厚生労働省は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づく能力開発事業の一環として、中小企業事業主、中小企業事業主の団体又はその連合団体、職業訓練法人等(以下、これらを「中小企業事業主等」という。)が行う認定職業訓練を振興するために認定訓練助成事業を実施している。そして、認定職業訓練に要する建物賃借料、講師謝金、教材費等の経費に対する助成を行う都道府県に対して、認定訓練助成事業費補助金(以下「補助金」という。)を交付している。認定職業訓練は、事業主等が行う職業訓練のうち、職業に必要な技能及び知識を習得させるための訓練等について、職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)に基づき、都道府県知事から厚生労働省令で定める職業訓練の水準の維持向上のための基準に適合するものであることの認定を受けて実施するものである。
厚生労働省は、補助金の交付に当たり、交付要綱を定めるとともに、毎年度、都道府県に対して、同要綱に基づき補助金の交付額を算定するために、補助金の交付対象となる訓練、経費等について定めた「職業能力開発校設備整備費等補助金(認定職業訓練助成事業費)における補助対象経費の算定基準について」(平成25年能発0405第1号。平成25年3月以前は平成24年能発0406第6号等。以下「算定基準」という。)等を発出している。
雇用保険法等によれば、能力開発事業は、雇用保険の被保険者、被保険者であった者及び被保険者になろうとする者に関して、職業生活の全期間を通じてこれらの者の能力を開発し、向上させることを促進するために行うこととされていることから、能力開発事業に要する費用には、労働保険の保険料のうち、雇用保険の適用事業の事業主が負担する保険料が充てられることとされている。また、同法等によれば、雇用保険の被保険者は、1週間の所定労働時間が20時間以上で継続して31日以上雇用されることが見込まれることなどの要件を満たす者とされているが、事業主と同居している親族は事業主との雇用関係が明確でないため原則として被保険者とならないこととされている。
厚生労働省は、認定訓練助成事業が雇用保険法に基づいた能力開発事業の一環として実施される事業であることを踏まえて、算定基準等において、補助金の交付対象となる訓練生(以下「補助対象訓練生」という。)について、「中小企業事業主に雇用されている者」、「学卒未就職者」等に該当する者としている。また、補助金の交付対象となる認定職業訓練の訓練科については、訓練科(訓練科に複数のコースが設定されている場合はコース。以下同じ。)ごとに、訓練生のうち補助対象訓練生の人数が全体の訓練生数の3分の2以上であることなどの要件を満たす訓練科としている。
交付要綱によれば、補助金の交付額は、都道府県が認定職業訓練を行う中小企業事業主等に対して助成した経費のうち補助対象となる経費の総額と、算定基準により算定して得た額(以下「補助対象基準額」という。)のいずれか低い額の2分の1以内の額とされている。そして、補助対象基準額は、補助対象訓練生の人数に所定の単価を乗ずるなどして算定することとなっている。厚生労働省は、23年度から25年度までの間に、認定訓練助成事業により中小企業事業主等に対して助成した実績のない香川、沖縄両県を除く45都道府県が中小企業事業主等に対して助成した額計40億1725万余円に対して、補助金計20億0853万余円を交付している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、補助金の交付額の算定の基礎となる補助対象訓練生について、能力開発事業の趣旨を踏まえ、認定訓練助成事業の目的に沿って、適切な者が対象とされ、認定訓練助成事業が適切に実施されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、12都道府県(注1)が23年度から25年度までの間に、訓練生延べ54,669人を対象として認定職業訓練を行った243中小企業事業主等に対して助成した額計13億1377万余円に対し、厚生労働省が交付した補助金計6億5688万余円を対象として、厚生労働本省及び12都道府県において、中小企業事業主等から12都道府県に提出された実績報告書等の書類を確認するとともに、12都道府県に補助対象訓練生等に関する調書の提出を求めて、その内容を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
厚生労働省は、認定訓練助成事業について、能力開発事業の一環として実施される事業であることを踏まえて、認定訓練助成事業の目的に沿って、従前から、補助対象訓練生となる「中小企業事業主に雇用されている者」の要件については、中小企業事業主に雇用されていて雇用保険の被保険者資格(以下「被保険者資格」という。)を取得している者のことであり、被保険者資格を取得していない者は「中小企業事業主に雇用されている者」には含めないことにしている。
しかし、厚生労働省は、算定基準等において、補助対象訓練生となる「中小企業事業主に雇用されている者」について、中小企業事業主に雇用されている者で、被保険者資格を取得している者であることを明示していなかった。このため、算定基準等においては、「中小企業事業主に雇用されている者」であれば被保険者資格を取得していない者であっても補助対象訓練生に含まれることになっていた。
12都道府県は、中小企業事業主等が行う認定職業訓練に要する経費に対する助成を行うに当たり、それぞれの実情に応じて独自の助成金等交付要綱等(以下「助成要綱等」という。)を定めており、補助金は都道府県が上記の経費に対する助成に要した経費のうち要件を満たす経費について交付されることとなっている。そして、助成要綱等によれば、「中小企業事業主に雇用されている者」等が助成対象となる訓練生(以下「助成対象訓練生」という。)とされており、「中小企業事業主に雇用されている者」の要件等についても、各都道府県が助成要綱等で独自に定めている。
