【改善の処置を要求したものの全文】
住民参加型まちづくりファンド支援事業の実施について
(平成27年10月29日付け 国土交通大臣
一般財団法人民間都市開発推進機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
国土交通省は、都市再生推進事業制度要綱(平成12年建設省経宅発第37―2号、建設省都計発第35―2号、建設省住街発第23号建設省建設経済局長、都市局長、住宅局長通知)等に基づき、地域の資金を地縁により調達し、これを景観形成・観光振興等のまちづくりへ誘導するなどのために、平成17年度から、一般財団法人民間都市開発推進機構(25年3月31日以前は財団法人民間都市開発推進機構。以下「民都機構」という。)が行う住民参加型まちづくりファンド支援事業(以下「支援事業」という。)に対して、補助金を交付している。
支援事業は、公益信託(注1)、公益法人、非営利法人、地方公共団体が設置する基金等(以下、これらを合わせて「まちづくりファンド」という。)に対して地方公共団体、住民、企業等が資金の拠出等を行う場合、上記の補助金の交付を受けた民都機構がまちづくりファンドに対して資金(以下、この資金を「民都資金」といい、拠出後の民都資金には運用益を含む。)を拠出して支援を行うものである(以下、民都資金の拠出を受けてまちづくりファンドを運営する者を「民都資金受領者」という。)。
民都資金は、まちづくりファンドから、住民等が実施する公共公益施設整備等の都市開発事業等への助成等に充てられることとなっている(以下、助成により住民等が実施する都市開発事業等を「まちづくり事業」という。図参照)。
民都機構は、住民参加型まちづくりファンド支援事業実施要領(平成18年要領第7号)等(以下「要領等」という。)を定め支援事業を実施している。
要領等によれば、民都資金の拠出を受けようとする者は資金拠出申請書を民都機構に提出し、民都機構はこれを住民参加型まちづくりファンド選定委員会へ付議し、当該まちづくりファンドが行う助成がまちの魅力づくりなどに寄与するものであるかなどについての審査を経て、支援の対象とするまちづくりファンドを選定することとされている。民都機構は、民都資金を拠出するまちづくりファンドを選定した場合、民都資金受領者との間で民都資金に関する契約を締結し、この契約に基づき、民都資金を拠出することとされている。
そして、民都機構は、17年度から26年度までの間に、国土交通省から計35億2960万円の補助金の交付を受け、民都資金として同額を計116ファンドに対し拠出している。
要領等によれば、まちづくり事業の対象は、景観形成、まちの魅力向上、観光振興等の良好なまちづくりに資する施設等の新設、改修、保全等とされている(以下、まちづくり事業で整備された施設等を「助成施設等」という。)。そして、民都資金受領者は、まちづくり事業の選定に当たり、審査委員会を設置して、その審査を経るものとされ、公益性等の観点からまちの魅力づくりや活性化等に寄与することができるものを選定することが望ましいとされている。
「補助金等の交付により造成した基金等に関する基準」(平成18年8月閣議決定。以下「基金基準」という。)において、補助金等の交付により造成した基金を保有する法人が当該基金により実施している事業に関し、補助金等を交付した府省(以下「所管府省」という。)が補助金交付要綱等に基づく指導監督を行う場合の基準が定められている。そして、基金基準によれば、上記の基金を保有する法人は、少なくとも5年に1回は定期的に基金の見直しを行い、直近3年以上事業実績がないなどの使用見込みの低い基金については、基金の財源となっている国からの補助金等の国庫への返納等、その基金の取扱いを検討することなどとされている。
また、国以外の者を経由して間接的に国の補助金等の交付を受けて設置造成されている基金(以下「間接補助基金」という。)についても同様の見直しが行われるよう、所管府省は補助金等を経由させた法人に対して要請を行うこととされている。
そして、民都資金の拠出を受けているまちづくりファンドは、基金基準上の間接補助基金には該当しないものであるが、民都資金が国の補助金を財源とした資金であることから、基金基準の趣旨を踏まえて間接補助基金と同様に取り扱われる必要がある。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、まちづくりファンドにおいて、民都資金は使用見込みの見直しが行われるなどして適切に使用されているか、助成施設等は整備後に有効に利活用されているかなどに着眼して、民都機構が17年度から26年度までの間に民都資金を拠出した116ファンドのうち、97ファンドに拠出した民都資金29億4560万円を対象として、国土交通省、民都機構及び88民都資金受領者(注2)において、機構拠出金活用状況報告書、収支状況報告書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、公益信託の受託者である7民都資金受領者(注3)において、上記と同様の方法により実地に調査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記97ファンドのうち、26年度末において民都資金の残高があるまちづくりファンドは57ファンドとなっており、これらのまちづくりファンドに拠出された民都資金は計17億8800万円、残高は表1のとおり、計9億4100万余円となっている。そして、57ファンドのうち30ファンドは、民都資金が拠出されてから5年以上経過しているが、民都資金の使用見込みの見直しなどを行っていなかった。
このうち、8ファンドにおいては、直近3年以上にわたり、まちづくり事業への助成が全く行われておらず、拠出された民都資金計2億6600万円のうち、表1のとおり、計8635万余円が使用されていなかった。
上記の8ファンドは、基金基準における5年に1回の定期的な基金の見直しが行われたとした場合、直近3年以上助成が行われていないことから、使用見込みの低い基金に該当すると認められる。
また、前記57ファンドのうち3ファンドについては、民都資金が拠出されてから基金基準で定期的な基金の見直しが必要とされる5年を経過していないものの、表1のとおり、拠出された民都資金計3240万余円が3年以上まちづくり事業への助成に全く使用されていなかった。
