【改善の処置を要求したものの全文】
駐留軍等労働者の給与に係る返納金債権の発生の抑止と円滑な回収について
(平成27年10月29日付け 防衛大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(昭和35年条約第7号)に基づき、我が国に駐留するアメリカ合衆国軍隊等(以下「駐留軍等」という。)に必要な労働力を提供するために、駐留軍等のために労務に服する者(以下「駐留軍等労働者」という。)を雇用している。
そして、駐留軍等労働者の給与については、基本給、時間外勤務給、扶養手当、通勤手当、住居手当、退職手当等の給与の支払に要する経費の全部又は一部を我が国が国費で負担することとなっており、当該会計年度の前々年度以前3会計年度の年平均駐留軍等労働者数の平均を限度として算定した労働者数分を、我が国が負担する分として前渡資金から駐留軍等労働者に対して支払っている。
また、上記の労働者数を上回って雇用された駐留軍等労働者の給与については駐留軍等が負担することとなるが、貴省は、特別調達資金設置令(昭和26年政令第205号)等に基づき特別調達資金を設置して、駐留軍等から代価の支払を受けるまでの間、一時的に駐留軍等に代わって特別調達資金から駐留軍等労働者に対してこれを支払っている。
これらの前渡資金及び特別調達資金からの給与の支払については、それぞれ地方防衛局等に設置された資金前渡官吏及び資金出納官吏が行っている。
駐留軍等労働者の給与に関する業務については、貴省が行うこととなっている給与の額の決定及びその支払を除き、独立行政法人駐留軍等労働者労務管理機構(以下「機構」という。)が独立行政法人駐留軍等労働者労務管理機構業務方法書(平成14年内閣総理大臣認可)に基づき、扶養手当、通勤手当、住居手当等(以下、これらを合わせて「扶養手当等」という。)に係る届出の受理及び給与の計算を行うこととなっている。そして、機構の各支部においては、給与に関する業務として、上記のほか駐留軍等労働者の給与の支払手続の周知等の業務も行っている。
機構は、これらの業務を含む業務方法書で定められた業務全般について、貴省等の関係機関と緊密な連携を保ち、適正かつ効率的に運営することとなっている。
貴省及び機構が行う駐留軍等労働者に対する給与の支払手続については、①支払の基礎となる駐留軍等労働者の勤怠情報を駐留軍等が管理していることから、駐留軍等が、駐留軍等労働者の個人別の支給職種、対象号俸、超過勤務時間、休暇等を記録した稼働記録を作成し、②機構の支部が、稼働記録に基づき駐留軍等労働者の個人別の給与計算を行い、給与支払表等を作成し、③地方防衛局等が、稼働記録と給与支払表に基づき支払決議の手続を行い、駐留軍等労働者に給与を支払うこととなっている。
また、駐留軍等労働者に対する扶養手当等の認定等については、機構の支部が駐留軍等労働者から扶養親族届、通勤届、住居届等の書類の提出を受けて、申請された内容と添付書類の内容を確認し、地方防衛局等が認定に関する決裁手続を行うことになっている。なお、機構の支部は、駐留軍等労働者に対する扶養手当等について、年に1回申請内容についての確認を行っているが、変更事由が発生した場合は、適時に駐留軍等労働者本人が機構の支部に変更申請を行うように駐留軍等労働者に対して周知を行っている。
駐留軍等が、駐留軍等労働者から誤った内容の申告を受けるなどして稼働記録を作成した場合には、機構の支部における基本給等の計算や、地方防衛局等における駐留軍等労働者に対する給与の支払も誤った内容により行われることになる。そして、駐留軍等が給与の支払後に稼働記録の誤りを発見して稼働記録の訂正を行った場合、これを受けて機構の支部は駐留軍等労働者に対する給与の過払いなどを把握することになる。
また、駐留軍等労働者において、扶養手当等の変更事由が発生した際に、これらの手続を行う必要があることを失念していたり、必要となる書類を添付していなかったりなどして、扶養手当等の変更に伴う申請が遅延したなどの場合、扶養手当等の過払いなどが生ずることになる。そして、機構の支部は年1回の確認等に伴い、扶養手当等の変更に伴う申請が行われた際に駐留軍等労働者に対する給与の過払いなどを把握することになる。
