国土交通省は、国が管理する国道について、道路法(昭和27年法律第180号)等に基づき、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もって一般交通に支障を及ぼさないように努めている。
そして、同省は、国が管理する橋りょうについて、損傷が顕在化する前の軽微な段階で対策を行う予防保全型の補修により計画的な維持管理を行うために、平成16年3月に策定した「橋梁(りょう)定期点検要領(案)」に基づき、5年に1回の頻度で定期的な点検(以下「定期点検」という。)を実施している。
定期点検は、橋りょうの部材等ごとに損傷の状況を把握して損傷程度の評価(以下「点検業務」という。)を行うとともに、当該部材等に対して補修等の対策区分を判定及び分類(以下「診断業務」という。)し、これらの結果に基づいて橋りょう管理カルテ等を作成し記録するものであり、国土交通省は、当該定期点検の結果等に基づいて、橋りょうの維持管理を行っている。
点検業務については、主に国道事務所等が管内の橋りょうを対象に実施しており、診断業務については、統一的な診断を実施するために、地方整備局ごとに設置されている技術事務所、北海道開発局及び沖縄総合事務局(以下、これらを合わせて「技術事務所等」という。)が各局管内の橋りょうを対象に実施している(以下、定期点検の対象となっている橋りょうを「点検橋りょう」という。)。
診断業務は、表のとおり、現地踏査及び現地調査を実施することとしている。
作業名 | 作業内容 |
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現地踏査 | 橋りょうの種別、形式、橋長等の諸元の確認を行い、現地調査を実施する際の直近の留意点を把握するもの。この際、現地の交通状況や現地調査に伴う交通規制の方法等の現地状況についても調査し記録する。 |
現地調査 | 現地踏査の結果等を踏まえて、近接目視を行い、対策区分の判定等に必要な情報を得るためのもの。 |
各技術事務所等は、診断業務の実施に当たっては、点検業務との間で高所作業車を効率的に使用したり、橋りょうの損傷の状況等の情報を共有したりすることなどから、診断業務に係る契約の仕様書により点検業務と連携を図ることとしている。
そして、各技術事務所等は、診断業務に係る契約の予定価格について、当該契約の仕様書に定められた内容に基づく見積書を複数の業者から徴し、これに基づくなどして積算し、一般競争入札等により民間業者と委託契約を締結している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、効率性等の観点から、診断業務における現地踏査がその必要性を十分に検討した上で実施されているか、現地調査に係る費用の積算が作業の実態に即したものとなっているかなどに着眼して、24、25両年度に締結した診断業務に係る委託契約計22件、契約金額計34億5257万余円を対象として、10技術事務所等(注1)において、契約書、仕様書、見積書等の書類及び作業実態を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、8技術事務所等(注2)が締結した診断業務に係る委託契約計16件について、次のような事態が見受けられた。
7技術事務所等(注3)は、診断業務に係る委託契約計13件において、点検橋りょうの全てに対して現地踏査を実施することとしていた。
しかし、国土交通省は、16年度以降順次定期点検を実施しており、委託契約計13件の現地踏査の対象とされた点検橋りょうのうち初回点検が未実施の742橋を除く計7,245橋については、点検橋りょうの情報が橋りょう管理カルテ等により管理され、橋りょうの諸元を確認できる状況となっていた。そして、7技術事務所等は、国道事務所等が実施している点検業務の情報を基に現地調査を実施する際の直近の留意点等を把握できる状況となっていた。
したがって、上記の委託契約については、現地踏査を実施する必要がなく、点検業務等の情報を基に現地調査を実施することが可能であると認められた。
4技術事務所(注4)は、診断業務に係る委託契約計8件の現地調査に係る費用について、橋りょう検査員やその補助者を配置するなどして現地調査を実施することとして1橋当たりの所要人日数を算出し、これに橋りょう検査員等の労務単価と点検橋りょう数を乗じて現地調査費を計1億5679万余円と積算していた。
しかし、現地調査の橋りょう検査員等の配置について確認したところ、積算では橋りょう検査員とその補助者を配置することとしているのに、実態は契約の仕様書に基づいて点検業務と連携を図って同一行動することにより、補助者を配置していないなど、積算が作業の実態に即したものとなっていなかった。
そこで、現地調査の実作業人日数について作業報告書等を基に確認したところ、積算では1.29人日としているのに実態は0.47人日となっているなどしていた。
したがって、前記の委託契約計8件については、現地調査に係る費用の積算に当たり、作業の実態に即したものとする必要があると認められた。
このように、橋りょうの診断業務の実施に当たっては、点検業務等の情報を基に現地調査を実施することが可能であるのに現地踏査を実施していたり、現地調査に係る費用の積算が作業の実態に即したものとなっていなかったりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた契約金額及び低減できた積算額)
前記により、7技術事務所等の診断業務に係る委託契約計13件について、初回点検を実施していないなどの一部の橋りょうを除き、現地踏査を実施しないこととすると、契約金額は計33億3533万余円となり、前記の契約金額計34億5257万余円を計1億1724万余円節減できたと認められた。
また、4技術事務所の診断業務に係る委託契約計8件について、現地調査における橋りょう検査員等の作業人日数を作業の実態に即したものとするなどして算出すると、現地調査に係る費用の積算額は計1億2053万余円となり、前記費用の積算額計1億5679万余円を計約3590万円低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、7技術事務所等において現地踏査の必要性の検討が十分でなかったこと、4技術事務所において現地調査の作業の実態を十分に把握してその実態に即した費用の積算を行っていなかったこと、また、国土交通省において技術事務所等に対して上記についての周知が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、27年5月に地方整備局等に対して事務連絡を発するなどして、橋りょうの診断業務の実施及び委託契約に係る積算が適切に行われるよう次のような処置を講じた。
ア 技術事務所等に対して、点検業務等の情報を基にするなどして現地踏査を実施しないこととするよう周知した。
イ 技術事務所等に対して、現地調査に係る費用について、作業の実施方法ごとの条件を明示して見積書を徴し、実態に合わせて設計変更するなどして、費用の積算を作業の実態に即したものとするよう周知した。