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(3)F―15戦闘機の近代化改修に伴い機体から取り外されるレーダー機器について、会社における取外し後の保管等の状況を適切に把握するなどして速やかに返納させ、及び運用基地におけるレーダー機器の保有状況等を踏まえて払出しを行い必要な機能検査を実施するよう是正改善の処置を求めたもの


会計名
一般会計
部局等
航空幕僚監部、航空自衛隊補給本部、航空自衛隊第3補給処
物品の分類
(分類)防衛用品 (品目)防衛用航空機用機器
F―15戦闘機の近代化改修に伴い取り外されるレーダー機器の概要
F―15戦闘機の近代化改修において実施されるレーダーの換装に伴い機体から取り外されるトランスミッタ等
取外しから3か月以上補給処に返納されることなく会社において保管されていたレーダー機器の数量及び価格(1)
154個 147億6731万円(平成21年2月~27年5月)
返納から3か月以上運用基地に払い出されることなく補給処において保管されていたレーダー機器の数量及び価格(2)
150個 136億9031万円(平成21年2月~27年5月)
(1)及び(2)の純計
256個 243億5267万円

【是正改善の処置を求めたものの全文】

F―15戦闘機の近代化改修に伴い取り外されるレーダー機器の管理等について

(平成27年10月29日付け 防衛省航空幕僚長宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 F―15戦闘機の近代化改修に伴い取り外されるレーダー機器の管理等の概要

(1)近代化改修に伴い取り外されるレーダー機器の概要等

貴自衛隊は、F―15戦闘機(以下「F―15」という。)を平成26年度末現在で201機保有している。そして、将来における技術的水準の動向に対応し、我が国の防空体制の向上を図るために、目標物を早期に発見する役割を担う重要な装置であるレーダーの換装等を行うF―15の近代化改修を16年度から実施しており、26年度までの間に84機の近代化改修の契約を三菱重工業株式会社(以下「会社」という。)と締結している。

貴自衛隊は、F―15の近代化改修を引き続き推進することとしており、近代化改修を実施した機体と実施していない機体(以下「非近代化機」という。)を共に、今後も長期間にわたり運用することを予定している。そして、非近代化機のレーダーの構成品(以下「レーダー機器」という。)であるトランスミッタ等は、既に製造会社による生産が終了していることなどから、近代化改修に伴い取り外されるものについては、非近代化機の不具合発生時等の交換用の部品(以下「補用部品」という。)として使用することにしている。

近代化改修の契約における仕様書によれば、換装に伴い機体から取り外されるレーダー機器については、会社が、通信電子機器の補給を担任している貴自衛隊第3補給処(以下「第3補給処」という。)と返納について事前に調整した上で、取外し作業終了後、航空自衛隊物品管理補給手続(平成4年補給本部長制定及び平成25年補給本部長制定。以下「補給手続」という。)に基づいて速やかに第3補給処へ返納することとされている。

(2)第3補給処に返納されるレーダー機器の取扱い

貴自衛隊は、会社から第3補給処に返納されるレーダー機器については、機能検査を実施しなければ使用可能であるかどうかなどの状態を決定することができない要検査物品として管理しているが、第3補給処には機能検査のための試験器材等がないため、第3補給処が、これらの試験器材等を保有するF―15の運用基地(以下「運用基地」という。)に払い出し、運用基地の整備部隊が、機能検査を実施することにしている。

運用基地は、レーダー機器が上記の機能検査に合格した場合はそのまま、不具合が発見され運用基地で修理可能な場合は修理を行った上で修理完了品を、それぞれ運用基地における使用可能品として保管し、補用部品として使用している。また、機能検査において不具合が発見され運用基地で修理できない場合は、要修理品として第3補給処に返納し、第3補給処は外注により修理を行うことにしている。

(3)補用部品等についての補給支援

貴自衛隊は、補用部品等についての補給支援を実施するに当たり、補給手続等に基づき、補用部品等の管理及び補給を最も経済的かつ効率的に統制し、保有する装備品の完全な状態を維持することを目的として、補用部品等の在庫品目及び数量の統制を行っている。そして、補給処長等は、在庫統制基準(注1)を、物品の品目ごと、基地ごとに原則年1回設定することとしていて、この在庫統制基準に基づくなどして、補給支援のために、補給処は、基地に対して補用部品等の払出しを行っており、基地は、部隊等に対して運用上必要な補用部品等の払出しを行っている。レーダー機器については、第3補給処長が在庫統制基準を設定している。

