【是正改善の処置を求めたものの全文】
膨張式救命胴衣の整備について
(平成27年10月13日付け 海上自衛隊補給本部長宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴自衛隊は、艦船の洋上任務に従事する隊員が海中に落下するなどした際に、人体を浮揚させて隊員の生命を守るために、各種の艦船用救命胴衣を多数保有している。救命胴衣の型式は、あらかじめ浮力材が装着されている固型式と、気室が膨張して浮力を発揮する膨張式の二つに大別される。固型式の救命胴衣は、艦船の全ての乗組員用に装備され、膨張式の救命胴衣は、特定の任務に従事する乗組員用に装備されている。
そして、膨張式の救命胴衣のうち主なものとしては、①着用者が海中に落下した際に水分に反応して自動的に充気装置が作動することで、炭酸ガスにより膨張する型式、②着用者が作動レバーを引くことで、炭酸ガスにより膨張する型式があり、①の型式は、艦上で回転翼機の整備に従事する整備員等用に、②の型式は、防火、防水活動等の応急対応に従事する隊員用にそれぞれ装備されている(以下、これらを合わせて「膨張式救命胴衣」という。)。
貴本部(平成22年3月31日以前の所管は海上幕僚監部)は、固型式の救命胴衣の整備については、構造が簡易であるため、日常的に外観目視等により製品の状態が良好に維持されていることを確認すればよいとしている。一方、膨張式救命胴衣の整備については、所定の機能を発揮できるよう、製造会社の技術的知見に基づくなどして、型式ごとに制定した技術刊行物(注1)(上記①の型式については4年8月制定、②の型式については6年3月制定)において、確実に実施すべき整備の間隔、方法等の内容を定めている。具体的には、外観上の変質の有無等を確認する目視点検、充気装置のレバーの作動確認、気室の気密性能を確認する漏えい試験等を3か月に1度の間隔で実施すること、実際に充気装置を作動させて膨張性能を確認する膨張試験を1年に1度の間隔で実施することなどとされており、また、これらの整備は、隊員自ら又は外注により実施することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、膨張式救命胴衣が国の物品として所定の機能を発揮できるよう、整備を適切に実施しているかなどの点に着眼して、海上幕僚監部、貴本部及び5地方総監部(注2)において、27年3月31日現在で艦船、造修補給所等(以下「艦船等の部隊」という。)が保有する膨張式救命胴衣計6,477着のうち、初回の整備の実施時期が到来していない311着を除く6,166着(物品管理簿価格計2億5626万円)を対象として、整備の実施状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴本部は、前記のとおり膨張式救命胴衣に係る技術刊行物を制定したものの、そのいずれについても艦船等の部隊に全く配布しておらず、実施すべき整備内容を周知していなかった。
一方、貴本部は、隊員が使用する装備品のうちの37品目について、隊員自らが実施する最小限の点検整備等を周知するため、25年7月に、需品部長名で「隊員の安全確保等に係る需品の点検整備等の徹底について(通知)」(平成25年補本需整第1419号)を発出しており、この37品目には、膨張式救命胴衣も含まれていた。しかし、この通知では、膨張式救命胴衣に係る目視点検、充気装置のレバーの作動確認等については整備を実施すべき項目として規定されていたものの、漏えい試験及び膨張試験については整備を実施すべき項目に含まれていなかった。
この結果、いずれの艦船等の部隊においても、検査対象とした全6,166着について、上記通知の前後を問わず、技術刊行物において実施することとされている漏えい試験及び膨張試験を全く実施していなかった。
なお、貴自衛隊の航空部隊においては、本件の膨張式救命胴衣とは型式の異なる膨張式の救命胴衣を使用しており、貴本部は、これらの救命胴衣については、技術刊行物を各航空基地に配布している。そして、この技術刊行物においても、本件の膨張式救命胴衣と同様に、漏えい試験、膨張試験等を所定の間隔で実施することなどとされており、これを受けて各航空基地においては、隊員自らが必要な整備を実施していた。
以上のことから、膨張式救命胴衣計6,166着(物品管理簿価格計2億5626万円)は、所定の機能が確保されているかどうか十分確認できていない状態となっており、隊員が海中に落下するなどした際に所定の機能が発揮できないおそれがある事態となっていた。
(是正改善を必要とする事態)
膨張式救命胴衣について、技術刊行物に基づく整備が適切に実施されておらず、所定の機能を発揮できないおそれがある事態は、国の物品を良好な状態で管理する上で、ひいては隊員の生命を守る上で適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴本部において、膨張式救命胴衣について、定期的に整備を実施することの重要性についての認識が欠けていて、技術刊行物を艦船等の部隊に対して配布しないままとなっているため、艦船等の部隊が本来実施すべき整備内容を把握することができないことなどによると認められる。
貴自衛隊は、任務の遂行に資するため、膨張式救命胴衣を今後も継続的に使用することが見込まれている。そして、国の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所要の目的に応じて、最も効率的に、これを運用しなければならないとされていることから、膨張式救命胴衣が国の物品として所定の機能を発揮し、隊員の生命を守るという目的を果たすことができるよう、技術刊行物に基づく整備を適切に実施する必要がある。
ついては、貴本部において、艦船等の部隊に対して速やかに実施すべき整備内容を示した技術刊行物を配布して、艦船等の部隊がこれに基づき適切に整備を実施することを指導するよう是正改善の処置を求める。