農林水産省は、平成21年度から、耕作放棄地を再生して利用する取組やこれに附帯する施設等の整備、営農開始後のフォローアップ等の地域の取組を総合的及び包括的に支援する耕作放棄地再生利用緊急対策交付金事業(以下「交付金事業」という。)を実施している。
交付金事業は、都道府県単位に設置された都道府県協議会が、農林水産省から交付された耕作放棄地再生利用緊急対策交付金を原資として21年度から26年度までの間に基金を造成し、30年度までを実施期間として、基金から市町村、農業団体等により構成された地域協議会を通じるなどして耕作放棄地の再生利用等に取り組む農業者、農業者等の組織する団体等(以下「取組主体」という。)に対して耕作放棄地再生利用交付金(以下「交付金」という。)を交付する仕組みとなっている。なお、平成26年度補正予算からは、基金を造成せず、基金がなくなった都道府県協議会を通じるなどして年度ごとに交付金を交付する仕組みに改められている。
耕作放棄地再生利用緊急対策実施要綱(平成21年20農振第2207号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)等によれば、耕作放棄地を再生して利用する活動に対する支援として交付金の交付対象となる取組は、障害物除去、深耕、整地等の再生作業、肥料の投入等の土壌改良、再生した農地への作物導入等の営農定着及び実証ほ場の設置、運営等の経営展開とされている。また、耕作放棄地を再生して利用する活動に附帯して行う場合における支援として交付金の交付対象となる取組は、農業用用排水施設等の基盤整備等の施設等補完整備とされている。
実施要綱等によれば、上記取組のうち再生作業は、貸借等により再生作業が終了した後に農地において5年間以上耕作する農業者等を確保するなどして行うこととされている。そして、自然災害その他のやむを得ない理由が認められる場合を除き、長期間にわたり、再生した農地が耕作の目的に供されるために、地域協議会は、取組主体の再生作業が終了した後に、農地が通算5年間耕作されるまで、毎年度、耕作状況を確認して、農地を耕作する農業者等に対する指導、支援等を行うこととされている。
実施要綱等によれば、再生作業等に係る交付金の交付額は、交付対象事業費に2分の1等を乗じて得た金額以内とするなどとされており、重機を用いて行う再生作業等に係る交付対象事業費には、再生作業等に従事した取組主体等の労務費を計上することができることとされている。そして、労務費は、再生作業等に係る従事時間に作業内容に応じた職種の公共工事設計労務単価(農林水産省及び国土交通省決定)を乗じて算定することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性、有効性等の観点から、耕作放棄地を再生して利用する取組等は実施要綱等に基づき適切に実施されているか、交付対象事業費は適切に算定されているか、再生した農地が耕作されるなど交付金事業の効果は発現しているかなどに着眼して、21年度から26年度までの間の基金からの交付金交付額計72億7496万余円を対象として、農林水産本省、29道県協議会(注)及び管内の528地域協議会において、交付申請書、実績報告書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
実施要綱等によれば、前記のとおり、地域協議会は、取組主体の再生作業が終了した後に、農地が通算5年間耕作されるまで、毎年度、耕作状況を確認することとされている。
しかし、479地域協議会において実施された再生作業計6,259件のうち、表1のとおり、23地域協議会において実施された再生作業計137件(交付金計7294万余円)については、毎年度、再生した農地の耕作状況を確認していなかった。
道県名 | 地域協議会数 | 事業数 | 交付金額(万円) |
---|---|---|---|
北海道 | 5 | 30 | 4945 |
栃木県 | 3 | 5 | 393 |
長野県 | 6 | 8 | 409 |
和歌山県 | 1 | 18 | 142 |
岡山県 | 3 | 42 | 412 |
熊本県 | 3 | 29 | 912 |
沖縄県 | 2 | 5 | 77 |
計 | 23 | 137 | 7294 |
上記の479地域協議会において実施された再生作業計6,259件のうち、48地域協議会において実施された再生作業計122件については、自然災害その他のやむを得ない理由に該当しない取組主体の経営状態の悪化、転居等の理由により、再生した農地が耕作されていない時期があった。
このうち、表2のとおり、7地域協議会において実施された再生作業計10件(交付金計472万余円)については、再び耕起等を必要とする状態になるなど農地の適切な保全管理が行われていなかった。また、表3のとおり、12地域協議会において実施された再生作業計25件(上記7地域協議会の計10件のうち、3地域協議会の計5件が含まれる。交付金計1478万余円)については、26年度末時点で新たな耕作者が確保されていないなどのため、農地の耕作が再開される見通しが立っていなかった。
