【改善の処置を要求したものの全文】
大学連携研究設備ネットワーク事業による研究設備の大学間相互利用の推進について
(平成27年10月26日付け 大学共同利用機関法人自然科学研究機構長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴法人は、国立大学法人法(平成15年法律第112号)に基づき、天文学、物質科学、エネルギー科学、生命科学その他の自然科学に関する研究分野において、大学の共同利用のための大学共同利用機関を設置することを目的として設立された大学共同利用機関法人であり、国立天文台、核融合科学研究所、基礎生物学研究所、生理学研究所及び分子科学研究所の5大学共同利用機関を設置している。これらの大学共同利用機関は、個々の大学では整備できない大規模な施設・設備や大量のデータ、資料等を、全国の大学の研究者に提供する我が国の学術研究の中核的研究拠点であり、このうち、分子科学研究所は、分子科学の研究の中核拠点として実験的研究及び理論的研究を行うとともに、全国の研究者に共同利用・共同研究の場を提供することなどを目的として設置されている。
そして、貴法人は、研究設備の有効利用を目指した全国的なネットワークの構築と維持の一環として、各国立大学法人及び分子科学研究所が所有する研究設備を、大学等の研究機関の枠を越えて他大学等の研究者等にも広く相互利用に供することを目的として、平成19年度から、大学連携研究設備ネットワーク事業(19年度から21年度までは化学系研究設備有効活用ネットワーク構築事業。以下「大学連携ネットワーク事業」という。)を実施している。
大学連携ネットワーク事業は、国立大学法人等の研究設備が全般的に老朽化しており、このような状況に抜本的に対応するためには全ての国立大学法人等が連携して相互利用・共同利用を推進する体制を整えなければならないとの考えの下に、貴法人等が中心となって、19年度にまず化学系の研究設備を対象として開始したものである。そして、22年度からは化学系の研究設備に限定せず、他の幅広い分野の物質科学全般の研究設備を対象として国立大学法人等間での相互利用の推進を図ることにしている。
大学連携ネットワーク事業の運営に当たっては、運営に関する重要事項等を協議するための機関として、大学連携ネットワーク事業に賛同する国立大学法人及び大学共同利用機関法人(27年9月末時点で72国立大学法人(注1)。以下「72法人」という。)の職員各1名及び分子科学研究所の所長を委員として、大学連携研究設備ネットワーク協議会(19年度から21年度までは化学系研究設備有効活用ネットワーク協議会。以下「協議会」という。)が組織されている。そして、協議会により定められた「大学連携研究設備ネットワーク協議会規約」(平成22年3月制定。19年度から21年度までは「化学系研究設備有効活用ネットワーク協議会規約」(平成19年4月制定)。以下「規約」という。)において、上記の国立大学法人及び大学共同利用機関法人の各委員は、各機関の長(学長又は機構長)によって任命されること、分子科学研究所の所長は協議会の委員長として協議会を代表し会務を総括すること、協議会の事務を処理するために分子科学研究所に事務局が置かれることなどが規定されている。
貴法人は、規約等に基づき、72法人及び分子科学研究所が所有する研究設備のうち相互利用に供することができる研究設備を対象として、その設備管理、料金管理、予約管理等を行うために、大学連携研究設備ネットワーク予約・課金システム(以下「ネットワークシステム」という。)を構築し、運用している。
そして、72法人及び分子科学研究所が、自らの所有する研究設備をネットワークシステムに登録しようとする場合には、規約等に基づき、各機関の協議会委員が登録申請を行うことになっており、登録申請された研究設備がネットワークシステムに登録されて、大学間等の相互利用に供されることとなっている。
ネットワークシステムに登録された研究設備については、72法人及び分子科学研究所による相互利用のほか、当該設備を所有する72法人及び分子科学研究所が認めた場合には私立大学や民間企業も利用することができることになっており、相互利用又は利用しようとする者は、大学連携ネットワーク事業のホームページを通じて、登録された研究設備名等のリスト、設備の詳細、予約状況等を全国一元的に確認して利用予約等をすることができることになっていて、利用者の利便性の確保が図られている。
貴法人は、ネットワークシステムの開発、運用等に要した経費として19年度から26年度までの間に計1億0294万余円を支出している。
貴法人は、大学連携ネットワーク事業の一環として、20年度から23年度までの間に、72法人が所有する老朽化した研究設備を修理したり機能を向上させたりして復活再生させる事業(以下、「復活再生事業」といい、復活再生事業により復活再生させた研究設備を「復活再生設備」という。)を実施している。復活再生事業の対象とする研究設備は、協議会が選定することとなっており、貴法人は、協議会が選定した研究設備を所有する国立大学法人との間で共同事業契約を締結して、当該研究設備の復活再生に要した経費を国立大学法人に支払うこととなっている。そして、復活再生設備を所有する国立大学法人は、当該復活再生設備をネットワークシステムに登録することとなっている。
貴法人は、復活再生事業により、これまでに39国立大学法人が所有する45件の研究設備を復活再生させており、これに要した経費として計1億7122万余円を支出している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、72法人及び分子科学研究所が所有する既存の研究設備のうち相互利用に供することができる設備及び復活再生設備が、適切にネットワークシステムに登録されていたり、相互利用に供されていたりしているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、貴法人が19年度から26年度までの間に実施した大学連携ネットワーク事業(事業費計2億7416万余円)を対象として、貴法人及び24国立大学法人において、関係書類の提出を受けて、その内容を分析するとともに、ネットワークシステムへの登録状況等を確認するなどの方法により会計実地検査を行い、残りの48国立大学法人については、関係書類の提出を受けて、その内容を分析し確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、ネットワークシステムに登録される研究設備は、72法人及び分子科学研究所が所有する既存の研究設備のうち相互利用に供することができる設備及び復活再生設備が対象となるが、72法人の中には、大学連携ネットワーク事業の実施以前から、研究設備を学内で共同利用するための施設等を設置するなどして独自の体制を整備し、さらに、これらの研究設備について学外との相互利用に供するために、各国立大学法人が自らのホームページ上で研究設備の情報を公開するなどの独自のシステム(以下「独自システム」という。)による登録を進めている法人があった。
