独立行政法人宇宙航空研究開発機構(平成27年4月1日以降は国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構。以下「機構」という。)は、独立行政法人宇宙航空研究開発機構法(平成14年法律第161号。27年4月1日以降は国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構法)に基づき、宇宙科学技術及び航空科学技術に関する基礎研究、宇宙及び航空に関する基盤的研究開発、人工衛星等の開発、打上げ、追跡及び運用等の事業を行っており、これらの事業を行うために機械装置、工具器具備品等の資産を保有している。そして、会計規程(平成15年規程第15―43号)に基づき、資産の適正かつ効率的な運用その他良好な管理を図ることを目的として資産取扱要領(平成15年財務部長通達第15―1号。以下「要領」という。)を定めている。
資産を使用する職員(以下「資産使用責任者」という。)は、要領に基づき、ロケット、人工衛星等に係る部品等の資産を機構の施設において保管することが適当でないなどの場合には、機構以外の者に寄託することができることとなっている。また、会計規程等に基づき、教育及び学術研究を目的とするなどの場合には、ロケット、人工衛星等の研究に資する装置等の資産を機構以外の者に貸し付けることができることとなっている。
要領によれば、寄託又は貸付けを行う場合の
手続は、おおむね次のとおりとされている。
(ア) 資産使用責任者は、資産の取得、異動等に関する責任者である部長等(以下「資産責任者」という。)の承認を得た上で、資産の管理番号、品名、引渡年月日、返却予定年月日等を記載した引渡書を作成する。
(イ) 資産の引渡しの際に、寄託を受けた者(以下「受寄者」という。)又は借受者(以下、受寄者と合わせて「受寄者等」という。)に、引渡書に受領年月日を記載させて、受領印を押印させる。
(ウ) 資産使用責任者は、受寄者等に資産を引き渡した事実を証する書類として、引渡書を保管し、財務部はその写しを保管する。
また、資産の寄託又は貸付けのうち、支出を伴わない寄託(以下「無償寄託」という。)又は収入を伴わない貸付け(以下「無償貸付」といい、無償寄託と合わせて「無償寄託等」という。)を行う場合には、引渡書に無償寄託の条件又は無償貸付の条件を付記することとなっている。無償寄託の条件は、期間は原則として引渡日から6か月以内とすること、期間満了の1か月前に資産使用責任者と受寄者との間で協議した上で、無償寄託を続ける場合には、本条件と同一条件で再度6か月継続することなどとなっており、無償貸付の条件は、貸付目的以外のために使用しないことなどとなっている。
そして、資産の取得、異動等の事実を記録する資産台帳によれば、無償寄託等を行っている資産(以下「無償寄託等資産」という。)は、26年度末で計1,807件(帳簿価額計73億4742万余円)となっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、引渡書は要領等に基づき適正に作成されているか、無償寄託の期間を延長する際の手続は適切に行われているかなどに着眼して、26年度末における無償寄託等資産計1,807件のうち帳簿価額が1件100万円以上の283件(帳簿価額計72億8147万余円)を対象として、筑波宇宙センター、相模原キャンパス、調布航空宇宙センター及び東京事務所において、資産台帳等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。さらに、機構が無償寄託等を行っている株式会社のうち4株式会社(以下「4会社」という。)における無償寄託等資産の保管状況等を調査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
機構は、資産の無償寄託等を行う際に作成することとなっている引渡書は、契約書に代わり受寄者等に資産を引き渡した事実を証する書類であるとしている。
しかし、資産責任者が資産使用責任者における引渡書の作成等について確認していなかったことから、表のとおり、前記の無償寄託等資産283件のうち、資産使用責任者が受寄者等へ資産を引き渡す際に引渡書を作成していなかった無償寄託等資産が44件(帳簿価額計12億3060万余円)、引渡書自体は作成しているが引渡書に付記すべき無償寄託条件又は無償貸付条件を付記していなかった無償寄託等資産が45件(帳簿価額計12億6847万余円)、計89件(帳簿価額計24億9907万余円)見受けられた。
区分 (平成26年度末) |
無償寄託資産 | 無償貸付資産 | 計 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
件数 (件) |
帳簿価額 (千円) |
件数 (件) |
帳簿価額 (千円) |
件数 (件) |
帳簿価額 (千円) |
||
資産台帳に記録されている資産 | 146 | 2,909,692 | 137 | 4,371,787 | 283 | 7,281,479 | |
(ア)引渡書を作成していなかった資産 | 14 | 179,607 | 30 | 1,050,994 | 44 | 1,230,601 | |
(イ)引渡書自体は作成しているが引渡書に付記すべき無償寄託条件又は無償貸付条件を付記していなかった資産 | 42 | 1,264,027 | 3 | 4,443 | 45 | 1,268,471 | |
計 | 56 | 1,443,635 | 33 | 1,055,437 | 89 | 2,499,072 |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
筑波宇宙センターに所属する資産使用責任者は、平成26年4月に、人工衛星の推進系の基礎研究に資するための資産として「推進系予備品」1品目(帳簿価額5909万余円)の無償寄託を行っていた。
しかし、資産使用責任者は、受寄者へ資産を引き渡す際に引渡書を作成していなかった。また、資産責任者は、資産使用責任者が引渡書を作成したかどうかについて確認していなかった。
無償寄託の期間を延長する場合は、前記のとおり、期間満了の1か月前に協議することなどとなっている。
そこで、4会社のうち無償寄託が行われていた資産がある3会社において、資産74件(帳簿価額計20億1960万余円)について無償寄託の期間を延長する際の協議の状況等を確認したところ、36件(帳簿価額計14億6356万余円)については、引渡しから6か月を超えているにもかかわらず、延長の協議を行ったことや機構内部の意思決定を示す事跡が何ら残っていなかった。このため、受寄者と協議した上で期間を延長しているのか、協議をせずに期間を延長しているのかなどが確認できない状況となっていた。
このように、無償寄託等資産の取扱いについて、引渡書が作成されていなかったり、無償寄託の期間を延長する際の手続の実施状況が確認できなかったりなどしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、資産使用責任者において引渡書は契約書に代わり受寄者等に資産を引き渡した事実を証する書類であるのに、引渡書の重要性に対する認識が欠けていたり、資産責任者において引渡書の作成等について確認することになっていなかったりしたこと、機構において無償寄託の期間を延長する際の手続を明確にすることの必要性についての認識が欠けていたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、27年9月に、受寄者等と無償寄託等の状況を再確認して引渡書を作成するなどしたり、資産使用責任者等に対して引渡書の作成について研修を行ったり、要領等を改訂するなどして資産責任者が引渡書の作成等を確認する体制を整備したり、無償寄託の期間を延長する際に資産使用責任者は所定の申請書により資産責任者の承認を得ることとするなどして、手続を明確にしたりする処置を講じた。