これらのことから、再生した農地が耕作の目的に供されていない状況となっていて、耕作放棄地を再生して利用する取組を支援する交付金事業の効果が十分に発現していないと認められた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
都城地域担い手育成総合支援協議会は、平成21、22両年度に、山之口町宇都頭地区において、耕作放棄地となっていた農地572aを対象として、農地の所有者との間で利用権を設定し再生作業を実施した取組主体に対して、交付金3,024,000円を交付している。しかし、当該農業者は、22、23両年度にキャベツを作付していたものの、24年度以降、資金繰りの悪化を理由として当該農地を耕作しておらず、草刈等の農地の適切な保全管理も行っていなかったため、当該農地は再び耕起を実施しなければ耕作できない状態になっていた。また、27年4月の会計実地検査時点で、新たな耕作者も確保されていないため、当該農地で耕作が再開される見通しが立っていない状況となっていた。
表2 再生した農地がやむを得ない理由によらず耕作されていないもののうち農地の適切な保全管理が行われていなかった事態
県名 | 地域協議会数 | 事業数 | 交付金額(万円) |
---|---|---|---|
千葉県 | 1 | 1 | 19 |
鳥取県 | 1 | 1 | 23 |
岡山県 | 1 | 1 | 20 |
熊本県 | 1 | 2 | 31 |
宮崎県 | 1 | 2 | 302 |
沖縄県 | 2 | 3 | 75 |
計 | 7 | 10 | 472 |
表3 再生した農地がやむを得ない理由によらず耕作されていないもののうち耕作が再開される見通しが立っていなかった事態
県名 | 地域協議会数 | 事業数 | 交付金額(万円) |
---|---|---|---|
青森県 | 1 | 1 | 34 |
千葉県 | 1 | 2 | 16 |
長野県 | 1 | 1 | 40 |
三重県 | 1 | 1 | 19 |
和歌山県 | 1 | 1 | 5 |
鳥取県 | 1 | 1 | 66 |
岡山県 | 1(1) | 1(1) | 20(20) |
広島県 | 1 | 4 | 14 |
熊本県 | 1(1) | 3(2) | 57(31) |
宮崎県 | 3(1) | 10(2) | 1203(302) |
計 | 12(3) | 25(5) | 1478(353) |
40地域協議会において実施された重機を用いて行う再生作業等計484件(交付対象事業費計3億3709万余円、交付金計2億0094万余円)については、取組主体がパートタイム作業従事者等を雇って再生作業等に従事させており、これらの作業従事者に対して公共工事設計労務単価よりも安価な日当等が支払われていた。しかし、上記の40地域協議会は、再生作業等に係る従事時間に一律に公共工事設計労務単価を乗じて労務費を算定していて、労務費の算定に取組主体以外の作業従事者に対する日当等の支払の実態が反映されていなかった。
したがって、公共工事設計労務単価よりも安価な日当等が支払われていた上記の作業従事者について、実際に支払われた日当等に基づいて当該労務費を算定すると、交付対象事業費は計2億8173万余円となり、これに係る交付金相当額は計1億6528万余円となって、実際に交付された交付金計2億0094万余円との差額3565万余円を節減できたと認められた。
このように、再生した農地の耕作状況について地域協議会が確認していなかったり、再生後に耕作されていない場合において、農地の適切な保全管理が行われていなかったり、耕作が再開される見通しが立っていなかったり、重機を用いて行う再生作業等に係る労務費について、公共工事設計労務単価よりも安価な日当等が支払われている作業従事者の従事時間に公共工事設計労務単価を乗じて算定していたりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、27年9月に地方農政局等に対して通知を発するなどして、次のような処置を講じた。
ア 再生した農地について、毎年度の耕作状況の確認を徹底するよう地域協議会に対して周知した。
イ 再生後に耕作されていない場合の対応策について、取組主体が営農可能である場合には、耕作の再開のために必要な指導及び支援を行ったり、営農可能ではないが農地の保全管理を行うことができる場合には、保全管理を行うよう指導したり、営農可能ではなく農地の保全管理を行うこともできない場合には、新たな耕作者を確保したりするなど、耕作の再開に向けた手順を定めて、これを地域協議会に対して周知した。
ウ 重機を用いて行う再生作業等に係る労務費について、取組主体以外に対して公共工事設計労務単価よりも安価な日当等の支払がある場合、支払実績額をもって労務費とすることとした。