高規格幹線道路(以下「高規格道路」という。)は、昭和62年の第四次全国総合開発計画において、約14,000kmの全国的な自動車交通網として構想され、高速自動車国道(以下「高速道」という。)の11,520kmと一般国道自動車専用道路(以下「自専道」という。)の約2,480kmから構成されている。平成26年度末現在、高速道8,628km、自専道1,555km、合計10,183kmが供用中となっている。
高速道及び自専道には、東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社(以下、これらの会社を総称して「3会社」という。)及び本州四国連絡高速道路株式会社(以下、3会社と合わせて「4会社」という。)が、有料道路事業として4会社単独又は国土交通省と4会社が分担して建設し、4会社が単独で管理する高規格道路(以下「有料道路」という。)と、国土交通省が単独で建設及び管理を行う無料の高規格道路(以下「無料道路」という。)がある。
高規格道路の事業化の手続は図1のとおりとなっており、高速道については、国土開発幹線自動車道建設法(昭和32年法律第68号)等に基づき国土開発幹線自動車道建設会議(以下「国幹会議」という。)の議を経るなどして予定路線のうち建設を開始する路線の車線数、設計速度等を定める基本計画、整備計画等が決定される。また、自専道については、「高規格幹線道路等の事業実施に向けた手続きについて」(平成21年3月国道経第75号)等に基づき社会資本整備審議会(以下「社整審」という。)の議を経るなどして基本計画、整備計画等が決定される。なお、これらの計画等を変更する場合も同様の手続となっている。
図1 高規格道路事業化の手続
そして、4会社は、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構(以下「機構」という。)と独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構法(平成16年法律第100号)第13条の規定に定める協定(以下「協定」という。)を締結するなどして、整備計画に適合した有料道路の建設及び管理を行うこととなる。協定において、有料道路の新設及び改築事業の完成予定年度は35年度までとなっている。
また、4会社が建設する有料道路は、工事完了後に資産及び債務を機構に引き渡すこととなっている。そして、機構は、協定において、旧日本道路公団等から承継した債務及び建設工事等に伴い4会社から引き受ける債務(26年度末における債務返済計画上の債務残高は約22兆1062億円。ただし、老朽化した構造物全体の更新及び修繕を行う特定更新等工事費を除く。)を、62年度までに返済することとなっている。なお、この債務には、橋りょう、トンネル、交通安全対策等を対象にした修繕に要する費用(以下「修繕費」という。)が含まれている。
ア 高規格道路の構造
道路の構造の一般的な技術基準である道路構造令(昭和45年政令第320号。以下「構造令」という。)及び「道路構造令の解説と運用」(社団法人日本道路協会編。以下、構造令と合わせて「構造令等」という。)によれば、高規格道路のうち地方部に存する道路の車線数は、計画交通量(注1)が設計基準交通量(注2)以下となる場合は2、計画交通量が設計基準交通量を上回る場合は4以上とすることとされている(以下、道路完成時の車線数を2とする道路を「完成2車線道路」といい、4とする道路を「完成4車線道路」という。)。
そして、構造令等によれば、完成4車線道路は、安全かつ円滑な交通を確保するために、中央帯を設置して車線を往復の方向別に分離することとされている(以下、この構造を「分離式」という。)。さらに、15年7月の構造令の改正により、完成2車線道路についても、原則として分離式によることとされている(図2参照)。
図2 分離式の構造<完成2車線道路の例>
イ 暫定2車線道路の整備の状況
26年度末までに決定された基本計画によれば、高規格道路の車線数は全て4以上とされているが、完成4車線道路のうち、当面の間、交通量が少ないと見込まれる道路については、整備計画等において、差し当たり2車線の完成をもって供用開始して、交通量の増加に応じて残りの2車線を完成することとされている(以下、完成4車線道路のうち2車線のみを暫定的に建設する部分がある道路を「暫定2車線道路」という。)。26年度末現在、暫定2車線道路の供用延長は20路線255区間(注3)2,423.8kmとなっている(表1参照)。
