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  • 平成26年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 第10 国土交通省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(1)河川工事に伴う附帯工事の実施に当たり、工作物の管理者の把握に努めるよう意見を表示し、及び改築の際の工作物の構造等の決定に当たり、現行の構造令等の基準を遵守するなどし、かつ、工作物の機能を向上させる場合には、その費用の負担を求めるよう是正改善の処置を求めたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項)社会資本総合整備事業費 等
(平成25年度以前は、一般会計 (組織)国土交通本省 (項)社会資本総合整備事業費 等)
(社会資本整備事業特別会計(治水勘定) (項)河川整備事業費 等)
部局等
16府県
補助の根拠
河川法(昭和39年法律第167号)、予算補助
事業主体
府1、県15、市1、計17事業主体
附帯工事の概要
河川工事により必要を生じた許可工作物の改築等を河川工事と合わせて施行するもの
附帯工事を含む契約件数及び工事費
544件 386億7385万余円(平成22年度~26年度)
(国庫補助金等交付額 192億3652万余円)
附帯工事を実施した工作物の施設数及び工事費相当額
594施設 164億7040万余円(平成22年度~26年度)
(国庫補助金等相当額 84億3535万余円)
管理者を把握していない施設数及び工事費相当額(1)
103施設 2億9477万円(平成22年度~26年度)
(国庫補助金等相当額 1億5083万円)
構造令等の基準に適合していないなどの施設数及び工事費相当額(2)
83施設 2億5088万円(平成22年度~26年度)
(国庫補助金等相当額 1億2209万円)
機能向上費用の負担を求めていない施設数及び工事費相当額(3)
66施設 5億6349万円(平成22年度~26年度)
(国庫補助金等相当額 2億7097万円)
(1)及び(3)の純計
140施設 7億2495万円
(国庫補助金等相当額 3億5368万円)(背景金額)

【意見を表示し及び是正改善の処置を求めたものの全文】

河川工事に伴う附帯工事により改築を実施した工作物の維持管理及び費用負担等について

(平成27年10月29日付け 国土交通大臣宛て)

標記について、下記のとおり、会計検査院法第36条の規定により意見を表示し、及び同法第34条の規定により是正改善の処置を求める。

1 河川工事に伴う附帯工事による許可工作物の改築等の概要

(1)河川の管理

貴省は、河川法(昭和39年法律第167号。以下「法」という。)等に基づき、洪水等による災害の発生が防止され、流水の正常な機能が維持されるなどするよう河川を総合的に管理することにより、公共の安全を保持することなどを目的として、堤防、護岸等の河川管理施設を整備する河川工事を直轄事業及び補助事業により実施している。

そして、河川の管理については、法等によれば、一級河川は国土交通大臣が、二級河川は都道府県知事又は指定都市の長(以下「都道府県知事等」という。)がそれぞれ管理者として行うこととされている(以下、一級河川の管理者と二級河川の管理者を合わせて「河川管理者」という。)。また、一級河川のうち国土交通大臣が指定する区間(以下「指定区間」という。)内の国土交通大臣の権限に属する事務の一部は当該一級河川の部分の存する都道府県の知事等が行うこととすることができるとされている(以下、河川管理者と指定区間内の事務の一部を行う都道府県知事等を合わせて「河川管理者等」という。)。

(2)許可工作物の概要

ア 工作物を設置する場合の手続等

河川区域内の土地には、河川管理施設のほかに、その流域において農業用水を取水又は排水するなどのために、堰(せき)、樋(ひ)門、排水管等の工作物が設置されている。

法によれば、河川区域内の土地に工作物を設置しようとする者は、土地の占用の許可と合わせて設置の許可を河川管理者等から受けなければならないこととされている(以下、許可を受けて設置された工作物を「許可工作物」という。)。

そして、河川管理者は、河川現況台帳を法等により調製及び保管しなければならないとされており、河川現況台帳には、許可工作物について、許可等を受けた者等の河川の使用の許可等の概要を記載することとなっている。

