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  • 平成26年度|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

新幹線鉄道建設事業における障害防止対策事業の実施に当たり、事業を適切に実施するために、居住実態を的確に調査及び確認したり、事業を経済的に実施するために、工事内容を十分に確認したりするよう改善の処置を要求したもの


科目
(建設勘定)(項)業務経費
部局等
独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構本社、鉄道建設本部青森新幹線建設局、鉄道建設本部九州新幹線建設局
障害防止対策事業の概要
新幹線鉄道の列車の騒音による障害を軽減するために、沿線の住宅等の建物所有者が実施する住宅防音工事に関して助成するもの
助成契約件数及び助成金額
計686件 6億3282万余円(平成23年度~25年度)
上記のうち申出書の記載と居住実態とが異なる可能性のある助成契約件数及び助成金額
計 19件 3413万円(背景金額)
高額なルームエアコンを対象としている助成契約件数及び助成金額
計 41件 5570万余円
上記に係る高額なルームエアコンと基本的な冷暖房機能を備えたルームエアコンとの本体価格相当額の差額
648万円

【改善の処置を要求したものの全文】

新幹線鉄道建設事業における障害防止対策事業の実施について

(平成27年10月29日付け 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構理事長宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 事業の概要

(1)障害防止対策事業の概要

貴機構は、新幹線鉄道建設事業の一環として、新幹線鉄道の列車の騒音に係る対策事業(以下「騒音対策事業」という。)を実施している。そして、平成23年度から25年度までの間に、22年12月に開業した東北新幹線の八戸・新青森間については貴機構鉄道建設本部青森新幹線建設局(以下「青森局」という。)が、また、23年3月に開業した九州新幹線の博多・新八代間については貴機構鉄道建設本部九州新幹線建設局(以下「九州局」という。)が、騒音対策事業を実施している。

環境基本法(平成5年法律第91号)によれば、国は、騒音に係る環境上の条件について、人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持することが望ましい基準(以下「騒音基準」という。)を定めることとされている。新幹線鉄道の騒音基準については、「新幹線鉄道騒音に係る環境基準について」(昭和50年環境庁告示第46号)が定められており、これによれば、地域の類型として、主として住居の用に供される地域であるI類型及び商工業の用に供される地域であるII類型の二つを設けることとされ、騒音基準は、I類型の地域は70デシベル以下、II類型の地域は75デシベル以下とされている。

そして、新設の新幹線鉄道の騒音基準は、高架橋等に防音壁を設置するなどの騒音防止施策を講じて開業時に直ちに達成されるよう努めるものとされており、それでも開業時に騒音基準の達成が困難な区域においては、家屋の防音工事等(以下「住宅防音工事」という。)を行うことにより、騒音基準が達成された場合と同等の屋内環境が保持されるようにすることとされている。

このため、貴機構は、沿線の住宅において個別に騒音測定を行い、測定された騒音値が騒音基準を超えていた住宅について、建物所有者が実施する防音サッシやルームエアコン等を設置するなどの住宅防音工事に要する費用(以下「住宅防音工事費用」という。)の全額又は一部の額を助成する事業(以下「障害防止対策事業」という。)を実施している。

(2)障害防止対策事業の実施手順

貴機構は、障害防止対策事業を、貴機構が定めた「新幹線鉄道騒音・振動障害防止対策処理要綱」(昭和56年幹幹一第19号。以下「要綱」という。)等に基づき、次の手順で実施している。

ア 建物所有者は、居住者に係る住民票記載事項の証明書、工事見積書、建物平面図等を添付した申出書を貴機構に提出する。

イ 貴機構は、申出書の提出を受けて、申出書及び住民票記載事項の証明書を確認するなどして、助成の対象となる家族の人数(以下「助成対象家族数」という。)を決定し、これと同数の居室数を上限として助成対象室数を決定する。

また、住宅防音工事の内容については、九州局等で定めた「防音工事設計・見積審査の手引き(機械設備編)」(以下「審査の手引き」という。)等に記載された設計標準等に比べて過剰なものとなっていないかなどについて審査を行い、助成金の上限額を決定した上で、建物所有者と障害防止防音工事助成契約(以下「助成契約」という。)を締結する。

ウ 建物所有者は、助成契約に基づき、防音サッシやルームエアコン等の設置工事を、工事業者に請け負わせるなどして実施して、住宅防音工事の完了後、貴機構に工事完了届を提出する。

エ 貴機構は、工事完了届の提出を受けて、住宅防音工事の実施状況を確認し、これを了とした場合は、建物所有者から別途提出される防音工事助成金請求書に基づき、建物所有者に助成金を支払う。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、経済性等の観点から、障害防止対策事業が、居住実態を反映して適切に実施されているか、住宅防音工事費用は経済的なものとなっているかなどに着眼して、23年度から25年度までの間に実施された障害防止対策事業(助成契約計686件、助成金額計6億3282万余円)を対象として、本社、青森局及び九州局において、建物所有者からの申出書等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)助成対象家族数について

