海上自衛隊は、回転翼機及び救難飛行艇が不時着水して機体が水没した場合に、搭乗員が機体から脱出して海面上に浮上するまでの2分から6分程度の間、空気を供給して搭乗員の生命を守るための救命器材である緊急脱出用呼吸装置(以下「呼吸装置」という。)を9航空基地(注1)において多数保有している。
呼吸装置は、タンク、バルブ、減圧器、ホース、マウスピース等の部品から構成されており、タンクに高圧で充填されている空気をバルブを開いて解放して、減圧器により減圧した後、ホースとマウスピースを通じて搭乗員に供給する仕組みとなっている。また、これらの部品の接続部等には、呼吸装置への水等の流入を防止したり、呼吸装置から空気が漏れないよう密封したりするために、ゴム製の円形リング(以下「Oリング」という。)が取り付けられている。
呼吸装置は、海上自衛隊補給本部(以下「補給本部」という。)が装備施設本部(平成27年10月1日以降は防衛装備庁)に対して調達要求を行い、装備施設本部が購入契約を締結することにより調達されており、これまでは、双信商事株式会社製又はイヨンインターナショナル株式会社製の呼吸装置(以下、双信商事株式会社製の呼吸装置を「A型呼吸装置」、イヨンインターナショナル株式会社製の呼吸装置を「B型呼吸装置」という。)のいずれかが調達されている。
補給本部は、A型呼吸装置及びB型呼吸装置のそれぞれについて、製造会社の技術的知見や、タンクの取扱いなどに関する高圧ガス保安法(昭和26年法律第204号)等の規定を踏まえるなどして技術刊行物(注2)を制定しており、その中で、呼吸装置が所定の機能を発揮する上で必要とされる整備に関する事項を定めている。
そして、技術刊行物によれば、次のような整備を所定の周期ごとに実施することとされており(以下、これらの整備を「定期整備」という。)、呼吸装置を保有する9航空基地においては、定期整備をいずれも外注により実施している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
海上自衛隊は、呼吸装置を今後も継続的に使用することとしており、その所定の機能を発揮できるよう、定期整備を適切に実施する必要がある。
そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、呼吸装置が国の物品として所定の機能を発揮できるよう、定期整備を適切に実施しているかなどに着眼して、海上幕僚監部、補給本部及び9航空基地において、9航空基地が27年3月31日現在で保有する呼吸装置計2,727本のうち、近年調達されたものであって初回の定期整備の実施時期が到来していない852本を除く1,875本(物品管理簿価格計2億0688万余円)を対象として、定期整備に係る契約関係書類、検査成績書等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、27年3月31日現在において、所定の周期を経過しているにもかかわらず定期整備を実施していなかったものが見受けられ、このうち、外注に係る契約の準備期間等を考慮してもなお適切とは認められない、所定の周期を3か月以上経過しているものが、次のア及びイのとおり、5航空基地(注3)が保有する呼吸装置計606本(物品管理簿価格計6335万余円)について見受けられた。
3航空基地(注4)が保有する呼吸装置計345本(物品管理簿価格計4633万余円)
4航空基地(注5)が保有する呼吸装置計261本(物品管理簿価格計1702万余円)
補給本部は、上記606本の呼吸装置について、不測の事態等に備えるための保管用として通常時に使用することのないよう明確に区分して管理していたのであれば、必ずしも定期整備を実施していなくても支障はないとしていた。しかし、上記606本の使用状況についてみたところ、所定の周期を経過してからも使用を継続していたことが推定されるものが混在していて、明確な区分がなされていたとは認められない状況となっていた。
このように、呼吸装置について、定期整備を適切に実施しておらず、所定の機能を発揮できないおそれがあった事態は、国の物品を良好な状態で管理する上で、ひいては隊員の生命を守る上で適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、補給本部は、通常時に使用する呼吸装置と不測の事態等に備えるための保管用の呼吸装置とを明確に区分して管理するための方針を定めた上で、27年8月に航空基地に対して通知を発して、保有する呼吸装置を当該方針に基づき区分した上で、定期整備を適切に実施していなかった呼吸装置のうち通常時に使用するものについては速やかに整備を実施するよう指導するとともに、定期整備を適切に実施することの重要性について改めて周知して、以降も確実に実施するよう指導する処置を講じた。
(参考図)
呼吸装置概念図