東日本電信電話株式会社(以下「東会社」という。)及び西日本電信電話株式会社(以下「西会社」という。)は、近隣の建造物の損傷や人身事故につながるおそれもある折損等を未然に防止するために、遅れ破壊(注1)が発生しやすい性質の鉄筋を用いたコンクリートポールを特定して、これを管理対象電柱(以下「管理CP」という。)として管理している。
両会社は、管理CPについて、本社が定めた更改方針等に基づき、東会社は平成34年度末までに、西会社は29年度末までに全数を建て替えることとしており、東会社においては各事業部が、西会社においては各地域事業本部及び各支店(以下、地域事業本部と支店を合わせて「地域事業本部等」といい、事業部と地域事業本部等を合わせて「事業部等」という。)が、それぞれ建替工事を発注するなどしている。
一方、両会社は、建替工事を発注したものの地権者等から承諾を得られないなどして建て替えに至っていないなどの管理CP(以下「建替不承諾柱等」という。)のうち、ひび割れが生ずるなどしているものについては、折損等のおそれがあることから、建て替えに至るまでの折損等を未然に防止するために補強を行うこととしている。
さらに、両会社は、ケーブル張力の不均衡等による荷重(以下「不平衡荷重」という。)が発生している建替不承諾柱等のうち、ひび割れが生ずるなどしているものについては上記の補強により対応することにしており、ひび割れが生じていないものについては不平衡荷重によりひび割れが生ずるおそれがあることから、不平衡荷重を除去する工事等により対応することとしている。
また、東会社は建替不承諾柱等のうち単独柱(注2)について、西会社は単独柱に加えて共架柱(注3)を含めた建替不承諾柱等の全数について、建て替えが困難なもの(以下「困難柱」という。)として位置付けてそれぞれ管理することにしており、両会社は、前記の期限までに管理CPの全数の建て替えを完了できるよう、困難柱の建て替えに向けた対策の検討等に利用するためのデータベース(以下「困難柱DB」という。)を整備している。両会社の本社は、困難柱DBに、建て替えが困難な要因、地権者等との折衝状況、道路掘削規制等の解消時期等の建て替えに向けた対策の検討等に必要な情報(以下「情報」という。)を登録するよう、各事業部等に指示するなどしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
両会社が管理する26年度末現在の管理CPは、東会社において301,513本(固定資産価額相当額7億2526万余円)、西会社において203,205本(同4億1519万余円)と多数に上っており、昭和63年度から平成26年度までの間に、東会社の管内では49本、西会社の管内では45本の管理CPの折損等も発生している状況である。そして、両会社は、前記の期限までに管理CP全数の建て替えを完了するために、建て替えを円滑に進めるとともに、建て替えに至るまで管理CPを安全に管理することが求められている。
そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、管理CPについて折損等を未然に防止するなどのための補強等が適切に行われているか、困難柱の情報が困難柱DBに適切に登録されているかなどに着眼して、東会社の5事業部(注4)が管理する26年度末現在の管理CP176,851本(固定資産価額相当額4億2162万余円)、西会社の16地域事業本部等(注5)が管理する26年度末現在の管理CP92,575本(同2億1035万余円)を対象として、東会社の本社及び5事業部並びに西会社の本社及び16地域事業本部等において、管理CPの管理の状況について関係書類を確認したり、担当者から説明を聴取したりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記東会社の5事業部が管理する管理CP176,851本、西会社の16地域事業本部等が管理する管理CP92,575本のうち、26年度末時点において、ひび割れが生ずるなどしている建替不承諾柱等は、東会社の5事業部において34,313本、西会社の16地域事業本部等において2,051本となっていた。これらの補強の状況についてみたところ、表1のとおり、東会社の5事業部が管理する建替不承諾柱等7,410本(固定資産価額相当額1810万余円)、西会社の16地域事業本部等が管理する建替不承諾柱等777本(同148万余円)については、補強しないままでは折損等のおそれがあり、近隣の建造物の損傷や人身事故につながるおそれもあるのに、補強を行っていなかった。
また、26年度末時点において、ひび割れが生じていない東会社の5事業部が管理する建替不承諾柱等142,538本、西会社の16地域事業本部等が管理する建替不承諾柱等3,896本のうち、表1のとおり、東会社の5事業部が管理する建替不承諾柱等2,242本(同550万余円)、西会社の16地域事業本部等が管理する建替不承諾柱等1,352本(同255万余円)については、不平衡荷重に対応していなかった。これらは、不平衡荷重によりひび割れが生ずるおそれがあるだけでなく、状況によっては、折損等につながるおそれもある建替不承諾柱等もあると思料された。
現に、これらの中には、不平衡荷重により相当な傾斜が生じているため、地際部においてひび割れが生ずるおそれがあり、ひいては折損等につながるおそれもある建替不承諾柱等が見受けられた。
表1 補強や不平衡荷重への対応を行っていなかった建替不承諾柱等の本数等