貴機構本社は、障害防止対策事業における助成対象家族数の決定に当たり、申出書に記載されている家族の中に、騒音測定を行った日から申出書提出日までの間に当該住宅に転入した者(以下「直前転入者」という。)や、将来当該住宅に転入を予定している者(以下「転入予定者」という。)が含まれていた場合の取扱いを、要綱等において定めていなかった。このため、青森局及び九州局は、このような場合でも、転入目的や居住実態について十分に調査及び確認することなく、これらの者を含めて助成対象家族数を決定していた。また、賃貸住宅の建物所有者から申出があった助成については、賃借人の家族に係る住民票記載事項の証明書等が提出されなかった場合でも賃貸借契約書に記載されている家族数に基づき助成対象家族数を決定していた。そして、これらの助成対象家族数を基にするなどして、建物所有者と助成契約を締結し、助成金を支払っていた。

しかし、今回、27年4月から6月までの間に関係市町から交付された住民票の写しにより確認したところ、九州局において、直前転入者が申出書の提出日前後や助成金が支払われた直後等に、転入する前の住宅等に転出していたものが11件(助成金額計1590万余円)、転入予定者が申出書の提出日以降2年から3年程度を経過した時点までの間に、一度も当該住宅に住民登録をしていなかったものが4件(同605万余円)、また、賃貸借契約書に記載された家族数に含まれていた者が申出書の提出日以前に既に別住所に転出していたり、申出書の提出日以降2年程度を経過した時点までの間に、一度も当該住宅に住民登録を行っていなかったりしていたものが4件(同1217万余円)と、申出書の記載と居住実態とが異なる可能性のある事態が助成契約計19件(同3413万余円)において見受けられた。

<事例>

九州局は、平成24年度に、熊本県八代市に居住する建物所有者Aが実施する住宅防音工事について、24年5月11日に助成契約を締結し、6月11日に1,502,550円の助成金を支払っていた。Aが4月13日に九州局に提出していた申出書によれば、家族数は、A本人、同居している父母及び子の計4名であるとされていて、九州局は、これに基づき助成対象室数を4室と決定していた。そして、申出書に添付されていた住民票の写しによれば、同居している父母は、申出書提出日と同日に八代市内の別の住宅から助成対象住宅に転入していた。

しかし、八代市から交付された住民票の写しにより申出書提出日以降の状況について確認したところ、同居しているとされている父母は、助成契約締結前の4月19日には、既に直前転入する前と同じ住宅に転出していた。

(2)住宅防音工事費用について

九州局は、申出書の添付書類として建物所有者から提出された工事見積書を審査して助成金の額を決定している。そして、審査の手引きによれば、設置するルームエアコンは、基本的な冷暖房機能を備えたものとされている。

しかし、貴機構本社は、ルームエアコンに係る助成単価等の具体的な基準を定めていなかった。このため、九州局は、助成契約計41件(助成金額5570万余円)において建物所有者が設置したルームエアコン計92台(これに係るルームエアコン本体価格相当額計2279万余円)は、フィルターの自動清掃機能等の付加機能を装備した高額なものであったのに、その全額を助成の対象としていた。

そこで、製造メーカーの希望小売価格等に基づいて、審査の手引きによる基本的な冷暖房機能を備えたルームエアコンの価格を試算したところ計1631万余円となり、前記の計2279万余円との差額648万余円が割高となっていると認められる。

(改善を必要とする事態)

障害防止対策事業について、直前転入者や転入予定者等に係る居住実態を十分に調査及び確認することなく、これらの者を助成対象家族数に含めていたり、割高なルームエアコン機種に係る工事費用の全額を助成の対象にしたりしている事態は適切でなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴機構本社において、次のことなどによると認められる。

  • ア 助成対象家族数の決定に当たり直前転入者や転入予定者等に係る居住実態を的確に調査及び確認するための方策を示していないこと
  • イ ルームエアコンに係る助成単価を定めていないなど、建物所有者が設置するルームエアコンの価格を的確に確認するための方策を示していないこと

3 本院が要求する改善の処置

貴機構は、今後も引き続き新幹線鉄道建設事業に係る障害防止対策事業を多数実施することが見込まれる。

ついては、貴機構において、障害防止対策事業が適切に行われるよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 助成対象家族数の決定に当たり直前転入者や転入予定者等に係る居住実態を的確に調査及び確認するための方策を検討すること
  • イ 建物所有者が設置するルームエアコンの価格を的確に確認するための方策を検討すること