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(2)研究に関する委託事業終了後受託者等に取得物品を引き続き使用させるに当たり、継続使用の承諾の手続を適切に行うなどするよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに継続使用させる取得物品の使用状況を定期的に把握するなどの取得物品の管理を適切に行うための体制を整備するよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産技術会議
(項)農林水産業研究開発費(平成19年度以前は、(項)農林水産業技術振興費)
(項)放射能調査研究費
(項)原子力試験研究費
(項)地球環境保全等試験研究費
(項)科学技術戦略推進費
東日本大震災復興特別会計
(組織)農林水産技術会議
(項)農林水産業復興政策費
(平成23年度は、一般会計(組織)農林水産技術会議(項)東日本大震災復旧・復興農林水産業研究開発費)
部局等
農林水産技術会議事務局
取得物品の概要
研究に関する委託事業を実施するために、委託費により受託者等が取得した3万円以上の試験機器等
検査の対象とした平成21年度から25年度までの間に研究期間が終了した委託事業に係る取得物品の数量及び取得価格
4,219個 53億4859万余円
継続使用の承諾の手続を経ないまま引き続き受託者等に使用させていた取得物品の数量及び取得価格(1)
767個 7億4510万円
無断で処分されたり、紛失したりしていた取得物品の数量及び取得価格(2)
29個 1548万円
遊休していた取得物品の数量及び取得価格(3)
232個 2億3519万円
(1)から(3)までの純計
924個 9億3215万円

【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求したものの全文】

研究に関する委託事業により取得した物品の管理について

(平成27年10月8日付け 農林水産大臣宛て)

標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに同法第36条の規定により改善の処置を要求する。

1 委託事業等の概要

(1)委託事業の概要

貴省は、農林水産政策上重要な研究のうち、貴省自らが企画及び立案し、年度ごとの進行管理を行うことによって重点的に実施することとしている委託によるプロジェクト研究等を、3年間から5年間の研究期間を前提として、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(平成27年4月1日以降は国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)等の研究機関に委託して実施している。そして、貴省農林水産技術会議事務局(以下「事務局」という。)は、これらの委託事業に係る事務を行っている。

事務局は、委託事業の実施に当たり、研究機関が委託事業を実施するのに必要な経費について、毎年度、研究機関との間で締結する委託契約に基づいて委託費として支払っており、受託者である研究機関、再委託先等(以下、これらを「受託者等」という。)は、委託費により必要な試験機器等の物品を取得している(以下、委託事業により取得した取得価格3万円以上の物品を「取得物品」という。)。

(2)取得物品の管理手続等

事務局は、委託事業に係る委託契約書の各規定の趣旨、具体的な事務手続等について定めた委託契約書実施細則を受託者等に交付しており、委託契約書において、受託者等は委託契約書実施細則を遵守することとされている。

委託契約書、委託契約書実施細則等(以下、これらを「委託契約書等」という。)によれば、取得物品の所有権は、委託事業の終了の時期(委託事業が複数年度において実施することを予定する研究事業の一部として行われるものである場合は、当該研究事業の最終年度に当たる委託事業の終了の時期。以下、この時期の経過後を「委託事業終了後」という。)までの間は受託者等に帰属すること、受託者等は、取得物品を善良なる管理者の注意をもって管理しなければならないことなどとされている。また、委託事業終了後、原則として、事務局が受託者等から取得物品の引渡しを受けて、その所有権を国に移転することとされている。

ただし、委託事業終了後、取得物品について全く残存価値がないと判断した場合、残存価値が低いと判断した場合又は残存価値があっても引渡費用をかけてまで引渡しを求めることが適当でないと判断した場合等は、受託者等からの報告に基づき取得物品の引渡しを要しないとすることができるとされている。

また、受託者等が委託事業終了後に同種の研究を実施するために取得物品の継続使用を希望する場合は、委託事業終了後に、受託者が事務局に提出する実績報告書に継続使用を希望する受託者等の名称、継続使用の目的及び期間を記載して申請し、事務局の承諾を得て継続使用することができるとされており、その場合の所有権は引き続き受託者等に帰属することとされている。そして、事務局は、取得物品の継続使用を希望する受託者等に対して、継続使用する取得物品を善良なる管理者の注意をもって管理すること、継続使用を中止するなどして継続使用の目的及び期間に変更が生じた場合は遅滞なく事務局に報告することなどの条件を付して、継続使用の申請の内容が適切と認められる場合は承諾するとされている。また、受託者等の責めに帰すべき事由により継続使用が中止された場合は、継続使用を中止した時点における取得物品の残存価額を受託者等から事務局に納付させるとされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、有効性等の観点から、取得物品が委託契約書等に基づいて適切に管理されているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、貴省の委託事業を実施している研究機関のうち、事務局が多額の委託費を支払っている5独立行政法人(注)(27年4月1日以降は国立研究開発法人)において21年度から25年度までの間に研究期間が終了した委託事業(これらに係る取得物品4,219個、取得価格計53億4859万余円)を対象として、事務局及び5独立行政法人において、委託事業の実績報告書、取得物品の継続使用の承諾に係る関係書類、各独立行政法人の資産管理台帳等を検査するとともに、委託事業終了後も受託者等が継続使用するとしている取得物品等を現地において確認するなどして会計実地検査を行った。

