独立行政法人国立公文書館(以下「公文書館」という。)は、行政機関、独立行政法人、国立大学法人等(以下「行政機関等」という。)から歴史資料として重要な公文書等(以下「歴史公文書等」という。)の移管を受けて、保存及び一般の利用に供している。
公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号)によれば、行政機関等は、保存期間が満了した行政文書ファイル等について、歴史公文書等に該当するものについては公文書館等に移管しなければならないとされており、平成23年度以降、歴史公文書等のうち電子的方式で作られたもの(以下「電子公文書等」という。)を公文書館に移管し、公文書館において保存等を開始することとなった。このため、公文書館は、本館及びつくば分館(以下「分館」という。)において、電子公文書等を長期に保存するなどのために、22年4月に要件定義書を作成した上で、22年度に電子公文書等の移管・保存・利用システム(以下「電子公文書等システム」という。)を構築し、23年度以降、機器の賃貸借、運用支援、保守等の契約を締結している。
また、公文書館は、27年度に電子公文書等システムの機器の賃貸借期間が満了することなどから、28年度に次期電子公文書等の移管・保存・利用システム(以下「次期システム」という。)の運用を開始することとしており、これに先立ち、次期システムの構築のための要件定義書を作成することとしている。
電子公文書等システムは、受入、長期保存、遠隔地バックアップ等の各サブシステムから構成されており、サブシステムごとに行政機関等から移管された電子公文書等のデータを記憶する装置(以下「ストレージ」という。)を有している(参考図参照)。
公文書館は、22年4月の電子公文書等システムの要件定義書の作成に当たり、内閣府が調査した20年度末に府省庁等が保有している行政文書ファイル数や電子媒体の割合を参考にするなどして、表1のとおり、21年度期首の公文書総数を2885万ファイル、電子化された公文書総数を86万ファイルと算定している。そして、公文書館は、毎年増加する公文書数に各年度の電子化率を乗ずるなどして、21年度以降の電子化された公文書数を算定するとともに、それに電子公文書等として公文書館に移管される率(以下「移管率」という。)を乗じて、23年度から27年度までの5年間に64万ファイルの電子公文書等が移管されると算定している。さらに、公文書館は、上記の要件定義書において、5年間に移管される64万ファイルに安全率(30%)を考慮し、90万ファイルの電子公文書等のデータを保存することが可能となるように電子公文書等システムを設計することにした。そして、公文書館は、上記の90万ファイルについて、1ファイル当たり2MBが必要であるなどとした上で、サブシステムごとに必要なストレージ容量を250GBから4.5TBまでと算定しており、要件定義書においては、サブシステムごとに必要となるストレージ容量を段階的に増設するのではなく、23年度の運用開始から全てに対応できるよう設計していた。
電子公文書等システム概念図
表1 公文書館が算定した行政機関等から移管される電子公文書数等
年度 | 公文書 | 電子化された公文書 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
期首 | 期中 | 期末 | 期首 | 期中 | 電子公文書等として移管 | 期末 | |||||
a | 増加率 b |
c=a×b | d=a+c | e | 電子化率 f |
g=c×f | 小計
h=e+g |
移管率 i |
j=h×i | k=h−j | |
万ファイル | % | 万ファイル | 万ファイル | 万ファイル | % | 万ファイル | 万ファイル | % | 万ファイル | 万ファイル | |
平成21 | 2885 | 5 | 144 | 3029 | 86 | 20 | 28 | 115 | - | - | - |
22 | 3029 | 5 | 151 | 3180 | 115 | 30 | 45 | 160 | 15 | 24 | 136 |
23 | 3180 | 5 | 159 | 3339 | 159 | 40 | 63 | 200 | 3 | 6 | 194 |
24 | 3339 | 5 | 167 | 3506 | 167 | 50 | 83 | 277 | 3 | 8 | 269 |
25 | 3506 | 5 | 175 | 3682 | 175 | 60 | 105 | 374 | 3 | 11 | 363 |
26 | 3682 | 5 | 184 | 3866 | 184 | 70 | 128 | 492 | 3 | 15 | 477 |
計 | 64 |
電子公文書等システムは、前記のとおり、受入、長期保存、遠隔地バックアップ等の各サブシステムから構成されており、このうち遠隔地バックアップシステムはセキュリティ等の観点から公文書館のネットワークに接続しない構成として分館に設置されているが、その他のサブシステムは本館に設置されている。
本館に設置されている長期保存システムは、電子公文書等をストレージに保存等するとともに、分館に設置されている遠隔地バックアップシステムに送付するために、長期保存システムのストレージに保存されている電子公文書等のバックアップデータを生成し、持ち運び可能な記憶媒体(以下「可搬記憶媒体」という。)に出力するほか、長期保存システムのストレージに保存した電子公文書等のデータの損傷の有無等を確認する機能を有している。また、遠隔地バックアップシステムは、本館から送付された可搬記憶媒体から取り込んだデータを、ストレージで保存するほか、保存したデータの損傷の有無等を定期的に確認するなどの機能を有している。
公文書館では、行政機関等から移管された一年分の電子公文書等のデータを毎年度末にまとめてバックアップすることとしており、その際には、本館の長期保存システムからバックアップデータを可搬記憶媒体に出力し、それを公文書館の職員が分館に持参して遠隔地バックアップシステムのストレージに保存するとともに、保存したデータの損傷の有無等を確認していた。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
電子公文書等システムは、前記のとおり、27年度に機器の賃貸借期間が満了するなどのため、公文書館は、28年度に次期システムの運用を開始することとしているが、次期システムの構築に当たっては、電子公文書等システムへのデータの移管状況を踏まえて、経済的かつ効率的なシステムとして構築することが重要である。
