日本銀行は、日本銀行法(平成9年法律第89号)に基づき、通貨及び金融の調節として、国債等の買入れを行うなどして金融機関等に資金を供給したり、日本銀行が振り出す手形等の売却を行って金融機関等から資金を吸収したりして、金融機関等が相互の資金決済等のために日本銀行に保有している当座預金(以下「日銀当座預金」という。)の残高を増減させることにより、短期金融市場における資金量の調整(以下「金融調節」という。)を行っている。
また、日本銀行は、平成20年10月に、金融調節の一層の円滑化を通じて金融市場の安定確保を図るために、補完当座預金制度を導入している。この制度は、準備預金制度(注1)の対象となる金融機関に係る日銀当座預金等のうち日本銀行に預け入れることが義務付けられている額を超える額(以下「超過準備額」という。)及び準備預金制度の対象とならない金融機関等のうち所定の金融機関等に係る日銀当座預金(以下、超過準備額及び準備預金制度の非対象先に係る日銀当座預金を合わせて「超過準備額等」という。)について、それぞれ政策委員会で決定した適用利率(制度導入時から年0.1%)による利息を付すものである。
日本銀行は、25年1月に、日本経済のデフレーションからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向けて、消費者物価の前年比上昇率で2%とする物価安定の目標を導入した。そして、同年4月に、物価安定の目標を2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現するために、金融調節の操作目標を無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベース(注2)に変更し、マネタリーベースが年間約60兆円から70兆円に相当するペースで増加するように金融調節を行い、また、資産の買入れ方針として、①長期国債について、保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するように買入れを行うとともに、買い入れる長期国債の平均残存期間を3年弱から7年程度に延長する、②指数連動型上場投資信託(以下「ETF」という。)及び不動産投資信託(以下「J―REIT」という。)について、保有残高がそれぞれ年間約1兆円及び年間約300億円に相当するペースで増加するように買入れを行うなどとする金融緩和(以下「量的・質的金融緩和」という。)を導入した。そして、日本銀行は、この量的・質的金融緩和について、上記物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続するなどとした。
そして、日本銀行は、26年10月に、量的・質的金融緩和の拡大を決定し、マネタリーベースが年間約80兆円(拡大前から約10~20兆円追加)に相当するペースで増加するように金融調節を行い、また、①長期国債について、保有残高が年間約80兆円(同約30兆円追加)に相当するペースで増加するように買入れを行うとともに、買い入れる長期国債の平均残存期間を最大3年程度延長して7~10年程度にする、②ETF及びJ―REITについて、保有残高が年間約3兆円及び年間約900億円(同それぞれ3倍増)に相当するペースで増加するように買入れを行うなどとした。
本院は、平成25年度決算検査報告において、特定検査対象に関する検査状況として「日本銀行の財務の状況及びその推移について」を掲記し、日本銀行は消費者物価の前年比上昇率で2%とする物価安定の目標に向けて、量的・質的金融緩和の下で金融機関等から長期国債を中心に多額の金融資産を買い入れるなどした結果、日本銀行の資産及び負債の規模は急速に拡大していることなどを記述した。
そして、前記のとおり、日本銀行は、26年10月に量的・質的金融緩和を拡大して、価格変動リスクのある資産を含む金融資産の買入れペースを増大している。
日本銀行の財務状況は、その時々の金融・経済情勢とそれを踏まえた日本銀行の金融調節等により変化するものであるが、日本銀行が保有する資産の健全性が損なわれたり、負債の残高が増加することに伴い費用が発生したりすることなどにより日本銀行に損失が発生した場合、その損失は日本銀行が国庫に納める納付金の減少を通じて最終的には国民の負担となる。
そこで、本院は、27年次の検査においては、上記の状況を踏まえつつ、24年度から26年度までの日本銀行の財務の状況について、財務の健全性が確保されているかなどに着目し、正確性、合規性、経済性等の観点から、量的・質的金融緩和の導入及びその拡大により、日本銀行の保有する長期国債、価格変動リスクのある資産等及び日銀当座預金等の負債等の規模はどのようになっているか、長期国債利息、補完当座預金制度に係る支払利息等の損益の状況はどのようになっているか、各事業年度の剰余金の処分及び国庫納付金の納付状況はどのようになっているかなどに着眼して検査した。
本院は、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき日本銀行から本院に提出された財務諸表等について書面検査を行うとともに、日本銀行及び財務本省において、日本銀行の財務の状況、国庫納付金の納付状況等に関する各種資料等の提出を受けるなどして会計実地検査を行った。
ア 日本銀行の資産及び負債への影響
