【改善の処置を要求したものの全文】
農業・食品産業強化対策整備交付金事業における成果目標の達成状況の評価等について
(平成27年10月29日付け 農林水産大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、「強い農業づくり交付金実施要綱」(平成17年16生産第8260号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)等に基づき、農畜産物の高品質・高付加価値化、低コスト化、食品流通の合理化等の地域における生産から流通・消費までの対策を総合的に推進することとしている。そして、平成17年度以降、産地競争力の強化、食品流通の合理化等を政策目的とする農業・食品産業強化対策整備交付金事業により、施設等を整備する事業(以下「整備事業」という。)を実施する事業主体に交付金を交付する都道府県に対して、農業・食品産業強化対策整備交付金(17年度から25年度までの交付金交付額計2586億7528万余円)を交付している。
実施要綱等によれば、事業主体は、目標年度(注1)における成果目標を設定するなどして、その成果目標等を記載した事業実施計画を都道府県に提出することとされており、提出を受けた都道府県は、採択要件に適合しているかなど、その内容について必要な審査及び指導を行うとともに、地方農政局等(以下「農政局等」という。)とその成果目標の妥当性について協議することとされている。そして、採択要件については、各事業において成果目標の基準を満たしていること、整備事業を実施する場合は、当該施設の整備による全ての効用によって全ての費用を償うことが見込まれることなどとされている。
目標年度において達成すべき成果目標の基準については、「強い農業づくり交付金の配分基準について」(平成17年16生産第8451号大臣官房国際部長、総合食料局長、生産局長、経営局長通知。以下「配分基準」という。)において、整備事業の対象施設(注2)ごとに、単位面積当たりの労働時間の短縮、販売額の増加、収量の増加、取扱量の増加等の増減率を所定の割合以上とすることなどが示されており、事業主体は、これらの中から二つ以内の成果目標を設定することとなっている。
実施要綱等によれば、事業主体は、総事業費が原則として5000万円以上の整備事業を実施する場合、投資に対する効果が適正か否かを判断し、投資が過剰とならないよう、「強い農業づくり交付金及び農業・食品産業競争力強化支援事業等における費用対効果分析の実施について」(平成17年16生産第8452号総合食料局長、生産局長、経営局長通知。以下「分析指針」という。)により、整備する施設等の導入効果について費用対効果分析を実施し、投資効率等を十分検討することとされている。そして、投資効率は、分析指針に定められた次の算定式により算定される。
投資効率={(年総効果額÷還元率(注3))-廃用損失額(注4)}÷総事業費
上記の算定式のうち、年総効果額は、施設等の導入により発生する①生産力増加効果、②品質向上効果、③生産コスト節減効果、④取扱量向上効果等(以下、これらを「効果項目」という。)の年効果額を合計して算定するものであり、それぞれの年効果額について、例えば、①作付面積、単位面積当たりの収量の増加等に伴う生産量の増加、②品質向上に伴う販売額の増加、③単位面積当たりの労働費等の削減に伴う生産コストの節減、④売場施設の拡大等に伴う取扱量の増加等の指標により算出することとなっている(以下、年効果額を算出するための指標を「効果指標」という。)。
なお、費用対効果分析の投資効率に係る事業実施後の評価は行うこととなっていない。
実施要綱等によれば、事業主体は、事業実施計画の目標年度の翌年度において、成果目標の達成状況について、自ら評価を行い、評価報告書を作成して都道府県に提出することなどとされている。そして、都道府県は、評価報告書の内容について点検評価を行い、その結果を農政局等に報告するとともに、事業実施計画に掲げた成果目標が達成されていない場合には、事業主体に対して、必要な改善措置を指導し、当該成果目標が達成されるまでの間、改善状況の報告をさせることとされている。
また、農政局等は、都道府県から評価報告書の点検評価の結果について報告を受けた場合には、成果目標の達成度等の評価を行い、必要に応じて、その結果を踏まえて、都道府県を指導することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、整備事業の事業実施計画における成果目標の妥当性の審査が十分に行われているか、評価報告書の点検評価は適切に行われているかなどに着眼して、産地競争力の強化及び食品流通の合理化を目的とする取組に係る整備事業のうち、28都道府県(注5)が17年度から25年度までの間に実施し、費用対効果分析が行われた整備事業1,260事業(事業実施計画に記載された成果目標数1,988件。事業費計3107億0265万余円、交付金交付額計1190億8399万余円)を対象として検査した。
