厚生労働省は、厚生労働科学研究の振興を促し、もって、国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全衛生等に関し、行政施策の科学的な推進を確保し、技術水準の向上を図ることを目的として、研究事業等を行う個人である研究者等に対して、厚生労働科学研究費補助金取扱規程(平成10年厚生省告示第130号)等(以下「取扱規程等」という。)に基づき、厚生労働科学研究費補助金(以下「補助金」という。)を交付している。取扱規程等によれば、補助金の交付先である個人は国内の試験研究機関等に所属する研究代表者とされていて、研究代表者が研究を複数の者と共同で実施する場合の組織は研究代表者、研究分担者等により構成されることとされている。
取扱規程等によれば、研究事業により取得した機械器具でその価格が単価30万円以上の機械器具については、厚生労働大臣が定める期間を経過するまで、厚生労働大臣の承認を受けないで、補助金の交付の目的に反して処分してはならないこととされており、また、研究事業により取得した機械器具については、事業の完了後においても、善良な管理者の注意をもって管理し、事業の目的に従って、その効率的な運営を図らなければならないこととされている。そして、機械器具を取得したときは、その機械器具を保管する研究代表者又は研究分担者が機械器具保管証を作成した上で、研究代表者が総括管理すること、研究代表者は機械器具を処分するまで機械器具の管理状況を把握することなどとされている。
「厚生労働科学研究費補助金により取得した財産の取扱いについて」(平成14年厚科第0628003号厚生科学課長決定。以下「課長決定」という。)によれば、補助金の交付を受けて取得した機械器具については、補助金の交付を受けた研究代表者が補助金の目的に沿って適正に活用するために、研究期間の終了後においても引き続き所属機関で、研究事業と類似した研究活動に利活用する場合、財産処分の承認の手続の簡素化を図ることとするとされている。そして、研究代表者が、所属機関に補助金により取得した機械器具を譲渡する場合は、譲渡を行う前に「厚生労働科学研究費補助金に係る財産処分報告書」(以下「処分報告書」という。)により厚生労働大臣等に報告することとし、報告があった場合には、厚生労働大臣等の承認があったものとして取り扱うこととされている。また、厚生労働省は、処分報告書について研究代表者のみが提出できるとしている。
厚生労働省は、課長決定について、研究期間の終了後に研究代表者の所属機関に機械器具を譲渡することを促すものであり、これにより同一機器の重複購入を防止するとともに、機械器具の一層の活用を図るとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、効率性等の観点から、補助金により取得した機械器具は、研究代表者の所属機関への譲渡は進んでいるか、研究期間の終了後も、適切に管理され、活用されているか、所属機関への譲渡の手続は適正に行われているかなどに着眼して、平成21年度から25年度までの間に12機関に所属する研究代表者等が取得した機械器具1,075個(取得価格計23億5311万余円。研究分担者が研究代表者から補助金の配分を受けて取得した機械器具を含む。以下同じ。)を対象として、厚生労働本省及び10機関(注1)において関係書類により会計実地検査を行うとともに、2機関(注2)については調書の提出を受けて、その内容を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
12機関に所属する研究代表者等が21年度から25年度までの間に取得した機械器具1,075個(取得価格計23億5311万余円)についてみると、このうち、780個(取得価格計16億3107万余円)については、25年度末までに機械器具を使用するとした研究の研究期間が終了していた。そこで、研究代表者等が退職する際に機械器具を次の所属機関である大学等に移転しているなどの機械器具62個(取得価格計7070万余円)を除いた718個(取得価格計15億6036万余円)の機械器具についてみると、26年度末時点で、244個(取得価格計5億7067万余円)は研究代表者等から所属機関に譲渡されていたが、残りの474個(取得価格計9億8968万余円)は所属機関に譲渡されていなかった。
これを機関別にみたところ、全ての機械器具について譲渡を受けている機関が3機関、一部の機械器具について譲渡を受けている機関が1機関となっており、残りの8機関においては機械器具の譲渡を全く受けていなかった。全ての機械器具について譲渡を受けている3機関は、機械器具の納品後又は研究期間の終了後に、機関から研究代表者等に対して譲渡に関する意思の確認を行った上で、一括して譲渡の手続を行っていた。
一方、前記8機関の研究代表者によれば、機械器具を所属機関に譲渡していない理由は、研究代表者が機械器具を所属機関に譲渡済みであると誤認していたこと、課長決定があることを認識していなかったこと、研究代表者の所属機関に機械器具を譲渡することを促している課長決定の趣旨が伝わっていなかったことなどとしていた。このように、厚生労働省の意向が十分に周知されていないことなどから、研究代表者からは譲渡に関する意思表示がなされず、譲渡が進んでいなかったと思料される。
