【是正改善の処置を求めたものの全文】
東日本大震災復興特別会計予算により取得した物品の管理について
(平成27年10月29日付け 防衛大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
物品管理法(昭和31年法律第113号)等によれば、国の物品については、各省各庁の長が物品の取得、保管、供用及び処分(以下、これらを合わせて「管理」という。)を行い、各省各庁の長からその管理に関する事務の委任を受けた職員が物品管理官として当該事務を行うこととされている。そして、物品管理官は、物品管理簿を備えて、その管理する物品の分類及び品目ごとに、物品の増減等の異動数量、現在高その他物品の異動に関する事項等を記録することとされている。
また、各省各庁の長は、国が所有する物品のうち重要なものとして政令で定めるもの(注)(以下「重要物品」という。)について、毎会計年度末の物品管理簿の記録内容に基づいて、物品増減及び現在額報告書(以下「物品報告書」という。)を作成し、翌年度の7月31日までに財務大臣に送付することとされている。そして、財務大臣は、各省各庁の長から送付された物品報告書に基づき、物品増減及び現在額総計算書(以下「総計算書」という。)を作成することとされ、内閣は、総計算書に基づき、毎会計年度間における物品の増減及び毎会計年度末における物品の現在額について、国会に報告することとされている。
貴省は、防衛省所管物品管理取扱規則(平成18年防衛庁訓令第115号。以下「取扱規則」という。)により、物品管理官として指定する官職及び委任する事務の範囲を定めており、陸上、海上、航空各自衛隊(以下「各自衛隊」という。)に属する物品の管理に関する事務については、各自衛隊の幕僚長を物品管理官に指定している。
そして、防衛大臣は、前記のとおり、物品報告書を財務大臣に送付するに当たり、各物品管理官に対して、その管理する重要物品について、毎会計年度間における増減及び毎会計年度末における現在額を、翌年度の6月30日までに報告させることとしている。
この報告を行うに当たり、各自衛隊の物品管理官である各幕僚長は、陸上自衛隊においては陸上自衛隊補給統制本部に、海上自衛隊においては海上自衛隊補給本部に、航空自衛隊においては航空自衛隊補給本部(以下、これらを合わせて「補給統制本部等」という。)に、それぞれ物品報告書を作成するための基礎となる資料(以下「基礎資料」という。)を作成させており、補給統制本部等は、物品管理官の事務の一部を分掌する分任物品管理官(以下、物品管理官と分任物品管理官を合わせて「物品管理官等」という。)から物品管理簿に記録されている重要物品の異動についての資料の提出を受けるなどして基礎資料の作成を行っている。
また、取扱規則によれば、各自衛隊の物品管理官等が備える物品管理簿の様式等は、各幕僚長がそれぞれ別に定めるところによることとされており、これを受けて各幕僚長がそれぞれ様式等を定めている。
東日本大震災復興特別会計(以下「復興特会」という。)は、東日本大震災からの復興に係る国の資金の流れの透明化を図るなどのために、復興事業に関する経理を明確にすることを目的として、平成24年4月に設置されたものである。
復興特会に関する事務は、特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)等に基づき、復興特会全体の計算整理に関するものについては復興大臣が行い、その他のものについては所掌事務の区分に応じて所管大臣が行うこととなっている。
そして、復興特会に係る物品報告書の調製については、復興大臣が、その指定する職員(以下「総括部局長」という。)に行わせることとなっている。また、東日本大震災復興特別会計事務取扱規則(平成24年内閣府・復興庁・総務省・法務省・外務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省・防衛省令第1号)によれば、所管大臣が指定する職員(以下「所管部局長」という。)は、復興特会に係る物品報告書に記載すべき事項を明らかにした書類(以下「復興物品報告書類」という。)を作成し、翌年度の7月15日までに、総括部局長に送付しなければならないこととされており、送付を受けた総括部局長は、これらを取りまとめて復興特会に係る物品報告書を作成し、財務大臣に送付することとされている。
