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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(1)森林環境保全整備事業における鳥獣害防止施設等整備について、都道府県において実際に使用される資材の仕様や購入価格に係る調査を行うよう定めたり、労務費に係る実態調査を行い標準的な作業歩掛かりを示したりすることなどにより、標準単価が施工の実態を反映したものとなるよう是正改善の処置を求めたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)林野庁 (項)森林整備事業費
部局等
林野庁
補助の根拠
森林法(昭和26年法律第249号)
補助事業者
17道府県
間接補助事業者
(事業主体)
市町村44、森林組合等198、計242事業主体
補助事業
森林環境保全整備事業
補助事業の概要
森林環境の保全に資するために、市町村、森林組合等が造林、間伐等の施業を行い、これと一体的に鳥獣害防止施設等の整備等を行うもの
鳥獣害防止施設等整備の概要
防護柵、幼齢木保護具及び剥皮防止帯の設置並びに忌避剤の散布及び塗布等を行うもの
上記の事業主体が実施した鳥獣害防止施設等整備に係る事業費
137億9020万余円(平成25、26両年度)
上記に対する国庫補助金相当額
41億4081万余円
低減できたと認められる事業費
39億0846万余円(平成25、26両年度)
上記に対する国庫補助金相当額
11億7335万円

【是正改善の処置を求めたものの全文】

森林環境保全整備事業における鳥獣害防止施設等整備の標準単価の設定について

(平成27年10月29日付け 林野庁長官宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 補助事業の概要

(1)森林環境保全整備事業の概要

貴庁は、森林環境保全整備事業実施要綱(平成14年13林整整第882号農林水産事務次官依命通知)等に基づき、自然環境の保全等の森林の有する多面的機能の維持、増進を図り、森林環境の保全に資することを目的として、市町村、森林組合等が事業主体となって実施する森林環境保全整備事業(以下「整備事業」という。)に対して都道府県が補助する場合等に、その費用の一部として、都道府県に森林環境保全整備事業費補助金を交付している。

森林環境保全整備事業実施要領(平成14年13林整整第885号林野庁長官通知)等(以下「要領等」という。)によれば、整備事業においては、鹿等の鳥獣による森林被害の防止、鳥獣の移動の制御等を図るために、防護柵、幼齢木保護具等の鳥獣害防止施設等の整備(以下「鳥獣害防止施設等整備」という。)を、造林、間伐等の施業と一体的に行うことができることとされている。

また、整備事業に係る補助金額は、市町村が請負により事業を実施する場合を除いて、都道府県が定めた標準単価に事業量等を乗ずるなどして算定した事業費を補助の対象とし、所定の補助率を乗ずるなどして算定することとされている。

(2)鳥獣害防止施設等整備における標準単価

「森林環境保全整備事業における標準単価の設定等について」(平成23年林野庁森林整備部整備課長通知)によれば、整備事業における標準単価は、事業に直接必要となる資材費及び労務費の直接費に、これに一定の割合を乗じて算定する共通仮設費を加えたものとされている。また、標準単価における資材費及び労務費の算定は、次のとおりとされている。

ア 資材費は、原則として算定時の最新の市場価格とし、物価資料や資材の製造会社等(以下「製造会社」という。)の見積価格等を参考に定める。

イ 労務費のうち労務賃金単価は、原則として「公共工事設計労務単価」(農林水産省及び国土交通省決定)を用いる。また、貴庁が、1m等の単位当たりの作業に必要な作業員数(以下「作業歩掛かり」という。)を提示している場合はこれを用いるが、貴庁が作業歩掛かりを提示していない場合は都道府県が適宜の方法により把握したものを用いる。

そして、貴庁は、鳥獣害防止施設等整備に係る資材費については、鳥獣被害の状況、鳥獣の生態や気象条件等に応じて求められる性能等が地域ごとで異なることから都道府県が定めることにしており、また、労務費の作業歩掛かりについては、貴庁が労務費の作業歩掛かりを提示していないことから都道府県が適宜の方法により把握した作業歩掛かりを用いることにしている。

さらに、標準単価は、事業主体が低コスト化を図りつつ事業を適切に実施する上で重要な要素であることから、都道府県は、標準単価の設定に用いる作業歩掛かりについて、上記の鳥獣害防止施設等整備のように貴庁が提示していない場合には、実態とかい離しないよう適時適切に見直すことなどとなっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

