この工事は、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構鉄道建設本部大阪支社(以下「支社」という。)が、平成21年度から26年度までの間に、石川県白山市宮保地内において、北陸新幹線白山総合車両基地を建設するために、同車両基地の盛土工、地盤改良工、進入路橋りょうの築造等を工事費16,627,411,800円で実施したものである。
このうち進入路橋りょう(橋長10.0m、幅員6.5m)は、車両基地内に新幹線鉄道の車両や資材等を搬入するための進入路が既存の農道上を横断する箇所に築造するものであり、下部工として逆T式橋台2基の築造、上部工としてプレストレストコンクリート桁(以下「PC桁」という。)の製作、架設等を実施したものである。
本件進入路橋りょうの設計は、「道路橋示方書・同解説」(社団法人日本道路協会編。以下「示方書」という。)等に基づいて行われている。示方書によれば、設計で想定されない地震動が作用するなどした場合でも上部構造の落下を防止することができるように、落橋防止システムを設けることとされている。この落橋防止システムは、橋りょうの形式、地盤条件等に応じて、桁かかり長(注1)、落橋防止構造(注1)、変位制限構造(注2)等の中から、適切に選択して設計することとされている。そして、これらのうち、桁かかり長については、上下部構造間に予期しない大きな相対変位が生じた場合に上部構造が下部構造頂部から逸脱して落下するのを防止する機能を発揮するために必要な長さ(以下「最小値」という。)を算出し、これ以上の長さを確保することによって、落橋防止システムが有効に機能するものとなっている(以下、落橋防止システムにおいて桁かかり長を最小値以上とすることを「桁かかり長の確保」という。)。
支社は、落橋防止システムの設計を含む進入路橋りょう等の設計業務を設計コンサルタントに委託し、当該設計業務の成果品の提出を受けている。そして、上記の成果品に基づき、本件進入路橋りょうは両端が剛性の高い橋台に支持されていることなどから橋軸方向の変位が生じにくい橋りょうであり、落橋防止システムにおける桁かかり長の確保及び落橋防止構造を省略しても、変位制限構造を採用することにより橋りょうの所要の安全度が確保されるとして、設計図面を作成して、これにより施工していた(参考図参照)。
本院は、合規性等の観点から、本件工事の設計が示方書に基づき適切に行われているかなどに着眼して、支社において会計実地検査を行った。そして、本件工事について、設計図面、設計計算書、施工写真等の書類及び現地の状況を確認するなどして検査したところ、本件進入路橋りょうの橋台の設計が、次のとおり適切でなかった。
すなわち、示方書によれば、橋軸方向の変位が生じにくい橋りょうについて、落橋防止システムのうち省略することができるのは落橋防止構造のみとされており、桁かかり長の確保を省略することができるとはされていない。しかし、支社は、本件進入路橋りょうの設計に当たり、誤って落橋防止構造のほか桁かかり長の確保についても省略することとしたため、桁かかり長の最小値を算出していなかった。
そこで、示方書に基づいて、本件進入路橋りょうにおける桁かかり長の最小値を算出すると74.7cmとなり、本件進入路橋りょうの桁かかり長67.0cmはこれに比べて長さが不足しており、落橋防止システムの機能が確保されていない状況となっていた。
したがって、本件進入路橋りょうは、橋台の設計が適切でなかったため、上部工等の所要の安全度が確保されていない状態になっていて工事の目的を達しておらず、橋台及びこれに架設されたPC桁等に係る工事費相当額20,347,178円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、支社において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったこと、示方書についての理解が十分でなかったことなどによると認められる。
本件進入路橋りょうにおける落橋防止システムの概念図