また、補給処長は、補給処から基地等に対して補用部品等の払出しを行うに当たっては、優先順位を指定することとしている。優先順位には、30日以内に管理換を完了する「普通」、部隊等の行動能力に支障等を来さないよう20日以内に管理換を完了する「至急」、部隊等の任務遂行ができない場合又は重大な支障があるなどの場合で7日以内に管理換を完了する「緊急」、「緊急」と同じ場合で更に速やかに管理換を完了する「特別緊急」の種類があり、これに基づいて払出しのための所要の措置を執ることとしている。

(注1)
在庫統制基準  基地における補用部品等の在庫品目及び数量の統制の根拠となる保有の基準で、補用部品等の数量で表した保有の目標等

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

前記のとおり、貴自衛隊は、F―15の近代化改修に伴い取り外されるレーダー機器を会社から返納させて、補用部品として補給支援を行っている。

そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、会社において取り外されたレーダー機器は速やかに第3補給処に返納されているか、返納されたレーダー機器は運用基地に払い出され機能検査が実施されているかなどに着眼して、21年2月から27年5月までの間に近代化改修に伴い取り外されたレーダー機器6品目計360個367億0705万余円(27年5月末現在の物品管理簿上の単価に会社において取り外された数量を乗じた価格の合計額。以下同じ。)を対象として、航空幕僚監部、装備施設本部(平成27年10月1日以降は防衛装備庁)、貴自衛隊補給本部、第3補給処及び7運用基地(注2)において、近代化改修の契約書、管理換票、物品管理簿等の関係書類を確認するとともに、会社において、契約関係資料等を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注2)
7運用基地  千歳、百里、岐阜、小松、築城、新田原、那覇各基地

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)7運用基地におけるレーダー機器の保有状況

前記のとおり、レーダー機器は非近代化機の不具合発生時等における補用部品として使用されていることから、7運用基地における24年度以降のレーダー機器の不具合の発生状況を整備記録等により確認したところ、度々不具合が発生していて、7運用基地から第3補給処に要修理品として返納されているものが多数見受けられた。

そこで、これらの不具合に対応するなどのための7運用基地それぞれにおけるレーダー機器の保有状況についてみたところ、25、26両年度において、運用基地ごと、品目ごとのレーダー機器の使用可能品の保有数(以下「保有数」という。)が、それぞれの運用基地におけるレーダー機器の在庫統制基準を恒常的に下回っている傾向が見受けられた。そして、25、26両年度の各四半期末における7運用基地の保有数の合計及び在庫統制基準の合計により比較してみると、表1のとおり、6品目中、レシーバを除く5品目について、7運用基地の保有数の合計が在庫統制基準の合計を恒常的に下回っている傾向が見受けられ、27年5月末においても下回っている状況となっている。

表1 レーダー機器ごとの7運用基地の保有数の合計が在庫統制基準の合計を下回っている数

(単位:個)
機器名 平成25年度 26年度 27年5月末
第1四半期末 第2四半期末 第3四半期末 第4四半期末 第1四半期末 第2四半期末 第3四半期末 第4四半期末
トランスミッタ 0 11 11 11 11 21 21 21 21
レシーバ 0 0 0 0 0 0 0 0 0
アナログ・プロセッサ 4 8 8 8 8 12 10 12 11
デジタル・プロセッサ 0 4 5 5 4 9 9 9 9
データ・プロセッサ 0 2 1 0 2 1 5 5 5
パワー・サプライ 0 1 2 0 2 1 0 2 4

(2)会社において取り外されたレーダー機器の第3補給処への返納状況

前記の近代化改修に伴い会社において取り外されたレーダー機器6品目計360個のうち、27年5月末までに第3補給処に返納されていたレーダー機器は6品目計328個であった。そして、これらの返納状況についてみると、表2のとおり、取外しから返納までに3か月以上要していたものが6品目計138個131億8627万余円見受けられた。

