【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】
重要物品である基地内光伝送路の整備に伴う帳簿価格の改定等について
(平成27年10月29日付け 防衛省航空幕僚長宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
貴自衛隊は、平成18年度から、基地(分屯基地を含む。以下同じ。)において各種業務処理に使用する事務共通システム等を運用するために、大容量・高速のデータ通信を行う基地内光伝送路(以下「光伝送路」という。)の整備を実施している。
そして、貴自衛隊は、光伝送路の整備に当たっては、毎年度、貴自衛隊補給本部長(以下「補給本部長」という。)が装備施設本部(27年10月1日以降は防衛装備庁)に複数の基地に係る整備を一括して調達要求し、同本部が一般競争入札を実施した上で、落札業者と契約を締結している。基地における光伝送路の整備は、基地によっては複数回の契約により逐次整備を実施することにより性能を向上させる(以下、初回の契約による整備を「初回整備」、2回目以降の契約により性能を向上させる整備を「改造」という。)などしていて、27年2月までに整備を実施した73基地(注1)における整備費は14契約計146億1091万余円となっている。
光伝送路は、光ファイバーケーブルや接続機器であるノード等から構成される装備品であり、貴自衛隊は光伝送路を基地ごとに物品として管理している。
物品管理法(昭和31年法律第113号)等によれば、国の物品については、各省各庁の長が物品の取得、保管、供用及び処分(以下、これらを合わせて「管理」という。)を行い、各省各庁の長からその管理に関する事務の委任を受けた職員が物品管理官として当該事務を行うこととされている。
物品管理官は、物品管理簿等を備えて、その管理する物品の分類及び品目ごとに、物品の増減等の異動数量、現在高その他物品の異動に関する事項等を記録することとされており、国が所有する物品のうち重要なものとして政令で定めるもの(注2)(以下「重要物品」という。)については、その価格も記録しなければならないこととされている(以下、物品管理簿に記録された価格を「帳簿価格」という。)。
また、物品管理法施行規則(昭和31年大蔵省令第85号)によれば、物品管理官は、財務大臣の定めるところにより、帳簿価格を改定しなければならないこととされ、これを受けて財務大臣が定めた「物品管理簿に記録された価格の改定について」(昭和36年蔵計第862号)によれば、物品管理官は、重要物品について、その性能を向上させる改造等を行った場合には、帳簿価格を改定することとされている。
各省各庁の長は、重要物品について、毎会計年度末の物品管理簿の記録内容に基づいて、物品増減及び現在額報告書(以下「物品報告書」という。)を作成し、翌年度の7月31日までに財務大臣に送付することとされている。そして、財務大臣は、各省各庁の長から送付された物品報告書に基づき、物品増減及び現在額総計算書(以下「総計算書」という。)を作成し、内閣は、総計算書に基づき、毎会計年度末における物品の現在額等について、国会に報告することとされている。
貴自衛隊においては、防衛省所管物品管理取扱規則(平成18年防衛庁訓令第115号)に基づき、貴幕僚長が物品管理官に指定されている。また、基地の業務担当部隊等の長が物品管理官の事務の一部を分掌する分任物品管理官に指定されて、基地における物品の管理に関する事務を行っている(以下、基地においてこの事務を行う分任物品管理官を「基地分任官」という。)。
基地分任官は、航空自衛隊物品管理補給規則(昭和43年航空自衛隊達第35号)等に基づき、管理する物品の異動の都度、取得価格等を電算機に入力することなどにより、帳簿価格を記録することとなっており、帳簿価格は、当初締結した契約を変更して契約金額を変更した場合はその変更金額を考慮するとともに、消費税込みの価格とすることとなっている。
そして、改造等を行った後の価格が明確でない場合や、契約書等に個々の装備品の取得価格が明示されていない場合には、調達要求を実施した分任物品管理官(以下「調達要求分任官」という。)がその価格を示すこととなっており(以下、調達要求分任官が示す価格を「設定価格」という。)、重要物品に該当する光伝送路の場合は、個々の装備品の取得価格が明示されていないことから、調達要求分任官である補給本部長が設定価格を基地分任官に示すこととなる。
そして、物品管理官である貴幕僚長が管理する重要物品に係る物品報告書の作成手順は、次のとおりとなっている。
① 基地分任官等は、報告対象年度に受払のある重要物品の増減等を電算機に入力処理を行い、入力データを補給本部長に送信する。
② 補給本部長は、重要物品の毎会計年度間における増減等を記入した資料である「物品増減及び現在額報告総括書」及び同内訳表(以下、両者を合わせて「総括書等」という。)を作成して、貴幕僚長に報告する。
③ 貴幕僚長は、総括書等を基に物品報告書に関する資料を作成した上で、防衛大臣に提出する。
④ 防衛大臣は、防衛省各機関の物品管理官から提出を受けた上記の資料を基に物品報告書を作成する。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
前記のとおり、物品管理簿は、物品管理法に従って物品を適切に管理するための帳簿であり、また、重要物品の現在額等を国会に報告するための基礎となる帳簿である。
