇い入れた事業主に対して、当該雇用労働者の賃金の一部に相当する額を助成する特定求職者雇用開発助成金を支給している。特定求職者雇用開発助成金には、特定就職困難者雇用開発助成金(以下「就職困難者助成金」という。)、高年齢者雇用開発特別奨励金等があり、このうち就職困難者助成金は、就職困難者を雇い入れた事業主に対して、支給されるものである。

就職困難者助成金の支給要件は、事業主が就職困難者を公共職業安定所(以下、公共職業安定所の出張所も含めて「安定所」という。)等の紹介により新たに雇用保険の一般被保険者として雇い入れ、かつ、就職困難者助成金の支給終了後も継続して雇用すること(就職困難者の年齢が65歳以上に達するまで継続して雇用し、かつ、当該雇用期間が継続して2年以上であることをいう。)が確実であると認められることなどとなっている。

就職困難者助成金の支給を受けようとする事業主は、当該助成金に係る支給申請書及び雇用継続に係る事業主からの申立書等の添付書類を都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出することとなっており、労働局の助成金担当部門が当該書類を審査した上で支給決定を行うこととなっている。そして、就職困難者助成金は、就職困難者によって区分されており、障害者を対象とした就職困難者助成金の助成対象期間及び一人当たりの支給額は、障害の類型、労働時間及び事業主の規模により定められていて、重度障害者等を除く身体障害者及び知的障害者が1週間の所定労働時間が30時間以上の労働者として中小企業に就職した場合は、それぞれ1年6か月及び135万円(重度障害者等の場合は2年及び240万円)で、助成対象期間を6か月ごとに3回に分けてそれぞれ45万円ずつ(重度障害者等の場合は、4回に分けてそれぞれ60万円ずつ)支給されるなど高年齢者等の他の就職困難者の場合(1年及び90万円等)と比べて助成対象期間が長く、支給額も多くなっている。

(2)障害者等に対する定着指導の概要

安定所は、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号。以下「障害者雇用促進法」という。)に基づき、障害者の職業の安定を図るために、障害者及び当該障害者を雇用している事業主に対して、その作業環境に適応させるなどのために必要な助言又は指導(以下「定着指導」という。)を行うことができることとなっている。これは、障害者は職場生活の適応上の問題等への対応を十分に行うことが難しい場合が多いこと、障害者が離職した場合に直ちに生活の困窮につながるような事態を未然に防止する必要があることなどによるものである。

各安定所の障害者担当部門は、貴省が定めた「障害者職業紹介業務取扱要領」(平成23年職発0509第5号)に基づき、個々の障害者の状況等を踏まえた定着指導を行うこととなっている。そして、定着指導は、事業所への訪問、電話等により、就職後2か月以内に初回の指導を行い、少なくとも1年間は継続的に実施し、その後も定期的、計画的に実施することとなっている。また、貴省が各労働局に対して発した「障害者に対する就職後の指導等の実施について」(平成22年職高障発0608第2号)において、定着指導は、就職困難者助成金の支給終了後においても機会を捉えて継続して実施することとなっている。

(3)障害者に関する事業主の雇用義務等

障害者雇用促進法等によれば、常時雇用する労働者(以下「常用労働者」という。)の数が50人以上(平成25年3月31日以前は56人以上。以下同じ。)の事業主(以下、常用労働者数50人以上201人未満の事業主を「中規模事業主」、同201人以上の事業主を「大規模事業主」という。)は、その雇用する労働者に占める障害者の割合(以下、この割合を「障害者の雇用割合」という。)を一定の率(2.0%(25年3月31日以前は1.8%)。以下、この率を「法定雇用率」という。)以上としなければならないこととされている(以下、障害者の雇用割合を法定雇用率以上としなければならないことを「障害者の雇用義務」という。)。一方、常用労働者数が50人未満(25年3月31日以前は56人未満)の事業主(以下「小規模事業主」という。)については、障害者の雇用義務は課せられていない。

