厚生労働省は、毎年度、国の事務、事業、調査、試験研究等(以下「委託業務」という。)を同省以外の機関等に委託する契約(以下「委託契約」という。)を多数締結しており、「(目)〇〇委託費」(国の事務、事業、調査、試験研究等を委託する経費を計上するための予算科目。以下「委託費目」という。)から委託業務の実施の対価として多額の支出を行っている。
厚生労働省における委託契約には、契約締結時に契約金額を確定するものと、契約締結時には契約金額の確定が困難なことから契約金額を概算額として、委託業務の完了後に実績に基づき契約金額を確定するもの(以下「概算契約」という。)がある。
会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)等によれば、支出負担行為担当官は、請負契約又は物件の買入れその他の契約については、自ら又は補助者に命じて、その受ける給付の完了の確認をするために必要な検査(以下「検収」という。)を行わなければならないとされている。検収は、支出負担行為担当官、支出負担行為担当官から検収を命ぜられた補助者又は各省各庁の長若しくはその委任を受けた職員から検収を命ぜられた職員(以下「支出負担行為担当官等」という。)が、契約書その他の関係書類に基づいて行わなければならないとされている。
そして、支出負担行為担当官等は、検収を行った場合には、原則として契約金額が200万円を超えない契約に係るものである場合を除き、検査調書を作成しなければならないとされている。
また、検査調書を作成しなければならない場合においては、当該検査調書に基づかなければ支払をすることができないとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、委託費目による委託契約(注)について、会計法令に従って適正に会計事務が行われているかに着眼して検査した。
検査に当たっては、厚生労働本省(以下「本省」という。)の平成25年度予算の委託費目による委託契約の大部分を占める概算契約で、検査調書を作成しなければならない契約金額200万円を超えるもののうち、計186件、支払額計84億5346万余円を対象として、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)により本院に提出された支出計算書及びその証拠書類を確認するなどの方法により書面検査を行うとともに、本省において、検収の実施状況について聴取するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
検査の対象とした前記の契約186件は、全て請負契約又は物件の買入れその他の契約に該当し、検収を行って、検査調書を作成しなければならないものであった。
しかし、本省は、上記の契約186件、支払額84億5346万余円について、全て検収を行う必要がない契約であると認識していたため、検査調書が作成されていなかった。
このため、結果として、検査調書に基づかずに委託費が支払われていたと認められた。
このように、本省が委託費目による委託契約のうち概算契約について、全て検収を行う必要がある契約であるのに検収を行う必要がない契約であると認識していた結果、検査調書が作成されておらず、検査調書に基づかずに委託費が支払われていた事態は適正ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、本省において、会計法令の理解が十分でなく、委託費目による委託契約のうち概算契約について、会計法令において検収を行う必要があるとされている請負契約又は物件の買入れその他の契約には該当しないと認識していたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、27年8月に関係部署に対して通知文書を発して、委託費目による委託契約のうち概算契約については、検収を行う必要があるものとして、同年9月1日以降に委託業務が完了する契約から、支出負担行為担当官等が、検収を確実に行い、通知文書で示す様式に従い検査調書を作成すること、及び官署支出官が、確実に検査調書を確認することを周知徹底するなどの処置を講じた。