独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「センター」という。)は、スポーツ施設の運営、スポーツ振興投票の実施等に当たり、設計業務、コンサルティング業務等を委託したり、工事等を請け負わせたりなどするために、独立行政法人日本スポーツ振興センター会計規則(平成15年度規則第13号。以下「会計規則」という。)等に基づいて契約を締結することとしている。
会計規則によれば、センターは、会計機関として、契約を担当する契約担当役や、現金、預金等の出納事務を担当する出納役を設けることとされている。契約担当役は、競争により落札者を決定したとき又は随意契約の相手方を決定したときは、契約金額が250万円を超えないなどの契約書の作成を省略できる場合を除き、契約上の紛争や疑義による不測の損害が生じることを防止するなどのために、契約の目的、契約金額、履行期限等の事項を記載した契約書を作成しなければならず、契約担当役が契約の相手方とともに契約書に記名押印しなければ、当該契約は確定しないとされている。また、出納役が出納事務として行う支払等の取引は、全て伝票によって処理しなければならないこととされており、伝票は、契約書、請求書その他の証拠書類に基づいて作成しなければならないとされている。
建設業法(昭和24年法律第100号)によれば、建設工事の請負契約の当事者は、契約の締結に際して工事内容、請負代金の額、工事完成の時期等の事項を書面に記載し、署名又は記名押印して相互に交付しなければならないこととされている。そして、上記の事項に該当するものを変更するときは、その変更の内容を書面に記載し、署名又は記名押印して相互に交付しなければならないこととされている。
本院は、合規性等の観点から、センターにおける契約事務等が会計規則等に基づいて適正に実施されているかなどに着眼して、平成24年4月から27年1月までの間にセンターが締結した契約から契約書の作成を省略できる契約等を除いた計338契約、契約金額(単価契約については支払額。以下同じ。)計22,814,005,335円を対象として、センター本部において、契約関係書類等を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
センターは、一般競争入札の落札者又は随意契約の相手方を決定した上で、契約書を作成し、これに記載した契約締結日と同日付けで契約担当役が記名押印して契約を締結したとしていた。
しかし、前記338契約のうち47契約、契約金額計4,939,856,495円については、契約担当役による実際の記名押印が、契約書上の契約締結日からおよそ1か月から9か月を経過した日に行われており、センターは、会計規則に定められた契約手続を経ることなく契約に係る業務を実施させていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
センターは、「新国立競技場実施設計業務」(契約金額2,574,936,000円)について、公募型プロポーザル方式により選定した「日建設計/梓設計/日本設計/アラップ設計共同体」と随意契約を締結していた。
当該契約の契約書上の契約締結日は平成26年8月20日となっていたが、契約担当役による実際の記名押印は当該日付から36日を経過した同年9月25日に行われていた。そして、センターに提出された業務工程表等によると設計業務の着手時期は同年8月20日となっていて、センターは、同日から36日間にわたり、会計規則に定められた契約手続を経ることなく当該契約に係る業務を実施させていた。
そして、47契約のうち18契約、契約金額計391,423,155円については、契約担当役による実際の記名押印が、契約の履行期間を経過して業務が完了した後に行われていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
センターは、「スポーツ振興投票の実施に関する経営コンサルティング業務」について実施した企画競争に基づいて、アビームコンサルティング株式会社と平成24年度第3四半期分の契約(契約金額124,171,472円)を随意契約により締結していた。
当該契約の契約書上の契約締結日は24年9月28日となっていたが、契約担当役による実際の記名押印は当該日付から129日を経過した25年2月4日に行われていた。そして、業務完了報告書等によると履行期間は24年10月1日から同年12月31日までとなっており、契約担当役による実際の記名押印は、履行期間を経過して業務が完了した後に行われていて、センターは、全履行期間にわたり、会計規則に定められた契約手続を経ることなく当該契約に係る業務を実施させていた。
さらに、18契約のうち1契約、契約金額98,419,650円については、建設工事の請負契約に係る工事内容の変更に伴い締結した変更契約において、契約担当役による実際の記名押印が工事完了後に行われており、建設業法に違反していた(後述する事例3を参照)。
契約担当役による実際の記名押印が契約書上の契約締結日より後に行われていた前記の47契約に係る出納事務の状況を確認したところ、4契約の契約金額計140,682,189円のうち計116,582,010円について、センターは、契約担当役による記名押印が行われていないのに、伝票を作成して支払を行っており、当該支払は、会計規則に定められた契約手続を経て確定した契約書に基づくものとはなっていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
センターは、一般競争入札により米持建設株式会社と契約を締結した「国立霞ヶ丘競技場東テニス場クラブハウス及び一部コート改修、その他工事」について、当該工事に係る設計変更が必要となったため変更契約(変更後の契約金額98,419,650円)を締結していた。
当該変更契約の契約書上の契約締結日は平成25年3月8日となっていたが、契約担当役による実際の記名押印は当該日付から39日を経過した同年4月16日に行われていた。そして、工事完成通知書等によると、工期は24年12月10日から25年3月27日までとなっており、契約担当役による実際の記名押印は工事完了後に行われていて、センターは、会計規則に定められた契約手続を経ることなく当該変更契約に係る工事を実施させていた。また、当該変更契約は建設工事の請負契約であることから、建設業法に違反していた。
さらに、契約金額のうち前払金を除いた残金79,775,850円について、センターは、契約担当役が実際に記名押印した日より前の同年4月15日に、伝票を作成して支払を行っており、当該支払は、会計規則に定められた契約手続を経て確定した契約書に基づくものとはなっていなかった。
したがって、センターは、前記の47契約、契約金額計4,939,856,495円について、会計規則に定められた契約手続を経ることなく契約に係る業務を実施させていたり、このうち4契約に係る計116,582,010円について、当該手続を経て確定した契約書に基づくことなく支払を行っていたりなどしており、会計規則等に違反していて不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、センターにおいて、会計規則等を遵守して適正な会計経理を行うことについての認識が欠けていたことなどによると認められる。