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  • 平成26年度|
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国営かんがい排水事業の実施に当たり、無線伝送装置工事における電源設備の設計が適切でなかったため無線伝送装置が正常に稼働していない状態となっていて、工事の目的を達していないもの[九州農政局](317)


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省 (項)離島振興事業費
部局等
九州農政局
工事名
徳之島用水(二期)農業水利事業徳之島ダム水管理制御施設建設工事
工事の概要
徳之島ダム下流の固定堰(ぜき)地点における河川流量を管理するために、河川水位のデータを無線伝送装置を用いて徳之島用水管理所に送信する機器等を設置するなどのもの
工事費
230,475,000円(当初契約額224,175,000円)
請負人
株式会社明興テクノス
契約
平成24年1月 一般競争契約
支払
平成24年2月、11月、12月、25年4月 計4回
不適切な設計となっていた工事費
6,970,378円(平成23、24両年度)

1 工事の概要

この工事は、九州農政局が、平成23、24両年度に、鹿児島県大島郡天城町大字瀬滝地内において、国営かんがい排水事業の一環として、徳之島ダム水管理制御施設に係る設備工等を工事費230,475,000円で実施したものである。

設備工等のうち、無線伝送装置工事(以下「伝送装置工事」という。)は、徳之島ダム下流の固定堰(ぜき)地点における河川流量を管理するために、同地点の河川水位のデータを徳之島用水管理所に送信する無線伝送装置(以下「伝送装置」という。)等を設置するものである。伝送装置については、商用電源が利用できない山間部にあり、太陽電池パネル(以下「パネル」という。)で発電した電力及び当該電力により充電された蓄電池からの電力を供給する電源設備によって稼働させるものとなっている。

伝送装置工事の実施に当たり、同局は、九州農政局徳之島用水農業水利事業所(以下「徳之島事業所」という。)の職員を工事の適正な施工を確保するために必要な監督を行う監督職員に任命して、請負人から提出される実施仕様書及び詳細図等(以下「提出図書」という。)の承諾等を行わせている。そして、請負人は、提出図書において、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(27年4月1日以降は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が公表している「大規模太陽光発電システム導入の手引書」(平成23年3月。以下「手引書」という。)等を参考に、パネルの容量を110Wとするなどすれば、伝送装置の消費電力を賄えるとして設計し、徳之島事業所の監督職員は、提出図書を審査した上で承諾して、これにより請負人に施工させていた。

2 検査の結果

本院は、合規性、有効性等の観点から、工事の設計が適切に行われているかなどに着眼して、徳之島事業所において、本件工事を対象に、提出図書等の書類及び現地の状況等を検査するなどして会計実地検査を行った。

検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。

手引書によれば、パネルの容量の計算を行う前提となる発電量は、パネルのシステム定格出力に、日射量、日数及び各種の補正係数を乗ずる計算式によって算出することとされている。そして、これらの各項目のうち日射量については、手引書において関連規程・規格とされている「太陽光発電システムの発電電力量推定方法(JIS C 8907)」(平成17年10月。以下「JIS規格」という。)によれば、パネルの設置位置に最も近い地点の日射量データのうち、設置されるパネルの方位角(注1)及び傾斜角(注2)(以下「パネル設置角度」という。)に係る数値を適用することとされている。また、JIS規格及びその附属書によれば、各種の補正係数については、パネルへの日射が日陰により妨げられる場合の日陰補正係数のほか、発電量の低減要素となる各種の補正係数を考慮することとされている。

しかし、請負人は、提出図書を作成するに当たり、固定して設置することとしていた実際のパネル設置角度に係る日射量の数値ではなく、月ごとに変動する最適傾斜角度に係る日射量の年平均値の数値を適用して発電量を算出していた。さらに、その算出に当たっては、日陰補正係数以外の係数を一切見込んでいなかった。

そこで、改めて、実際のパネル設置角度に係る日射量の数値や日陰補正係数に加えて各種の補正係数を適用して発電量を再計算すると、110Wの容量のパネルでは12月から3月までの各月において、消費電力量を賄えない発電量となっていた。特に1月においては月間の発電量が4.60kWhとなり、月間の消費電力量5.36kWhを0.76kWh下回っていた。

現に、伝送装置の通信状況を確認したところ、25年3月の完成検査日から27年2月の会計実地検査時点までの1年11か月の間に、186回(日数計187日)、累計115,293分間(約80日間相当)、電力不足により通信が途絶していた。

これらのことから、伝送装置の電源設備については、提出図書において、消費電力に見合うパネルの容量等についての検討が十分でなく、このため、伝送装置を正常に稼働させるために必要となる電力量が不足する設計となっていた。

したがって、伝送装置工事は、提出図書における電源設備の設計が適切でなかったため伝送装置が正常に稼働していない状態になっており、工事の目的を達しておらず、これに係る工事費相当額6,970,378円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、徳之島事業所において提出図書の承諾に当たって審査が十分でなかったこと、九州農政局において徳之島事業所に対する指導及び監督が十分でなかったことなどによると認められる。

(注1)
方位角  真南を0度とした場合のパネルの設置角度
(注2)
傾斜角  設置されたパネルが水平面(地面)となす角度