イ 許可工作物の維持管理

法等によれば、河川管理者等は、許可工作物の管理者が適切な維持管理を行わないことなどにより河川管理上の支障があると認める場合には、必要な範囲内で監督処分を行うことができるなどとされている。

そして、許可工作物の管理者は、平成25年6月の法等の改正(同年12月施行)により、許可工作物を良好な状態に保つように維持し、修繕し、もって公共の安全が保持されるように努めなければならないことが明確化され、河川法施行規則(昭和40年建設省令第7号)で定める、堤内地の地盤高が計画高水位より低い区間の堤防に設置された樋門等については、1年に1回以上の適切な頻度で点検を行うこととなった。

ウ 許可工作物の構造等

法によれば、許可工作物は、水位、流量、地形、地質その他の河川の状況及び自重、水圧その他の予想される荷重を考慮した安全な構造でなければならないとされており、許可工作物のうち、堰、樋門その他の主要なものの構造等については、河川管理施設等構造令(昭和51年政令第199号。以下「構造令」という。)等に定められている。

エ 河川管理者等が実施する許可工作物の改築等の費用負担等

本来、河川管理者等の工事施行の権限は、河川工事に限られるものであるが、河川工事により許可工作物の改築工事等の必要が生じた場合には、当該河川工事と合わせて実施することができることとなっている(以下、河川工事と合わせて実施する許可工作物の改築工事等を「附帯工事」という。)。

そして、河川管理者等は、附帯工事の実施に当たり、「河川附帯工事の費用負担に関する事務取扱規則」(昭和40年建設省令第20号。以下「取扱規則」という。)において、附帯工事に要する費用、その負担に関する事項等を定めて許可工作物の管理者に通知しなければならないこととなっている。

また、河川管理者等は、附帯工事に要する費用のうち、対象となった許可工作物の従前の機能を保持するために必要な費用を限度として負担することとなっている。このため、管理者等の要望により機能を向上させる場合には、附帯工事に要する費用のうち、当該機能の向上に係る費用(以下「機能向上費用」という。)を許可工作物の管理者に負担させるために、あらかじめ費用の負担について当該工作物の管理者と協定を締結しなければならないこととなっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

河川区域に設置されている工作物には設置されてから長期間が経過しているものもあり、中には許可工作物として設置されていないなどして、河川管理者等が工作物の管理者を把握していない場合がある。そして、このような工作物については、河川管理者等が管理者を把握することにより法等に従い適切に維持管理が行われるなどしたり、附帯工事により改築等を実施するに当たり管理者が把握できない場合であっても構造令等に適合させたりする必要がある。

そこで、本院は、合規性、経済性、有効性等の観点から、附帯工事により改築等を実施した工作物について、管理者が把握され、維持管理が適切に行われているか、構造令等の基準に適合しているか、機能向上費用は適切に負担されているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

検査に当たっては、26道府県等(注)が管理している一級河川の指定区間及び二級河川において、22年度から26年度までの間に実施された附帯工事を含む河川工事544件(工事費計386億7385万余円(国庫補助金等交付額計192億3652万余円)、このうち附帯工事により改築した樋門等594施設に係る工事費相当額計164億7040万余円(国庫補助金等相当額計84億3535万余円))を対象として、上記の26道府県等において、管理者の把握状況及び附帯工事の実施状況について調書等を徴するとともに、河川現況台帳等、許可工作物の申請書及び許可書、契約書、設計書、図面等並びに現地を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

(注)
26道府県等  北海道、京都府、秋田、山形、茨城、群馬、埼玉、千葉、富山、福井、愛知、三重、兵庫、奈良、鳥取、島根、山口、徳島、香川、長崎、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県、千葉、名古屋両市

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)工作物の管理者を把握していないため適切な維持管理を行わせることができない事態

