全国健康保険協会(以下「協会」という。)は、平成20年10月1日に、社会保険庁から健康保険法(大正11年法律第70号)に基づく政府管掌健康保険事業を継承して、保険者として健康保険事業を運営しており、社会保険の被保険者等から提出される健康保険療養費支給申請書等の文書を多く保有していて、各文書の保存年限等を定めた文書管理規程に基づいて当該文書を保管している。
そして、協会本部及び47支部のうち、全ての文書を事務所内で保管している9支部を除く本部及び38支部においては、事務所内に収納できない文書について、業者との間で、文書を保管するための保管庫の賃貸借契約(以下「保管庫賃貸借契約」という。)や、文書の保管等を業者に委託する契約(以下「文書保管委託契約」という。)を締結して、保存年限が満了するまで外部で保管している。
協会において保管庫賃貸借契約を締結する場合には、事務所内に保管できない文書をダンボール箱等に収納して保管することとして、賃貸借期間内に見込まれる最大保管数量を基に保管庫の必要面積を算出し、その面積が確保できる保管庫を選択する。そして、同規模の他の保管庫と賃借料、利便性等の条件について比較検討を行った上で最適であるとされた場合、当該保管庫を所有する業者と随意契約により契約を締結している。
一方、文書保管委託契約を締結する場合には、事務所内に保管できない文書をダンボール箱に収納して、当該ダンボール箱の保管、運搬等を業者に委託することとなり、保管料、運搬費等はそれぞれの単価に実際に保管、運搬等を行った箱数を乗じて算出される。
全国健康保険協会会計規程(平成20年規程第38号)及び全国健康保険協会会計細則(平成21年細則第4号)(以下、これらを合わせて「会計規程等」という。)によれば、売買、賃借、請負その他の契約を締結する場合においては、一般競争に付さなければならないとされている。しかし、当該契約の性質又は目的が競争を許さない場合、競争に付することが不利と認められる場合等には、随意契約によることができるとされている。また、上記のほか、契約金額が少額である場合その他特別の必要があると認められる場合として、運送又は保管をさせるときなどには、随意契約によることができるとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、文書の保管に係る費用の節減が図られているかなどに着眼して、本部及び5支部が予定価格が少額であることを理由として随意契約により締結していた契約を除く、33支部における保管庫賃貸借契約38件、文書保管委託契約18件計56件(25、26両年度分支払額計2億2688万余円)を対象として、20支部において、契約書、仕様書等を確認したり、本部において、会計規程等について説明を聴取したりして会計実地検査を行うとともに、13支部に調書の作成及び提出を求めるなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
33支部のうち、22支部は、保管庫賃貸借契約38件(25、26両年度分支払額計1億4459万余円)について、従前から賃借していた保管庫が、利便性、倉庫スペース、賃借料等において、借上げ物件としては最適であることから、契約の性質が競争を許さない場合に該当するなどとして、従前の契約を更新するなどして随意契約により締結していた。
そして、上記22支部のうち5支部(注1)は、保管庫賃貸借契約を締結するに当たり、費用等について文書保管委託契約との比較検討を行った上で保管庫を選定していたものの、他の17支部(注2)は、比較検討を行っていなかった。
そこで、当該17支部が締結していた保管庫賃貸借契約29件(25、26両年度分支払額計1億1085万余円)について、全国的に文書保管業務を受託している業者の一箱当たりの保管料等を用いて、保管庫賃貸借契約から文書保管委託契約に変更した場合に見込まれる保管費用等を試算したところ、茨城、栃木及び和歌山支部を除いた14支部の契約24件(25、26両年度分支払額計1億0091万余円)については、25、26両年度で計5564万余円節減でき、従前の保管庫からの保管文書の移転のために見込まれる費用計298万余円を差し引いたとしても25、26両年度の支払総額を合計5266万余円節減できたと認められた。
33支部のうち、12支部は、文書保管委託契約計18件(25、26両年度分支払額計8228万余円)を締結していた。そのうち、4支部(注3)の文書保管委託契約計5件(25、26両年度分支払額計2011万余円)は、契約を締結するに当たり、仕様書等に保管の条件、セキュリティ等について具体的に定めるなどした上で、一般競争入札により業者を選定していた。
一方、8支部(注4)の契約計12件(25、26両年度分支払額計6054万余円)は、費用、セキュリティ等の面において、文書の保管場所としては最適であり、契約の性質又は目的が競争を許さない場合や、その他特別の必要があると認められる場合とされている「運送又は保管をさせるとき」に該当するなどとして、従前の業者と随意契約により契約を締結していた。
そこで、上記の8支部においても、前記の4支部と同様に一般競争に付することが可能かどうかについて、文書保管委託契約の業務内容や地域ごとの業者の数等をみたところ、次のような状況となっていた。
ア 文書保管委託契約は、文書の保管や運搬を委託するものであることから、業務の内容が業者によって異なるものではなく、仕様書等に具体的に条件を定めれば、現在契約を締結している業者でなくても履行できる業務となっていた。
イ 8支部について、現在契約を締結している業者以外で、同じ地域内において現在の契約と同様の条件で文書保管委託を行うことができる業者の数を調査したところ、それぞれ5社以上存在していた。
したがって、上記8支部の契約計12件(25、26両年度分支払額計6054万余円)は、一般競争入札に付した場合、複数の業者が入札に参加する可能性があるにもかかわらず、一般競争入札に付することを検討することなく、従前の業者と随意契約により契約を締結していたことから、競争の利益を享受できない状況となっていたと認められた。
現に、随意契約により契約を締結していた支部が一般競争入札により業者を選定したところ、費用が大幅に低減していた。
上記について事例を示すと次のとおりである。
<参考事例>
福岡支部は、平成21年11月からA会社と随意契約により文書保管委託契約を締結し、24年度まで随意契約により契約を更新していたが、25年度の契約から競争の利益を享受するため、一般競争入札により業者を選定し、B会社と契約を締結した。その結果、支払額は、24年度が452万余円であったのに対して、25年度は保管文書の移転費用も含めて353万余円となっており、費用が大幅に低減していた。
(1)及び(2)のように、保管庫賃貸借契約について、経済的な契約となっていなかった事態や、文書保管委託契約について、競争の利益が享受できていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、協会において、保管庫賃貸借契約について、より経済的な契約を締結するために、費用等について文書保管委託契約との比較検討を行うことの必要性についての認識が欠けていたこと、文書保管委託契約を締結するに当たり、競争の利益を享受することについての検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、協会は、27年8月に事務連絡を発して、保管庫賃貸借契約を締結するに当たっては、費用等について文書保管委託契約との比較検討を行い、より経済的な調達方法を決定すること及び文書保管委託契約を締結するに当たっては、競争の利益を享受するために、一般競争入札に付することとし、これを契約期間が29年度までとなっている契約も含め遅くとも28年度末までに全ての契約について適用するよう周知徹底する処置を講じた。