また、障害者雇用促進法等によれば、大規模事業主は、障害者の雇用義務のほかに、障害者の雇用割合が法定雇用率に達しない場合は、不足する障害者数に応じて所定の障害者雇用納付金(不足する障害者一人当たり月額50,000円)を納付しなければならないこととされている(表1参照)。

表1 障害者に関する事業主の雇用義務等

事業主の規模 障害者の雇用義務の有無 障害者雇用納付金の納付義務の有無
大規模事業主
中規模事業主
小規模事業主

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

障害者の雇用については、その一層の推進を図るために、25年4月に法定雇用率が1.8%から2.0%に引き上げられたほか、27年4月からは、障害者雇用納付金の納付義務が課せられる事業主の範囲が拡大され、常用労働者数が201人以上から101人以上に引き下げられている。そして、前記のとおり、障害者の雇用義務は、中規模事業主や大規模事業主については課せられているものの、小規模事業主には課せられておらず、小規模事業主に対する就職困難者助成金の支給は、障害者の雇用を促す重要な誘因になると思料される。また、就職困難者助成金のうち障害者に係る23年度から25年度までの支給額は計598億3476万余円と多額に上っている。

そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、就職困難者助成金の支給対象となった障害者(以下「支給対象障害者」という。)の就労・離職状況はどのようになっているか、支給対象障害者に対する定着指導等が効率的、効果的に行われて、就職困難者助成金の支給が障害者の雇用の安定に資するものとなっているかなどに着眼して、16労働局(注)が23年度において支給対象障害者に係る初回の支給決定を行った4,792事業主、8,305件(支給対象障害者8,305人)のうち、障害者に係る支給件数が多いなどの1,064事業主、3,236件(同3,236人)に係る支給額計38億5606万余円を対象として、16労働局及び管内の114安定所(以下、労働局と安定所を合わせて「労働局等」という。)において、事業所別支給歴照会票、求職管理情報等の関係書類により、支給対象障害者の就労・離職状況、支給対象障害者に対する職業紹介、定着指導等の実施状況等を確認するとともに、貴省本省において、障害者の就労・離職状況の把握や労働局等に対する指導の状況を聴取するなどして会計実地検査を行った。また、16労働局及び管内の187安定所から支給対象障害者の就労・離職状況や定着指導等の実施状況等に関する調書の作成及び提出を求めるなどして検査した。

(注)
16 労働局 岩手、栃木、千葉、東京、石川、福井、愛知、京都、大阪、広島、福岡、佐賀、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄各労働局

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)支給対象障害者の就労・離職状況

検査の対象とした1,064事業主に雇用された支給対象障害者3,236人について、27年3月末時点における就労・離職状況をみると、引き続き同じ事業主に雇用されていたのは1,571人(支給対象障害者3,236人に占める割合48.5%)であり、残りの1,665人(同51.4%)は、いずれも雇入れ後5年以内に離職していて、このうち1,364人(支給額計10億9151万余円)は、雇入れ後3年未満(就職困難者助成金の支給終了後1年から2年)で離職(以下、雇入れ後3年未満の離職を「早期離職」といい、早期離職した者を「早期離職者」という。)しており、支給対象障害者3,236人に占める早期離職者の割合(以下、支給対象障害者に占める早期離職者の割合を「早期離職率」という。)は42.1%となっていた。

また、27年3月末時点で離職していた上記の1,665人について、離職した時期と就職困難者助成金の支給との関係をみると、1,257人は、支給中又は支給終了後1年以内に離職していて、支給対象障害者3,236人に占める割合は38.8%となっていた(表2参照)。

表2 支給対象障害者の就労・離職状況(平成27年3月末時点)

就労・離職の状況 人数(支給対象障害者3,236人に対する割合)
在職者 1,571人(48.5%)
雇入れ後5年以内の離職者 1,665人(51.4%)
3,236人(100.0%)
早期離職者 1,364人(42.1%)
就職困難者助成金の支給中又は支給終了後1年以内の離職者 1,257人(38.8%)

