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  • 平成26年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(4)国とバス事業者等関係者がより緊密に連携することなどにより、地域公共交通確保維持改善事業においてノンステップバスの導入が促進されるとともに、導入されたノンステップバスが既存のバスターミナルの移動等円滑化の促進等により、その特性をいかして有効に活用されるよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省
(項)地域公共交通維持・活性化推進費(平成22年度以前は、(項)地域公共交通維持・活性化推進費、(項)総合的バリアフリー推進費)
東日本大震災復興特別会計
(組織)国土交通本省
(項)住宅・地域公共交通等復興政策費 等
部局等
国土交通本省
補助の根拠
予算補助
補助事業者
(事業主体)
116バス事業者
補助事業
地域公共交通確保維持改善事業(平成22年度以前は地方バス路線運行維持対策事業及び公共交通移動円滑化設備整備事業)
補助事業の概要
地域公共交通の確保、維持及び改善を支援するために、地域の公共交通機関の利便性の向上の促進等を図ることを目的として、ノンステップバス等の導入の経費の一部を補助するもの
検査対象とした車両数及びこれに係る国庫補助金額
3,082両 48億0995万余円(平成22年度~26年度)
導入目標を定めていない補助事業者数及び導入したバスの車両数
17補助事業者 149両
上記149両のバスに係る国庫補助金相当額(1)
4億8836万円(平成22年度~26年度)
ノンステップバス導入の効果が十分発揮できないものとなっているバスターミナルを運営している補助事業者数及び導入したバスの車両数
13補助事業者 466両
上記466両のバスに係る国庫補助金相当額(2)
7億5900万円(平成22年度~26年度)
ノンステップバスの運行情報の提供が十分でなかった補助事業者数及び導入したバスの車両数
55補助事業者 1,152両
上記1,152両のバスに係る国庫補助金相当額(3)
17億1390万円(平成22年度~26年度)
乗務員等に計画的な教育訓練を実施していないなどの補助事業者数及び導入したバスの車両数
42補助事業者 526両
上記526両のバスに係る国庫補助金相当額(4)
9億2005万円(平成22年度~26年度)
(1)から(4)までの純計
85補助事業者 1,715両
28億7111万円(背景金額)

【意見を表示したものの全文】

地域公共交通確保維持改善事業費補助金によるノンステップバスの導入及びその活用の状況について

(平成27年10月29日付け 国土交通大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 地域公共交通確保維持改善事業等の概要

(1)ユニバーサルデザイン政策大綱の概要

貴省は、平成17年7月に、ユニバーサルデザイン政策大綱(以下「政策大綱」という。)を作成して、障害の有無、年齢等にかかわらず、多様な人々が利用しやすいように都市等をデザインするというユニバーサルデザインの考え方を踏まえて、可能な限り全ての人が、自由に社会に参画して、安全で豊かに暮らせるように、連続した移動環境等をハード、ソフトの両面から継続して整備、改善していくという理念に基づき、施策を推進していくとしている。そして、政策大綱では、既存施設について、空間的な制約等から、移動等円滑化が十分でないものがあるが、対応が不十分な施設を利用し続けることは社会全体の移動等円滑化を遅らせる要因となるため、様々な工夫により、既存施設の移動等円滑化を更に進める必要があるとしている。

(2)移動等円滑化の促進に関する基本方針等の概要

政策大綱を踏まえて制定された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号)は、公共交通機関の旅客施設及び車両等並びに道路、建築物等の構造及び設備を改善するための措置等を講ずることにより、移動等円滑化(注1)の促進を図ることを目的としている。貴省は、移動等円滑化を総合的かつ計画的に推進するために、同法に基づき、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(平成23年国土交通省等告示第1号。以下「基本方針」という。)、「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準を定める省令」(平成18年国土交通省令第111号。以下「施設等基準」という。)、「移動等円滑化のために必要な道路の構造に関する基準を定める省令」(平成18年国土交通省令第116号。以下「道路基準」という。)等を定めている。

(注1)
移動等円滑化  高齢者、障害者等の移動又は施設の利用に係る身体の負担を軽減することにより、その移動上又は施設の利用上の利便性及び安全性を向上すること

基本方針は、移動等円滑化が国や地方公共団体のみならず、民間事業者等の協力がなければ促進が図られないことから、国、地方公共団体、高齢者、障害者等、施設設置管理者その他の関係者が互いに連携協力しつつ総合的かつ計画的に推進していくために必要な事項が定められている。そして、移動等円滑化に係る施策のうち、バス事業に関して、前記のユニバーサルデザインの考え方に基づく様々な利用者が乗降しやすい構造となっているノンステップバスについて、32年度末までに普及率を約70%とする移動等円滑化の目標を定めている。