表1 暫定2車線道路の供用延長(平成26年度末現在)
路線名 | 有料道路 | 無料道路 | 計 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
区間数 | 延長(km) | 区間数 | 延長(km) | 区間数 | 延長(km) | |
北海道縦貫自動車道 | 15 | 207.6 | ― | ― | 15 | 207.6 |
北海道横断自動車道 | 14 | 206.1 | 2 | 34.0 | 16 | 240.1 |
東北縦貫自動車道 | 3 | 28.8 | ― | ― | 3 | 28.8 |
東北横断自動車道 | 29 | 289.0 | 2 | 24.0 | 31 | 313.0 |
東北中央自動車道 | 4 | 27.1 | ― | ― | 4 | 27.1 |
日本海沿岸東北自動車道 | 10 | 76.3 | 13 | 81.4 | 23 | 157.7 |
関越自動車道 | 5 | 37.5 | ― | ― | 5 | 37.5 |
常磐自動車道 | 10 | 125.6 | ― | ― | 10 | 125.6 |
東関東自動車道 | 5 | 29.5 | ― | ― | 5 | 29.5 |
東海北陸自動車道 | 9 | 108.4 | ― | ― | 9 | 108.4 |
中部横断自動車道 | 3 | 16.0 | 3 | 7.3 | 6 | 23.3 |
近畿自動車道 | 17 | 162.1 | 2 | 21.2 | 19 | 183.3 |
山陽自動車道 | 5 | 40.9 | ― | ― | 5 | 40.9 |
山陰自動車道 | 2 | 18.2 | ― | ― | 2 | 18.2 |
中国横断自動車道 | 15 | 137.1 | 18 | 153.1 | 33 | 290.2 |
四国縦貫自動車道 | 12 | 147.9 | ― | ― | 12 | 147.9 |
四国横断自動車道 | 10 | 86.1 | 5 | 38.1 | 15 | 124.2 |
九州横断自動車道 | 3 | 12.2 | 1 | 0.9 | 4 | 13.1 |
東九州自動車道 | 19 | 185.3 | 10 | 75.5 | 29 | 260.8 |
西瀬戸自動車道 | 9 | 46.6 | ― | ― | 9 | 46.6 |
20路線計 | 199 | 1,988.3 | 56 | 435.5 | 255 | 2,423.8 |
ウ 暫定2車線道路の構造
国土交通省及び4会社は、暫定2車線道路の整備に当たって、用地については、4車線分を取得するが、工事については、初期投資額を節減して4車線化する際の手戻り工事を少なくするために、多くの場合、完成4車線道路の断面の片側等に2車線を建設し、中央帯ではなくラバーポール等の簡易物で往復の通行を区分する構造(図3参照。以下、この構造を「非分離式」といい、非分離式により供用している部分を「対面通行部」という。)を採用している。
なお、非分離式による暫定2車線道路は、「道路構造令の解説と運用」、3会社の設計要領等によれば、完成4車線道路を段階的に建設する過程における暫定的な道路として取り扱われるとされている。
図3 非分離式の構造<完成断面の片側に2車線を建設する場合の例>
エ 設計速度及び規制速度
高規格道路の設計速度は、安全かつ快適な走行が可能となる速度として、構造令により、80km/h、100km/hなどとされている。一方、道路交通法(昭和35年法律第105号)によれば、道路の供用に当たって、各都道府県の公安委員会は、道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図るなどのために、道路管理者と協議して規制速度を決定することとされている。そして、この規制速度は、警察庁が制定した「交通規制基準」(平成23年警察庁丙規発第3号、警察庁丙交企発第10号)により、車線数、分離式又は非分離式の別を考慮するなどして決定されることになっていて、非分離式の暫定2車線道路の場合は、原則として70km/h以下とされている。
オ 4会社の交通安全対策費
4会社は、協定において年度ごとに定められた修繕費の限度額の範囲内で、毎年度、修繕工事を実施しており、26年度の4会社の修繕費の合計は、限度額2251億余円に対して1927億余円が支出されていて、このうち、防護柵改良、凹凸型路面標示工等を行う交通安全対策費は129億余円となっている。