さらに、前記の早期離職者1,364人について、事業主の障害者の雇用義務等の有無による早期離職率をみると、障害者の雇用義務が課せられている中規模事業主及び大規模事業主は、それぞれ34.0%、31.8%となっているのに対して、小規模事業主は50.7%となっており、障害者の雇用義務が課せられていない小規模事業主の方が早期離職率が高い状況となっていた(表3参照)。

表3 事業主の障害者の雇用義務等の有無による早期離職率

事業主の規模 障害者の雇用義務の有無 支給対象障害者数
(A)
早期離職者数
(B)
早期離職率
(B/A)
大規模事業主 728人 232人 31.8%
中規模事業主 844人 287人 34.0%
小規模事業主 1,664人 845人 50.7%
3,236人 1,364人 42.1%

(2)労働局等における就労・離職状況等の把握等

(1)の状況を踏まえて、労働局等において、支給対象障害者の就労・離職状況等の把握及び検証、支給対象障害者に対する職業紹介及び定着指導がどのように実施されているかについて更に検査したところ、次のような状況となっていた。

ア 支給対象障害者の就労・離職状況等の把握及び検証の状況

16労働局の助成金担当部門は、障害者に係る就職困難者助成金の初回の支給申請時に事業主から雇用継続に係る申立書を提出させて、支給対象障害者について65歳に達するまで継続して雇用する予定があるか、支給終了後も引き続き雇用する見込みがあるかなどについて審査した上で支給決定を行っていた。そして、各回の支給決定の際に、支給対象障害者の就労・離職状況を把握し、当該支給対象障害者が支給中に離職した場合には、事業主に対して退職届の写しを提出させるなどして離職の事実及びその理由が自己都合又は事業主都合のいずれによるものかを確認していた。しかし、支給対象障害者が支給中又は支給終了後に離職した場合に、事業主を通じて、当該支給対象障害者が離職するに至った具体的な事情や理由についてはほとんど調査しておらず、これにより把握した情報を就職困難者助成金の支給決定時における審査等に活用できない状況となっていた。

また、16労働局管内の安定所の障害者担当部門は、事業主から雇用保険の資格喪失届が提出された場合等において、支給対象障害者が離職した事実等を把握していたが、上記と同様に、支給対象障害者本人及び当該事業主に対して具体的な離職理由等を十分に調査しておらず、これにより把握した情報を定着指導等の実施に活用できない状況となっていた。

そして、前記のとおり、就職困難者助成金の支給要件が支給終了後も継続して雇用することが確実であると認められることなどとなっているにもかかわらず、多数の早期離職者が見受けられ、具体的な離職理由等の調査及び把握が十分に行われていないことなどを踏まえると、障害者の雇用に関して、離職の実態等を踏まえた事業主に対する助成の効果を検証するための手法を確立して、その結果を活用していく必要があると認められるが、貴省は、就職困難者助成金について、障害者に着目した助成の効果の検証については特に行っていなかった。

イ 支給対象障害者に対する職業紹介の実施状況

安定所は、職業安定法(昭和22年法律第141号)等に基づき、求職及び求人の申込みを受けて、就職を希望する障害者に対してその就職先をあっせんする職業紹介を行っている。そして、16労働局管内の安定所における支給対象障害者3,236人について、就職困難者助成金の支給を受けた事業主に雇用される前に行われた職業紹介の実施状況についてみると、安定所は、当該支給対象障害者からの求職票を基に、本人の障害の状況、希望する業務の内容、労働条件等を把握するとともに、求人の申込みをしている事業主からの求人票を基に、求人を募集している業務の内容、労働条件、設備等の職場環境や通勤の利便性等を把握して、双方の適合性を考慮して職業紹介を行っていた。