施設設置管理者が講ずべき措置として、ノンステップバスの運行情報等を高齢者、障害者等へ分かりやすく提供する必要があり、さらに、運行情報等を事前に把握できるよう、インターネット等により提供することが望ましいとしている。そして、乗務員等が高齢者、障害者等に適切な対応を行うよう継続的な教育訓練を実施する必要があり、そのため、高齢者、障害者等の意見を反映した対応マニュアルの整備及び計画的な研修の実施等に努めるべきことなどを定めている。

また、導入したノンステップバスがその効用を最大限発揮するために、施設等基準は公共用通路と車両等の乗降口との間に、高齢者、障害者等の円滑な通行に適する経路を乗降場ごとに1経路以上設けなければならないことなどを、道路基準は車椅子使用者がスロープ板を使用してノンステップバスに安全かつ円滑に乗降等ができる停留所の規格等をそれぞれ定めている。

(3)地域公共交通確保維持改善事業の概要

貴省は、地域の特性や実状に最適な移動手段が提供され、また、移動等円滑化やより制約の少ないシステムの導入等移動に当たっての様々な障害の解消等がされるよう、地域公共交通の確保、維持及び改善を支援するために、バス事業者等に対して地域公共交通確保維持改善事業費補助金を交付している。この補助金には、地域公共交通確保維持改善事業費補助金交付要綱(平成23年国総計第97号ほか。以下「要綱」という。)によれば、車両減価償却費等国庫補助金(22年度はバス運行対策費車両減価償却費等国庫補助金)及びバリアフリー化設備等整備事業に係る補助金(22年度以前は公共交通移動円滑化設備整備費補助金。以下、これらを合わせて「両補助金」という。)等がある。

このうち、車両減価償却費等国庫補助金は、バス事業者に対して、利用者の利便性の向上等のために、地上面から床面までの高さがおおむね30㎝以下で、乗降口に階段がなく、高齢者、障害者等がバスの乗降口からバス内部へ円滑に移動できるノンステップバスの導入に要する経費を補助するほか、地上面から床面までの高さが65㎝以下と従来のバス車両よりは低床化されているワンステップバス導入に要する経費も補助するものである。ワンステップバスは乗降口の段差が完全には解消されていないものの、現状、ノンステップバスより比較的低価格なものがあることや運行路線の勾配、起伏等に対応する必要性も考えられることなどから、補助の対象とされている。また、バリアフリー化設備等整備事業に係る補助金は、公共交通機関における高齢者、障害者等の移動に係る利便性及び安全性の向上の促進等を図ることを目的として、ノンステップバスの導入に要する経費を補助するものである。

要綱によれば、地域公共交通確保維持改善事業の実施に当たっては、都道府県、市区町村、交通事業者、地方運輸局等、地域の多様な関係者から成る協議会(以下「協議会」という。)を組織することとされている。そして、地域の生活交通の実情のニーズを的確に把握して、協議会での議論を経て、移動に当たっての様々な障害の解消等を図る取組についての計画(以下「交通計画」という。)を協議会、都道府県又は市区町村が策定することとされ、バス事業者のバス車両の導入の目的、目標、効果等を定めることとされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

本院は、鉄道駅の移動等円滑化及び高齢者、障害者等が利用する施設と道路等の移動等円滑化の状況について、平成22年度決算検査報告に「鉄道駅等の移動等円滑化に当たり、補助金により整備される移動等円滑化設備が円滑化基準に適合するなどして適切に整備されるとともに、整備の効果が十分に発現するよう改善の処置を要求したもの」及び「移動等円滑化に係る事業の実施に当たり、移動等円滑化の一体的推進等が適切に行われ、事業が計画的かつ効果的に実施されるよう改善の処置を要求し、踏切道等における事業が適切に実施されるよう是正改善の処置を求めたもの」を掲記している。

そこで、本院は、有効性等の観点から、地域公共交通の確保、維持及び改善のために、鉄道駅から高齢者、障害者等が利用する施設までの主な移動手段として、両補助金で導入されたノンステップバス及びワンステップバスについて、その導入の効果が当該地域で発現するよう協議会において適切に検討が行われ、バス事業者において車両減価償却費等国庫補助金によるノンステップバスの導入が目標を定めて計画的に行われているか、両補助金により導入されたノンステップバスが経由するバスターミナルにおいて移動等円滑化が確保されているか、移動等円滑化促進のための運行情報の提供及び教育訓練は適切に行われているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