そして、機構の支部は、駐留軍等労働者に対する給与の過払いを把握した際には、当該駐留軍等労働者に対して過払いが発生した旨の連絡を行い、翌月の給与において調整すること(以下「翌月調整」という。)の合意を得て調整することにしており、翌月調整ができなかった場合には、過払額を計算した結果を作成して、地方防衛局等に対して、給与の過払いによる返納金に係る債権(以下「返納金債権」という。)が発生した旨の通知を行うことになっている。
貴省は、国の債権の管理等に関する法律(昭和31年法律第114号。以下「債権管理法」という。)等に基づき債権の管理に関する事務を行っている。地方防衛局等において、前渡資金から支払った給与に係る返納金債権で、給与支給日の属する年度に発生したものについては地方防衛局等に設置された資金前渡官吏が管理に関する事務を行っており、当該年度に収納できなかったものについては地方防衛局に設置された歳入徴収官が資金前渡官吏から当該返納金債権を引き継ぐなどしてその管理に関する事務を行っている。
また、特別調達資金から支払った給与に係る返納金債権の管理に関する事務については、特別調達資金債権管理事務取扱規則(昭和33年大蔵省令第45号)等に基づき、地方防衛局に設置された特別調達資金債権管理職員が行っている。
そして、地方防衛局等は、前渡資金及び特別調達資金から駐留軍等労働者に支払った給与の過払額を返納金債権として管理することとなった場合、債権発生通知書、債権管理簿及び納付書を作成することとなっている。これらのうち納付書は、当該駐留軍等労働者に送付されるもので、納付書を受領した当該駐留軍等労働者は債務者として告知を受けた金額を納付しなければならないこととなっている。
なお、貴省は、貴省の職員に対して支払った給与に係る返納金債権については、債権管理法等に基づき、資金前渡官吏が、その支払った日の属する年度内において、一括又は複数月にわたって当該職員に対して支払うべき給与から控除して徴するなどして回収を行っている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、駐留軍等労働者の給与に係る返納金債権の発生の抑止や円滑な回収が図られているかなどに着眼して、内部部局、4防衛局(注1)及び機構において会計実地検査を行った。
検査に当たっては、個別の債権の発生状況や回収状況を検査する必要があることから、内部部局及び4防衛局において、25年度末までに発生した駐留軍等労働者の給与に係る返納金債権で歳入徴収官等が資金前渡官吏から引き継ぐなどして26年度に管理している返納金債権(323件、平成25年度末の現在額計1989万余円。このうち前渡資金に係る返納金債権は207件、計1800万余円、特別調達資金に係る返納金債権は116件、計188万余円。表参照)を対象として、これらに係る債権管理計算書及び債権管理簿を確認したり、債権の内容について説明を聴取したりするなどの方法により検査した。
表 平成25年度末現在における防衛局ごとの駐留軍等労働者の返納金債権の状況
区分 | 防衛局名 | 件数 | 平成25年度末現在額 |
---|---|---|---|
前渡資金 | 北関東防衛局 | 27件 | 2,176千円 |
南関東防衛局 | 49件 | 4,644千円 | |
九州防衛局 | 4件 | 1,730千円 | |
沖縄防衛局 | 127件 | 9,456千円 | |
小計 | 207件 | 18,007千円 | |
特別調達資金 | 北関東防衛局 | 2件 | 64千円 |
南関東防衛局 | 33件 | 663千円 | |
九州防衛局 | 1件 | 62千円 | |
沖縄防衛局 | 80件 | 1,096千円 | |
小計 | 116件 | 1,887千円 | |
計 | 323件 | 19,894千円 |
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
25年度末現在の駐留軍等労働者の給与に係る返納金債権323件、計1989万余円のうち、過年度に発生した返納金債権で25年度末までに回収されなかった返納金債権が288件、計1836万余円、25年度に発生した返納金債権で当該年度中に回収されなかった返納金債権が35件、計153万余円となっていた。