(注)
5独立行政法人  農業・食品産業技術総合研究機構、農業生物資源研究所、農業環境技術研究所、国際農林水産業研究センター、森林総合研究所の各独立行政法人

(以下、各独立行政法人の名称中、「独立行政法人」については、記載を省略した。)

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた((1)及び(2)の事態には重複しているものがある。)。

(1)継続使用の承諾の手続を経ないまま引き続き受託者等に取得物品を使用させていた事態

前記4,219個の取得物品のうち、事務局が委託事業終了後に引渡しを受けていた取得物品は1個(取得価格7560万円)のみとなっており、残りの4,218個(取得価格計52億7299万余円)のうち取得物品の引渡しを要しないとして処分された65個(同2323万余円)を除く4,153個(同52億4975万余円)については、引き続き受託者等に使用させていた。このうち、継続使用の承諾の手続を経ないまま引き続き受託者等に使用させていた取得物品が767個(同7億4510万余円)見受けられた(表参照)。

(2)受託者等に引き続き使用させている取得物品の管理が適切でなかった事態

上記の取得物品4,153個について、委託契約書等に基づく管理の状況を確認したところ、次のとおり、事務局に無断で処分されたり、遊休したりなどしている取得物品が261個(同2億5067万余円)見受けられた(表参照)。

ア 取得物品が無断で処分されたり、紛失したりしていた事態

委託事業終了後、事務局の継続使用の承諾を得ていた取得物品10個(同383万余円)、継続使用の承諾を得ていない取得物品19個(同1164万余円)、計29個(同1548万余円)については、受託者等において無断で処分されたり、紛失したりしていて、受託者等の責めに帰すべき事由により継続使用が中止されていた。しかし、事務局は、受託者等から継続使用を中止する旨の報告がなかったことなどから、無断処分等の事態を把握しておらず、委託契約書等に基づいて、取得物品の継続使用を中止した時点における残存価額について受託者等から納付させるなどしていなかった。

上記について事例を示すと、次のとおりである。

<事例1>

事務局は、平成23年度に「重要政策課題への機動的対応の推進及び総合科学技術会議における政策立案のための調査」を農業環境技術研究所に委託した。同研究所は、23年11月に、放射性物質の空間線量率を測定するサーベイメータ(以下「測定機器」という。)4台(単価510,300円、取得価格計2,041,200円)を購入して研究に使用していた。

委託事業終了後、同研究所は、測定機器を引き続き使用するとして、事務局の継続使用(継続使用期間は24年4月から29年3月まで)の承諾を得ていたが、その後測定機器1台の所在が確認できない状況となっていた。しかし、事務局は、このような事態を把握しておらず、委託契約書等に基づいて、測定機器の継続使用を中止した時点における残存価額を同研究所から納付させるなどしていなかった。

イ 取得物品が遊休していた事態

委託事業終了後、事務局の継続使用の承諾を得ていた取得物品147個(同1億8321万余円)、継続使用の承諾を得ていない取得物品85個(同5198万余円)、計232個(同2億3519万余円)が、受託者等において研究内容の変更等により使用されることなく遊休していた。しかし、事務局は、受託者等から継続使用を中止する旨の報告がなかったことなどから、このような事態を把握しておらず、取得物品の引渡しを受けて国の物品として、他の研究機関等において有効活用を図るなどしていなかった。

上記について事例を示すと、次のとおりである。

<事例2>

事務局は、平成19年度から24年度までの間に「アグリ・ゲノム研究の総合的な推進」を国際農林水産業研究センターに委託し、同センターは、19年8月に全自動洗浄機1台(取得価格2,998,275円)を購入して研究に使用していた。

委託事業終了後、同センターは、全自動洗浄機を使用して実験器具の洗浄を行うとして、事務局の継続使用(継続使用期間は25年4月から35年3月まで)の承諾を得ていたが、研究方法が変更となり、大量の試験器具の洗浄を行う必要がなくなったことから、洗浄機は使用されなくなり、遊休していた。しかし、事務局は、このような事態を把握しておらず、洗浄機の引渡しを受けて有効活用を図るなどしていなかった。

