【意見を表示したものの全文】
借地方式市街地住宅の管理、運営について
(平成27年10月29日付け 独立行政法人都市再生機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴機構は、独立行政法人都市再生機構法(平成15年法律第100号)に基づき、前身である都市基盤整備公団(以下、その前身である住宅・都市整備公団及び更にその前身である日本住宅公団と合わせて「公団」という。)等から承継した賃貸住宅等の管理等に関する業務を行うことにより、良好な居住環境を備えた賃貸住宅の安定的な確保を図ることなどを目的として、平成16年7月に設立された。
そして、貴機構が公団から承継した賃貸住宅のうち借地方式市街地住宅(以下「市街地住宅」という。)は、公団が、昭和30年代から40年代にかけて、立地が至便な都市部に住宅を建設することにより良好な住宅環境づくりを行うことを目的として、市街地の土地を土地所有者から借り上げるなどして、事務所、店舗等の用に供する施設部分と住宅部分とが一体となった建物を建設したものである。当該建物のうち、施設部分については土地所有者等(土地所有者又は借地権者が設立した法人を含む。)に譲渡されており、住宅部分については貴機構が賃貸住宅として管理、運営している。
市街地住宅には、土地所有者が所有する土地について貴機構と土地所有者等が借地権を準共有(注1)する全面借地方式市街地住宅(以下「全借住宅」という。)と、土地所有者の土地を公団が一部買収し、貴機構と土地所有者の双方が所有する土地について貴機構と土地所有者等が借地権を準共有する一部買収方式市街地住宅(以下「一借住宅」という。)とがある。
貴機構は、賃貸住宅の管理について、独立行政法人都市再生機構業務方法書(平成16年規程第1号)等において、公団から承継した賃貸住宅を適切に管理すること、当該賃貸住宅団地に関する固定資産税その他財産管理に必要な資料の整備又は保管に努めなければならないことなどを定めており、市街地住宅の建物のうち、住宅部分についてもこれらの定めによることとなっている。ただし、市街地住宅の附属施設等や敷地の管理等に係る具体的な事項については、貴機構が土地所有者等との間で締結した市街地住宅の管理に係る規約(以下「管理規約」という。)等により定められている。
貴機構は、市街地住宅の土地に係る賃借料(以下「土地賃借料」という。)の算定に当たり、「公共用地の取得に伴う損失補償基準細則」(昭和38年用地対策連絡協議会決定)に定められている建物階層別利用率表を準用することとしている。そして、同表に記載されている各階層の利用率に住宅又は施設の専有部分の容積を乗ずるなどして、建物の敷地におけるそれぞれの専有部分の比重を表す土地利用比率を算出し、この土地利用比率に固定資産税評価額を乗ずるなどして住宅又は施設の専有部分ごとに土地賃借料を算定することとしている。
上記の算定方法については、土地賃貸借契約書等に明記されており、土地所有者等が市街地住宅の敷地内に新たに倉庫等の工作物等を設置して施設部分の容積が増加した場合は、貴機構が支払う土地賃借料の減額要因となり得るため、土地賃貸借契約の変更により土地賃借料を変更する必要が生ずることがある。
貴機構は、平成19年12月に閣議決定された「独立行政法人整理合理化計画」を受けて、貴機構が管理、運営する賃貸住宅ストックの再生・活用の方向性を定めた「UR賃貸住宅ストック再生・再編方針」(以下「再生・再編方針」という。)を同月に策定し、18年度末現在の賃貸住宅ストック約77万戸について、30年度までに約5万戸を削減することとしている。再生・再編方針では、個別団地ごとの特性に応じて、更に①団地再生(団地の建替え等)、②ストック活用(既存の建物の有効活用)、③用途転換(賃貸住宅以外の用途に活用)及び④土地所有者等への譲渡、返還等の4つに類型化した再生・活用方針が定められている。そして、貴機構は、市街地住宅のうち、全借住宅については、④の類型として土地所有者等との協議を行い、譲渡、返還等を行うとしている一方で、一借住宅については、その多くが②の類型として今後も既存の建物を有効に活用しつつ、適時・適切な計画的修繕等を行うなどとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
貴機構は、前記のとおり、再生・再編方針に基づき、今後、全借住宅について土地所有者等への譲渡、返還等に向けた協議を行うこととなるが、協議が整い、実際に譲渡、返還等を行うまでの間は引き続き適切に管理、運営する必要がある。また、多くの一借住宅についても既存の建物を有効に活用するために引き続き適切に管理、運営する必要がある。
そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、市街地住宅は適切に管理されているか、工作物等の設置に伴う土地賃借料の変更は適切に行われているかなどに着眼して貴機構の4支社等(注2)が26年度末現在で管理、運営している全借住宅201団地及び一借住宅103団地計304団地(管理戸数4万0483戸、建物、土地及び借地権の帳簿価額計2118億2358万余円)を対象として、貴機構本社及び4支社等において、土地賃貸借契約書、管理規約、管理規約に基づく敷地図面等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた((1)及び(2)の事態には重複しているものがある。)。