検査に当たっては、農林水産本省及び28都道府県において、事業実施計画の事業内容、成果目標の達成状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
整備事業1,260事業のうち935事業(全体の74.2%)では、事業実施計画に記載された成果目標の内容は、費用対効果分析の主要な効果項目の内容と関連があるものとなっていた。一方、表1のとおり、残りの325事業(同25.8%。事業費計1363億2455万余円、交付金交付額計365億9657万余円)では、①成果目標の内容を農産物の全出荷量に占める上位規格品の割合を増加させることなど品質向上に関するものとして設定している一方で、費用対効果分析の効果項目の内容を施設等の整備により農産物の生産力を増加させることなど生産量増加に関するものとしているなどして、成果目標の内容が費用対効果分析の効果項目の内容と直接関連がないものが108事業、②成果目標に対応する費用対効果分析の効果項目の年効果額が年総効果額の50%未満となっているものが217事業となっており、これらの事業については、各都道府県において成果目標の内容と費用対効果分析の主要な効果項目の内容との関連性に留意した審査が十分に行われていたとは認められない。
表1 成果目標の内容と費用対効果分析の効果項目の内容との関連性
取組 | 整備事業の対象施設等 | 費用対効果分析の対象事業数 | ①成果目標の内容が費用対効果分析の効果項目の内容と直接関連がないもの | ②成果目標に対応する費用対効果分析の効果項目の年効果額が年総効果額の50%未満となっているもの | 合計 ①+② |
|||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
年総効果額の10%未満 | 年総効果額の10%以上30%未満 | 年総効果額の30%以上50%未満 | 計 | |||||
産地競争力の強化を目的とする取組 | 乾燥調製施設 | 150 | 5 | 43 | 23 | 11 | 77 | 82 |
穀類乾燥調製貯蔵施設 | 100 | 20 | 3 | 11 | 1 | 15 | 35 | |
農産物処理加工施設 | 176 | 9 | 5 | 6 | 3 | 14 | 23 | |
集出荷貯蔵施設 | 282 | 19 | 11 | 16 | 8 | 35 | 54 | |
農産物被害防止施設 | 99 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | |
生産技術高度化施設 | 251 | 17 | 17 | 13 | 9 | 39 | 56 | |
その他 | 165 | 33 | 12 | 5 | 11 | 28 | 61 | |
計 | 1,223 | 104 | 91 | 74 | 43 | 208 | 312 | |
食品流通の合理化を目的とする取組 | 卸売市場における売場施設等 | 37 | 4 | 6 | 3 | 0 | 9 | 13 |
合計 | 1,260 | 108 | 97 | 77 | 43 | 217 | 325 |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1> 設定した成果目標に対応する費用対効果分析の効果項目の年効果額が年総効果額の50%未満となっている事態
長崎県佐世保市は、食品流通の合理化を目的とする取組として、平成17、18両年度に、佐世保市中央卸売市場内において、青果物の取扱量の増加等に対応して青果棟の増改築等を行っている(事業費23億8856万余円、交付金交付額7億9618万余円)。同市は、事業実施計画の策定に当たり、成果目標を「施設の維持管理コストの削減」と設定して、成果目標の目標値を13年度から15年度までの青果棟に係る施設の維持管理費の平均値1376万円/年より68万余円/年削減した1307万余円/年とすることとしている。一方、費用対効果分析において、取扱量向上効果(年総効果額の89.1%)、品質向上効果(同4.3%)、物流コスト削減効果(同3.0%)、施設活用効果(同2.3%)及び施設維持管理コスト削減効果(同1.4%)の各効果項目の年効果額を合計して年総効果額2億4011万余円を算定していた。このように、設定した成果目標が費用対効果分析の主要な効果項目に対応しておらず、設定した成果目標を達成した場合の施設の維持管理費の削減額は、年総効果額の0.29%に過ぎないものとなっていた。
