海上自衛隊自衛艦隊航空集団第51航空隊計測隊(以下「計測隊」という。)は、航空機の離着陸性能が要求性能に適合するかを評価するなどのために、航空機の離着陸距離を測定する業務を実施しており、この業務に必要となる長時間記録高速度カメラ、撮影時のカメラの角度情報をデータ化する角度情報変換器、計測したデータを解析するためのパーソナルコンピュータ等の13種類の機器から構成される離着陸性能計測システム(以下「計測システム」という。)について、平成26年3月17日に計測隊が所在する厚木航空基地の契約担当官である同集団第4航空群厚木航空基地隊厚木経理隊長(以下「経理隊長」という。)に対して調達要求を行っている。そして、契約担当官である経理隊長は、株式会社フォトロン(以下「会社」という。)との間で、同年5月20日に契約金額40,392,000円で計測システムの売買契約を締結している。
契約書において、計測システムの納期は27年2月27日とされており、会社は同月23日に納入している。そして、経理隊長は、同年3月6日に会社から請求書の送付を受けて、同月17日に契約金額の全額を会社に支払っている。
契約担当官等は、会計法(昭和22年法律第35号)等に基づき、物件の買入れなどの契約については、自ら又は補助者に命じて、給付の完了の確認をするために必要な検査をしなければならないこととなっている。そして、「調達品等に係る監督及び検査に関する訓令」(昭和44年防衛庁訓令第27号)において、必要があると認められる場合には、契約担当官等は、調達品等に係る検査の一部として、その品質の確認のための検査(以下「完成検査」という。)を行うこととなっている。また、調達品等の受領に際して行われる検査(以下「受領検査」という。)は、その品質及び数量を確認することとなっているが、完成検査が既に行われた場合には、受領検査官は、完成検査合格証を確認した後に受領検査を行うこと、また、この場合には、数量及び輸送中の事故の有無を確認すれば足りることとなっている。
本院は、合規性等の観点から、物品の調達が会計法令に基づき適正に行われているかなどに着眼して、本件契約を対象として、第4航空群及び第51航空隊が所在する厚木航空基地において、契約書、納品書、検査調書、支払関係書類等により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
ア 会社は、26年11月28日に、計測隊に対して、計測システムを構成する13種類の機器のうちの7種類の機器について、製造中止等を理由に、同等の性能を有する別の機器を代替品として納入したい旨を経理隊長宛ての書面で申し入れていた(以下、この書面を「申入書」という。)。しかし、申入書を受領した計測隊は、その内容を契約業務を担当する経理隊に伝えていなかったため、契約担当官である経理隊長は、申入書の内容が妥当なものであるか否か、契約金額を含め契約変更が必要か否かなどの検討を全く行っていなかった。また、計測隊は、申入書の内容が妥当なものであるか否かについて検討を十分に行うことなく了承していたが、申入書に記載された代替品が契約書において指定された機器と同等の性能を有しているかについて本院が確認したところ、小型モニタ等3種類の機器の代替品については同等の性能を有しないものとなっていた。特に、小型モニタの代替品は長時間記録高速度カメラと接続ができず、申入書による機器構成のままでは計測システムは全体として作動しないものとなっていた。
イ 本件契約では、契約条項に基づき、完成検査が行われることとなっていたが、契約担当官である経理隊長は、完成検査を行う補助者を任命しておらず、また、自らも完成検査を行っていなかった。
ウ 受領検査官について、契約担当官である経理隊長は、同基地に所在する第4航空群第4整備補給隊第4補給隊(以下「補給隊」という。)に所属する隊員を任命していた。そして、受領検査に際しては、完成検査合格証がないことなどから、完成検査が行われていないことが明らかであり、同隊員は、受領検査として品質及び数量の確認を行うべきであった。しかし、同隊員は、外装に貼付されているラベル記載の品名が納品書の品名と合致しているかなどの確認を行ったが、外装を開けて実際に納入された機器の品質及び数量を確認することは行っておらず、このため、同隊員は、納品書及び外装に貼付されたラベルに記載されていた契約書指定の機器の品名とは異なる代替品が納入されていたことを看過していた。
また、申入書において代替品を納入することにはなっていなかった長時間記録高速度カメラについては、27年4月の会計実地検査時には修理等の実施を理由として会社に引き取られていたため現物の確認はできなかったものの、会計実地検査を受けて計測隊が会社に改めて確認した結果から、会社が納品日に納入したカメラは契約書において指定されたものではなく、性能を満たさない別のカメラであった可能性が高いと認められた。
このように、本件契約について、契約書において指定された機器と同等の性能を有していない機器が納入されるなどしていたのに、適正に履行されたとして契約金額の全額が支払われており、その支払額40,392,000円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、契約担当官である経理隊長及び補給隊の受領検査官において会計法令等に関する知識及び理解が十分でなかったこと、計測隊において物品の調達に係る事務の適正な実施に対する基本的な認識が欠けていたことなどによると認められる。