鳥獣による森林被害については、鹿等の鳥獣の増加等を背景として、林業被害に加え、土壌浸食を防止する下草や低木等の消失等が深刻化し、生物多様性や森林の公益的機能への影響が懸念されていることから、鳥獣害防止施設等整備の重要性は年々高まっている。

そこで、本院は、経済性等の観点から、整備事業における鳥獣害防止施設等整備の実施に当たって、各都道府県が定めた標準単価の内容が施工の実態を反映した適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、17道府県(注)管内の44市町村及び198森林組合等の計242事業主体が、平成25、26両年度に実施した、防護柵の設置(長さ計2,570,593.5m)、幼齢木保護具の設置(対象面積計147.84ha)、剥皮防止帯の設置(同計4,907.12ha)並びに忌避剤の散布及び塗布(同計960.27ha)の鳥獣害防止施設等整備(事業費計137億9020万余円、国庫補助金相当額計41億4081万余円)を対象として、貴庁及び17道府県において、各事業主体が道府県に提出している交付申請書や整備に要した資材の購入に係る領収書等の支払関係書類等を確認するとともに、鳥獣害防止施設等整備を実施した現地に赴いてその実施状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注)
17道府県  北海道、京都府、群馬、神奈川、福井、長野、静岡、愛知、滋賀、兵庫、鳥取、島根、徳島、愛媛、熊本、宮崎、鹿児島各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

17道府県は、毎年度、鳥獣害防止施設等整備に係る標準単価を見直しており、その設定状況についてみると、一定の資材の使用や作業歩掛かりを想定した上で、資材費については製造会社の見積価格等を参考にして定め、一方、労務費については、貴庁が作業歩掛かりを提示していないことから、落石防止網を設置する作業歩掛かりや製造会社から徴した作業歩掛かりを参考にするなどして算定し、これらに共通仮設費を加えて標準単価を設定していた。

そこで、これらの17道府県が設定した標準単価を構成する資材費及び労務費と、前記の242事業主体が実施した鳥獣害防止施設等整備に係る実際の資材費及び労務費とを、森林組合等が資材を調達した際の納品書や労務費に係る森林所有者等への請求書等を確認するなどして比較したところ、大半の鳥獣害防止施設等整備において、次のように、実際の資材費や労務費が標準単価を構成する資材費や労務費を下回っており、実際の施工に要した事業費が補助の対象とした事業費を下回っていた。

ア 資材費については、実際に使用されている資材の仕様が想定していた仕様よりも簡易であったり、多くの資材を一括して購入しているため購入価格が安価になっていたりなどしていて、実際の資材費が標準単価を構成する資材費を下回っていた。

イ 労務費については、実際の作業が想定していた作業よりも簡易であったり、資材の軽量化等により作業効率が従前よりも改善されているにもかかわらず、従前の作業歩掛かりを使用したりするなどしていて、実際の労務費が標準単価を構成する労務費を下回っていた。

上記について事例を示すと、次のとおりである。

<事例>

熊本県は、平成25年度に、同県管内の5市町村及び18森林組合等の計23事業主体から防護柵計286,616.0mを設置したとの申請を受け、事業費計7億9476万余円を補助の対象として、補助金3億1790万余円(国庫補助金相当額計2億3842万余円)を交付している。

同県は、毎年度、標準単価として「森林環境保全整備事業標準単価表」を定めており、同年度における防護柵設置の標準単価の設定に当たり、資材費について製造会社3社から見積価格を徴するなどして、また、労務費について上記のうち1社から設置に係る作業歩掛かりを徴するなどして、1m当たりの標準単価を構成する資材費を927円、労務費を297円と設定するなどしていた。

しかし、前記の23事業主体が実施した防護柵の設置について実際の施工に要した事業費を確認したところ、実際に使用した1m当たりの資材の購入価格の平均額は544円、1m当たりの施工に要した労務費の平均額は238円となっており、標準単価を構成している資材費及び労務費を下回っていた。このため、実際の施工に要した事業費計4億6402万余円は、補助の対象とした前記の事業費計7億9476万余円を3億3073万余円下回っていた。