成果目標の内容が費用対効果分析の主要な効果項目の内容と関連があるものとなっていた整備事業935事業の成果目標1,538件についてみると、表2のとおり、①成果目標の目標値が費用対効果分析の効果指標の計画値と整合していないものが369件、②成果目標の目標値に施設等の導入による受益地区に係る生産量等ではなく統計資料等による地域全体の生産量等が用いられているものが129件、計498件(①及び②の重複を除いた純計459件、378事業。事業費計781億5702万余円、交付金交付額計365億5824万余円)となっており、これらについて、各都道府県において成果目標の目標値と費用対効果分析の効果指標の計画値との整合性等に留意した審査が十分に行われていたとは認められない。
表2 成果目標の目標値と費用対効果分析の効果指標の計画値との整合性等
取組 | 整備事業の対象施設等 | 成果目標数 (件) |
①成果目標の目標値が費用対効果分析の効果指標の計画値と整合していないもの(件) | ②成果目標の目標値に統計資料等による地域全体の生産量等が用いられているもの(件) | 合計 ①+② (件) |
①及び②の純計 (件) |
左に対する事業数 (純計) (事業) |
||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
成果目標の目標値を高く設定 | 費用対効果分析の計画値を高く設定 | 計 | |||||||
産地競争力の強化を目的とする取組 | 乾燥調製施設 | 100 | 12 | 14 | 26 | 2 | 28 | 27 | 27 |
穀類乾燥調製貯蔵施設 | 123 | 11 | 20 | 31 | 11 | 42 | 42 | 34 | |
農産物処理加工施設 | 284 | 49 | 47 | 96 | 31 | 127 | 115 | 84 | |
集出荷貯蔵施設 | 396 | 41 | 53 | 94 | 11 | 105 | 100 | 79 | |
農産物被害防止施設 | 122 | 18 | 1 | 19 | 14 | 33 | 27 | 25 | |
生産技術高度化施設 | 302 | 31 | 21 | 52 | 32 | 84 | 76 | 67 | |
その他 | 171 | 25 | 15 | 40 | 27 | 67 | 60 | 52 | |
計 | 1,498 | 187 | 171 | 358 | 128 | 486 | 447 | 368 | |
食品流通の合理化を目的とする取組 | 卸売市場における売場施設等 | 40 | 6 | 5 | 11 | 1 | 12 | 12 | 10 |
合計 | 1,538 | 193 | 176 | 369 | 129 | 498 | 459 | 378 |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2> 成果目標の目標値が費用対効果分析の効果指標の計画値と整合していない事態
札幌市は、食品流通の合理化を目的とする取組として、平成17、18両年度に、札幌市中央卸売市場内において老朽化、狭あい化等に対応するために、青果棟、管理センター等を全面的に建て替えるなどの整備を行っている(事業費75億2241万余円、交付金交付額25億6175万余円)。同市は、事業実施計画の策定に当たり、成果目標の目標値を6年度から15年度までの青果物の平均取扱量326,776t/年(推計値)より1.5%増加の331,678t/年とする一方、費用対効果分析における効果指標となる青果物の取扱量等の計画値を、成果目標の目標値より多い363,893t/年とし、これを根拠として卸売場等の必要面積を整備前の1,301m2増と計算していた。なお、目標年度とした23年度の青果物の実際の取扱量は303,924tにとどまっていた。
ア及びイのとおり、計703事業(事業費計2144億8158万余円、交付金交付額計731億5481万余円)については、各都道府県において、事業実施計画における成果目標の妥当性の審査が十分に行われていない状況となっている。
上記の状況に鑑みて、703事業のうち目標年度が到来し、かつ、各都道府県が成果目標を全て達成したと評価している268事業について、本院が主要な効果指標の達成状況を検証したところ、表3のとおり、136事業(全体の50.7%。事業費計282億4049万余円、交付金交付額計122億9428万余円)は、主要な効果指標である生産量の増加等の実績が計画に達していなかった。
表3 703事業における費用対効果分析の主要な効果指標の達成状況
取組 | 整備事業の対象施設等 | アに係る事業数 | イに係る事業数 (純計) |
ア及びイの計 | 左のうち目標年度が到来した事業数 | (成果目標) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
全て達成 | (費用対効果分析) | |||||||||
うち生産量等の効果指標達成 | (割合) | うち生産量等の効果指標未達成 | (割合) | |||||||
(事業) | (事業) | (事業) | (事業) | (a) (事業) |
(b) (事業) |
(b/a) | (c) (事業) |
(c/a) | ||
