【改善の処置を要求したものの全文】
空港施設の維持管理について
(平成27年10月19日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、航空法(昭和27年法律第231号)等に基づき、平成26年度末現在、国際航空輸送網又は国内航空輸送網の拠点となる20空港(注1)(以下「国管理空港」という。)において、航空機の離着陸に必要な滑走路、着陸帯、誘導路等から構成される空港基本施設及び空港機能を確保する上で必要な場周柵、排水施設等の土木施設(以下、これらを合わせて「空港土木施設」という。)、電波により航空機の航行を援助する航空保安無線施設等の無線関係施設及び灯光により航空機の航行を援助する航空灯火その他航空保安上必要な灯火(以下「航空灯火施設」という。)を管理している(以下、空港土木施設、無線関係施設及び航空灯火施設を合わせて「空港施設」という。)。
また、貴省は、防衛省等が管理する飛行場、新関西国際空港株式会社等の会社が管理する空港及び地方公共団体が管理する空港に設置されている空港施設の一部並びに空港の場外に設置されている空港施設についても管理している。
そして、空港等に設置された空港事務所等は、航空法の規定に基づき、空港保安管理規程を定めるなどして空港施設を管理している(以下、空港保安管理規程等に基づいた空港施設の機能を維持するための管理を「維持管理」という。)。
貴省は、空港土木施設の維持管理については、空港事務所が空港保安管理規程を定める際に適用する標準的な事項を示した「空港内の施設の維持管理指針」(平成25年9月国土交通省航空局制定。同年9月以前は「空港土木施設管理規程」(平成15年12月国土交通省航空局制定)。以下「維持管理指針」という。)を定め、航空機の運航の安定性等を確保することとしている。
そして、空港事務所は、空港土木施設の維持管理に当たり、維持管理指針に基づき長期的な視点に立った維持管理・更新計画(以下「維持管理計画」という。)を定め、これに基づき維持管理を実施している。
また、貴省は、無線関係施設又は航空灯火施設の維持管理については、航空機の航行の安全を確保することを目的として、「管制技術業務処理規程」(昭和42年3月運輸省航空局制定)等(以下「管技規程等」という。)又は「航空灯火電気施設業務処理規程」(昭和42年3月運輸省航空局制定)等(以下「灯火規程等」という。)を定め、空港事務所等は、これに基づき維持管理を実施している。
貴省は、維持管理指針において、空港土木施設の維持管理のためには各施設の設計等に関する情報が必要であり、これらの情報を常に最新の状態で保存し、維持管理に活用することが重要であるとしている。そして、空港事務所においては、各施設の配置図、構造図等の図面情報や数量等を記載した空港土木施設台帳を整備することとしている。
また、貴省は、管技規程等又は灯火規程等に基づき、空港事務所等が無線関係施設又は航空灯火施設の情報を記載した施設原簿を整備することとしている。
貴省は、維持管理指針において、空港土木施設に求められる機能を維持するために、施設の異常の有無等を日常的に把握する巡回点検、滑走路等の施設の異常の程度や状態等を確認して評価する定期点検等を行うこととしている。そして、空港事務所は、維持管理計画に基づきこれらの点検を実施している。
また、貴省は、管技規程等又は灯火規程等に基づき、空港事務所等が無線関係施設の障害の発生を未然に防止するために必要な点検を実施したり、航空灯火施設の機能の低下を防ぎ、事故を未然に防止し、運転の万全を期するために必要な点検を実施したりして、空港施設の機能を維持することとしている(以下、無線関係施設に関する点検を「無線点検」、航空灯火施設に関する点検を「灯火点検」という。)。
空港事務所は、イの空港土木施設に関する点検結果を踏まえて、維持管理計画に定めている修繕基準に基づき修繕等を行うことなどにより、空港土木施設の機能を維持し、安全を確保することとしている。
また、空港事務所等は、イの無線関係施設及び航空灯火施設に関する点検結果を踏まえて修繕等を行うことなどにより、無線関係施設の機器や設備の機能を維持したり、航空灯火施設を正常な状態に保持したりすることとしている。
(検査の観点及び着眼点)
本院は、合規性、有効性等の観点から、空港施設の台帳等が適切に整備されているか、点検が適切に実施されているか、点検結果が修繕等に活用されているかなどに着眼して検査した。
(検査の対象及び方法)
検査に当たっては、貴省が国管理空港等に設置している空港施設2,198施設(国有財産台帳価格計7597億7291万余円)(空港土木施設558施設(同計7524億6542万余円)、無線関係施設465施設(同計53億7530万余円)、航空灯火施設1,175施設(同計19億3218万余円))を対象として、27空港事務所等(注2)において点検報告書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行うとともに、26空港事務所等(注3)から関係書類の提出を受けるなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