暫定2車線道路として建設、供用された有料道路のうち高速道の6路線(注4)は、国幹会議の議を経るなどして21年5月に整備計画が変更され、4車線化することが決定された。その際の判断材料は、交通量が多く、渋滞や事故が多発していること、費用便益比が1を上回っていることなどとなっていた。これらの判断材料のうち、交通量についてみると、19年度における6路線の日平均交通量は10,000台/日から13,200台/日であり、6路線の平均値は10,950台/日となっていた。
国土交通省社整審道路分科会国土幹線道路部会は、「高速道路を中心とした「道路を賢く使う取組」の中間答申」を27年7月に行っており、高規格道路の暫定2車線道路は、諸外国にも例を見ない特殊な構造であり、対面交通の安全性や走行性等を考慮しても、その状態を長期間継続すべきではないこと、単に4車線化に取組むだけでなく、低速車両対策等として効果的な追越車線の設置等や3車線運用など道路を賢く使う観点を踏まえながら、本来の機能を確保するための工夫が重要であること、暫定2車線道路の車線数の増加にあたっては、2車線運用時の交通状況を踏まえつつ、運転者の安心や快適性、走行性等を高める観点から、透明性を確保しつつ、機動的に対応することが必要であることなどとしている。
国土交通省及び4会社は、限られた財源の中で効率的に高速道路網を整備するなどのために、高規格道路の多くを暫定2車線道路により建設してきた。そして、現時点において、有料道路の新設及び改築事業の完成予定年度は35年度までとされているが、現時点の協定では、暫定2車線道路の大半において、4車線化の実施時期が明確にされていない状況となっている。
そこで、本院は、有効性等の観点から、暫定2車線道路について、供用延長の推移、現況交通量、推計交通量及び4車線化のために取得した用地の状況はどのようになっているか、対面通行部の交通事故及び規制速度の状況はどのようになっているか、また、それらによる経済的損失はどの程度生じているかなどに着眼して検査した。
ア 暫定2車線道路の延長
26年度末現在の暫定2車線道路の延長は、表2のとおり、20路線255区間2,423.8kmが供用されており、このうち20路線234区間において1,752.1km(2,423.8kmの72.2%)が対面通行部となっており、6路線21区間159.6km(同6.5%)の4車線化の事業化がなされている。また、新たに10路線23区間214.4kmの暫定2車線道路が建設中となっている。
表2 供用中又は建設中の暫定2車線道路の延長(平成26年度末現在)
区分 | 供用中の暫定2車線道路(a) | 建設中の暫定2車線道路(b) | (a)+(b) | |||
---|---|---|---|---|---|---|
(a)のうち 対面通行部を含む道路 |
(a)のうち 4車線化の事業化がなされている道路 |
|||||
有料道路 | 路線数 | 20 | 20 | 6 | 7 | 20 |
区間数 | 199 | 189 | 21 | 10 | 209 | |
延長(km) | 1,988.3 | 1,435.5 | 159.6 | 109.9 | 2,098.2 | |
無料道路 | 路線数 | 9 | 7 | ― | 5 | 11 |
区間数 | 56 | 45 | ― | 13 | 69 | |
延長(km) | 435.5 | 316.6 | ― | 104.5 | 540.0 | |
計 | 路線数 | 20 | 20 | 6 | 10 | 22 |
区間数 | 255 | 234 | 21 | 23 | 278 | |
延長(km) | 2,423.8 | 1,752.1 | 159.6 | 214.4 | 2,638.2 |
暫定2車線道路及び暫定2車線道路から4車線化された道路の累積延長は、図4のとおりとなっており、元年度以降、増加の傾向にある。そして、26年度末現在、暫定2車線道路が3,619.1km建設されていて、このうち、供用中の暫定2車線道路の累積延長は2,423.8km(3,619.1kmの66.9%)、4車線化された暫定2車線道路の累積延長は1,195.3km(同33.0%)となっている。
図4 暫定2車線道路及び4車線化された暫定2車線道路の累積延長(平成26年度末現在)
また、供用開始された年度別に暫定2車線道路の延長をみると、図5のとおり、26年度末現在、10年度までに供用開始された暫定2車線道路の多くは4車線化されており、その65.1%に当たる778.2kmは供用開始から10年未満に4車線化されている。一方、4車線化されていない暫定2車線道路は、元年度以降に供用開始されたものが多く、また、11年度以降に供用開始された道路で4車線化されたものはなく、暫定2車線道路による供用年数は長期化する傾向にある。
