独立行政法人情報通信研究機構(平成27年4月1日以降は国立研究開発法人情報通信研究機構。以下「機構」という。)は、情報の電磁的流通及び電波の利用に関する技術の研究等を総合的に行っており、部、研究本部、研究所、研究開発推進センター、研究センター、部門及び室(以下「研究所等」という。)を設置するなどして研究開発業務等を実施するとともに、業務を実施するために必要となる契約を多数締結している。
機構は、独立行政法人情報通信研究機構会計規程(平成16年04規程第10号。27年4月1日以降は国立研究開発法人情報通信研究機構会計規程)等(以下「会計規程等」という。)により、予定価格が100万円(物件の借入れにあっては80万円。以下同じ。)を超える契約等については、総務系理事又は財務部長等が契約担当(契約等の収入又は支出の原因となる行為を担当する会計機関。以下同じ。)として契約を締結することとしている。しかし、研究所等における調達の迅速化を図るために、予定価格が100万円を超えない契約については、研究所等の室長等が契約担当として契約を締結することができる制度(以下「現場購買」という。)を設けている。
また、会計規程等によれば、契約担当が契約を締結しようとする場合は全て競争に付さなければならないこととされているが、予定価格が少額(160万円を超えない財産の買入れ、80万円を超えない物件の借入れ及び100万円を超えない役務の供給をさせるときなど)であるときは随意契約(以下、このような随意契約を「少額随契」という。)の方法によることができることとされている。
そして、会計規程等によれば、現場購買により少額随契を締結する場合は、次のように行うことなどとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、現場購買による契約が会計規程等に従って適正に実施されているかなどに着眼して、機構の研究開発業務等を実施するために24、25両年度に現場購買により行われた全ての契約21,264件、契約金額計41億7555万余円を対象として、見積書、決議書、発注書等の契約関係書類の写しの提出を受け、その内容を確認するなどして検査するとともに、研究所等や契約相手方において契約の履行状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、現場購買による契約において、次のとおり、会計規程等に違背して実施されていた契約が176件1億3943万余円見受けられた(アからウまでの事態については、1件の契約が複数の事態に当てはまる場合があるため、アからウまでを合計しても上記の件数、契約金額とは一致しない。)。
129件 1億0852万余円
1件で予定価格が100万円を超える調達を、予定価格100万円以下の複数の契約に分割して現場購買により発注していた契約が129件あった。また、これらの中には、1件の調達とすると予定価格が160万円を超える財産の買入れとなるなどのため少額随契の対象とはならず、本来、競争契約に付すべき契約も97件8597万余円あった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
情報分析研究室は、平成25年2月15日に「モニターLC70XL9他1点」に係る購入契約を契約金額53万余円で、また、同日に「モニターSHARP LC―46V7―B他5点」に係る購入契約を契約金額76万余円で、それぞれ予定価格が100万円以下であるとして現場購買により実施していた。
しかし、上記の2契約は、いずれも、同研究室長が契約担当として、同年2月28日を納入期限として発注し、同研究室に納品させていたものであり、複数の契約に分割しなければならない理由はなかった。
67件 4945万余円
室長等が、特段の理由もなく1者からしか見積書を徴していなかった契約が12件484万余円あった。また、見積書を徴する際に見積先に依頼するなどして1者から複数の業者の見積書を提出させて、複数の業者から徴したとしていた契約が55件4461万余円あった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
音声コミュニケーション研究室は、平成24年11月5日に、株式会社伸榮と「H24 九州の固有名詞リストの試作」に係る契約を契約金額98万余円で締結していた。
しかし、上記の契約について、機構の発注担当者は、見積書を徴する際に、同会社に対して他の会社の見積書も用意するように依頼していた。そして、この依頼を受けた同会社は、取引相手先である別会社に対して、同会社が機構に提出する予定の見積書を提示した上でこれを上回る金額の見積書の発行を依頼して、自らの見積書にこの見積書を合わせて機構の発注担当者に提出していた。
14件 1108万余円
室長等の承認を受けて作成した発注書等の会計書類を注文する業者に送付することにより契約を締結する前に、業者にシステム開発等を開始させていた契約が3件278万余円、契約で定めた作業期間や納入期限には作業や物品の納入が完了していないのに、完了したこととして、検査員が完了届兼検査調書又は納品書兼検査調書を作成していた契約が6件464万余円あった。また、予算実施計画を変更することなく、他のプロジェクトの予算を流用してシステム開発等に係る現場購買を行っていた契約が3件238万余円あった。さらに、現場購買によることのできない機械設備の新設作業等の資産の増減を伴う工事について、現場購買により契約を締結していたものが2件127万余円あった。
このように、研究所等における調達の迅速化を図るために設けられた現場購買による契約において、会計規程等に違背する処理が行われていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、室長等において会計規程等に従って現場購買による契約を適正に実施することの重要性についての認識が欠けていたこと、機構において現場購買による契約を適正に実施するための取組の必要性についての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、27年5月に室長等に対して調達説明会を実施するなどして、会計規程等の遵守について周知徹底を図るとともに、同年8月に事務連絡を発して、室長等に契約ごとの見積書の徴取状況等を記載した契約原簿を整備させ、その内容を財務部及び監査室が定期的に確認したり、室長等から見積書等の写しを財務部に提出させ適正な処理が行われているかについて支払時に点検を行ったりなどする体制を整備する処置を講じた。