1(2)アのとおり、空港事務所は、維持管理指針に基づき、空港土木施設の維持管理のために、各施設の図面情報や数量等を記載した空港土木施設台帳を整備することとなっている。
しかし、15空港事務所が管理する15空港等の26施設(国有財産台帳価格計16億5408万余円)においては、施設の全て又は一部の図面情報等が空港土木施設台帳に記載されておらず、維持管理に十分に活用できるように空港土木施設台帳が適切に整備されていなかった(後記の表の(1)参照)。
<事例1>
熊本空港事務所は、維持管理指針に基づいて熊本空港土木施設台帳を整備していた。しかし、平成27年4月の会計実地検査で確認したところ、同台帳には、空港の制限区域内に設置されていて雨水を排水するための水路に設けられた水門(国有財産台帳価格1円)の全ての図面情報が記載されておらず、維持管理に十分に活用できるように空港土木施設台帳が適切に整備されていなかった。また、水門は全体的に腐食が進行していて、開閉機操作台に穴が開いているなどの状況となっていた。
1(2)イのとおり、空港事務所は、維持管理計画に基づき、空港土木施設の異常の有無等を日常的に把握するために巡回点検を実施することとなっている。
しかし、各空港等の維持管理計画において、場周柵、門扉等の巡回点検の点検項目が具体的に定められていなかったため、巡回点検が適切に実施されておらず4空港事務所が管理する4空港の4施設においては、場周柵等が劣化して損傷した状況となっていた部分(国有財産台帳価格計101万余円)があるにもかかわらず、当該状況が適切に把握されていなかった(後記の表の(2)ア参照)。
貴省は、管技規程等又は灯火規程等において、無線関係施設又は航空灯火施設ごとに点検周期、点検項目、点検方法等の点検内容を定めている。そして、無線関係施設又は航空灯火施設を維持管理する空港事務所等は、管技規程等で定められた点検内容に従って無線点検又は灯火点検を実施している。
無線関係施設は主に、送受信装置、通信制御装置、電源設備、アンテナ、アンテナを取り付けるための鉄塔等で構成されていて、航空灯火施設は主に、灯器、電源設備、灯柱等で構成されている。貴省は、無線関係施設のうち送受信装置等の機器や設備については管技規程等において、灯柱に灯器が取り付けられている航空灯火施設のうち灯器等の機器や設備については灯火規程等において、点検内容を具体的に定めており、空港事務所等は当該箇所について無線点検又は灯火点検を実施していた。
しかし、鉄塔については管技規程等で無線点検の対象としていないことや点検項目を定めていないこと、灯柱については灯火規程等で灯火点検の対象として明確にしていないことや点検項目も明確に定めていないことから、維持管理を適切に行っていない空港事務所等があり、鉄塔がある無線関係施設465施設のうち15空港事務所等が管理する32施設の鉄塔(国有財産台帳価格計4億9245万余円)及び灯柱がある航空灯火施設1,175施設のうち11空港事務所が管理する11空港等における41施設(同計1871万余円)の灯柱では、錆が生じていて、中には板厚減少まで進行しているものがあるなど、劣化や損傷が発生している状況になっていた(後記の表の(2)イ参照)。
<事例2>
新潟空港事務所は、航空機と直接交信するために鉄塔にアンテナを設置した対空通信施設を管理しており、アンテナについては無線点検を実施している。しかし、鉄塔(国有財産台帳価格計328万余円)については無線点検の対象となっていないことから、平成26年11月に会計実地検査で現地を確認したところ、鉄塔の主柱等の鋼管部材に板厚減少を伴う腐食が見られた。そして、同事務所が、27年1月に高所作業車を使うなどして鉄塔を詳細に点検したところ、鋼管部材を貫通する穴が複数開いている状況となっていた。
貴省は、航空機の離着陸のために設けられている滑走路、航空機が離着陸の際に滑走路から逸脱した場合の航空機の安全の確保及び被害の軽減のために設けられている着陸帯並びに滑走路と駐機場等を結ぶために設けられている誘導路の横断勾配等について、航空法施行規則(昭和27年運輸省令第56号)第92条の規定に基づき、航空機の安全かつ効率的な離着陸、走行等のために、最大横断勾配の基準値(1.5%から5%まで)に適合するように維持管理することなどとしている。
空港事務所は、維持管理計画において、滑走路等の横断勾配等が当該基準値に適合しているかを確認するために、定期点検で滑走路面等の横断勾配等の測定を実施して、測定された勾配の値が基準値を超過している場合には、勾配値が基準値以内となるよう修繕を行うこととなっている。
しかし、4空港事務所が管理する4空港の5施設においては、横断勾配の定期点検の結果、測定値が修繕を必要とする基準値を超過している箇所(国有財産台帳価格計2億1842万余円)があることを把握していたにもかかわらず、横断勾配を是正するための適切な修繕を行っておらず、修繕の予定も立てていなかった(後記の表の(3)ア参照)。
