この工事は、中部地方環境事務所(以下「事務所」という。)が、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化のための事業として、平成21年度に、石川県加賀市片野町地内において、国指定片野鴨池鳥獣保護区(以下「片野鴨池鳥獣保護区」という。)への人の立入りの防止、隣接している県道を通行する車両の前照灯による光の入射の防止等を目的として、高さ2.5mの柵(延長91.5m)及び門扉(4か所。以下、これらを合わせて「侵入防止柵」という。)の新設等を工事費11,200,153円で実施したものである。
侵入防止柵は、角形鋼管の支柱をコンクリートブロック基礎(縦0.6m、横0.6m、高さ1.1m。以下「基礎」という。)に建て込んで2.0m間隔で設置し、この支柱に角材を5段据え付け、これに板材(幅9.0cm、厚さ2.0cm、長さ2.4m)を壁板として組み合わせるなどしたものである(参考図参照)。
事務所は、侵入防止柵の設置に当たり、片野鴨池鳥獣保護区の地形等を考慮するなどして、隣接している県道の道路敷地に侵入防止柵を設置することとし、「自然公園等事業技術指針」(環境省自然環境局自然環境整備課制定。以下「技術指針」という。)等に基づき、必要となる高さや延長等の設計を行って、これにより施工していた。
本院は、合規性等の観点から、侵入防止柵の設計が技術指針等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、本件工事を対象として、事務所において、設計図書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
すなわち、技術指針等によれば、侵入防止柵を含む自然公園等施設の設置に当たっては、当該施設の形態、構造等の安全性について計算を行うことなどとされている。しかし、事務所は、侵入防止柵の設計に当たり、風荷重による転倒等に対する安定計算等を行っていなかった。
そこで、技術指針等において示されている「車両用防護柵標準仕様・同解説」(社団法人日本道路協会編)等に基づき安定計算を行ったところ、風荷重により基礎に加わる外力が基礎の外力への抵抗力を上回り、侵入防止柵の転倒に対する安全率は0.37となり、許容値である1.2を大幅に下回っていて、安定計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
したがって、侵入防止柵は、基礎の設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっており、工事の目的を達しておらず、これに係る工事費相当額10,490,585円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事務所において、侵入防止柵の設計における安定計算の必要性に対する理解が十分でなかったことなどによると認められる。
侵入防止柵の概念図