建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号。以下「区分所有法」という。)によれば、区分所有する建物については、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を規約で定めることができることとされている。そして、区分所有法が制定された以降に管理が開始された市街地住宅の中には、その管理規約において、土地所有者等が市街地住宅の敷地に工作物等を設置する場合は、あらかじめ貴機構の承諾を受けるものとする条項を定めているものがある。また、貴機構は、区分所有法が制定される以前に管理が開始されて管理規約やこれに基づく敷地図面等が整備されていないなどの一部の市街地住宅については、建物等の管理又は使用に関する具体的な事項を区分所有者間の協議により取り決めることとしている。
しかし、検査の対象とした市街地住宅304団地のうち、建物の建設後に新たに工作物等が設置されていた162団地について、当該工作物等が敷地図面等に記載されていなかった。そして、このうち138団地(建物、土地及び借地権の帳簿価額計817億1656万余円)については、工作物等の設置に係る4支社等の承諾又は4支社等を含む区分所有者間の合意(以下、これらを合わせて「合意等」という。)の内容を示す書類が保存されておらず、当該工作物等が設置された経緯やその設置に当たっての具体的な条件等を確認できない状況となっていた。
上記の事態について事例を示すと次のとおりである。
<事例>
西日本支社管内にあるA住宅は、建物の1階及び2階が施設部分となっており、当該施設部分の1階に土地所有者が店舗を運営している。このA住宅は、建物の建設後に店舗の一部が増築されていたが、当該増築部分の設置に係る合意等の内容を示す書類が保存されておらず、同支社は当該増築部分が設置されていることすら把握していなかった。
貴機構は、工作物等の設置に係る合意等の内容を示す書類が保存されていなかった138団地について、当該工作物等が設置された当時は何らかの合意等があったと思料されるとしているが、合意等の内容を示す書類が保存されていないことにより、今後、市街地住宅の譲渡、返還等に向けた貴機構と土地所有者等との間の協議において支障を来すおそれなどがあると認められる。
前記のとおり、土地所有者等が市街地住宅の敷地内に新たに工作物等を設置したことに伴い土地賃借料の変更が必要となる場合があるが、土地賃借料の変更に係る事務手続については、貴機構本社で明文化したものはないものの、4支社等は、土地所有者等との間で次のような手順により土地賃借料を変更するとしている。
① 土地所有者等は、市街地住宅の敷地内に設置する工作物等について4支社等の合意等を得た後、建築基準法(昭和25年法律第201号)その他関係法令に定める手続を行い、工作物等を設置する。
② 4支社等は、工作物等の設置に係る変更の登記が行われたことを確認し、これにより施設の専有部分の容積が増加していることを確認する。
③ 4支社等は、土地賃借料の変更の要否等を検討するために土地所有者等との間の協議(以下、土地賃借料の変更に係る協議を「変更協議」という。)を行った上で、土地賃貸借契約書に基づいて土地利用比率の変更を行い、貴機構の土地賃借料を減額するための変更契約を行う。
また、4支社等は、上記③の変更協議を行うに当たり、土地賃借料の変更の要否等を客観的に判断できるような基準については特に定めていないとしている。
そこで、市街地住宅の敷地内に工作物等が設置されていた前記162団地のうち、施設の専有部分の容積の増加により土地賃借料の減額要因になると考えられる工作物等が設置されていた90団地(建物、土地及び借地権の帳簿価額計1047億3643万余円)について、当該工作物等の設置に伴う土地賃借料の変更の状況をみたところ、次のとおりとなっていた。
上記90団地のうち67団地については、工作物等の設置後も土地賃借料が据え置かれていたが、前記①の合意等に係る書類が保存されていなかったなどのため、変更協議の際に土地賃借料の変更の要否等についてどのような検討が行われたかを確認できず、土地賃借料が据え置かれていたことの妥当性を客観的に判断できない状況となっていた。
また、①の合意等に係る資料が保存されている残りの23団地のうち、12団地については、工作物等の設置に係る変更の登記が行われていないことなどを理由として土地賃借料が据え置かれていたが、11団地については、変更の登記が行われていないのに土地賃借料が減額されるなどしていて、必ずしも前記の手順どおりに土地賃借料の変更が行われておらず、どのような場合に土地賃借料の変更が必要となるのか客観的に判断できない状況となっていた。
(改善を必要とする事態)
土地所有者等が市街地住宅の敷地内に設置した工作物等について、その設置に係る合意等の内容を示す書類が保存されておらず当該工作物等の設置に当たっての具体的な条件等を確認できなかったり、工作物等の設置に伴う土地賃借料の変更の要否等を客観的に判断できるようになっておらず変更協議に係る事務手続が明確になっていなかったりなどしている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴機構本社及び4支社等において、次のことなどによると認められる。
市街地住宅は、昭和30年代から40年代にかけて建設されたものであり、今後、借地期間の満了を迎えるものが急速に増加することが見込まれている。そして、再生・再編方針に基づき、全借住宅については土地所有者等へ譲渡、返還等を行うこととなる一方で、多くの一借住宅については引き続き既存の建物を活用しつつ賃貸住宅として管理、運営していくこととなる。また、市街地住宅の譲渡、返還等を行うに当たっては、その敷地内に設置された工作物等の撤去が必要となる場合もあることから、今後新たに設置される工作物等についても、貴機構と土地所有者等との協議に際して十分に合意形成を図っておくことが重要である。
ついては、貴機構において、市街地住宅について、土地所有者等との合意形成を十分に図りつつ、今後の管理、運営が適切に行われるよう、次のとおり意見を表示する。