<事例3>
釧路空港事務所は、釧路空港の維持管理計画に基づき、滑走路等の横断勾配の定期点検を平成26年1月に実施している。このうち、着陸帯の横断勾配についてみたところ、修繕を必要とする基準値2.50%に対して測定値の最大が3.10%であるなど、5か所(国有財産台帳価格計1億5385万余円)で測定値が基準値を超過している状況であった。そこで、前回実施した20年10月の点検結果をみたところ、その5か所とも測定値が基準値を超過している状況であったにもかかわらず、いずれの定期点検後も勾配是正の修繕を行っておらず、修繕の予定も立てていなかった。
貴省は、維持管理指針において、航空機の着陸時における滑走路面とタイヤとの間の摩擦によりゴムが滑走路に付着することなどによって、滑走路の滑り摩擦係数(注4)が低下し、基準値以下となった場合には、ゴム除去等の措置の検討を行うこととしている。
空港事務所は、維持管理計画において、滑走路の滑り摩擦係数の定期点検を実施し、測定された滑り摩擦係数の値が基準値以下となった場合には、ゴム除去等の措置を講ずるなどの滑り摩擦係数が基準値を上回るための措置を行うこととしている。
しかし、7空港事務所が管理する7空港の7施設においては、滑り摩擦係数の定期点検の結果、測定値が基準値以下となっている部分(国有財産台帳価格計1億5930万余円)があることを把握していたにもかかわらず、ゴム除去等の適切な措置を講じていなかった(後記の表の(3)イ参照)。
<事例4>
東京空港事務所は、東京国際空港の維持管理計画に基づき、東京国際空港のD滑走路の滑り摩擦係数の測定を平成24年9月に実施している。測定結果は、測定値が最も低いところでゴム除去等の措置を行うこととしている基準値0.44以下の0.33となっていた部分(国有財産台帳価格8070万余円)があった。しかし、同事務所は、ゴム除去等の措置を行っておらず、その後、25年8月に再度測定したところ、滑り摩擦係数が0.20にまで更に低下しており、同年11月から12月にかけてゴム除去を実施するまでの約15か月間、基準値を大きく下回っている状況となっていた。
表 (1)、(2)、(3)の各事態の空港事務所等、空港施設数及び当該国有財産台帳価格一覧
検査の結果 | 空港事務所等数 | 空港事務所等名 | 維持管理が適切に実施されていなかった空港施設数 | 国有財産台帳価格 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
施設の区分 | 事態 | ||||||
(1)台帳の整備状況 | 空港土木施設 | 空港土木施設台帳が適切に整備されていなかった事態 | 15 | 新千歳、丘珠、函館、仙台、東京、広島、岩国、高松、松山、福岡、長崎、熊本、大分、鹿児島、那覇各空港事務所 | 26 | 16億5408万円 | |
(2)点検の実施状況 | ア | 空港土木施設 | 空港土木施設の巡回点検において劣化して損傷した状況が適切に把握されていなかった事態 | 4 | 新千歳、新潟、高松、那覇各空港事務所 | 4 | 101万円 |
イ | 無線関係施設 | 無線関係施設に劣化や損傷が発生している状況になっていた事態 | 15 | 新千歳、函館、仙台、東京、新潟、中部、大阪、大分、宮崎、鹿児島、那覇各空港事務所、旭川、中標津両空港出張所、秋田、福江両空港・航空路監視レーダー事務所 | 32 | 4億9245万円 | |
航空灯火施設 | 航空灯火施設に劣化や損傷が発生している状況になっていた事態 | 11 | 新千歳、函館、仙台、小松、松山、福岡、北九州、長崎、熊本、鹿児島、那覇各空港事務所 | 41 | 1871万円 | ||
(3)修繕等の実施状況 | ア | 空港土木施設 | 滑走路、着陸帯及び誘導路の横断勾配の定期点検の結果を踏まえて適切に修繕を行っていなかった事態 | 4 | 釧路、函館、東京、鹿児島各空港事務所 | 5 | 2億1842万円 |
イ | 空港土木施設 | 滑走路の滑り摩擦係数の定期点検の結果を踏まえて適切な措置を講じていなかった事態 | 7 | 釧路、函館、仙台、東京、高松、熊本、長崎各空港事務所 | 7 | 1億5930万円 | |
計 | 26 | 114 | 25億4399万円 |
(改善を必要とする事態)
空港土木施設台帳に施設の図面情報等を記載していない事態、空港施設の点検において点検項目を具体的に定めていないなどの事態、空港土木施設の定期点検の結果を踏まえて適切に修繕等を実施していない事態は適切ではなく改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
滑走路等の空港施設の機能を適切に発揮させるためには、空港機能の保全を図りつつ、空港施設の適切な維持に加えて、既存施設の老朽化に対応することが重要であり、点検の着実な実施等、予防保全の手法を用いた適切な維持管理を実施することが必要である。
ついては、貴省において、空港施設の維持管理が適切に実施されるよう、次のとおり改善の処置を要求する。