図5 供用開始年度別の暫定2車線道路の延長等(平成26年度末現在)
イ 暫定2車線道路の供用年数
供用中の暫定2車線道路20路線255区間2,423.8kmのうち4車線化の事業中の道路を除く19路線234区間2,264.2kmについて、26年度末現在の供用年数をみると、供用開始から10年以上経過している道路は17路線132区間1,316.9km(2,264.2kmの58.1%)となっており、20年以上経過している道路は6路線32区間271.6km(同11.9%)となっている。
なお、供用開始から10年以上経過している道路は全て有料道路となっている。
ウ 暫定2車線道路の交通量
(ア) 現況交通量
供用開始から10年以上経過している前記の17路線132区間1,316.9kmについて、26年度の現況交通量をみたところ、8路線20区間161.2kmは、21年に4車線化が決定した路線の日平均交通量の最小値である10,000台/日以上となっているが、16路線112区間1,155.7km(1,316.9kmの87.7%)は、10,000台/日を下回っている状況であった。このうち、11路線40区間412.7km(同31.3%)は、5,000台/日を下回っている。
(イ) 推計交通量
3会社は、道路事業の再評価及び事後評価において、将来の推計交通量を算出している。そこで、(ア)の16路線112区間1,155.7kmのうち、推計交通量を算出している14路線54区間551.6kmの推計交通量についてみたところ、4路線10区間90.6km(551.6kmの16.4%)は10,000台/日以上となっているが、12路線44区間461.0km(同83.5%)は10,000台/日を下回っている。
3(1)アからウまでのとおり、26年度末現在、20路線255区間2,423.8kmの暫定2車線道路が供用されているが、その供用年数は長期化する傾向にある。そして、16路線112区間1,155.7kmについては、供用開始から既に10年以上経過していて、現況交通量が10,000台/日を下回っている状況である。さらに、推計交通量を算出している14路線54区間551.6kmのうち12路線44区間461.0kmについては、推計交通量が10,000台/日を下回っていることから、引き続き暫定2車線道路として供用されることが見込まれる。
上記について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
東北横断自動車道酒田線(以下「山形道」という。)のうち、山形北ICから月山ICまでの区間及び湯殿山ICから酒田みなとICまでの区間の延長計96.2kmは暫定2車線道路となっている。これらの区間は、平成元年度から13年度までの間に順次供用され、日平均交通量は17年度3,569台/日、26年度4,428台/日となっていて、26年度末現在、4車線化の事業化もなされていない。また、山形道は、22年6月から23年6月までに地域への経済効果等の影響を把握するために実施された有料道路の無料化社会実験の対象路線であったが、同実験期間中の22、23両年度における日平均交通量は、それぞれ7,724台/日、6,209台/日となっている。
国土交通省及び4会社は、供用中の暫定2車線道路の20路線255区間2,423.8kmのうち20路線247区間2,355.0kmについて、当初から4車線分の用地を取得しており、表3のとおり、有料道路における26年度末現在の取得済み用地は計10,093.3haとなっている。このうち供用開始から10年以上経過している19路線151区間1,466.9kmに係る用地は、計7,881.8ha(10,093.3haの78.0%)となっている。
表3 4車線分の用地を取得済みの道路の状況(平成26年度末現在)
区分 | 4車線分の用地を取得済みの道路 | 左のうち供用開始から10年以上経過しているもの | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
路線数 | 区間数 | 延長(km) | 用地取得面積(ha) | 用地価額(億円) | 路線数 | 区間数 | 延長(km) | 用地取得面積(ha) | 用地価額(億円) | |
有料道路 | 20 | 199 | 1,987.0 | 10,093.3 | 4,692 | 19 | 151 | 1,466.9 | 7,881.8 | 3,042 |
