装備施設本部(平成27年10月1日以降は防衛装備庁。以下「装本」という。)は、航空自衛隊からの調達要求に基づき、23年度に、3か年度の国庫債務負担行為により、飛行場等において発生する航空機火災の消火等を行う大型の空港用化学消防車である大型破壊機救難消防車(A―MB―3)(以下「A―MB―3」という。)8台を調達するために、株式会社モリタ(以下「会社」という。)と売買契約(契約金額764,400,000円)を一般競争入札により締結している。
会社は、納期である26年3月31日までに、A―MB―3を納入場所である航空自衛隊の5基地(注)に納入している。そして、装本は、同年4月2日に会社からの請求書の送付を受けて、同月22日に契約金額の全額を会社に支払っている。
契約担当官等は、会計法(昭和22年法律第35号)等に基づき、物件の買入れなどの契約については、自ら又は補助者に命じて、給付の完了を確認するために必要な検査を行い、検査を完了した場合においては、検査調書を作成しなければならないこととなっている。また、検査調書を作成すべき場合においては、当該検査調書に基づかなければ支払をすることができないこととなっている。そして、「調達品等に係る監督及び検査に関する訓令」(昭和44年防衛庁訓令第27号。以下「訓令」という。)において、当該契約の目的である調達品等を契約履行の場所に送付するに先立ち、必要があると認められる場合には、契約担当官等は調達品等に係る検査の一部として、その品質の確認のための検査(以下「完成検査」という。)を行うこととなっている。また、調達品等の受領に際して行われる検査(以下「受領検査」という。)は、その品質及び数量を確認することとなっているが、完成検査が既に行われた場合には、完成検査合格証を確認した後に受領検査を行うこと、また、この場合には、数量及び輸送中の事故の有無を確認すれば足りることとなっている。
装本の契約担当官等は、訓令に基づき、本件契約の完成検査に当たり、会社の工場が所在する地域を管轄する近畿中部防衛局の職員を補助者(以下「完成検査官」という。)に、また、受領検査については、納入場所である5基地の隊員を補助者(以下「受領検査官」という。)に、それぞれ任命している。そして、受領検査官等は検査の実施に関して疑義が生じた場合には、契約担当官等の指示を受けなければならないこととなっている。
本院は、合規性等の観点から、A―MB―3の給付の完了の確認に関する検査が会計法令等に基づき適正に行われ、契約内容に適合した履行が確保されているかなどに着眼して、本件契約を対象として、千歳、小松、百里各基地において納入されたA―MB―3の現物や受領検査調書等の関係書類を確認するとともに、装本、航空幕僚監部及び航空自衛隊補給本部において契約書、完成検査調書等の関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。また、松島、小牧両基地については、装本、航空幕僚監部及び航空自衛隊補給本部を通じて関係書類を徴するなどして検査した。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
装本は、本件契約の完成検査に当たり、「中央調達に係る資料監督方式及び資料検査方式の適用基準について(通達)」(平成18年装本品管第33号)に基づき、A―MB―3が市販品であるため、契約相手方の作成する社内検査成績書のみを審査する資料検査方式を採用することとし、完成検査官は会社の社内検査成績書を審査する限りにおいては問題がなかったことから26年2月25日に完成検査を合格としていた。そして、受領検査官は、会社が納期である同年3月31日までにA―MB―3を5基地にそれぞれ納入しており、上記のとおり既に完成検査が行われていたことから、完成検査合格証を確認した上で、数量及び輸送中の事故の有無について確認し、問題がなかったことなどから受領検査を合格として受領検査調書を作成していた。そして、装本は、当該検査調書等に基づき、前記のとおり764,400,000円を支払っていた。
しかし、5基地の車両器材隊が、上記の受領検査に併せて、航空自衛隊車両等整備基準等に基づきA―MB―3の整備及び機能の点検を行っており、走行等に支障を来すおそれのあるトルクコンバータ部分及びパワーステアリングポンプ部分からのオイル漏れ、エンジン冷却装置の冷却水漏れなどの各種の不具合を納入された8台全てについて計66件発見していた。そして、受領検査官は、A―MB―3について、受領検査で確認が求められている数量等に問題はなかったが、多数の不具合が発見されたことから、受領検査について疑義が生じたとして、訓令に基づき、装本の契約担当官等に指示を仰いでいた。
これに対して、装本の契約担当官等は、受領検査官からその不具合の詳細について十分に聴取することなく、装本が受領検査の合否を判定する立場にないことや、訓令においては完成検査が既に行われた場合の受領検査は数量等の確認等を行えば足りることとなっていることなどを回答するにとどまっていた。そして、この回答を受けて、受領検査官は、前記のとおり受領検査を合格とする受領検査調書を作成していた。
しかし、装本の契約担当官等は、会計法令等に従い、受領検査時に明らかに契約内容に適合しない不具合が発見されていたのであれば、不具合の詳細を十分に聴取するなどした上で、受領検査の判定は合格とすべきではない旨の指示をすべきであった。そして、受領検査時に発見された前記66件の不具合の修補が全て完了したのは、26年7月であり、5基地は、それまでの約3か月間、老朽化のため更新の対象であったA―MB―3の不用決定を延長するなどして運用することで、飛行訓練等に対処せざるを得ないなどの状況となっていた。
このように、本件契約で調達した8台のA―MB―3について、契約内容に適合した履行が確保されていないのに、適正に履行されたとして受領検査を合格と判定する受領検査調書が作成されて、これに基づき契約金額の全額が支払われており、その支払額764,400,000円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、装本において、契約担当官等として、会計法令等に従い、受領検査についての疑義に関する受領検査官からの問合せの内容を十分把握した上で、受領検査官に対して適切な指示をしなければならないという認識が欠けていたことなどによると認められる。