一方、前記の242事業主体における鳥獣害防止施設等整備の中には、実際の施工に要した事業費が補助の対象とした事業費を上回っていたものも見受けられたが、25、26両年度に17道府県において整備された鳥獣害防止施設等について、施設等ごとの事業費等の全体の状況をみると、のとおり、実際の施工に要した事業費が補助の対象とした事業費を、15道府県における防護柵の設置で35億5317万余円(当該施設等整備事業費に占める割合33.8%)、8府県における幼齢木保護具の設置で9536万余円(同20.9%)、5府県における剥皮防止帯の設置で2億2630万余円(同8.4%)、7道府県における忌避剤の散布及び塗布で3361万余円(同22.2%)下回っていた。その結果、実際の施工に要した事業費は、計98億8174万余円となり、補助の対象とした前記の事業費137億9020万余円を39億0846万余円(同28.3%)下回っていた。

表 鳥獣害防止施設等ごとの事業費等の全体の状況

(単位:千円)
鳥獣害防止施設等 整備が実施された道府県 事業費
(A)
実際の施工に要した事業費(C) 事業費
差引額
(E)=(A)-(C)
国庫補助金相当額差引額 
(B)-(D)
(E)/(A)×100
  国庫補助金相当額
(B)
  国庫補助金相当額
(D)
防護柵の設置 15道府県
注(1)
10,505,832 3,151,840 6,952,653 2,085,793 3,553,178 1,066,047 33.8%
幼齢木保護具の設置 8府県
注(2)
454,973 140,161 359,612 111,553 95,361 28,608 20.9%
皮防止帯の設置 5府県
注(3)
2,678,131 803,428 2,451,823 734,817 226,308 68,611 8.4%
忌避剤の散布及び塗布 7道府県
注(4)
151,269 45,380 117,652 35,295 33,617 10,085 22.2%
17道府県 13,790,208 4,140,812 9,881,741 2,967,459 3,908,466 1,173,353 28.3%
注(1)
北海道、京都府、群馬、神奈川、福井、長野、静岡、滋賀、兵庫、鳥取、徳島、愛媛、熊本、宮崎、鹿児島各県
注(2)
京都府、長野、滋賀、兵庫、島根、徳島、愛媛、熊本各県
注(3)
京都府、福井、長野、滋賀、熊本各県
注(4)
北海道、京都府、群馬、長野、静岡、愛知、滋賀各県
注(5)
「整備が実施された道府県」は、複数の鳥獣害防止施設等の整備が実施された道府県があるため、合計しても「計」と一致しない。また、金額は単位未満切捨てのため、合計しても「計」と一致しない。

このように、17道府県の242事業主体が実施した鳥獣害防止施設等整備については、全体で実際の施工に要した事業費が補助の対象とした事業費を下回っており、実際の施工に要した事業費が補助の対象とした事業費を上回っているものを考慮しても、施工の実態を反映した標準単価を設定していれば、上記の39億0846万余円(国庫補助金相当額計11億7335万余円)が低減できたと認められる。

(是正改善を必要とする事態)

鳥獣害防止施設等整備の実施に当たり、道府県において、実際の施工に要した事業費が補助の対象とした事業費を下回っていて、施工の実態を反映した適切な標準単価が設定されていない事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

  • ア 貴庁において、鳥獣害防止施設等整備に係る標準単価のうち、資材費について、実際に使用される資材の仕様や購入価格を調査するよう要領等に定めていなかったり、労務費について、標準的な作業歩掛かりを提示していなかったりしていること、また、施工の実態を反映した適切な標準単価を設定することについて道府県に対する指導が十分でないこと
  • イ 道府県において、毎年度の標準単価の見直しの際に、施工の実態を十分に把握せずに標準単価を設定していること

3 本院が求める是正改善の処置

貴庁においては、鳥獣の増加を背景とした森林被害の増加により、森林の生物多様性や公益的機能への影響も懸念されていることから、造林、間伐等と一体的に実施する鳥獣害防止施設等整備を、今後も引き続き実施することとしている。

ついては、貴庁において、鳥獣害防止施設等整備について、都道府県が設定している標準単価が施工の実態を反映したものとなるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。

  • ア 要領等を改正して、資材費について、都道府県において実際に使用される資材の仕様や購入価格に係る調査を行うよう定めるとともに、労務費について、作業歩掛かりに係る実態調査を行い、その結果を踏まえて標準的な作業歩掛かりを提示すること
  • イ 都道府県に対して、アの要領等の改正内容を周知するとともに、標準単価の内容と施工の実態がかい離することのないよう、標準単価を適時適切に見直すよう周知徹底を図ること