貴省は、東日本大震災により被災して使用することが困難になるなどした車両、通信機器等の代替物品等を復興特会予算により取得している。
そして、24年度以降、これら復興特会予算により取得する物品の取扱いについては、復興庁予算・会計班から「復興費用で取得した物品の帰属する会計について」(平成24年12月3日付け)が発出されており、専ら復興事業に使用するという特別な場合を除き、当該代替物品は各省各庁が法令に定める所掌事務を遂行するために取得するものであるとの考えの下に一般会計へ管理換をして、一般会計で管理することとなっている。このため、復興特会に係る物品報告書においても、復興特会予算により取得する重要物品(以下「復興物品」という。)は、取得時に復興特会に属する物品として一度整理した上で、同一年度内に一般会計へ管理換をすることとなっており、当該重要物品の取得による増と一般会計への管理換による減を両方記載することとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、正確性、合規性等の観点から、物品報告書作成の基礎となる物品管理簿の記録は適切に行われているか、復興物品報告書類の基礎資料の記載は復興物品の取得等の状況を正確に反映したものとなっているかなどに着眼して、24、25両年度に各自衛隊が取得した復興物品4,175個(取得価格計672億6482万余円)及び技術研究本部が取得した復興物品4個(取得価格計29億6940万円)を対象に、貴省内部部局、陸上、海上、航空各幕僚監部、補給統制本部等及び技術研究本部において、復興物品に係る物品管理簿の記録を確認したり、担当者から復興物品報告書類の作成の状況等を聴取したりするなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴省は、24年4月に復興特会が設置される以前は、一般会計のみを所管していた。そして、各自衛隊においては、復興特会が設置された24年4月以降、復興特会に係る物品管理簿を新たに備えたり、物品管理簿の様式等を変更したりするなど、復興特会予算により取得した物品と一般会計予算により取得した物品を区別して記録する仕組みが設けられていなかった。
このため、各自衛隊の物品管理簿には、一般会計予算により取得した物品と復興特会予算により取得した物品とが区別されることなく記録されるなどしていて、各自衛隊が24、25両年度に取得した復興物品(表1参照)については、物品管理簿の記録の内容に基づいて、復興物品報告書類の基礎資料を作成することができない状況となっていた。
組織 | 年度 | 数量(個) | 価格(円) |
---|---|---|---|
陸上自衛隊 | 24 | 1,892 | 24,821,283,330 |
25 | 1,634 | 16,874,024,379 | |
陸上自衛隊計 | 3,526 | 41,695,307,709 | |
海上自衛隊 | 24 | 254 | 3,706,940,998 |
25 | 23 | 7,936,971,718 | |
海上自衛隊計 | 277 | 11,643,912,716 | |
航空自衛隊 | 24 | 296 | 5,156,729,840 |
25 | 76 | 8,768,874,536 | |
航空自衛隊計 | 372 | 13,925,604,376 | |
総計 | 4,175 | 67,264,824,801 |
貴省内部部局は、復興物品について、一般会計に係る物品報告書を作成する際と同様に、各幕僚長が補給統制本部等に作成させた基礎資料に基づき、復興物品の毎会計年度間における増減及び毎会計年度末における現在額を、所管部局長である経理装備局会計課長(27年10月1日以降は大臣官房会計課長)に報告させるなどして復興物品報告書類を作成している。
復興物品報告書類は、物品報告書と同様に物品管理簿の記録の内容に基づいて作成する必要がある。しかし、補給統制本部等は、前記のとおり、物品管理簿の記録の内容に基づいて復興物品報告書類の基礎資料を作成することができない状況となっていたことから、報告対象期間に取得した重要物品に係る契約書を個別に確認して、報告対象となる重要物品を特定する作業を行った上で、重要物品の増減等を集計する方法により作成していた。補給統制本部等は、この重要物品を特定する作業を行った際に、報告対象である復興物品を見落としており、復興物品報告書類の基礎資料には、計上すべき一部の復興物品の増減が計上漏れとなっていた。