また、上記の取り外されたレーダー機器6品目計360個のうち、6品目計32個は、27年5月末において、会社から第3補給処に返納されていないものであり、これらのうち取外しから3か月以上経過しているものが6品目計16個15億8104万余円見受けられた。

上記のとおり、取外しから3か月以上第3補給処に返納されることなく会社に保管されていたレーダー機器は、6品目計154個147億6731万余円となっており、これらのレーダー機器は仕様書により取外し作業終了後速やかに返納させることとされているのに、会社において長期間保管されたままとなっていて返納が遅延している事態となっていると認められる。

表2 会社において取り外されたレーダー機器の第3補給処への返納状況

(単位:個、千円)
機器名   会社から第3補給処に返納されていたもの   会社から第3補給処に返納されていなかったもの 取外しから3か月以上第3補給処に返納されることなく会社に保管されていたもの
うち取外しから第3補給処に返納されるまでの期間が3か月以上   うち取外しから経過している期間が3か月以上  
うち半年以上   うち半年以上  
うち1年以上 うち1年以上
返納数 返納数(a) 価格(b) 返納数 返納数 保管数 保管数(c) 価格(d) 保管数 保管数 (a+c) 価格(b+d)
トランスミッタ 54 31 3,305,468 12 0 5 2 213,256 1 0 33 3,518,724
レシーバ 55 27 1,174,041 17 1 6 4 173,932 2 0 31 1,347,973
アナログ・プロセッサ 55 18 1,162,998 13 1 5 2 129,222 1 0 20 1,292,220
デジタル・プロセッサ 55 18 4,912,956 13 1 5 2 685,084 1 0 20 5,598,040
データ・プロセッサ 54 26 2,041,364 17 1 6 4 314,056 2 0 30 2,355,420
パワー・サプライ 55 18 589,446 13 1 5 2 65,494 1 0 20 654,940
328 138 13,186,273 85 5 32 16 1,581,044 8 0 154 14,767,317

このような状況となっている理由について、会社において確認したところ、会社は、レーダー機器を取り外した後、機体番号ごとに取りまとめて返納の手続をしており、また、レーダー機器の一品目であるトランスミッタについては、返納時の損傷を防止するために、事前に専用コンテナの官給を第3補給処から受けることにしていたが、この専用コンテナについて取り外されたトランスミッタに見合った数の官給がないことから取りまとめたレーダー機器について返納の手続をすることができていないためであるとしていた。

そして、このような状況にもかかわらず、第3補給処は、レーダー機器の返納について、会社との事前の調整を十分に行っておらず、また、レーダー機器が会社において長期間保管されたままとなっていて返納が遅延している事態やその理由について適切に把握していなかった。

(3)第3補給処に返納されたレーダー機器の運用基地への払出しの状況

前記の27年5月末までに第3補給処に返納されていたレーダー機器6品目計328個のうち、27年5月末までに7運用基地に払い出されていたレーダー機器は6品目計278個であった。そして、これらの払出しの状況についてみると、表3のとおり、第3補給処に返納されてから7運用基地への払出しまでに3か月以上要していたものが6品目計118個106億4408万余円見受けられた。

また、上記のレーダー機器6品目計328個のうち、6品目計50個は、27年5月末において、第3補給処から運用基地に払い出されていなかったものであり、これらのうち第3補給処に返納されてから3か月以上経過しているものが、トランスミッタを除く5品目計32個30億4622万余円見受けられた。

上記のとおり、返納されてから運用基地に払い出されることなく第3補給処に3か月以上保管されていたレーダー機器は、6品目計150個136億9031万余円となっており、これらのレーダー機器は要検査物品であるのに、運用基地に払い出されることなく第3補給処において長期間保管されたままとなっている事態となっていると認められる。