許可工作物については、前記のとおり、法等の改正により、管理者による維持管理の義務が明確化されており、また、河川管理者等においては、許可工作物の維持管理が適切に行われず河川管理上の支障があると認める場合にはその管理者に対して監督処分を行うことができることとなっていることなどを踏まえると、河川管理者等が工作物の管理者に適切な維持管理を行わせるためには、工作物の管理者を把握しておく必要がある。

しかし、10県等は、附帯工事により改築した樋門等計103施設(工事費相当額計2億9477万余円、国庫補助金等相当額計1億5083万余円)について、河川現況台帳等に記載がないことなどにより管理者が把握できないなどとして、取扱規則に基づく通知を行わないまま附帯工事を実施していた。そして、このうち6県等は、前記の河川法施行規則に定められている樋門等に該当する計14施設の管理者を把握していなかったため、これらの施設に河川管理上の支障が生じた場合には、河川管理者等による必要な範囲での監督処分を行うことなどができない状況となっていた(表参照)。

(2)附帯工事により改築した樋門が現行の構造令等の基準に適合していないなどの事態

河川管理者等は、附帯工事を実施する際に、工作物の維持管理が適切に行えるようにしたり、河川管理施設が有効に機能したりするよう、工作物を現行の構造令等の基準に適合させるなどする必要がある。

そして、樋門については、構造令等において、堆積土砂等の排除に支障のない構造とすることとなっており、長さが5m以上、又は堤内地の地盤高が計画高水位よりも低い箇所に設置する場合の内径は、11年に構造令等が改正されるまでは0.6m以上とすることとなっていたが、改正後は1m以上とすることなどとなった。しかし、13府県等は、附帯工事により改築した樋門計74施設(工事費相当額計2億0645万余円、国庫補助金等相当額計9988万余円)について、上記の条件に該当する箇所に設置しているのに、土砂等の堆積が少ないなどと判断したことなどにより、1m未満の内径としていたため、現行の構造令等の基準に適合していない状態となっていた。

また、樋門は、改定解説・河川管理施設等構造令(財団法人国土技術研究センター編)によれば、堤内地の地盤高が計画高水位より低い箇所に設置する際にはゲートを設置して、洪水等により河川の水位が上昇した場合にゲートを全閉することにより流水が堤内地に逆流することを防止する堤防としての機能を有するものとされている。しかし、群馬県は、附帯工事により改築した農業用の排水管渠(きょ)9施設(工事費相当額計4442万余円、国庫補助金等相当額計2221万余円)について、堤内地の地盤高が計画高水位よりも低いことから、ゲートを設置して堤防としての機能を付加させて、樋門として改築する必要があったにもかかわらず、管理者等からの要望によりゲートを設置していなかった。このため、上記の9施設は、洪水時において、堤防と一体となって流水が堤内地に逆流することを防止することができない状況となっていた(表参照)。

(3)附帯工事における機能向上費用の負担が適切でない事態

附帯工事の実施に当たっては、許可工作物の設置当初と比べて周辺の状況等が変化したことなどに伴う許可工作物の管理者や地元からの要望等により、樋門等の内径を大きくしたり、樋門等へごみなどの流入を防止するためのスクリーン等を設置したりするなど、従前より機能を向上させる場合がある。そして、このような場合には、河川管理者等は、許可工作物の管理者に対して機能向上費用の負担を求める必要がある。

しかし、12府県は、附帯工事により改築した樋門等計37施設(工事費相当額計4億3017万余円、国庫補助金等相当額計2億0285万余円)について、管理者を把握しているにもかかわらず、機能向上費用を負担させていなかった。また、6県は、附帯工事により改築した樋門等計29施設(工事費相当額計1億3332万余円、国庫補助金等相当額計6812万余円)について、管理者を把握していないことから附帯工事の通知や、費用負担についての協議を行えず、機能向上費用を負担させることができない状況となっていた。したがって、これらの計66施設に係る機能向上費用は、本来、許可工作物の管理者が負担すべき費用であることから、国庫補助金等の交付対象額から控除すべきであったと認められる(表参照)。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