無料道路 | 8 | 48 | 368.0 | ― | ― | ― | ― | ― | ||
計 | 20 | 247 | 2,355.0 | 10,093.3 | 4,692 | 19 | 151 | 1,466.9 | 7,881.8 | 3,042 |
4車線分の用地のうち2車線分の用地は、暫定2車線道路として供用されているものの、残りの2車線分の用地(以下「4車線化用地」という。)は、道路として利用されていない状況となっている。
国土交通省は、21年1月に「高架の道路の路面下及び道路予定区域の有効活用の推進について」等を発して、直接には通行の用に供していない道路予定区域等について、公園等の暫定利用も含めて計画的に有効活用が図られるように占用許可の要件を示している。そして、機構も同様の通知を4会社に発して、4車線化用地等の道路予定区域有効利用の促進を図っているものの、26年度末現在、公園等として利用されている面積は、高架の道路の路面下等も含めて計3.5haとなっている。
このように有効利用が進んでいない理由について、機構は、将来の4車線化の実施に支障とならないこと、供用中の暫定2車線道路に対する安全確保が必要であることなどを踏まえて、道路管理上の影響を考慮して慎重な対応が必要であるためとしている。
ア 高規格道路における交通事故の状況等
(ア) 交通事故の状況
3会社が管理する高規格道路について、17年1月から26年12月までの10年間の車両の対向車線への逸脱事故の発生状況をみたところ、表4のとおり、対面通行部において2,208件発生しており、このうち677件が死傷事故で、死亡者119名、負傷者1,281名となっていて、車線を逸脱した車両が対向車両と衝突して対向車両の乗員が死傷するなどした、いわゆる「もらい事故」による死亡者は28名、負傷者は594名となっていた。一方、分離式の部分における逸脱事故は10年間で30件発生しており、このうち、7件が死傷事故で、死亡者3名、負傷者15名となっていて、もらい事故による死亡者が2名、負傷者が1名となっていた。
表4 高規格道路における対面通行部・分離式の部分別の事故状況(平成17年1月から26年12月まで)
区分 | 車両の対向車線への逸脱事故件数(件) | 左のうち死傷事故件数(件) | 死亡者数(名) | 負傷者数(名) | ||
---|---|---|---|---|---|---|
左のうちもらい事故死亡者数(名) | 左のうちもらい事故負傷者数(名) | |||||
対面通行部 | 2,208 | 677 | 119 | 28 | 1,281 | 594 |
分離式の部分 | 30 | 7 | 3 | 2 | 15 | 1 |
対面通行部における逸脱事故の主な発生原因は、ハンドル操作不適当等の人為的ミスとなっていて、防護柵を備えた中央帯があれば、相当程度の逸脱事故を防止できたと考えられる。
(イ) 交通安全対策の実施状況
対面通行部における逸脱事故に対する交通安全対策について、4会社は、対面通行部の限られた道路幅に防護柵を設置することは困難であることなどから、縁石、ラバーポール等の設置間隔を短くするなどの視認性の向上、また、車線境界に施工した舗装面の凹凸上を走行した際の振動音による注意喚起を図る凹凸路面標示を施工しているものの、抜本的な事故の抑制には至っていない。
上記の対策に加え、近年、除雪のために確保していた路肩部分を狭めて中央帯と防護柵を設置するなど、現況の道路構造を考慮した小規模な改良等を試行的に実施しているが、その延長は計6.2kmに過ぎないものとなっている。
(ウ) 交通安全対策に係る費用
前記26年度の交通安全対策費129億余円は、4会社の修繕費の合計1927億余円のうち管理費用等を除いた修繕工事費の合計1564億余円に対して8.2%とその割合も小さく、対面通行部の交通安全対策を、経済的及び効率的に行うために、防護柵の効率的な設置に当たっては、現況の道路構造を考慮した小規模な改良等も検討する必要がある。
そこで、分離式とする場合の工事費について、過去に4車線分の土工が概成している部分の施工実績を基に試算すると、1km当たり約1.4億円から2.5億円となる。一方、暫定2車線道路を4車線化する工事費について、既に取得済みである4車線化用地の取得費を除いて試算すると、1km当たり約12億円から36億円(注7)となり、分離式とする場合に比べて多額の工事費が必要になると見込まれる。
(エ) 車線逸脱事故による経済的損失
