株式会社日本政策金融公庫(以下「公庫」という。)は、株式会社日本政策金融公庫法(平成19年法律第57号)に基づき、平成20年10月に旧国民生活金融公庫、旧農林漁業金融公庫、旧中小企業金融公庫(以下、これらを「旧公庫」という。)等が統合して、旧公庫等の一切の権利及び義務を承継して設立した。そして、旧公庫の業務を承継した国民生活事業、農林水産事業及び中小企業事業(以下、これらを合わせて「3事業」という。)において、それぞれ貸付業務等を行っている。
13年5月に、利用者が、固定電話の通話・通信料(以下「通話料」という。)について、「市内通話・通信」「県内市外通話・通信」「県外通話・通信」等の通話区分ごとに電気通信事業者をあらかじめ選んで登録(以下「マイライン登録」といい、登録した電気通信事業者を「マイライン登録先」という。)することが可能な電気通信事業者選択サービス(以下「マイラインサービス」という。)が開始された。そして、マイラインサービスに係る通話料については、電気通信事業者によって各種の割引制度が設定されており、その一つとして、全ての通話区分のマイライン登録先を当該電気通信事業者にした場合に適用される割安な料金が設定されている。また、多数の電話回線をまとめて契約すると電気通信事業者が公表している料金よりも割安に提供される場合がある。
旧公庫はそれぞれ、マイラインサービスの開始を受けて、各支店においてマイライン登録を行っていた。そして、公庫は、本店の固定電話については、24年11月に本店を移転する際に一般競争契約によりIP電話サービス契約を締結する一方、支店の固定電話については、公庫の設立後も、3事業において旧公庫がそれぞれ行ったマイライン登録をそのまま継続するなどしている。公庫の各支店は、支店の各事業のマイラインサービスに係る通話料に、固定電話から携帯電話、IP電話等への通話料及び固定電話に係る東日本電信電話株式会社又は西日本電信電話株式会社に対する回線使用料等を加えた料金(以下「電話料金」という。)について、各電気通信事業者から送付された各事業に係る請求書を確認して、支払を行っている。そして、全152支店における25年度の電話料金の支払額は、3事業で計3億2790万余円となっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、公庫の固定電話に係る電話料金の節減が図られているかなどに着眼して、全支店における上記の支払額を対象として、本店及び8支店(注)において、各電気通信事業者からの請求書等を確認したり、マイライン登録先の選定や請求内容の把握状況等について担当者から説明を聴取したりするなどして会計実地検査を行うとともに、本店から残りの支店に係る関係資料の提出を受けるなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
26年9月時点の全支店のマイライン登録先をみると、144支店において各通話区分のマイライン登録先が統一されていない状況となっていた。
しかし、各通話区分のマイライン登録先を一つの電気通信事業者に統一していれば割安な電話料金が適用できたことになり、さらに、26年9月時点の公庫の支店の電話回線数は計2,893回線と多数であることから、本店において一括して全支店分の契約を一般競争契約により行えば、競争の利益を享受して、より経済的な契約が可能になると見込まれた。
また、本店は、各支店の毎月の電話料金の支払額については把握しているものの、より経済的な契約を行うための検討に必要な情報である電話回線ごとの通話区分別通話料、通話区分別通話時間等については把握していなかった。
このように、144支店の各通話区分のマイライン登録先が統一されていない状況となっていたり、本店において支店の通話区分別通話料、通話区分別通話時間等について把握することとなっていなかったりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた電話料金の支払額)
各電気通信事業者への電話料金の支払実績等から公庫が推定した固定電話のマイライン登録先に係る25年度の通話の状況を基に、本院が、全支店の各通話区分のマイライン登録先を一つの電気通信事業者に統一した場合に適用される割引を適用したと仮定して通話料を試算したところ、25年度の電話料金の支払額は2億9804万余円となり、前記の支払額3億2790万余円と比べて2986万余円が節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、公庫において、旧公庫がそれぞれ締結した契約をそのまま継続するなどしていて、電話料金の節減を図るための検討が十分に行われていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、公庫は、全支店の各通話区分のマイライン登録先を統一することとして、27年5月に、本店において一括して一般競争契約を行うとともに、今後に向けてより経済的な契約を行うための検討に必要な情報である電話回線ごとの通話区分別通話料、通話区分別通話時間等を本店において継続的に把握して管理することとするなどの処置を講じた。