22年度から26年度までの間に、6地方運輸局等(注2)の管内に所在する両補助金のいずれか又は両方の交付を受けた116バス事業者(以下「補助事業者」という。)が運行している、車両減価償却費等国庫補助金により導入されたノンステップバス304両及びワンステップバス153両(計457両、国庫補助金計17億9655万余円)並びにバリアフリー化設備等整備事業に係る補助金により導入されたノンステップバス2,625両(国庫補助金計30億1339万余円)の計3,082両(国庫補助金計48億0995万余円)を対象として、65補助事業者において事業完了実績報告書等の関係書類により会計実地検査を行うとともに、51補助事業者から関係書類の提出を受けるなどして検査した。

(注2)
6地方運輸局等  東北、関東、近畿、中国、四国各運輸局、沖縄総合事務局

(検査の結果)

移動等円滑化は、前記のとおり、総合的かつ計画的に推進する必要があり、基本方針等の趣旨を踏まえた様々な事業が展開されている。地域公共交通確保維持改善事業においても、ノンステップバスの導入を推進することとしており、導入に当たって、両補助金の交付を受けようとする場合は、要綱に基づき、協議会等が導入の目標等を定めた交通計画を策定することとなっている。

そして、策定された交通計画に沿って、22年度から26年度までの間に両補助金で導入されたノンステップバスは2,929両に及んでおり、これらのノンステップバスは運行されることにより、導入された地域の移動等円滑化に寄与するものとなっている。

そこで、基本方針等の移動等円滑化の施策の趣旨を踏まえ、地域公共交通確保維持改善事業によるノンステップバスの導入状況や高齢者、障害者等に対する補助事業者の取組の状況等について検査したところ、次のような状況となっていた。

(1)ノンステップバス等の導入状況

車両減価償却費等国庫補助金の交付を受けた53補助事業者では、前記のとおりノンステップバス304両のほかワンステップバスを153両導入していた。このうち34補助事業者はノンステップバスのみを260両導入していたが、19補助事業者は、ワンステップバス153両(国庫補助金相当額4億9405万余円)を含めて導入していた。

しかし、前記のとおり、基本方針において国やバス事業者を含めた関係者が互いに連携協力しつつ移動等円滑化を総合的かつ計画的に推進していくこととしているが、19補助事業者のうち、17補助事業者(ワンステップバスの導入車両数149両、国庫補助金相当額4億8836万余円)が交通計画において目標としていたのは、同補助金により導入するノンステップバス及びワンステップバスの車両数のみであって、基本方針の趣旨を踏まえ、補助事業者が保有するバス全体に占めるノンステップバスの割合を考慮した導入目標等を定めていないなどの状況となっていた。

(2)バスターミナルの移動等円滑化の状況

両補助金によりノンステップバスを導入した107補助事業者のうち、14補助事業者は、自らが整備して運営しているバスターミナル21か所を経由する路線でノンステップバスを運行している。

しかし、前記のとおり、政策大綱において、既存施設の移動等円滑化については、様々な工夫により、移動等円滑化を進める必要があるとしているが、13補助事業者に係る19か所のバスターミナルにおいては、のとおり、乗降場等の誘導ブロックが一部未整備となっていたり、車道と乗降場との間に必要な高さが確保されていなかったり、乗降場から公共用通路までの経路に段差があったりなどしている中、既存施設の移動等円滑化が進展していなかった。このため、高齢者、障害者等の安全かつ円滑な移動が確保されておらず、前記の13補助事業者が両補助金により導入したノンステップバス466両(国庫補助金相当額計7億5900万余円)について、その特性をいかした導入の効果が十分発現していない状況となっていた。

表 高齢者、障害者等の安全かつ円滑な移動が確保されていないバスターミナル

事態 バスターミナル数 補助事業者数
乗降場等の誘導ブロックが一部整備されていない事態 14か所 11者
車道と同一となっていて、乗降場の高さが確保されていない事態 5か所 4者
乗降場から公共用通路までの経路の段差が解消されていない事態 3か所 3者
乗降場に進入防止柵がないため、安全性が確保されていない事態 8か所 6者
乗降場から公共用通路までの経路の幅140cmが確保されていない事態 3か所 3者
乗降場から公共用通路までの経路上の待合室等のドアの幅80㎝が確保されていない事態 1か所 1者
19か所 13者
注(1)
複数の事態に該当しているバスターミナル及び補助事業者があるため、バスターミナル数及び補助事業者数を合計しても計とは一致しない。
注(2)
経路の幅140cm及びドアの幅80cmは施設等基準に定める基準値である。

