この工事は、関東地方整備局東京国道事務所(以下「事務所」という。)が、既設橋りょうの耐震対策の一環として、平成25、26両年度に、東京都板橋区東坂下地先において、耐震補強工として一般国道17号の橋りょう(昭和7年築造。橋長57.8m、幅員25.7m)の橋台2基及び橋脚2基に架設した9本の鋼鈑桁(ばんげた)(以下「橋桁」という。)に変位制限構造及び落橋防止構造(以下、これらを総称して「両構造」という。)を工事費101,034,000円で設置したものである(参考図参照)。
このうち、変位制限構造は、地震発生時において橋桁等に作用する橋軸方向及び橋軸直角方向の水平力に対して、橋台等と橋桁との間の相対変位が大きくならないように支承部と補完し合って抵抗するために設置するものであり、落橋防止構造は、地震発生時における橋軸方向の水平力に抵抗して橋桁の落下を防止するために設置するものである。
事務所は、両構造の設計を「道路橋示方書・同解説」(社団法人日本道路協会編。以下「示方書」という。)等に基づき行うこととしており、これを設計コンサルタントに委託し、設計業務委託の成果品の提出を受けていた。
上記の成果品によれば、橋台2基に設置する両構造は、いずれも、ボルト(長さ155mm~220mm、径24mm)により橋桁に固定した鋼板(橋軸方向の長さ492mm~1,640mm、橋軸直角方向の長さ633mm~1,045mm、厚さ40mm。以下、鋼板を橋桁に固定しているボルトを「取付ボルト」という。)と橋台の橋座部に垂直に埋め込んだアンカーバー(45mm×45mm)とを組み合わせた構造となっており、橋台1基につき変位制限構造を6個、落橋防止構造を8個設置すれば、両構造に作用する水平力に対していずれも安全であるとして、これにより施工していた。
本院は、合規性等の観点から、工事の設計が示方書等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、事務所において、本件工事を対象に、設計図面、設計計算書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
すなわち、橋台2基に設置した変位制限構造は、アンカーバーと取付ボルトが橋軸方向に離れているため、地震発生時に橋桁に作用する橋軸直角方向の水平力により、鋼板に曲げモーメント(注1)が作用することになっていた。このため、取付ボルトには、水平力によるせん断力に加えて、曲げモーメントによるせん断力が作用することになるのに、事務所は、設計において、この曲げモーメントによるせん断力を考慮していなかった。そこで、改めて橋台2基に設置した12個全ての変位制限構造の取付ボルトに生ずるせん断応力度(注2)を計算すると、1,505N/mm2から4,481N/mm2となり、許容せん断応力度300N/mm2を大幅に上回っていて、応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
また、橋台2基に設置した落橋防止構造は、地震発生時に橋桁に作用する橋軸方向の水平力に抵抗するものであるが、前記のとおり、変位制限構造と同様の構造となっていることから、橋軸直角方向の水平力に対しても抵抗することになり、落橋防止構造の取付ボルトにも曲げモーメントによるせん断力が作用することになっていた。そこで、改めて橋台2基に設置した16個全ての落橋防止構造の取付ボルトに生ずるせん断応力度を計算すると、15個の落橋防止構造において、303N/mm2から1,845N/mm2となり、許容せん断応力度300N/mm2を大幅に上回っていて、応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
したがって、橋台2基に設置した全ての変位制限構造及び15個の落橋防止構造は、設計が適切でなかったため、地震発生時において所要の安全度が確保されていない状態になっていて工事の目的を達しておらず、これらに係る工事費相当額20,360,000円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事務所において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。
橋りょう概念図
橋台正面図
橋台に設置した両構造(変位制限構造及び落橋防止構造)の概念図
橋台に設置した両構造の平面図