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  • 平成26年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(3)暗渠(きょ)排水工事の実施に当たり、吸水管の直径について、吸水管内の流速等を考慮した上で、各地点の排水量に応じた規格を選定することにより、経済的な設計を行うよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省
(項)農山漁村地域整備事業費
(項)北海道開発事業費 等
部局等
農林水産本省
直轄事業
北海道開発局札幌開発建設部
補助事業
6農政局等
事業及び補助の根拠
土地改良法(昭和24年法律第195号)等、予算補助
事業主体
直轄事業 1開発建設部
補助事業 県10、市3、町4、村2、土地改良区6
計 26事業主体
工事の概要
ほ場内の地下水、地表残留水等を排除するために、ほ場内に吸水管や疎水材等で構成される暗渠排水施設を整備するもの
事業費
直轄事業  49工事 139億0152万余円(平成24年度~26年度)
補助事業 467工事 209億2556万余円(平成24年度~26年度)
(国庫補助金等相当額 112億5175万余円)
吸水管の直径について各地点の排水量に応じた規格を選定することが可能である吸水管敷設工費の積算額
直轄事業 8工事 2億3721万余円(平成24年度~26年度)
補助事業 143工事 9億7769万余円(平成24年度~26年度)
低減できた積算額
直轄事業 2460万円(平成24年度~26年度)
補助事業 6490万円(平成24年度~26年度)
(国庫補助金等相当額 3690万円)

1 事業の概要

(1)暗渠排水施設の整備の概要

農林水産省は、土地改良法(昭和24年法律第195号)等に基づき、水田を畑地としても利用するなど水田の汎用化を図ることなどを目的として、国が国営農地再編整備事業等で行う直轄事業又は地方公共団体等が農山漁村地域整備交付金事業等で行う国庫補助事業(以下「補助事業」という。)により、吸水管や疎水材等で構成される暗渠(きょ)排水施設(以下、この施設を「暗渠排水」という。)の整備を実施している(以下、暗渠排水を整備する工事を「暗渠排水工事」という。)。暗渠排水は、ほ場内に吸水管を埋設するなどして、ほ場内の地下水、地表残留水等を吸水管に導き入れて排水路まで自然に流下させることにより排除するものである。

(2)暗渠排水の吸水管に係る設計及び材料費の積算

農林水産省は、暗渠排水の計画及び設計に係る技術基準として、「土地改良事業計画設計基準 計画「暗きょ排水」」(平成12年12構改C第517号農林水産事務次官依命通知)等(以下「計画設計基準等」という。)を定めており、国及び地方公共団体等(以下、これらを合わせて「事業主体」という。)は、暗渠排水の計画及び設計に当たり、計画設計基準等を適用するなどして、暗渠排水工事を行っている。計画設計基準等によれば、暗渠排水の吸水管の直径については、①最小直径を50mmとし、吸水管が受け持つ計画暗渠排水量(以下「排水量」という。)、吸水管内の平均流速(管周辺土砂の吸出し及び泥土の堆積が生じない流速とされる秒速0.2mから0.5mまでの範囲)等により算定すること、②吸水管の敷設勾配が地形、配置形状からやむを得ず緩勾配となる場合は、通水不良となることを避けるために一回り管径を大きくすることなどとされている。

また、吸水管の種類については、硬質塩化ビニル製の有孔管等の合成樹脂管が一般的に広く使用されており、直径50mm、60mm、75mm、80mm等の規格がある。

そして、事業主体は、「土地改良事業等請負工事標準歩掛」(平成26年25農振第2162号等農林水産省農村振興局長通知)を適用するなどして吸水管敷設に要する施工費(以下「吸水管敷設工費」という。)の積算を行っており、このうち吸水管の材料費については、吸水管の単価に延長を乗ずるなどして算定している。この単価については、事業主体が定めるなどした資材単価表、市販の積算参考資料等に基づき決定しており、これらによれば、一般的に吸水管は、直径が小さいほど安価とされている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

農林水産省は、土地改良長期計画(平成24年3月閣議決定)に基づき、平成24年度から28年度までの間に、水田の汎用化を図ることなどを目的として、全国で10万haのほ場に暗渠排水を整備することとしており、その後も引き続き整備していくことが見込まれる。