産地競争力の強化を目的とする取組 | 乾燥調製施設 | 82 | 27 | 109 | 96 | 47 | 17 | 36.2% | 30 | 63.8% |
穀類乾燥調製貯蔵施設 | 35 | 34 | 69 | 49 | 17 | 4 | 23.5% | 13 | 76.5% | |
農産物処理加工施設 | 23 | 84 | 107 | 87 | 31 | 9 | 29.0% | 22 | 71.0% | |
集出荷貯蔵施設 | 54 | 79 | 133 | 98 | 39 | 20 | 51.3% | 19 | 48.7% | |
農産物被害防止施設 | 1 | 25 | 26 | 26 | 19 | 12 | 63.2% | 7 | 36.8% | |
生産技術高度化施設 | 56 | 67 | 123 | 114 | 64 | 34 | 53.1% | 28 | 43.8% | |
その他 | 61 | 52 | 113 | 82 | 43 | 31 | 72.1% | 12 | 27.9% | |
計 | 312 | 368 | 680 | 552 | 260 | 127 | 48.8% | 131 | 50.4% | |
食品流通の合理化を目的とする取組 | 卸売市場における売場施設等 | 13 | 10 | 23 | 10 | 8 | 3 | 37.5% | 5 | 62.5% |
合計 | 325 | 378 | 703 | 562 | 268 | 130 | 48.5% | 136 | 50.7% |
整備事業1,260事業(成果目標数1,988件)のうち、各都道府県が評価報告書の提出を受けて点検評価を行うことができたのは、目標年度が到来している967事業(同1,413件)である。これら1,413件の成果目標ごとの達成状況についてみると、表4のとおり、各都道府県が成果目標を達成していないと評価しているものは423件、189件、計612件あり、これらは、各都道府県及び各農政局等の指導の対象となり、改善に向けた取組が行われるものである。
取組 | 整備事業の対象施設等 | 検査対象 | 目標年度が到来している整備事業の成果目標の達成状況 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
成果目標を達成したとしているもの | 成果目標を一部達成したとしているもの | 成果目標を達成していないとしているもの | 計 | ||||||||||
事業数 | 成果目標数 | 事業数 | 成果目標数 | 事業数 | 成果目標数 | 事業数 | 成果目標数 | 事業数 | 成果目標数 | ||||
達成 | 未達成 | ||||||||||||
産地競争力の強化を目的とする取組 | 集出荷貯蔵施設等 | 1,223事業 | 1,928件 | 472事業 (49.8%) |
594件 (42.8%) |
187事業 (19.7%) |
374件 (26.9%) |
187件 | 187件 | 289事業 (30.5%) |
420件 (30.3%) |
948事業 (100%) |
1,388件 (100%) |
食品流通の合理化を目的とする取組 | 卸売市場における売場施設等 | 37事業 | 60件 | 14事業 (73.7%) |
18件 (72.0%) |
2事業 (10.5%) |
4件 (16.0%) |
2件 | 2件 | 3事業 (15.8%) |
3件 (12.0%) |
19事業 (100%) |
25件 (100%) |
計 | 1,260事業 | 1,988件 | 486事業 (50.3%) |
612件 (43.3%) |
189事業 (19.5%) |
378件 (26.8%) |
189件 | 189件 | 292事業 (30.2%) |
423件 (29.9%) |
967事業 (100%) |
1,413件 (100%) |
一方、各都道府県が成果目標を達成したと評価している612件、189件、計801件についてみると、表5のとおり、①成果目標の目標値が全出荷量に占める契約取引分の出荷量の割合等として設定されるなどしていて、出荷量等の実績が計画を下回っていても、その割合等の数値が目標値に達していることから成果目標を達成したと評価しているものが203件、②事業実施後の農産物の生産量等の実績が霜等による被害により計画を下回っていても、被害防止施設等を整備することによりその対策が完了して被害が発生しないものとして、成果目標を達成したなどと評価しているものが17件、計220件(①及び②の重複を除いた純計219件、201事業。事業費計408億9651万余円、交付金交付額計196億7390万余円)が含まれていた。
取組 | 整備事業の対象施設等 | 成果目標が達成したとしている成果目標数(件) | ①出荷量等の実績が計画を下回っていても、その割合等の数値が目標値に達していることから成果目標を達成したと評価しているもの(件) | ②被害防止施設等を整備することによりその対策が完了して被害が発生しないものとして、成果目標を達成したなどと評価しているもの(件) | 計 ①+② (件) |