区分 | まちづくりファンド数 | 民都資金の残高 | ||
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平成26年度末に民都資金の残高があるまちづくりファンド | 57ファンド | 9億4100万余円 | ||
うち民都資金が拠出されてから5年以上経過しているまちづくりファンド | 30ファンド | 3億7699万余円 | ||
うち3年以上にわたり民都資金が使用されていないまちづくりファンド(A) (まちづくりファンドの名称) |
8ファンド | 8635万余円 | ||
(銚子市協働のまちづくり推進基金) (茅野市パートナーシップのまちづくり基金) (大口町ふるさとづくり基金) (宮津市まちづくり基金) (東大阪市ふるさと創生基金) (五條市新町地区まちづくり拠点ファンド) (小値賀町振興基金) (公益信託那覇市NPO活動支援基金) |
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うち民都資金が拠出されてから5年経過していないが、3年以上使用されていないまちづくりファンド(B) (まちづくりファンドの名称) |
3ファンド | 3240万余円 | ||
(水の郷きもべつまちづくり振興基金) (大野城市まちづくりパートナー基金) (本部町ちゅらまちづくり応援基金) |
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(A)と(B)の計 | 11ファンド | 1億1876万余円 |
国土交通省は、民都機構に対し、まちづくりファンドに拠出した民都資金が長期にわたり使用されないことがないよう、積極的な助成の推進について要請を行っていたが、まちづくりファンドにおける民都資金の活用状況の把握が十分でなく、基金基準の趣旨を踏まえて民都資金の使用見込みの見直しなどを行うことについては、明確に要請を行っていなかった。そして、民都機構は、民都資金の使用見込みの定期的な見直しなどについて要領等に定めていなかった。
<事例1>
長崎県北松浦郡小値賀町は、平成20年度に、街並み景観保全と空き古民家建造物の再生10件(民都資金使用見込額4500万円)、国際交流事業の促進5件(同300万円)及び新たな物産開発の拠点整備1件(同200万円)に対して助成を行うとして、同町が設置した小値賀町振興基金に民都資金5000万円の拠出を受けている。しかし、これらの事業のうち、22年度に、空き古民家建造物の再生2件(事業費計3802万余円)に対して助成を行い、民都資金2000万円を使用したものの、その他14件については、他の補助事業等を活用したなどのため、まちづくりファンドからの助成が全く行われず、民都資金は、直近4年以上にわたり全く使用されることなく、26年度末の残高は3010万余円となっていた。そして、同基金は、民都資金の拠出を受けてから5年以上経過しているが、同町は、民都資金の使用見込みの見直しを行っていなかった。
26年度までに助成が行われた92ファンドの1,039事業における助成施設等の利活用の状況についてみたところ、表2のとおり、10ファンドの10事業(事業費計3028万余円)において、助成施設等が継続的に維持管理されずに撤去されていたり、遊休していたりなどしていて、有効に利活用されていなかった。そして、これらの助成施設等に係る民都資金相当額は計2097万余円となっていた。これらのまちづくり事業の中には、民都資金受領者において、まちづくり事業の選定における審査基準の中に、助成施設等を継続的に利活用できるかなどの観点を明確に示しておらず、まちづくり事業の選定の審査が継続性の観点から十分に行われていないものなどが見受けられた。
表2 助成施設等が継続的に維持管理されずに撤去等されているまちづくりファンド
まちづくりファンド数 (まちづくりファンドの名称) |
助成施設等が撤去されていたり遊休していたりなどするまちづくり事業 | 左のまちづくり事業の事業費 | |
---|---|---|---|
左のうち撤去等された助成施設等に係る民都資金相当額 | |||
10ファンド | 10事業 | 3028万余円 | 2097万余円 |
(ぎふ景観まちづくりファンド) (高山JCまちづくり基金) (財団法人名古屋市みどりの協会) (財団法人名古屋都市センター) (岸和田市歴史的町並み保全基金) (東広島市地域振興基金) (公益信託こうちNPO地域社会づくりファンド) (福岡市NPO活動支援基金) (佐賀市ふるさとづくり基金) (公益信託那覇市NPO活動支援基金) |
<事例2>
公益社団法人高山青年会議所は、平成20年度に、同青年会議所が設置した高山JCまちづくり基金に民都資金500万円の拠出を受け、24年度に、育児の情報交換ができるなどの場を提供する市民が運営する団体Aに対し、Aが提供している施設の老朽化に伴う改装等に要する費用328万余円の一部の助成を行うとして、民都資金160万円を使用している。そして、Aは、同施設の運営が困難となり、27年2月をもって同施設を閉鎖していた。
同青年会議所が設置した審査会では、まちづくり事業を選定する際の審査において、不特定多数の市民の参加が可能な事業であるかなどの観点からは審査されていたが、利用者の需要やAの運営体制は同施設を継続的に利活用できるものかなどの観点からは十分に審査されていなかった。
(改善を必要とする事態)
まちづくりファンドにおいて、民都資金が使用見込みの見直しなどが行われず長期にわたり使用されていなかったり、助成施設等が継続的に維持管理されずに撤去等され有効に利活用されていなかったりなどしている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、民都資金受領者において、助成の適切な実施についての理解が十分でないことにもよるが、主として国土交通省及び民都機構において次のことなどによると認められる。
まちづくりファンドを活用して住民等による自発的なまちづくり事業を推進し、住民参加型のまちづくりの促進を図るために、引き続き、国土交通省は支援事業に対して補助金を交付して、民都機構は支援事業を実施することが見込まれる。
ついては、国土交通省及び民都機構において、まちづくりファンドの民都資金の有効な活用が図られるよう、次のとおり改善の処置を要求する。