対面通行部における前記677件の死傷事故について、交通事故による被害・損失の経済的価値を算定する際の基礎資料として国土交通省の公共事業評価の費用便益分析において利用されている「交通事故の被害・損失の経済的分析に関する調査報告書」(平成24年3月内閣府報告)の1名当たり死亡及び負傷損失額等を適用して試算した。その結果、事故死傷者の人的損失、車両、構築物の修理等の物的損失、渋滞損失及びその他損失を合わせた金銭的損失額が58億余円、また、被害者の肉体的な痛みや苦しみなどの非金銭的損失額が256億余円、計314億余円となる。
イ 対面通行部における規制速度
供用中の暫定2車線道路20路線255区間2,423.8kmのうち対面通行部の延長1,716.0km(2,423.8kmの70.7%)は、設計速度が80km/h又は100km/hであるのに対して規制速度は70km/hとなっていて、高規格道路が有している機能が十分に発揮されていない状況となっている。
交通規制基準によれば、分離式の2車線道路の規制速度の上限は80km/hとされていることなどから、対面通行部1,716.0kmにおける規制速度を70km/hとすることによる経済的損失額について、「費用便益分析マニュアル」(平成20年国土交通省制定)を準用して試算した。その結果、26年度の現況交通量と速度差等を基に算出すると年間175億余円となる。
一方、国土交通省では、近年、供用中の暫定2車線道路のうち交通量が少ないと見込まれる道路については、2車線分のみの用地取得にとどめて分離式の2車線構造として、これにより規制速度は上限の80km/hとされて、高規格道路が有する安全性及び機能性を確保している区間もあり、そのような区間は九州地方整備局管内で6区間計43.9kmとなっている。
分離式の道路と非分離式の道路の状況について事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
東九州自動車道の隼人東ICから末吉財部ICまでの延長27.3kmの有料道路は、非分離式の暫定2車線道路として平成14年3月に全線供用していて、規制速度は70km/hとされている。一方、これに接続する末吉財部ICから鹿屋串良JCTを連絡する延長28.8kmの無料道路は、コンクリート製の中央帯を設置する分離式の暫定2車線道路として26年12月に全線供用していて、規制速度は80km/hとされている。
このほか、同自動車道の大分宮河内ICから佐伯ICまでの延長34.0kmの有料道路も非分離式の暫定2車線道路(全線供用開始20年6月)で規制速度は70km/hとされ、これに接続する佐伯ICから北川ICの延長46.6kmの無料道路も分離式の暫定2車線道路(全線供用開始27年3月)で規制速度は80km/hとなっている。
26年度末現在、供用中の暫定2車線道路2,423.8kmのうち4車線化事業中の延長を除いた2,264.2kmについては、4車線化の実施時期が明確にされていない状況である。そして、有料道路については、新設事業や4車線化を含めた改築事業を35年度までに完成するとされている。また、無料道路は、有料道路のような時間的な制約はないものの、建設及び管理を行う延長が増えてきている。一方、少子高齢化、過疎化等の影響により社会経済情勢に変化が生じてきており、地方部の暫定2車線道路においては現況交通量が少なく、将来交通量の大きな伸びも見込まれない区間が多数見受けられ、暫定2車線道路での供用年数は長期に及ぶこととなり、4車線化用地も長期間利用されていない状況となっている。そして、暫定2車線道路の対面通行部においては、分離式の部分に比べて逸脱事故が多く発生したり、速度規制により機能性が低下したりしていて、高規格道路の機能が有効に発揮されていない状況となっている。
したがって、暫定2車線道路は、次の点に留意して、高規格道路としての安全性、機能性等の向上を図ることが望まれる。
ア 国土交通省及び4会社は、暫定2車線道路について、現況交通量、将来交通量、交通事故の状況等を踏まえ、効果的な追越車線の設置等に加えて、分離式の道路構造の採用も含めた安全性及び機能性の向上のための対策に取り組むこと、また、これらの対策の実施に当たっては、現況の道路構造を考慮した小規模な改良等とすることなどを検討すること
イ 国土交通省及び機構は、4車線化用地について、将来の4車線化の実施及び供用中の暫定2車線道路の安全確保等の道路管理上の影響を考慮した上で、有効利用等の方策を検討すること
本院としては、高規格道路の暫定2車線道路の整備及び管理状況について、引き続き注視していくこととする。