そこで、27年3月末時点で、72法人が相互利用に供するための登録をしている研究設備計3,548件(復活再生設備を含む。)について、ネットワークシステムへの登録と独自システムへの登録の状況等をみたところ、表のとおり、相互利用に供しようとする研究設備をネットワークシステムのみに登録している国立大学法人は27法人、ネットワークシステムへの登録と独自システムへの登録とを併用している国立大学法人は45法人(注2)となっていた。そして、これらの45法人においては、259件の研究設備をネットワークシステムに登録している一方で、独自システムに登録している研究設備は3,310件に上っており、このうち、ネットワークシステムに登録している研究設備は130件(独自システムに登録している研究設備の件数に対する割合3.9%)と少数にとどまっていた。また、残りの3,180件(同96.0%。45法人における取得価格計461億2706万余円)については、各国立大学法人が相互利用に供することができると自ら認めて独自システムに登録した研究設備であるのに、ネットワークシステムへの登録が行われておらず、全国一元的に相互利用を行う体制となっていなかった。
表 72法人における研究設備のネットワークシステムへの登録及び独自システムへの登録の状況
相互利用に供するための方法 | 国立大学法人数 | 相互利用に供するために登録している研究設備 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
ネットワークシステムに登録している研究設備の件数(A) | 独自システムに登録している研究設備の件数(B) | (A)及び(B)の純計 | ||||
ネットワークシステムに登録している件数 | ネットワークシステムに登録していない件数 | |||||
ネットワークシステムのみに登録 | 27法人 | 109件 | ― | ― | ― | 109件 |
ネットワークシステムへの登録と独自システムへの登録を併用 | 45法人 | 259件 | 3,310件 (100.0%) |
注(1) 130件 (3.9%) |
3,180件 (96.0%) |
3,439件 |
計 | 72法人 | 368件 | 3,310件 | 130件 | 3,180件 | 3,548件 |
そして、貴法人は、協議会等を通じて、72法人が相互利用に供するために独自システムに登録している研究設備の状況を調査しておらず、45法人においてその研究設備のほとんどがネットワークシステムへ登録されていない事態を把握していなかったため、独自システムに登録されている研究設備をネットワークシステムに登録するよう働きかけていなかった。
前記のとおり、貴法人は、20年度から23年度までの間に、復活再生事業により、39国立大学法人の研究設備45件について復活再生させているが、これらのうち、20国立大学法人(注3)の復活再生設備21件(復活再生に要した経費計7645万余円)については、27年3月末時点で、ネットワークシステムを通じた相互利用が全くなかった。
上記の事態について事例を示すと次のとおりである。
<事例>
貴法人は、平成21年4月に、国立大学法人山梨大学が所有する透過型電子顕微鏡(以下「顕微鏡」という。)の復活再生事業として、同大学との間で顕微鏡に取り付けるためのCCDカメラの取得に係る共同事業契約を締結し、同年11月に、同大学に対してその取得に係る経費として7,644,000円を支払っており、同大学は同年12月に同カメラを取得している。
しかし、その後、顕微鏡本体の真空冷却水装置等に老朽化による不具合が生じて安定的な稼動が見込めないことなどから、同大学は顕微鏡を26年度末時点でネットワークシステムに登録しておらず、復活再生事業で取得した同カメラを含む顕微鏡は、ネットワークシステムを通じた相互利用が全くなかった。
貴法人等に対して、復活再生設備が相互利用に供されていない理由を確認したところ、復活再生事業の対象とする研究設備の選定において、当該研究設備の状態の把握や復活再生後の利用見込み等に関する調査が十分でなかったためであるとしている。また、ネットワークシステムに登録されている復活再生設備に関する情報についてみると、他の研究設備と同様に設備の名称等を登録するだけにとどまっていて、復活再生事業により向上した設備の詳細な仕様や機能等の利用者にとって有用な情報が十分に提供されていなかった。
(改善を必要とする事態)
45法人において相互利用に供するために独自システムに登録されている研究設備のうち、ネットワークシステムに登録されている研究設備が少数にとどまっている事態及び大学連携ネットワーク事業の実施により復活再生させたにもかかわらず、ネットワークシステムを通じた相互利用が全く行われていない復活再生設備がその半数近くに上っている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、各国立大学法人において、ネットワークシステムを活用して研究設備を相互利用に供することについての検討が十分でないことなどにもよるが、貴法人において、次のことなどによると認められる。
研究開発に当たっては、研究設備の有無やその性能等が研究の成否等に大きく影響するが、各国立大学法人が研究設備を新たに購入する財源は予算の制約等により限られたものとなっている。このような状況において、各国立大学法人等が所有する研究設備を大学等の研究機関の枠を越えて相互利用に供することは、研究設備の不足を補う有効な対策であり、今後も大学連携ネットワーク事業が引き続き実施されると見込まれることから、各国立大学法人が所有する研究設備についてネットワークシステムへの登録を促進することにより、利用者の利便性を一層向上させることが重要である。
ついては、貴法人において、大学連携ネットワーク事業を実施するに当たり、大学間における研究設備の全国一元的な相互利用の推進が図られるよう、次のとおり改善の処置を要求する。