千葉県は、平成25年度に二級河川作田川水系作田川の河川改修工事の附帯工事として、排水管の改築工事を工事費44,704,080円(国庫補助金等22,352,040円)で実施した。同県は、本件工事の対象とした排水管(内径0.8m)は、作田川と並行する水路からの排水のために設置されていたものであるが、地元からの要望により、水路の流量を排水するのに必要な内径を確保するために、内空断面高さ2.2m、幅1.9mの樋門に改築していた。

しかし、同県は、当該排水管の管理者を把握していなかったため、本来は管理者が負担すべき機能向上費用を負担しており、これを国庫補助金等の交付対象額に含めていた。

表 各事態の府県等別の施設数一覧

(単位:施設)
府県等 (1)工作物の管理者を把握していないため適切な維持管理を行わせることができない事態 (2)附帯工事により改築した樋門が現行の構造令等の基準に適合していないなどの事態 (3)附帯工事における機能向上費用の負担が適切でない事態
  うち河川法施行規則に定められている樋門等に該当するもの 樋門の内径が現行の構造令等の基準に適合していないもの ゲートを設置し樋門として改築する必要があったもの 工作物の管理者を把握していたもの 工作物の管理者を把握していなかったもの
茨城県 1 7 3 1 4
群馬県 9 9 1 1
埼玉県 8 8 2 2
千葉県 32 3 8 5 14 19
富山県 13 1 3 1 3 4
福井県 11 4 5 2 2
愛知県 10 5 5
京都府 5 1 1
兵庫県 4
奈良県 3
鳥取県 7 7 7
島根県 3 1 1
徳島県 3 2
宮崎県 7 1 2 6 8
鹿児島県 1 6 6
沖縄県 21 2 4 6
千葉市 4 3 4
103 14 74 9 37 29 66

(改善及び是正改善を必要とする事態)

府県等が、附帯工事により改築を実施した工作物について、管理者を把握していないことにより適切な維持管理を行わせることができない状況となっている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。また、現行の構造令等の基準に適合させないまま改築を実施するなどしていたり、工作物の機能を向上させた場合の機能向上費用の負担を管理者に求めていなかったりしている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

  • ア 府県等において、附帯工事により改築を実施する工作物について、管理者を把握して適切な維持管理を行わせることについての理解が十分でないこと、主要な許可工作物は構造令等の基準に適合させなければならないことについての理解が十分でないこと及び許可工作物の機能を向上させる場合にはその管理者に対して機能向上費用の負担を適切に求めることとする取扱規則の趣旨についての理解が十分でないこと
  • イ 貴省において、府県等に対し、附帯工事により改築を実施する工作物について、本来の管理者に適切な維持管理を行わせるために、その管理者を把握すること、改築に当たっては現行の構造令等の基準を遵守すること及び機能向上させる場合には取扱規則に基づいてその管理者に機能向上費用の負担を求めることについての周知が十分でないこと

3 本院が表示する意見及び求める是正改善の処置

貴省は、洪水等による災害の発生の防止等を図るために実施する河川工事に伴う附帯工事を今後も補助事業等により実施することになる。

ついては、貴省において、河川工事に伴う附帯工事により改築する工作物の維持管理及び費用負担等が適切なものとなるよう次のとおり意見を表示し是正改善の処置を求める。

  • ア 都道府県等に対して、工作物の適切な維持管理が行われるよう、地方整備局等における許可工作物の管理者の把握方法等について情報提供を行うなどして、工作物の管理者の把握に努めることを周知すること(会計検査院法第36条による意見を表示するもの)
  • イ 都道府県等に対して、改築の際の工作物の構造等の決定に当たり、現行の構造令等の基準を遵守すること、工作物の機能を向上させる場合には、取扱規則に基づいてその管理者に機能向上費用の負担を求めることなどについて周知徹底すること(同法第34条による是正改善の処置を求めるもの)