そこで、本院は、経済性等の観点から、暗渠排水における吸水管の規格の選定に当たり、経済的な設計が行われているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、24年度から26年度までの間に、事業主体が合成樹脂管を選定した暗渠排水工事のうち、北海道開発局札幌、釧路両開発建設部において実施された直轄事業49工事(工事費総額139億0152万余円、吸水管敷設工費の積算額計12億6733万余円)及び17道県(注1)の43地方公共団体等において実施された補助事業467工事(事業費総額209億2556万余円、国庫補助金等相当額計112億5175万余円、吸水管敷設工費の積算額計55億1720万余円)を対象として、設計図書等の書類、現地の状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注1)
17道県  北海道、青森、山形、栃木、千葉、新潟、岐阜、滋賀、鳥取、広島、徳島、福岡、佐賀、熊本、大分、宮崎、沖縄各県

(検査の結果)

検査したところ、上記の直轄事業49工事のうち、吸水管について最小直径の規格を選定するなどしていた6工事を除く北海道開発局札幌開発建設部が実施した43工事(吸水管敷設延長計884,965m、吸水管敷設工費の積算額計10億3862万余円)においては、吸水管内の排水量が最大となる最下流地点の排水量に基づいて吸水管の直径について80mmの規格のみを選定するなどしている状況であった。また、上記の補助事業467工事のうち、吸水管について最小直径の規格を選定するなどしていた230工事を除く14道県(注2)の40地方公共団体等が実施した237工事(吸水管敷設延長計1,582,429m、吸水管敷設工費の積算額計14億8445万余円)においては、上記と同様に吸水管の直径について60mm、75mm、80mm等の規格のうち一つの規格のみを選定している状況であった。

(注2)
14道県  北海道、青森、山形、栃木、千葉、滋賀、鳥取、広島、徳島、福岡、佐賀、熊本、大分、沖縄各県

しかし、暗渠排水は、地下水等を吸水管に導き入れて排水路まで自然に流下させるものであるため、上流地点の排水量は下流地点の排水量より少なくなることから、事業主体は、吸水管の規格の選定に当たり、吸水管の直径について、吸水管内の流速等を考慮した上で、各地点の排水量に応じて規格を選定することを検討する必要があった。

そして、北海道開発局札幌開発建設部が実施した前記43工事のうち8工事(吸水管敷設延長計187,437m、吸水管敷設工費の積算額計2億3721万余円)及び14道県の40地方公共団体等が実施した前記237工事のうち、10県(注3)の25地方公共団体等が実施した143工事(吸水管敷設延長計927,525m、吸水管敷設工費の積算額計9億7769万余円)においては、上流地点の吸水管について排水量に応じて下流地点の規格より直径が小さい規格を選定しても、吸水管内の平均流速が管周辺土砂の吸出し及び堆積が生じない流速の範囲内となっていた。したがって、これらの工事の設計に当たっては、吸水管内の流速等を考慮した上で、上流地点の吸水管について最下流地点の規格より直径が小さい規格を選定して経済的な設計とすることが可能であったと認められた。

(注3)
10県  青森、山形、栃木、千葉、滋賀、鳥取、福岡、熊本、大分、沖縄各県

このように、暗渠排水工事における吸水管の規格の選定に当たり、吸水管内の流速等を考慮した上で、上流地点の吸水管について下流地点の規格より直径が小さい規格を選定することが可能であるのに、吸水管の直径の規格を各地点の排水量に応じて選定する経済的な設計を行っていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(低減できた吸水管敷設工費の積算額)

前記の8工事及び143工事における吸水管の直径について、吸水管の規格を各地点の排水量に応じて選定して設計することとして、吸水管敷設工費の積算額を計算すると、直轄事業で2億1257万余円、補助事業で9億1270万余円となり、積算額を直轄事業で約2460万円、補助事業で約6490万円(国庫補助金等相当額約3690万円)それぞれ低減できたと認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、暗渠排水工事における吸水管の規格の選定に当たり、事業主体において経済的な設計を行う必要性についての理解が十分でなかったこと、農林水産省において事業主体に対して吸水管の直径の規格を各地点の排水量に応じて選定して設計することについての周知が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、27年9月に北海道開発局、地方農政局等及び北海道に対して通知を発して、暗渠排水工事に使用する吸水管の規格の選定に当たり、吸水管の直径について、吸水管内の流速等を考慮した上で、各地点の排水量に応じた規格を選定することにより、経済的な設計を行うよう、周知徹底するとともに、地方農政局等を通じて都府県等に対しても同様に周知するなどの処置を講じた。