独立行政法人日本原子力研究開発機構(平成27年4月1日以降は国立研究開発法人日本原子力研究開発機構。以下「機構」という。)は、独立行政法人日本原子力研究開発機構法(平成16年法律第155号。27年4月1日以降は国立研究開発法人日本原子力研究開発機構法)に基づき、原子力に関する基礎的研究等の事業を行っており、これらの事業を行うために多数の物品を購入して保有している。
そして、物品を購入するときは、物品管理規程(平成17年17(規程)第67号。以下「物品規程」という。)等に基づき、購入要求部署が購入を要求する伝票(以下「契約請求票」という。)を起案して管財担当部署に回付し、管財担当部署が購入要求部署と合議を行うなどして購入の目的等の確認を行った後に、契約請求票を契約担当部署に回付して、契約担当部署が契約手続を行うこととなっている。
また、物品規程等によれば、機構の職員が物品を外部に持ち出すときは、品名、規格、数量、管理番号、理由等を明らかにして管財担当部署の許可を受けなければならないこととされており、物品持出票、物品預かり書等(以下「物品持出票等」という。)を作成することとされている(以下、これらの手続を「物品持出手続」という。)。
機構は、第2期中期目標期間(22年4月から27年3月まで)に係る中期計画に基づき、大学等と共同研究契約等を締結するなどして共同研究等を行っている。そして、機構が保有する観測機器、試験装置等の物品を大学等や請負業者等が所有する機械装置等に設置して使用している(以下、このような場合の大学等や請負業者等を「第三者」という。)。
機構本部に所属する福島環境安全センター(以下「センター」という。)は、24年8月に、東海大学が所有している無人観測船(以下「観測船」という。)を使用した福島沖での海況及び放射線モニタリングについて同大学の教授から技術提案を受けるなどして、25年9月から26年1月まで同大学と共同研究を行った。そして、上記の技術提案等を契機に、福島第一原子力発電所事故に係る研究開発の一環として、無人観測船を利用した遠隔での海底の放射線モニタリングの技術開発を進めるために、26年3月に無人観測船用放射線測定システム(以下「測定システム」という。)を導入していた。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
機構は、今後も大学等と共同研究等を行うなどとしており、機構が保有する観測機器、試験装置等の物品を第三者が所有する機械装置等に設置して使用する場合等が増加すると見込まれている。そこで、本院は、有効性等の観点から、第三者が所有する機械装置等に設置して使用するなどする物品について、購入の目的に沿って使用されているか、適切に管理されているかなどに着眼して、測定システム(取得価額3465万円)を対象として、機構本部において、契約書、仕様書等の関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
測定システムを観測船に設置して使用するためには、観測船の運航について東海大学の協力を得る必要があるが、測定システムの導入は前記の技術提案等が契機になっていたことなどから、センターは観測船の運航について引き続き同大学の協力が得られると想定して、観測船の運航に係る協定の締結等を行っていなかった。また、観測船を福島沖で運航するに当たっては、保守管理等のために、福島沿岸で観測船を陸揚げして保管することが可能な停泊港を確保する必要があるが、センターは福島沿岸の停泊港について港自体の使用は可能であることを確認しただけで、観測船の陸揚げ施設が震災復旧の途上のため使用できない状況となっていることまで確認していなかった。
そして、センターは、測定システムの購入のために契約請求票を起案して、管財担当部署と購入の目的等について合議を行ったが、その際に、管財担当部署は、物品規程等では、第三者が所有する機械装置等に設置する根拠となる契約等を確認することとはなっていないことなどから、測定システムを観測船に設置して使用することや観測船の陸揚げが可能な停泊港を確保することなどを確認していなかった。また、契約担当部署も、管財担当部署と同様に確認していなかった。
このため、機構は、観測船の運航について東海大学から十分な協力を得られず、観測船の陸揚げが可能な停泊港の確保もできなかったことから観測船を運航できない状況となり、27年6月の会計実地検査時点においても測定システムは福島沖での放射線モニタリングの技術開発には使用されていなかった。
センターは、測定システムを観測船に設置する際に、当該物品を機構の外部に持ち出すこととなるため、物品規程等に基づき、測定システムの物品持出手続をとっていた。
しかし、物品持出手続は機構の職員等が物品を一時的に機構の外部に持ち出す場合等を念頭に定められており、物品の保管場所や預かり者の住所、氏名等の情報を記載することとはなっていなかったため、測定システムの物品持出票等には、第三者である東海大学が測定システムを預かって保管していること、測定システムが観測船に設置されていることなどは記載されておらず、物品を管理する上で、測定システムの所在等が明確となっていなかった。
このように、測定システムが購入の目的である福島沖での放射線モニタリングの技術開発に使用されていなかったり、物品を管理する上で、測定システムの所在等が明確となっていなかったりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構において、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、27年8月に測定システムの設置対象となる無人観測船による福島沖での海底放射能の測定に係る契約を新たに締結するとともに、同年9月に本部管理部門、各研究開発部門等に対して通達を発するなどして、次のような処置を講じた。
ア 第三者が所有する機械装置等に設置して使用するために物品を購入する場合に、契約請求票等に利用計画、使用方法等を記載するとともに、第三者が所有する機械装置等に設置する根拠となる共同研究契約等の契約書類等を添付することなどとし、物品等の外部使用確認票を新たに作成して、物品購入時に上記の書類等を確認することとした。
イ 外部使用確認票等により、研究開発部門等が保有する物品の管理情報等が管財担当部署及び契約担当部署の管理部門に速やかに伝達されるようにした。
ウ 物品を第三者が所有する機械装置等に設置して使用する場合等に、実際の保管場所や保管者を物品持出票等に記載するとともに、第三者が所有する機械装置等に設置する根拠となる共同研究契約等の契約書類等を物品持出票等に添付することなどとした。