①及び②の純計 (件) |
左に対する事業数 (事業) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
産地競争力の強化を目的とする取組 | 乾燥調製施設 | 79 | 15 | 0 | 15 | 15 | 14 |
穀類乾燥調製貯蔵施設 | 53 | 12 | 0 | 12 | 12 | 12 | |
農産物処理加工施設 | 157 | 46 | 0 | 46 | 46 | 40 | |
集出荷貯蔵施設 | 136 | 56 | 2 | 58 | 58 | 53 | |
農産物被害防止施設 | 106 | 13 | 10 | 23 | 22 | 22 | |
生産技術高度化施設 | 157 | 39 | 5 | 44 | 44 | 39 | |
その他 | 93 | 20 | 0 | 20 | 20 | 19 | |
計 | 781 | 201 | 17 | 218 | 217 | 199 | |
食品流通の合理化を目的とする取組 | 卸売市場における売場施設等 | 20 | 2 | 0 | 2 | 2 | 2 |
合計 | 801 | 203 | 17 | 220 | 219 | 201 |
このように、220件(純計219件)に係る201事業については、各都道府県及び各農政局等による評価報告書の点検評価において、成果目標の実質的な評価が行われていない状況となっている。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例3> 割合として設定される成果目標の目標値の算出の根拠となる出荷量について、計画に対する実績の達成状況を確認しないまま、成果目標を達成したとして評価している事態
いみず野農業協同組合(富山県射水市所在)は、産地競争力の強化を目的とする取組として、平成23年度に、枝豆をブランド化して販売し、生産者所得を向上させるために、集出荷貯蔵施設等を整備している(事業費8427万余円、交付金交付額2899万余円)。同組合は、事業実施計画における成果目標を「全出荷量に占めるブランド野菜の割合を5ポイント以上増加」と設定し、目標値を枝豆の全出荷量に占めるブランド品の割合の100%としていた。そして、同組合は、評価報告書において、出荷した枝豆全てがブランド品として出荷されたことから、成果目標を達成したと評価してその結果を報告し、報告を受けた富山県も、点検評価の結果、成果目標を達成したと評価していた。しかし、枝豆の出荷量について、計画上は170tであったのに対して、実績は41.1tにとどまっていたのに、富山県は、点検評価において、出荷量の計画に対する達成状況を確認していなかった。
<事例4> 事業実施後の農産物の生産量等の実績が霜等による被害により計画を下回っていても、被害防止施設等を整備することによりその対策が完了して被害が発生しないものとして、成果目標を達成したなどと評価している事態
青戸西茶生産組合(鹿児島県南九州市所在)は、産地競争力の強化を目的とする取組として、平成19年度に、降霜による茶芽の被害を未然に防ぎ、茶園(面積15.4ha)から安定した茶の生産を行うために、防霜施設277基を整備している(事業費6698万余円、交付金交付額3349万余円)。同組合は、事業実施計画における成果目標を「風・霜等による被害が軽減される面積の割合が事業実施地区全体の60%以上」と設定し、目標値を当該地区の対象面積に対して被害が軽減される面積の割合を100%としていた。そして、同組合は、評価報告書において、防霜施設を整備することによりその対策が完了し霜による被害が発生しないものとして、成果目標を達成したと評価してその結果を報告し、報告を受けた鹿児島県も、点検評価の結果、成果目標を達成したと評価していた。しかし、茶の生産量について、計画上は77.4tであったのに対して、実績は降霜による被害等により52.9tとなっているのに、鹿児島県は、点検評価において、これらの状況を確認していなかった。
(改善を必要とする事態)
整備事業の実施に当たり、事業実施計画における成果目標の妥当性の審査が十分に行われていなかったり、評価報告書の点検評価において成果目標の実質的な評価が行われていなかったりしている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
貴省は、消費者・実需者の需要に応じて、国産農畜産物を安定的に生産して供給するとともに、輸出を拡大する産地体制等を構築するために、27年度以降も引き続き、農業・食品産業強化対策整備交付金事業を実施することとしている。
ついては、貴省において、整備事業を適切に実施することの重要性を踏まえて、事業実施計画における成果目標の妥当性の審査及び評価報告書の点検評価が適切に行われるよう、次のとおり改善の処置を要求する。