装備施設本部(平成27年10月1日以降は防衛装備庁。以下「装本」という。)は、海上幕僚監部の調達要求に基づき、護衛艦「てるづき」(以下「護衛艦」という。)を建造するために、21年2月に、三菱重工業株式会社(以下「会社」という。)と艦船製造請負契約を締結しており、契約金額32,073,720,000円を同月から25年3月までの間に10回(前金払を含む。)に分けて支払っている。
装本は、本件契約の予定価格について、「調達物品等の予定価格の算定基準に関する訓令」(昭和37年防衛庁訓令第35号)に基づき、原価計算方式により、直接材料費、直接経費等の製造原価に、一般管理及び販売費、利子並びに利益から成る総利益、建造保険料を加えるなどした計算価格に消費税及び地方消費税額を加えた額を基準として決定している。
上記のうち建造保険料は、会社が護衛艦の建造中の偶然の事故により負担する経済的損失を填補するために付すこととなっている船舶建造保険の保険料として計上されている。建造保険料の額は、会社が製造する護衛艦の契約金額と、装本等が別に調達し会社に官給して護衛艦に搭載されることになる武器類、ぎ装品等の価額(以下、これらの武器類、ぎ装品等を合わせて「官給品」といい、この価額を「官給品価額」という。)との合計額である付保対象額に所定の保険料率を乗じて算定することとなっている。
本件契約には、「契約事務に関する達」(平成18年装備本部達第4号)等に基づき、会社に超過利益が生じた場合には超過利益を返納させることとする特約条項(以下「超利条項」という。)が付されている。超利条項において、超過利益とは、契約金額から会社が契約の履行のために支出し又は負担した費用に適正利益を加えた金額(以下「実績価格」という。)を控除した金額であるとされており、その計算に関する手続は次のとおりとなっている。
(ア) 会社は、装本が定める実績価格に関する計算基準及び会社が定める原価計算に関する規則に基づき、契約の履行のために支出し又は負担した費用を計算した実際価格計算書を装本に提出する。
(イ) 装本は、地方防衛局の原価監査官等に実際価格計算書の適否を審査するための原価監査を実施させ、原価監査官等は、原価監査を完了した場合には原価監査報告書を作成して装本に提出する。
(ウ) 装本は、原価監査報告書に基づき査定を行い、実績価格を確定させるための価格査定調書を作成する。
そして、装本は、上記の計算の結果、超過利益が生じた場合には、会社に超過利益相当額の返納を請求することとなっている。
本件契約において、会社は25年6月に実際価格計算書を提出しており、これを受けて九州防衛局長崎防衛支局の原価監査官は原価監査を実施した上で原価監査報告書を作成して同年8月に装本に提出している。そして、装本は、原価監査報告書に基づき査定を行い、26年9月に価格査定調書を作成し、実績価格を30,873,790,763円で確定させて、前記の契約金額32,073,720,000円との差額1,199,929,237円を超過利益として、同年10月に会社から同額を返納させている。
本院は、合規性等の観点から、超利条項に基づく超過利益の計算は適切に行われているかなどに着眼して、本件契約を対象として、装本及び会社において、契約書、実際価格計算書、原価監査報告書、価格査定調書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
装本は、実績価格の確定に当たり、価格査定調書において建造保険料の額を285,349,042円としていた。この額は、会社が提出した実際価格計算書を査定した上で算定した付保対象額65,372,060,251円に保険料率0.4365%を乗じたものであり、この付保対象額のうちの官給品価額は35,968,450,000円となっていた。そして、装本は、契約を締結する前の21年1月に、海上幕僚監部から徴取した調達予定の官給品に係る所要額が記載された文書を基に、同月時点での概算額として算定された上記の官給品価額をそのまま採用していた。
しかし、超過利益については、概算額を基に計算するのではなく、会社が契約の履行のために実際に支出し又は負担した費用を基に計算すべきであるのに、装本は、実績価格の確定における建造保険料の額の算定に当たり、誤って、前記の概算額を基に計算しており、正しくは、護衛艦の引渡時に会社から提出された生産明細書(注)により確認できる官給品の実績額34,794,608,147円を官給品価額とすべきであった。
したがって、上記実績額の34,794,608,147円を官給品価額として採用するなどして実績価格の確定における適正な建造保険料の額を算定すると280,185,761円となる。そして、これに基づくなどして会社から返納させるべき超過利益を計算すると1,205,399,302円となり、前記の超過利益1,199,929,237円との差額5,470,065円が過小となっていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、装本において、超過利益の計算に当たり、建造保険料に係る官給品価額の確認が十分でなかったことなどによると認められる。