会社名 | 補強を行っていなかった建替不承諾柱等 | 不平衡荷重への対応を行っていなかった建替不承諾柱等 | 計 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
事業部等数 | 本数 | 固定資産価額相当額 | 事業部等数 | 本数 | 固定資産価額相当額 | 事業部等数 | 本数 | 固定資産価額相当額 | |
東会社 | 5 | 7,410 | 18,100 | 5 | 2,242 | 5,504 | 5 | 9,652 | 23,604 |
西会社 | 16 | 777 | 1,481 | 16 | 1,352 | 2,559 | 16 | 2,129 | 4,041 |
上記のとおり、東会社の5事業部が管理する建替不承諾柱等9,652本(同2360万余円)、西会社の16地域事業本部等が管理する建替不承諾柱等2,129本(同404万余円)について、補強や不平衡荷重への対応を行っていなかった事態は、管理CPの折損等を未然に防止するなどの安全性の確保が十分に図られていなかったと認められた。
東会社の5事業部が管理する建替不承諾柱等11,421本(固定資産価額相当額3934万余円)、西会社の16地域事業本部等が管理する建替不承諾柱等5,947本(同1205万余円)については、26年度末において、困難柱として管理されていた。これらの困難柱DBへの情報の登録状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。
すなわち、東会社の5事業部の管理する困難柱1,035本(同609万余円)については、道路掘削規制等の解消時期を登録していなかったり、建て替えが困難な要因の詳細を登録していなかったりなどしていた。また、西会社の11地域事業本部等(注6)が管理する困難柱1,344本(同251万余円)については、道路掘削規制等の解消時期を登録していなかったり、困難柱であるのに一切の情報を登録していなかったりなどしていた。これらの多数の情報を困難柱DBに適切に登録していなかった事態は、表2のとおり、両会社の事業部等において、困難柱として管理されている建替不承諾柱等について、情報が困難柱DBに適切に登録されない状況となっていたと認められた。
また、東会社は、前記のとおり、建替不承諾柱等のうち単独柱については困難柱として位置付けていたが、共架柱については困難柱として位置付けておらず、情報を困難柱DBに登録することにしていなかった。このため、表2のとおり、4事業部(注7)が管理する建替不承諾柱等のうち共架柱10,048本(同2226万余円)については建て替えが実質的に困難なものである一方、情報を困難柱DBに登録しておらず、東会社において建替不承諾柱等のうち共架柱の情報を登録するデータベースの整備もしていなかったことから、4事業部においてこの情報を把握できていなかった。
表2 情報が困難柱DBに適切に登録されない状況となっていた困難柱等の本数等
会社名 | 情報が困難柱DBに適切に登録されない状況となっていた困難柱 | 情報を登録するデータベースを整備しておらず情報を把握できていない状況となっていた建替不承諾柱等のうち共架柱 | 計 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
事業部等数 | 本数 | 固定資産価額相当額 | 事業部等数 | 本数 | 固定資産価額相当額 | 事業部等数 | 本数 | 固定資産価額相当額 | |
東会社 | 5 | 11,421 | 39,347 | 4 | 10,048 | 22,264 | 5 | 21,469 | 61,611 |
西会社 | 16 | 5,947 | 12,059 | / | 16 | 5,947 | 12,059 |
上記のとおり、東会社の5事業部が管理する建替不承諾柱等21,469本(同6161万余円)について、情報が困難柱DBに適切に登録されない状況となっていたり、東会社において情報を登録するデータベースを整備しておらず情報を把握できていない状況となっていたりしていた事態、及び西会社の16地域事業本部等が管理する建替不承諾柱等5,947本(同1205万余円)について、情報が困難柱DBに適切に登録されない状況となっていた事態は、両会社の事業部等において、情報を利用して管理CPの建て替えに向けた対策の検討等を適切に行い、これに基づき円滑に建て替えを行うことに支障が生ずるおそれがあったと認められた。
このように、両会社の事業部等において、建替不承諾柱等について補強や不平衡荷重への対応を行っていなかった事態、東会社の事業部において情報が困難柱DBに適切に登録されていなかったり、建替不承諾柱等のうち共架柱の情報を把握できていなかったりしていた事態、及び西会社の地域事業本部等において情報が困難柱DBに適切に登録されていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、両会社は、27年8月に、各事業部等に対して指示文書を発するなどして次のような処置を講じた。
ア 両会社は、ひび割れが生ずるなどしている建替不承諾柱等について補強を行うことや、ひび割れは生じていないものの不平衡荷重が発生している建替不承諾柱等について不平衡荷重に対応することについて周知徹底を図った。
イ 東会社は、困難柱と建替不承諾柱等のうち共架柱とを統一的に管理するための新たなデータベースを整備するとともに、情報を同データベースに適切に登録するよう周知徹底を図った。また、西会社は、情報を困難柱DBに適切に登録するよう周知徹底を図った。