【是正改善の処置を求めたものの全文】
自衛艦の定期検査等に係る契約の履行に伴い発生する有価廃材の管理について
(平成27年10月29日付け 防衛省海上幕僚長宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴自衛隊は、船舶の造修等に関する訓令(昭和32年防衛庁訓令第43号)等に基づき、自衛艦の定期検査及び年次検査を行うこととしており、5地方総監部(注1)は、造船会社と毎年度多数の定期検査及び年次検査に係る契約(以下「定期検査等契約」という。)を締結している。定期検査等契約の内容は、主として、自衛艦の諸性能を確認するなどの検査及び検査により判明した要修理箇所の修理等から成っており、造船会社は、定期検査等契約の仕様書に基づき、自衛艦を検査するとともに、老朽化等による要修理箇所については、老朽化した部材を撤去し、新しい部材に交換するなどしている。
そして、契約担当官等は、会計法(昭和22年法律第35号)等に基づき、地方総監部等の職員の中から監督官を任命して、定期検査等契約の監督を実施している。
定期検査等契約において撤去された部材のうち売払いが可能な銅等の有価廃材は、国が所有する動産であって、物品管理法(昭和31年法律第113号)上の物品に該当するものであり、各地方総監部に置かれた分任物品管理官等が管理することとなっている。また、貴自衛隊は、自衛艦を含む装備品等の補給に関する基準等として海上自衛隊補給実施要領(平成18年補本装補第2072号。以下「実施要領」という。)を定めており、実施要領によれば、定期検査等契約の監督官は、定期検査等契約において発生する有価廃材に常に留意することとされている。
造船会社は、定期検査等契約の履行に伴い有価廃材が発生した場合、その契約条項に基づき、善良な管理者の注意をもって有価廃材を保管することとなっている。そして、造船会社は、定期検査等契約の履行後速やかに、発生した有価廃材の種類及び数量を記載した発生材等調書を当該契約の監督官に提出して、その確認を受けなければならないこととなっており、確認を受けた有価廃材について、当該有価廃材を管理する分任物品管理官等の指示に従い貴自衛隊に返還することとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、定期検査等契約の履行に伴い発生する有価廃材の管理が適切に行われているかなどに着眼して、横須賀、大湊両地方総監部が平成20年度から25年度までの間に7社(注2)との間で締結した定期検査等契約のうち、21年度から25年度までの間に履行が完了した計377契約(契約金額計1102億5048万余円)を対象として検査した。検査に当たっては、ジャパン マリンユナイテッド株式会社(24年12月31日以前はユニバーサル造船株式会社。25年1月1日に株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドと合併)及び函館どつく株式会社において、定期検査等契約の仕様書、発生材等調書等の書類を確認したり、担当者から説明を聴取したり、有価廃材の保管場所を実地に確認したりなどするとともに、海上幕僚監部、貴自衛隊補給本部及び横須賀地方総監部において、有価廃材の取扱いについて担当者から説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。また、大湊地方総監部から発生材等調書の記載状況等に関して報告を求めて、その報告内容を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記の7社との間の377契約のうち3社(注3)との間の157契約(契約金額計525億2736万余円)についてみたところ、その履行に伴い有価廃材が発生していた。しかし、これらの契約の監督官は、発生材等調書が作成されず提出されていなかったのに発生材等調書が提出されていないことを見過ごしていたり、発生材等調書に発生した有価廃材の一部しか記載されていなかったのに発生が見込まれる有価廃材の数量と比較して発生材等調書に記載された有価廃材の数量が妥当であるか十分確認を行っていなかったりしていた。このため、上記の157契約において発生していた有価廃材の一部(時価相当額(注4)計4869万余円)は、貴自衛隊に返還されておらず、造船会社において亡失していたり、民間の船舶等から発生した有価廃材と混在していて返還すべき有価廃材を特定できない状況となっていたりしていた(ジャパン マリンユナイテッド株式会社との間の150契約に係る返還されていない有価廃材の時価相当額4664万余円(注5)、函館どつく株式会社との間の7契約に係る返還されていない有価廃材の時価相当額205万余円)。
これらの事態は、貴自衛隊において、定期検査等契約の履行に伴い発生する有価廃材の管理が適切に行われていない状況となっていると認められる。
上記の事態について事例を示すと次のとおりである。
<事例>
横須賀地方総監部は、平成23年度に護衛艦「きりしま」の定期検査等契約を契約金額4億1685万円で株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドと締結しており、その仕様書によれば、海洋生物付着防止装置(船体に電流を流すことにより護衛艦に貝等の海洋生物が付着することを防止する装置)を構成する銅製の電極、アルミ製の電極等の部品を交換することとされていた。そして、当該契約において、同会社が実際に電極等を交換した結果、有価廃材が発生していた。
しかし、同会社は、当該電極等に係る有価廃材を発生材等調書に記載しておらず、同地方総監部の監督官は、発生材等調書に記載された有価廃材の数量が妥当であるか十分確認を行っていなかった。その結果、当該有価廃材(時価相当額95万余円)は、同会社において亡失するなどしていて、貴自衛隊に返還されていなかった。
(是正改善を必要とする事態)
貴自衛隊において、定期検査等契約の監督官が、契約の履行に伴い有価廃材が発生していたにもかかわらず、発生材等調書が提出されていないことを見過ごしていたり、提出された発生材等調書の記載内容について十分確認を行っていなかったりしていたことから、定期検査等契約に係る有価廃材の一部を返還させておらず、有価廃材の管理が適切に行われていない事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、造船会社が契約条項に定められた発生材等調書を適切に作成するなどしていないことなどにもよるが、定期検査等契約の監督官において、発生材等調書を確実に提出させること及び提出された発生材等調書の記載内容について十分確認を行うことの必要性についての理解が十分でないこと、また、貴自衛隊において、実施要領により監督官は有価廃材に常に留意することとしているのみで、発生材等調書の確認に関して監督官が行う具体的な作業内容を明確に定めていないことなどによると認められる。
貴自衛隊は、今後も自衛艦の定期検査等契約を締結していくことが見込まれることから、その履行に伴い発生する有価廃材について適切に管理を行っていく必要がある。
ついては、貴自衛隊において、自衛艦の定期検査等契約の履行に伴い発生する有価廃材の管理を適切に行うために、次のとおり是正改善の処置を求める。