研究期間の終了後に研究代表者等の所属機関に譲渡されていない9機関の機械器具474個(取得価格計9億8968万余円)についてみたところ、358個(取得価格計7億0706万余円)については適切に管理されるなどしていたが、116個(取得価格計2億8262万余円。重複分を除く。)について、次のような事態が見受けられた。
機械器具の管理状況についてみたところ、機械器具を取得した研究代表者等が退職又は異動し、管理者が不在のまま、所属していた機関において引き続き使用されている機械器具が6機関において66個(取得価格計2億2811万余円)見受けられた。この機械器具66個は研究代表者等が不在の状況で使用されており、研究代表者による総括管理等が行われておらず、善良な管理者の注意をもって適切に管理されていない状況であった。
機械器具の活用状況についてみたところ、倉庫に保管されるなどしていて、使用されていない機械器具が7機関において53個(取得価格計5725万余円)見受けられた。研究期間が終了し、機械器具を取得した研究代表者等にとっては使用する見込みのない機械器具であっても、所属機関に譲渡することにより、同一機器の重複購入を防止するとともに、他の研究者が使用することにより活用が図られるが、所属機関への譲渡は行われておらず、効率的な運営が図られていない状況であった。
したがって、研究代表者等の所属機関に譲渡するなどして、機械器具を適切に管理し、また、効率的な運営を図る必要があると認められた。
前記のとおり、課長決定によれば、研究代表者が機械器具を所属機関へ譲渡を行う前に処分報告書により厚生労働大臣等に報告があった場合には、厚生労働大臣等の承認があったものとして取り扱うこととされている。
研究期間の終了後等に研究代表者等の所属機関に譲渡された4機関の機械器具244個(取得価格計5億7067万余円)についてみたところ、181個(取得価格計4億5427万余円)については適正に譲渡の手続が行われていたが、63個(取得価格計1億1639万余円。重複分を除く。)について、次のとおり、譲渡の手続が適正に行われていない事態が見受けられた。
すなわち、厚生労働大臣等に処分報告書を提出する前に、譲渡の手続が行われている機械器具が3機関において53個(取得価格計1億0955万余円)見受けられ、厚生労働大臣等の譲渡の承認を得ずに譲渡が行われていた。
また、研究代表者ではなく、研究分担者が処分報告書を提出している機械器具が3機関において11個(取得価格計824万余円)見受けられたが、これを厚生労働大臣等は受領しており、機械器具は研究代表者等の所属機関に譲渡されていた。
(1)及び(2)について、機関別に示すと、表のとおりである。
表 厚生労働科学研究費補助金により研究代表者等が取得した機械器具の所属機関への譲渡の状況等
機関名 | (1)ア 機械器具の譲渡の状況 | (1)イ 譲渡されていなかった機械器具の管理状況等 | (2)機械器具の譲渡の手続が適正に行われていなかった事態 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
研究代表者等の所属機関に譲渡されていなかった機械器具 | 研究代表者等の所属機関に譲渡されていた機械器具 | (ア)研究代表者等が管理していなかった事態 | (イ)効率的な運営が図られていなかった事態 | 処分報告書を提出する前に譲渡を行っていた事態 | 処分報告書を研究代表者以外の者が提出していた事態 | |
国立保健医療科学院 | 11 | 0 | 1 | 0 | \ | |
国立感染症研究所 | 156 | 0 | 23 | 31 | ||
国立障害者リハビリテーションセンター | 32 | 0 | 7 | 13 | ||
(独)国立がん研究センター | 106 | 0 | 24 | 4 | ||
(独)国立循環器病研究センター | 92 | 0 | 0 | 1 | ||
(独)国立国際医療研究センター | 16 | 0 | 2 | 1 | ||
(独)国立成育医療研究センター | 36 | 0 | 9 | 2 | ||
(独)国立長寿医療研究センター | 9 | 0 | 0 | 0 | ||
国立医薬品食品衛生研究所 | 16 | 42 | 0 | 1 | 1 | 1 |
(独)国立健康・栄養研究所 | 0 | 9 | \ | 9 | 0 | |
(独)医薬基盤研究所 | 0 | 94 | 0 | 5 | ||
(独)国立精神・神経医療研究センター | 0 | 99 | 43 | 5 | ||
計 | 474 (9機関) |
244 (4機関) |
66 (6機関) |
53 (7機関) |
53 (3機関) |
11 (3機関) |
このように、補助金により取得した機械器具について、所属機関への譲渡が進んでいなかったり、研究代表者等が不在となっているため適切に管理されていなかったり、研究期間の終了後に機械器具が使用されておらず効率的な運営が図られていなかったり、所属機関への譲渡の手続が適正に行われていなかったりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、27年7月に課長決定等を改正して、同年8月にその趣旨について研究代表者に事務連絡を発して、課長決定が研究期間の終了後に所属機関へ機械器具を譲渡することを促すものであることを周知したり、所属機関を通じて研究代表者に対して譲渡の意思を確認する機会を設けたりして譲渡を促し、一層の活用を図る態勢を整備するとともに、譲渡の手続が適正に行われるよう周知徹底を図るなどの処置を講じた。