そして、各幕僚長は、上記の誤った基礎資料を基に、所管部局長である経理装備局会計課長に復興物品の増減等を報告しており、同課長はこの誤った報告に基づいて復興物品報告書類を作成して、総括部局長に送付していた。
この結果、24、25両年度の復興特会に係る物品報告書における貴省所管分の記載については、表2のとおり、各自衛隊が取得した復興物品計4,175個のうち、計2,437個(計168億2216万余円)の復興物品に係る増減が記載されていなかった。
表2 各自衛隊が取得した復興物品のうち復興特会に係る物品報告書に増減が記載されていなかった復興物品
平成24年度 | |||
---|---|---|---|
組織 | 品名 | 数量(個) | 価格(円) |
陸上自衛隊 | 演習場整備器材VIII型(クラッシャ) | 4 | 129,150,000 |
広帯域多目的無線機(携帯用) | 4 | 26,600,000 | |
広帯域多目的無線機(車両用) | 819 | 5,153,250,000 | |
広帯域多目的無線機(機上用) | 16 | 240,160,000 | |
LR―2用急患空輸用リフター | 2 | 7,833,000 | |
陸上自衛隊 平成24年度計 | 845 | 5,556,993,000 | |
海上自衛隊 | NLRN―9()計器着陸装置 | 1 | 270,900,000 |
ウォータージェット装置 | 1 | 112,455,000 | |
海上自衛隊 平成24年度計 | 2 | 383,355,000 | |
航空自衛隊 | ユーティリティ整備車 | 1 | 1,875,300 |
ホイールクレーン | 1 | 51,922,500 | |
航空自衛隊 平成24年度計 | 2 | 53,797,800 | |
平成24年度総計 | 849 | 5,994,145,800 | |
平成25年度 | |||
組織 | 品名 | 数量(個) | 価格(円) |
陸上自衛隊 | 野外通信システム | 1,515 | 9,343,780,000 |
野外通信システム | 72 | 1,080,720,000 | |
航空気象装置 JMMQ―M7 | 1 | 403,515,000 | |
平成25年度総計 | 1,588 | 10,828,015,000 |
なお、上記に加えて、復興特会に係る物品報告書における貴省所管分の記載について、陸上自衛隊が24年度に一般会計予算により取得した重要物品計2個(計6510万円)の増減が誤って記載されており、また、技術研究本部が25年度に取得した復興物品1個(2億5200万円)の増減が記載されていなかった。
そして、これらの誤びゅうについては、貴省が総括部局長に送付した26年度の復興物品報告書類において調整され、これにより、総括部局長から財務大臣に送付された26年度の復興特会に係る物品報告書において調整されている。
(是正改善を必要とする事態)
各自衛隊において、物品管理簿に一般会計予算により取得した物品と復興特会予算により取得した物品を区別することなく記録していて、物品管理簿の記録の内容に基づいて復興物品報告書類の基礎資料を作成することができない状況となっている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
物品管理簿は、国の物品を管理するための基本的な帳簿であり、物品報告書は、物品管理簿の記録の内容に基づいて作成するものとされている。そして、総計算書は物品報告書に基づき作成されており、総計算書に基づき毎会計年度間における重要物品の増減等を国会に報告することは、国民に対して重要物品の異動の状況等を明らかにするという性格を有するものとなっている。また、物品報告書等の計数に基づいて特別会計財務書類が作成されており、同書類は、内閣から国会に提出されるとともに、インターネット等の方法により国民に開示されている。このように、国の物品について、物品管理法等に基づき、適切に物品管理簿に記録するとともに、その記録の内容に基づいて正確な物品報告書を作成することは、極めて重要である。
ついては、貴省において、復興特会予算により取得する物品について、物品管理簿への記録を適切に行うとともに、復興物品報告書類の基礎資料の記載が重要物品の異動の状況等を正確に反映したものとなるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。