そこで、前記12都道府県の243中小企業事業主等が行った認定職業訓練に係る補助対象訓練生延べ54,669人のうち「中小企業事業主に雇用されている者」としていた延べ50,928人が被保険者資格を取得しているかについてみたところ、9都道府県(注2)の207中小企業事業主等が行った認定職業訓練(9都道府県が助成した額計10億8917万余円、これに対する補助金交付額計5億4458万余円)のうち69中小企業事業主等が行った認定職業訓練(補助対象訓練生延べ14,879人)において、「中小企業事業主に雇用されている者」としていた訓練生延べ12,973人の中に、被保険者資格を取得していない者が延べ4,465人含まれていた(表参照)。
都道府県名 | 検査の対象とした認定職業訓練 | 左のうち被保険者資格を取得していない者が含まれていた認定職業訓練 | |||||
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中小企業事業主等数 | 補助対象訓練生数 | うち「中小企業事業主に雇用されている者」の人数 | 中小企業事業主等数 | 補助対象訓練生数 | うち「中小企業事業主に雇用されている者」の人数 | うち被保険者資格を取得していない者の人数 | |
北海道 | 45 | 7,717人 | 7,674人 | 2 | 447人 | 445人 | 3人 |
東京都 | 46 | 13,810人 | 12,766人 | 17 | 5,003人 | 3,967人 | 1,858人 |
神奈川県 | 25 | 4,893人 | 4,773人 | 20 | 2,823人 | 2,703人 | 1,180人 |
滋賀県 | 8 | 1,016人 | 894人 | 8 | 1,003人 | 887人 | 339人 |
大阪府 | 27 | 2,330人 | 2,330人 | 14 | 728人 | 728人 | 372人 |
兵庫県 | 23 | 3,020人 | 2,689人 | 2 | 409人 | 249人 | 115人 |
岡山県 | 3 | 2,853人 | 2,768人 | 1 | 201人 | 116人 | 79人 |
広島県 | 15 | 2,725人 | 2,488人 | 1 | 418人 | 405人 | 1人 |
福岡県 | 15 | 10,291人 | 8,941人 | 4 | 3,847人 | 3,473人 | 518人 |
9都道府県 | 207 | 48,655人 | 45,323人 | 69 | 14,879人 | 12,973人 | 4,465人 |
石川県 | 12 | 1,378人 | 1,250人 | ― | ― | ― | ― |
愛知県 | 19 | 2,788人 | 2,507人 | ― | ― | ― | ― |
鹿児島県 | 5 | 1,848人 | 1,848人 | ― | ― | ― | ― |
3県 | 36 | 6,014人 | 5,605人 | ― | ― | ― | ― |
12都道府県 | 243 | 54,669人 | 50,928人 | 69 | 14,879人 | 12,973人 | 4,465人 |
そして、上記の9都道府県における助成対象訓練生の状況についてみると、6都府県(注3)は、助成する年度の助成要綱等において、「中小企業事業主に雇用されている者」について、被保険者資格を取得している者に限定せずに助成対象訓練生とすることなどとしており、前記のとおり、算定基準等に「中小企業事業主に雇用されている者」が被保険者資格を取得している者であることが明示されていないことなどから、被保険者資格を取得していない者も含めて助成対象訓練生を全て補助対象訓練生としていた。また、3道県(注4)は、助成する年度の助成要綱等において、「中小企業事業主に雇用されている者」について、被保険者資格を取得している者であることを明示しているものの、被保険者資格を取得しているか否かの確認を十分に行っていなかったことから、被保険者資格を取得していない者についても補助対象訓練生としていた。そして、上記の9都道府県において、補助対象訓練生としていた「中小企業事業主に雇用されている者」で被保険者資格を取得していない者についてみると、その主なものは、訓練生が事業主と同居している親族であったり、短時間就労者であったりなどしていて、被保険者となる要件を満たしていない者であった。
また、前記の69中小企業事業主等が行った認定職業訓練において、被保険者資格を取得していない者を除外して補助対象訓練生数を算定した場合に、当該訓練の訓練科694コース(訓練科にコースが設定されていない場合は1コースとして算定。以下同じ。)のうち、補助対象訓練生の人数が全体の訓練生数の3分の2未満等となることから訓練科自体が補助金の交付対象にならなくなるコースが438コース含まれていた。
したがって、前記の補助対象訓練生延べ14,879人に係る補助金交付額計2億0257万余円(9都道府県が助成した額計4億0514万余円)について、被保険者資格を取得していない者延べ4,465人を補助対象訓練生から除外するとともに、これに伴い、訓練科自体が補助金の交付対象にならなくなる上記の438コースを除外して補助金額を算定すると計8015万余円となり、上記の2億0257万余円との差額1億2241万余円(注5)が認定訓練助成事業の目的に沿っていない認定職業訓練を対象に交付されていた。
このように、9都道府県が補助対象訓練生としていた訓練生の中に、被保険者資格を取得しておらず、「中小企業事業主に雇用されている者」には含めないことにしていた者が含まれていて、認定訓練助成事業が同事業の目的に沿って適切に実施されていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、厚生労働省において、補助対象訓練生となる「中小企業事業主に雇用されている者」は、中小企業事業主に雇用されている者であって被保険者資格を取得している者であるとする要件やその確認方法について、算定基準等に明示しておらず、都道府県に対して周知等をしていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、27年4月に算定基準等を改正して、補助対象訓練生となる者の要件について、「中小企業事業主に雇用されている者」は被保険者資格を取得している者であることを明確にするとともに、その確認方法として雇用保険被保険者証の写しによることとすることを明示して、都道府県に対して周知徹底を図るなどの処置を講じた。