表3 第3補給処に返納されたレーダー機器の運用基地への払出し状況

(単位:個、千円)
機器名   第3補給処から7運用基地に払い出されていたもの   第3補給処から運用基地に払い出されていなかったもの 会社から返納されてから運用基地に払い出されることなく第3補給処において3か月以上保管されていたもの
うち返納されてから7運用基地に払い出されるまでの期間が3か月以上   うち返納されてから経過している期間が3か月以上  
うち半年以上   うち半年以上  
うち1年以上 うち1年以上
払出数 払出数(a) 価格(b) 払出数 払出数 保管数 保管数(c) 価格(d) 保管数 保管数 (a+c) 価格(b+d)
トランスミッタ 51 20 2,132,560 16 11 3 0 0 0 20 2,132,560
レシーバ 46 21 913,143 15 9 9 6 260,898 4 0 27 1,174,041
アナログ・プロセッサ 49 21 1,356,831 15 8 6 3 193,833 1 0 24 1,550,664
デジタル・プロセッサ 44 16 3,900,626 10 7 11 8 1,905,136 6 3 24 5,805,762
データ・プロセッサ 47 22 1,727,308 13 7 7 4 314,056 2 1 26 2,041,364
パワー・サプライ 41 18 613,618 13 8 14 11 372,303 9 5 29 985,921
278 118 10,644,086 82 50 50 32 3,046,226 22 9 150 13,690,312

このような状況となっている理由について、第3補給処において確認したところ、(1)のとおり7運用基地においてレーダー機器の不具合等により保有数が恒常的に在庫統制基準を下回っている傾向となっていて、7運用基地全ての在庫統制基準を均等に満たすだけの払出しを行うことができない状況下で、特定の運用基地に払出しを行った場合、当該払出しを受けた運用基地から不具合等が発生した他の運用基地に管理換を行う必要が生じる可能性があり、この際に輸送に時間や費用がかかるなどの理由により、第3補給処において要検査物品を集中的に保管して、実際に不具合等が発生した運用基地に払出しを行うことにしているためであるとしていた。

そこで、7運用基地に払い出された前記のレーダー機器6品目計278個の払出しに係る優先順位を確認したところ、保有数が在庫統制基準を下回っている運用基地において不具合等が発生した際に払出しを行っていたことなどのため、その全てが「至急」以上の取扱いとなっており、特に、そのうち6品目計95個は「緊急」、1品目12個は「特別緊急」の取扱いで払出しが行われていた。

しかし、このように、「至急」以上の優先順位で払出しを行ったとしても、機能検査の結果、要修理品とされて補用部品として使用できない可能性があることを考慮すると、実際に不具合等が発生してから払出しを行うのではなく、運用基地のレーダー機器の保有状況等を踏まえて払出しを行い、機能検査を実施する必要があると認められる。

(2)及び(3)の事態に係るレーダー機器の数量は、重複分を除くと、6品目計256個243億5267万余円となる。

(是正改善を必要とする事態)

運用基地においてレーダー機器の保有数が在庫統制基準に対して下回っている傾向にある状況下で、近代化改修に伴う取外し作業終了後速やかに第3補給処に返納することとされているレーダー機器が会社において長期間保管されたままとなっていて返納が遅延していたり、運用基地において機能検査を実施する必要があるレーダー機器が第3補給処において長期間保管されたままとなっていたりする事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、第3補給処において、レーダー機器の返納についての会社との調整が十分でないこと、レーダー機器が会社に長期間保管されたままとなっていて返納が遅延している事態やその理由について適切に把握していないこと、運用基地のレーダー機器の保有状況等を踏まえて払出しを行い機能検査を実施することの必要性についての理解が十分でないことなどによると認められる。

3 本院が求める是正改善の処置

近年、F―15等による緊急発進(スクランブル)の回数が急増する中、搭載する通信電子機器等については、補給支援の役割が一層重要になってきている。

また、貴自衛隊において、今後も非近代化機の運用を予定しており、レーダー機器については、製造会社による生産が終了していることなどから、近代化改修に伴い取り外されるものを補用部品として使用する必要性は年々高まってきている。

ついては、貴自衛隊において、効率的かつ有効な補給支援が実施できるよう、第3補給処に対して、F―15の近代化改修に伴い今後取り外されるレーダー機器について、会社との調整を十分に行ったり、取外し後の状況を適切に把握したりして速やかに返納させること、及び運用基地のレーダー機器の保有状況等を踏まえて払出しを行い必要な機能検査を実施することについて周知徹底するよう是正改善の処置を求める。