(3)高齢者、障害者等に対する補助事業者の取組の状況

両補助金によりノンステップバスを導入した107補助事業者のうち55補助事業者(導入車両数1,152両、国庫補助金相当額17億1390万余円)は、停留所でノンステップバスの運行情報を表示しておらず、インターネット等による情報提供も行っていなかった。

また、前記107補助事業者のうち、42補助事業者(導入車両数526両、国庫補助金相当額9億2005万余円)は、教育訓練の一環として、車椅子使用者が乗降車する際のスロープ板及び車椅子固定装置の操作要領や、ノンステップバスへの乗車の際に高齢者、障害者等が歩道上の停留所から車道に一度降りた後に、バスの乗降口に上ることにならないように停留所との間に間隔を空けずに停車することなどについて、高齢者、障害者等への対応マニュアルを整備しておらず、乗務員等に対する計画的な研修も実施していなかった。

このとおり、補助事業者において、高齢者、障害者等へ運行情報を適切に提供していなかったり、乗務員等に対して教育訓練を実施していなかったりしていて、高齢者、障害者等に対する補助事業者の取組が十分ではない状況となっていた。

(4)交通計画の策定状況

交通計画の策定状況についてみると、車両減価償却費等国庫補助金に係る交通計画を策定した25協議会等及びバリアフリー化設備等整備事業に係る補助金の交通計画を策定した60協議会等の計85協議会等(このうち5協議会等は両補助金の両方に係る交通計画を策定している。)では、23年度から26年度までの間に、交通計画を238計画策定している。

そして、交通計画の策定に当たっては、協議会での議論を経ることとなっているが、85協議会等のうち20協議会等が策定した55計画全てにおいて、実際には一度も協議会で議論されることなく、補助事業者の窓口担当者等が作成した計画案を関係者に書面で回付して、これを交通計画としたものであり、協議会が十分機能していない状況となっていた。

(改善を必要とする事態)

補助事業者がノンステップバスの導入目標を定めていなかったり、高齢者、障害者等の安全かつ円滑な移動が確保されていなかったり、高齢者、障害者等に対する補助事業者の取組が十分ではなかったり、交通計画の策定に際して協議会が十分機能していなかったりしている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のようなことなどによると認められる。

  • ア 補助事業者において、基本方針で定めているノンステップバスの普及率の目標についての理解が十分でなく、計画的な導入を行うことについての検討が十分でないこと
  • イ 補助事業者において、移動等円滑化のため、バスターミナルについて、施設等基準及び道路基準に沿った整備及び運用の重要性や必要な対策等の検討を行うことに対する理解が十分でないこと
  • ウ 補助事業者において、運行情報の提供や乗務員等に対する教育訓練の実施等、高齢者、障害者等のための取組に対する理解が十分でないこと
  • エ 貴省において、要綱等に基づき、補助事業の実施に当たっては、協議会での議論を経て交通計画を策定することとなっているものの、その開催方法等が明確になっていないなど、協議会が十分機能するような検討がなされていないこと

3 本院が表示する意見

貴省は、今後も引き続きユニバーサルデザインの考え方に基づく様々な施策を展開していくこととしている。そして、地域公共交通の確保、維持及び改善のために、今後も引き続き両補助金によりノンステップバスの導入の促進を図ることとしている。

ついては、貴省において、基本方針で定めたノンステップバスの普及率の目標が達成されるよう、国とバス事業者等関係者の連携をより緊密にして、ノンステップバスの導入が促進され、また、両補助金により導入したノンステップバスがその特性をいかして有効に活用されるよう、次のとおり意見を表示する。

  • ア 補助事業者に対して、移動等円滑化が国や地方公共団体のみならず、バス事業者を含めた民間事業者等の協力がなければ促進が図られないという基本方針の趣旨を踏まえて、基本方針に定められているノンステップバスの普及率の目標を考慮して各年度の導入目標を定めるなどの具体的な取組を行うことの重要性について周知徹底すること
  • イ 補助事業者に対して、移動等円滑化が十分でない既存施設を利用し続けることは社会全体の移動等円滑化を遅らせる要因となるため、様々な工夫により、その移動等円滑化を更に進める必要があるという政策大綱の趣旨を踏まえて、ノンステップバスが発着する既存のバスターミナルの移動等円滑化の必要性について周知徹底すること
  • ウ 補助事業者に対して、基本方針等の趣旨を踏まえて、分かりやすい運行情報の提供や乗務員等に対する教育訓練の実施等、高齢者、障害者等のための取組の必要性について周知徹底すること
  • エ 協議会の開催方法等をより明確にするなど、基本方針の趣旨を踏まえた協議会の在り方について、協議会、地方運輸局等に対して、周知徹底すること