障害者に対する職業紹介に当たっては、紹介しようとする事業主において、これまでに雇い入れた障害者の就労・離職等の雇用状況や、当該障害者が離職した場合の具体的な離職理由等についても考慮する必要があると認められるが、上記3,236人のうち、その66.7%に当たる2,159人については、これを考慮した職業紹介が行われていなかった。

ウ 支給対象障害者に対する定着指導の実施状況

安定所は、前記のとおり、障害者雇用促進法に基づき、障害者の職業の安定を図るために定着指導を行うことができることとなっている。そして、16労働局管内の安定所における支給対象障害者3,236人に対する定着指導の実施状況をみると、就職後から27年3月末までの間に定着指導が行われていたのは1,373人(支給対象障害者3,236人に占める割合42.4%)となっており、残りの1,863人(同57.5%)に対しては、定着指導が全く行われていなかった(表4参照)。

表4 支給対象障害者に対する定着指導の実施状況

支給対象障害者数(A) 定着指導あり(B) 割合(B/A) 定着指導なし(C) 割合(C/A)
3,236人 1,373人 42.4% 1,863人 57.5%

そして、上記の3,236人が雇用された事業主の障害者の雇用義務等の有無による支給対象障害者に対する定着指導の実施割合をみると、障害者の雇用義務が課せられている中規模事業主及び大規模事業主は、それぞれ46.6%(支給対象障害者844人のうち394人)及び48.9%(同728人のうち356人)となっていた。一方、小規模事業主は37.4%(同1,664人のうち623人)となっており、障害者の雇用義務が課せられている事業主に比べて早期離職率が高い小規模事業主において定着指導の実施割合が低く、前記の職業紹介と同様に、支給対象障害者に対する定着指導の実施に当たり、当該事業主における障害者の就労・離職等の雇用状況等については考慮されているとは認められなかった(表5参照)。

表5 事業主の障害者の雇用義務等の有無による支給対象障害者に対する定着指導の実施状況

事業主の規模 障害者の雇用義務の有無 支給対象障害者数
(A)
定着指導あり
(B)
実施割合
(B/A)
大規模事業主 728人 356人 48.9%
中規模事業主 844人 394人 46.6%
小規模事業主 1,664人 623人 37.4%
3,236人 1,373人 42.4%

(改善を必要とする事態)

早期離職している支給対象障害者が多数見受けられる一方で、当該支給対象障害者の就労・離職状況等の把握及び検証が行われていなかったり、事業主における障害者の雇用状況等を考慮した職業紹介や定着指導が行われていなかったりなどしている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

  • ア 労働局等において、支給対象障害者の就労・離職状況や離職した場合の具体的な離職理由等を把握して調査する必要性についての認識が欠けていること、また、貴省本省において、多数の支給対象障害者が早期離職しているなどの実態等を十分に踏まえて障害者の雇用に関する事業主に対する助成の効果の検証を行うことの必要性についての認識が欠けていること
  • イ 安定所において、事業主における障害者の就労・離職等の雇用状況等を考慮して職業紹介や定着指導を行うことの必要性についての認識が欠けていること

3 本院が表示する意見

障害者の雇用については、法定雇用率の引上げ、障害者雇用納付金の納付義務が課せられる事業主の範囲の拡大等により一層の推進が図られてきている。その一方で、前記のとおり支給対象障害者の多くが早期離職しており、その雇用の安定が十分に図られていない状況が見受けられる。

ついては、貴省本省において、障害者の就労・離職状況等の把握や定着指導等を一層効率的、効果的に行うことなどにより、就職困難者助成金の支給が障害者の雇用の安定に資するものとなるよう、次のとおり意見を表示する。

  • ア 労働局等に対して、障害者の就労・離職状況や具体的な離職理由等の把握及び調査を十分に行うよう指導するとともに、貴省本省において、障害者の離職の実態等を十分に踏まえて障害者の雇用に関する事業主に対する助成の効果の検証を行うこと
  • イ 労働局等に対して、事業主における障害者の就労・離職等の雇用状況等を考慮して職業紹介や定着指導を行うよう指導すること