そこで、本院は、経済性、効率性等の観点から、電子公文書等システムは当初の想定どおりのファイル数の電子公文書等が公文書館に移管されて賃貸借した機器は十分に利用されているか、また、電子公文書等システムにおけるデータのバックアップ方法は適切かなどに着眼して、本館及び分館において会計実地検査を行った。検査に当たっては、22年度から27年度までの電子公文書等システムの構築、機器の賃貸借、運用支援及び保守業務(契約金額895,072,020円)を対象として、契約書、要件定義書、設計書、業務実績報告書等の関係書類を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、電子公文書等システムは、23年度の運用開始に当たり、確実な指標がない中で複数の仮定に基づき、行政機関等から移管される電子公文書等のファイル数を算定せざるを得ない状況であった。そして、移管されたファイル数は、23年度から27年度までの5年間に移管されると想定していた64万ファイルに対して、実際に運用開始から4年を経過した26年度末までに802ファイルとなっていた。また、サブシステムごとのストレージ容量は、前記のとおり、サブシステムの機能ごとに250GBから4.5TBまでと算定していた(23年度から27年度までの各サブシステムのストレージのディスクドライブの賃貸借等に係る経費相当額計3276万円)が、表2のとおり、26年度末におけるデータ量は14GBから147.4GBまでとなっており、ストレージ容量に対するデータ量である使用率は1.4%から4.6%までとなっていてストレージ容量は過大なものとなっていた。公文書館においては、このように行政機関等からの電子公文書等の移管数が不明確な状況等を考慮すれば、23年度の運用開始から全てに対応できるようストレージ容量を設計することなく、必要に応じて段階的に増設するよう検討する必要があったと認められた。
サブシステム名 | ストレージ名 | 容量 (A) |
実績 (B) |
使用率 (B)/(A) |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
電子公文書等のデータ量 | ||||||||
平成 23年度 |
24年度 | 25年度 | 26年度 | |||||
受入 | 受入用 | TB | GB | GB | GB | GB | GB | % |
1 | 14 | — | — | — | 14 | 1.4 | ||
隔離保存用1 | GB | — | — | — | — | — | — | |
250 | ||||||||
隔離保存用2 | GB | — | — | — | — | — | — | |
250 | ||||||||
長期保存 | 長期保存1 | TB | GB | GB | GB | GB | GB | 3.2 |
4.5 | 147.4 | 29 | 8.3 | 7.1 | 28 | |||
長期保存2 | TB | GB | GB | GB | GB | GB | 3.5 | |
2 | 72.4 | 29 | 8.3 | 7.1 | 28 | |||
遠隔地バックアップ | 長期保存(遠隔地バックアップ) | TB | GB | GB | GB | GB | GB | 4.6 |
2 | 94.4 | 29 | 8.3 | 7.1 | 28 | |||
一般利用連携 | 一般利用用 | TB | GB | GB | GB | GB | GB | 2.2 |
1 | 23 | 11 | 7.3 | 2.6 | 2.1 | |||
フォーマット変換、審査・マスキング等 | 業務・行政利用用 | TB | GB | GB | GB | GB | GB | 2.0 |
4.5 | 93.9 | 30 | 8.9 | 7.1 | 28 |
前記のとおり、分館に設置された遠隔地バックアップシステムは、バックアップデータを保管することを目的として構築されており、このデータを保存するほか、保存したデータの損傷の有無等を確認する機能を有している(22年度から27年度までのシステム構築費及び機器賃貸借等経費相当額計2516万円((1)に計上した経費相当額71万円を含む。))。
しかし、前記のとおり、行政機関等から移管された電子公文書等が少ないことなどにより、遠隔地バックアップシステムについても、26年度末までにバックアップされた電子公文書等は、前記の802ファイルにとどまっていた。さらに、公文書館では、同システムに保存されたデータの損傷の有無の確認等を年に1回行っているが、このデータの損傷の有無の確認等に要した作業時間は30分程度となっていた。このような状況を踏まえると、電子公文書等のバックアップについては、行政機関等からの電子公文書等の移管数が不明確であること、長期保存システムにおいてデータの保存、損傷の有無等の確認が実施できることなどを考慮すれば、分館に遠隔地バックアップシステムを構築することなく、本館の長期保存システムによりデータの損傷の有無等の確認を行った上で光ディスクに保存し、分館に輸送してそのまま保管するなど電子公文書等の移管状況に応じた経済的な方法を検討する必要があったと認められた。
このように、電子公文書等システムのサブシステムについて、ストレージ容量を必要に応じて段階的に増設することなく、運用開始時から全てに対応できるよう設計していたことなどからストレージ容量が過大なものとなっていたり、データのバックアップについて、長期保存システムにより光ディスク等にデータを出力してそのまま保管するなど、電子公文書等の移管状況に応じた経済的な方法を検討することなく遠隔地バックアップシステムを構築したりしていた事態は適切ではなく、次期システムの構築に当たってこのような事態が生じないよう、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、公文書館において、電子公文書等システムの要件定義書の作成に当たり、データ保存のために必要となるストレージ容量をデータの移管状況に応じて段階的に増設することについての検討が十分でなかったこと、また、電子公文書等の移管状況に応じた経済的なバックアップの方法についての検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、公文書館は、次期システムの構築のための要件定義書において、次のような処置を講ずるとともに、27年7月、これに基づき、次期システムの構築に係る契約を締結した。
ア 各サブシステムにおけるストレージ容量については、経済的かつ効率的なシステムとなるよう当面必要な容量を設置し、今後、電子公文書等の移管状況を踏まえて段階的に増設することとした。
イ 電子公文書等のデータバックアップの方法については、遠隔地バックアップシステムを構築するのではなく経済的な光ディスク等で保管することとした。