表 平成21年度から25年度までの間に研究期間が終了した委託事業に係る取得物品

上段:事務局から継続使用の承諾を得ていたもの
中断:継続使用の承諾の手続を経ていないもの
下段:上段及び中段の計
独立行政法人名 取得物品  
うち委託事業終了後に引渡しを受けた取得物品及び引渡しを要しないとして処分された取得物品 委託事業終了後も引き続き受託者等に使用させていた取得物品  
うち無断で処分されたり、紛失したりしていたもの うち遊休していたもの ア及びイの計
個数 金額(千円) 個数 金額(千円) 個数 金額(千円) 個数 金額(千円) 個数 金額(千円) 個数 金額(千円)
農業・食品産業技術総合研究機構 2,754 3,878,505     2,325 3,419,620 2 1,057 78 148,963 80 150,021
〈1〉 〈75,600〉 380 363,846 3 9,036 40 20,212 43 29,249
(48) (19,439) 2,705 3,783,466 5 10,094 118 169,176 123 179,270
農業生物資源研究所 636 830,349     562 722,769 3 519 18 8,627 21 9,146
    70 106,921 1 268 2 2,257 3 2,526
(4) (658) 632 829,691 4 788 20 10,884 24 11,673
農業環境技術研究所 439 317,549     244 193,570 3 2,056 18 11,115 21 13,172
    183 121,048 5 1,145 30 16,250 35 17,396
(12) (2,929) 427 314,619 8 3,201 48 27,366 56 30,568
国際農林水産業研究センター 75 68,942     72 67,222 9 7,017 9 7,017
    3 1,719
75 68,942 9 7,017 9 7,017
森林総合研究所 315 253,247     183 101,463 2 201 24 7,492 26 7,694
    131 151,571 10 1,195 13 13,260 23 14,456
(1) (212) 314 253,034 12 1,397 37 20,752 49 22,150
合計 4,219 5,348,594     3,386 4,504,647 10 3,835 147 183,216 157 187,051
〈1〉 〈75,600〉 767 745,106 19 11,647 85 51,981 104 63,628
(65) (23,239) 4,153 5,249,754 29 15,482 232 235,197 261 250,679
(注)
表中の〈 〉は事務局が引渡しを受けた取得物品、( )は引渡しを要しないとして処分された取得物品である。

(是正及び是正改善並びに改善を必要とする事態)

事務局が継続使用の承諾の手続を経ないまま引き続き受託者等に取得物品を使用させていたり、受託者等に引き続き使用させている取得物品が無断で処分されたり、遊休したりなどしている事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。また、事務局が受託者等に継続使用させている取得物品の使用状況を把握するなどしていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、事務局において、委託事業終了後、委託契約書等に基づいて、取得物品の継続使用の承諾の手続を適切に行うことの必要性についての理解が十分でないこと、受託者等に対して、継続使用する取得物品を善良なる管理者の注意をもって管理するとともに、継続使用を中止する場合等には遅滞なく報告させることについて周知徹底が十分でないこと、受託者等に継続使用させている取得物品の使用状況を把握して、その有効活用を図ることなどの必要性についての理解が十分でないことなどによると認められる。

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置並びに要求する改善の処置

貴省は、今後も委託によるプロジェクト研究等を推進していくこととしており、受託者等において研究に必要な試験機器等を多数購入することが見込まれる。

ついては、貴省において、継続使用の承諾の手続を経ないまま引き続き受託者等に使用させている取得物品については、速やかに継続使用の承諾の手続を行ったり、無断で処分されるなどしている取得物品については、継続使用を中止した時点を確認した上で、残存価額がある場合にこれを納付させるなどしたり、遊休している取得物品については、現在の状態を確認した上で、使用可能な場合にその引渡しを受けて有効活用を図るなどしたりするよう是正の処置を要求するとともに、委託事業終了後に引き続き受託者等に使用させる取得物品の管理が適切に行われるよう、次のとおり是正改善の処置を求め及び改善の処置を要求する。

  • ア 委託事業終了の際、受託者等から提出される実績報告書を確認した上で、取得物品の受託者等からの引渡しや継続使用の承諾の手続等を適切に行うこと(会計検査院法第34条による是正改善の処置を求めるもの)
  • イ 受託者等に対して、継続使用する取得物品を善良なる管理者の注意をもって管理し、取得物品の継続使用を中止する場合等は、遅滞なくその旨を報告するよう周知徹底を図ること(同法第34条による是正改善の処置を求めるもの)
  • ウ 受託者等に継続使用させている取得物品の使用状況を定期的に把握して、継続使用させる必要がないと判断した場合は、取得物品の引渡しを受けて有効活用を図るなど、取得物品の管理を適切に行うための実効性のある体制を整備すること(同法第36条による改善の処置を要求するもの)