防衛省は、東日本大震災への対応に当たり、同大震災発生時に一時的に停電となり駐屯地や基地等の機能が低下したことなどを踏まえて、今後の震災等の災害への対応能力の強化に資することなどを目的として、平成23年度第3次補正予算(以下「震災補正予算」という。)により、陸上自衛隊の71駐屯地(分屯地を含む。以下同じ。)に非常用発電機室を新設するなどして、非常用電源施設を整備している。
防衛省における自衛隊の施設の取得等に関する訓令(平成19年防衛省訓令第66号。以下「取得訓令」という。)等によれば、工事により施設を取得する場合、整備要求元は、建設工事の実施に関する事務を所掌する装備施設本部(平成27年10月1日以降は内部部局。以下同じ。)と協議した上で、基本計画書を作成し、基本計画の承認に関する事務を所掌する内部部局の審査を受けるなどして防衛大臣の承認を受けることとされている。
前記非常用電源施設の整備に当たっては、整備要求元の陸上自衛隊が、23年11月に当該整備に係る基本計画書について防衛大臣の承認を受けている。
そして、この承認を受けて、整備工事を担当する8防衛局等(注)は、取得訓令に基づき陸上自衛隊と連絡調整を行うなどして、工事の実施に必要な実施計画書を作成するとともに、陸上自衛隊から示された各駐屯地における非常用発電機の電力供給の対象とする施設(以下「電力供給対象施設」という。)の選定結果等を踏まえて、国庫債務負担行為等により23年度から26年度までの間に契約件数30件、契約金額計126億4024万余円(うち非常用電源施設に係る契約金額相当額102億5687万余円)で各駐屯地に非常用発電機の設置等を行う工事を実施している。
防衛省は、防衛施設として必要な性能の確保を図ることを目的として、自衛隊施設の性能に関する基本的事項を定めた「自衛隊施設の基本的性能基準について」(平成15年防官施第1959号。以下「基本的性能基準」という。)に基づき、施設の重要度等を勘案して自衛隊施設を分類して、この分類(以下「施設分類」という。)に応じた整備水準で工事を実施している。
また、自衛隊施設の耐震安全性に関する施設分類は、「官庁施設の総合耐震計画基準」(平成8年建設省計発第100号建設事務次官決定)に定められた耐震安全性の分類と同様に、機能確保の程度に応じて、構造体(壁、柱等)をI類、II類又はIII類、建築非構造部材(天井材、外壁、建具等)をA類又はB類、建築設備(電力供給設備、空気調和設備等)を甲類又は乙類に分類した上で、これらの分類を組み合わせて、大地震動後に求められる自衛隊施設としての機能確保の程度が高い施設から順に、①IA甲施設、②IIA甲施設、③IIA乙施設、④IIB乙施設及び⑤IIIB乙施設の5種類となっている。
そして、上記施設分類のうち、IA甲施設及びIIA甲施設の中には司令部庁舎等が、また、IIB乙施設及びIIIB乙施設の中には浴場、厚生施設等がそれぞれ含まれている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、効率性等の観点から、震災補正予算により整備された非常用電源施設について、既存自衛隊施設の重要度等を考慮して電力供給対象施設が選定されているかなどに着眼して、前記の8防衛局等が71駐屯地で実施した非常用発電機の設置等を行う工事を対象として検査した。検査に当たっては、内部部局、装備施設本部、陸上幕僚監部、8防衛局等において、基本計画書、契約関係書類、設計図書等を確認したり、部隊要望資料、既存自衛隊施設の耐震安全性に関する施設分類等に係る調書を徴取したりするとともに、40駐屯地において、現地の状況等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、耐震安全性に関する施設分類は、大地震動後に求められる自衛隊施設としての機能確保の程度に応じて分類されている。
しかし、自衛隊施設の整備を担当する装備施設本部及び内部部局は、本件非常用電源施設の整備に係る基本計画書について、陸上自衛隊と協議する際や審査を行う際に、電力供給対象施設に選定された既存自衛隊施設の耐震安全性に関する施設分類等を確認していなかった。また、整備工事を担当する8防衛局等も、実施計画書の作成等の過程において、陸上自衛隊から示された電力供給対象施設の耐震安全性に関する施設分類等を十分に把握していなかった。
これらのことから、71駐屯地に27年1月1日時点で存在する自衛隊施設(延床面積200m2以上(木造は同500m2以上))1,905棟について、耐震安全性に関する施設分類別に非常用電源への対応状況をみると、表のとおり、本件整備工事で電力供給対象施設に選定されたのは466棟(全体に占める割合24.5%)となっていた。このうち、司令部庁舎等の大地震動後に求められる自衛隊施設としての機能確保の程度が高いIA甲施設及びIIA甲施設は205棟(同10.8%)となっており、浴場、厚生施設等のIIB乙施設及びIIIB乙施設は195棟(同10.2%)となっていた。一方、本件整備工事後も非常用電源に対応していない施設は1,371棟(同72.0%)となっており、このうち航空機の格納庫等のIA甲施設は342棟(同18.0%)となっていた。
耐震安全性に関する施設分類 | 非常用電源に対応している施設 | 非常用電源に対応していない施設 | 計 | ||
---|---|---|---|---|---|
(A) | うち、本件整備工事の電力供給対象施設 | ||||
(B) | (C) | (D)=(A)+(C) | |||
棟 | 棟 | 棟 | 棟 | ||
IA甲施設及びIIA甲施設 | 256 | 205 | 410 | 666 | |
IA甲施設 | 189 | 140 | 342 | 531 | |
IIA甲施設 | 67 | 65 | 68 | 135 | |
IIA乙施設 | 72 | 66 | 149 | 221 | |
IIB乙施設及びIIIB乙施設 | 206 | 195 | 812 | 1,018 | |
IIB乙施設 | 150 | 140 | 694 | 844 | |
IIIB乙施設 | 56 | 55 | 118 | 174 | |
計 | 534 | 466 | 1,371 | 1,905 |
また、駐屯地ごとにみると、一部の駐屯地においては、IA甲施設及びIIA甲施設を電力供給対象施設として選定していない一方で、IIB乙施設及びIIIB乙施設を選定している状況となっていた。
このように、災害時における駐屯地等の機能強化を図るための非常用電源施設の整備及び電力供給対象施設の選定に当たり、既存自衛隊施設の耐震安全性に関する施設分類等の情報を十分に把握していなかった事態は、限られた予算でより効率的な施設整備を実施する必要性があることなどを踏まえると適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、防衛省において、部隊運用を担う整備要求元の陸上自衛隊と自衛隊施設の整備を担当する内部部局等との間で行われる非常用電源施設の整備に係る協議等の際に、基本的性能基準に基づく既存自衛隊施設ごとの耐震安全性に関する施設分類等の情報を確実に把握するなどして電力供給対象施設を選定することの重要性に対する理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、防衛省は、災害対処に係る非常用電源施設の整備をより効率的に実施するために、27年10月に基本的性能基準等を改正して、既存自衛隊施設の耐震安全性に関する施設分類等に関する情報を記載する様式を定めるとともに、これを基本計画の承認を受ける際に添付させることとして、既存自衛隊施設ごとの基本的性能基準に基づく重要度等を把握して、電力供給対象施設の選定に活用する処置を講じた。