そして、返納金債権の発生事由については、駐留軍等において駐留軍等労働者からの誤った内容の申告に基づくなどして稼働記録が作成されたことにより発生した過払いについて、翌月調整ができなかったことによるもの(25年度末現在で42件、計210万余円)や、扶養手当等の変更事由が発生した際の当該駐留軍等労働者からの変更申請の遅延等により発生した過払いについて、翌月調整ができなかったことによるもの(同264件、計1752万余円)などとなっていた。
地方防衛局等は、駐留軍等労働者に対する給与の過払額のうち翌月調整ができなかったものについて機構の支部から通知を受けた時点で、返納金債権の発生を認識することになるが、機構の支部から駐留軍等労働者に対して過払いが発生した旨の連絡が行われてから、翌月調整ができずに返納金債権が発生するに至るまでの地方防衛局等における対応をみたところ、次のとおりとなっていた。
2防衛局の3防衛事務所(注2)の資金前渡官吏等においては、給与の過払いが発生した際に、機構の支部と連携して、機構の支部が当該駐留軍等労働者に対して、過払いの発生事由や、翌月調整を行うこと、翌月調整ができなかった場合に地方防衛局等から今後の手続に関する通知が届くことなどについて十分な説明を行うことなどにより、返納金債権の発生を抑止し、返納金債権が発生した場合でも円滑な回収を行っている例が見受けられた。
一方、3防衛局の3防衛事務所等(注3)の資金前渡官吏等においては、機構の支部が、返納金債権の発生の抑止のために、給与の過払いが発生した際に当該駐留軍等労働者に対して過払いの発生事由、返納の手続等について十分な説明を行っているかなどを把握していなかった。
また、駐留軍等労働者が返納に応じない理由として、一括による返納が困難であるとしている場合があるにもかかわらず、地方防衛局等において、貴省職員の給与に係る返納金債権の取扱いを参考にするなどして、資金前渡官吏等が複数月にわたって当該駐留軍等労働者に対して支払う給与から控除して徴収するなどの返納金債権をより円滑に回収するための制度等を整備することについて十分に検討していなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
南関東防衛局における返納金債権の平成25年度末現在額は、82件、計530万余円となっており、このうち横須賀防衛事務所において発生した返納金債権は、81件、計528万余円(うち前渡資金に係る返納金債権49件、計464万余円、特別調達資金に係る返納金債権32件、計63万余円)となっていた。
このことについて、南関東防衛局は、駐留軍等労働者に対する給与の過払いが発生した際に、機構の横須賀支部が駐留軍等労働者に対して、過払いの発生事由、返納の手続等について十分な説明を行っておらず、翌月調整できずに債権が発生し、横須賀防衛事務所が当該駐留軍等労働者に納付書を送付したものの、これを受け取った当該駐留軍等労働者は、債権の発生事由や返納の手続きが分からないなどとして返納に応じていないことによるとしている。
しかし、南関東防衛局は、座間防衛事務所では、給与の過払いが発生した際に、機構の座間支部が当該駐留軍等労働者に対して十分な説明を行うことにより、債権の発生の抑止と円滑な回収を図っていることを把握していたが、横須賀防衛事務所への周知が十分でなく、また、横須賀防衛事務所は、機構の横須賀支部との間で、当該駐留軍等労働者に対する過払いの発生に伴う説明状況等に関して情報の共有を十分に行っていなかった。
(改善を必要とする事態)
貴省において、給与の過払いが発生した際に機構の支部が駐留軍等労働者に対して過払いの発生事由、返納の手続等について十分な説明を行っているかなどを把握していなかったり、返納金債権をより円滑に回収するための制度等を整備することについて十分に検討していなかったりしていて、給与の過払額が当該駐留軍等労働者から返納されずに返納金債権として管理されている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
貴省においては、今後も駐留軍等労働者に対する給与の支払に当たって、駐留軍等や駐留軍等労働者における手続の遅延等に伴い、給与の過払いが生ずることが見込まれ、返納金債権が発生した場合には、当該債権の管理を行うことになる。
ついては、貴省において、駐留軍等労働者の給与に係る返納金債権の発生の抑止と円滑な回収に資するよう、次のとおり改善の処置を要求する。