そこで、本院は、正確性、合規性等の観点から、貴自衛隊が初回整備及び改造を実施している光伝送路について、帳簿価格が正確に記録されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、初年度の契約を締結した19年2月から27年2月までの間に貴自衛隊73基地に光伝送路を整備した前記の14契約における整備費計146億1091万余円を対象として、貴幕僚監部及び貴自衛隊補給本部(以下「補給本部」という。)において、総括書等の作成方法等を担当者から聴取したり、上記73基地のうち20基地(注3)において、光伝送路の管理状況等を確認したりして会計実地検査を行うとともに、残りの53基地については、貴幕僚監部及び補給本部を通じて物品管理簿等の関係資料を徴することなどにより検査した。
(検査の結果)
上記の73基地における光伝送路の管理状況等を物品管理簿等に基づき検査した結果、27年2月末時点の帳簿価格は計77億9004万余円となっていて、これに係る上記の整備費計146億1091万余円と比較して著しい開差があったことから、帳簿価格を詳細に確認したところ、次のとおり、正確に記録されていない事態が見受けられた。
基地分任官は、基地における光伝送路の初回整備時に、補給本部が示した設定価格を帳簿価格として記録するなどしていた。
しかし、73基地のうち千歳、百里、横田各基地を除く70基地の帳簿価格は、補給本部が示した設定価格に消費税が含まれていなかったため消費税を含まない価格となっていたり、変更契約による減額が反映されていなかったりしていたほか、整備が行われた当時の補給本部や基地分任官が確認した金額に誤りがあったため、正確に記録されていなかった。
そして、70基地について、消費税を含めたり、契約変更による減額を反映したりするなどして、初回整備時における適正な帳簿価格を算定すると、帳簿価格は、58基地において計3億5688万余円が過小に、また、12基地において計6932万余円が過大に、それぞれ記録されていた。
73基地のうち25基地(注4)は光伝送路の改造が実施されていたが、初回整備時において2(1)のとおり帳簿価格が正確に記録されていない状況となっていた(横田基地を除く。)ことに加えて、2回目以降の契約により改造を実施しているのに、帳簿価格が適正に改定されていなかった。
基地分任官は、改定を行っていなかった理由について、基地では当該基地に係る取得価格が把握できなかったためとしている。また、補給本部長は、契約書等に基地ごとの取得価格が明示されていないなどの場合には、光伝送路の調達要求分任官として設定価格を基地分任官に示す必要があったのに、これを行っていなかった。補給本部は、その理由について、光伝送路の整備は複数の基地を一括して実施する契約となっていたため、契約書等では基地ごとの内訳となる整備費が把握できないことなどから、基地ごとの設定価格を把握することは困難であったためとしている。
しかし、補給本部は、18年度以降、基地において初回整備を実施した場合には、基地ごとの内訳となる整備費を算定するよう契約会社に依頼して、この算定価格を当初の設定価格として基地に示していたとのことであったため、改造についても同様に設定価格を把握することは十分可能であったと認められた。
したがって、補給本部が本院の検査を受けて基地ごとの内訳となる整備費を算定するよう契約会社に依頼し確認した結果に基づき、改造における適正な設定価格を算定すると、帳簿価格は、25基地において計65億3330万余円が過小に記録されていた。
これらのことから、27年2月末時点の帳簿価格と適正な帳簿価格を比較すると、表のとおり、64基地において計68億9003万余円が過小に、7基地において計6916万余円が過大にそれぞれ記録されていて、計71基地において修正が必要な帳簿価格は、合計69億5919万余円となる。
区分 | 平成27年2月末時点の帳簿価格 | 適正な帳簿価格 | 差額 |
---|---|---|---|
帳簿価格が過小に記録されていた64基地 | 5,258,016 | 12,148,048 | 6,890,031 |
帳簿価格が過大に記録されていた7基地 | 351,498 | 282,334 | 69,164 |
計 | \ | \ | 6,959,196 |
このように、光伝送路について、価格改定等を適正に行っていなかったため物品管理簿が正確に記録されておらず、総括書等が重要物品の増減等を正確に反映したものとなっていない状況となっていた。
(是正及び是正改善を必要とする事態)
貴自衛隊において、光伝送路について価格改定等を適正に行っておらず、物品管理簿、総括書等が重要物品の増減等を正確に反映したものとなっていない事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、補給本部において、改造等を実施した重要物品の価格改定等を適正に行うことについての理解が十分でないこと、補給本部及び基地分任官において、帳簿価格を正確に記録することについての理解が十分でないことなどによると認められる。
物品管理簿は、国の物品を管理するための基本的な帳簿であり、各省各庁の長は、物品管理簿の記録内容に基づいて、毎年度、物品報告書を作成している。そして、総計算書は物品報告書に基づき作成されており、総計算書に基づき毎会計年度末における重要物品の現在額等を国会に報告することは、国民に対して重要物品の現況を明らかにするという性格を有するものとなっている。このように、国の物品について、物品管理法等に基づき、正確に物品管理簿に記録することは、極めて重要である。
そして、貴自衛隊は、今後も光伝送路の整備を実施することが見込まれており、整備の都度、帳簿価格を改定等することとなる。
ついては、貴自衛隊において、物品管理簿が正確に記録され、ひいては物品報告書等に正確に反映されるよう、アのとおり是正の処置を要求し及びイのとおり是正改善の処置を求める。