24、25、26各年度末の日本銀行の資産、負債等の状況は図1のとおりであり、総資産残高は、24年度末に164兆8127億円であったものが、26年度末にその約2倍の323兆5937億円となり、その額は過去に例をみない規模となっている。資産の主なものは、金融調節等を通じて取得した金融資産である長期国債(発行から償還までの期間が2年以上の国債をいう。以下同じ。)及び短期国債並びに貸出金であるが、これらのうち、長期国債の残高は、24年度末に91兆3492億円(総資産残高に占める割合55.4%)であったものが、26年度末にその約2.4倍の220兆1337億円(同68.0%)にまで増加している。
一方、総負債残高は、24年度末には161兆5239億円であったものが、26年度末にはその約2倍の319兆6983億円となっている。負債の主なものをみると、24年度末には、日本銀行券の発行残高である発行銀行券が83兆3782億円(総負債残高に占める割合51.6%)、日銀当座預金が58兆1289億円(同36.0%)であったが、26年度末には、それぞれ89兆6732億円(同28.0%)、201兆5564億円(同63.0%)になり、日銀当座預金が発行銀行券を上回って負債の過半を占めるようになっている。これは、日本銀行が、量的・質的金融緩和の導入及びその拡大において、金融機関等から長期国債を中心に多額の金融資産の買入れを行うことにより、金融機関等が日本銀行に預け入れている日銀当座預金の残高が増加していることによるものである。
図1 量的・質的金融緩和導入前と導入後の日本銀行の資産、負債等の状況
イ 日本銀行が保有する長期国債への影響
(ア) 長期国債の発行残高に対する日本銀行の保有割合
日本銀行は、国債の売買を行うために必要な基本的事項を定める国債売買基本要領(平成11年3月制定)において、発行後1年以内の5年債、10年債等償還期間別で直近に発行された2銘柄を買入れ対象の国債から除外することを規定していたが、量的・質的金融緩和の導入に伴い、25年4月に当該規定を削除し、買入れ対象を拡大して買入れを行っている。
長期国債の発行残高に対する日本銀行の保有割合をみると、図2のとおり、26年度末において発行残高883兆2743億円(時価ベース)に対して、その25.5%に当たる224兆9483億円(同)の長期国債を保有しており、24年度末の保有割合11.6%に比べて約2.2倍の保有割合となっている。
図2 長期国債の発行残高に対する日本銀行の保有割合の状況
また、26年度末の長期国債の発行残高に対する日本銀行の保有割合について種類別及び償還期間別にみると、図3のとおり、2年債、5年債及び10年債について、保有割合が3割を超える状況となっている。
図3 平成26年度末における長期国債の発行残高に対する日本銀行の保有割合(種類別及び償還期間別)
そして、発行残高が最も大きい10年債のうち、23年度から26年度までに新規に発行されたものについて、それぞれ発行回ごとの初回発行後1年経過時点の日本銀行の保有割合の平均を発行年度別にみると、図4のとおり、25、26両年度発行分の平均保有割合は53.9%及び67.8%となっており、23、24両年度発行分の平均保有割合3.3%及び13.1%に比べて大幅に増加している。また、20年債、30年債及び40年債についても増加傾向となっている。
図4 平成23年度から26年度までに新規に発行された10年債の初回発行後1年経過時点の日本銀行の平均保有割合
(イ) 日本銀行における長期国債の評価方法等
日本銀行は、会計規程(平成10年10月制定)において、長期国債の貸借対照表価額については、原則として償還期限まで保有している実態を勘案して、償却原価法により評価を行うこととしている。このため、長期国債の貸借対照表価額は、時価の変動による影響を受けないことになっている。
そして、当該長期国債の貸借対照表価額、時価及び含み損益について24、25、26各年度末の状況をみると、この間の市場金利の低下傾向を反映して、表1のとおり、26年度末は、24年度末と同様に時価が貸借対照表価額を上回り、含み益が生じている。
表1 日本銀行が保有する長期国債の貸借対照表価額、時価及び含み損益の状況
区分 | 平成24年度末 | 25年度末 | 26年度末 |
---|---|---|---|
貸借対照表価額 | 91兆3492 | 154兆1536 | 220兆1337 |
時価注(2)H1-CHU2 | 93兆8741 | 156兆8774 | 224兆9509 |
含み損益 | 2兆5248 | 2兆7238 | 4兆8171 |
(ウ) 日本銀行が保有する長期国債の平均残存期間等
日本銀行は、前記のとおり、量的・質的金融緩和の導入及びその拡大により、買い入れる長期国債の平均残存期間を延長している。
そこで、24、25、26各年度末に日本銀行が保有していた長期国債の残存期間別の残高及び平均残存期間についてみたところ、図5のとおり、平均残存期間は、24年度末の3.9年から、26年度末には6.5年へと長期化している。
図5 日本銀行が保有する長期国債の残存期間別の残高及び平均残存期間の状況
そして、26年度末時点で日本銀行が保有している長期国債の残高の規模をみるために、日本銀行が長期国債を実態として償還期限まで保有していることを踏まえ、26年度末時点で日本銀行が保有している長期国債について、26年度以降の各年度末における償還期限到来による償還分を本院において機械的に差し引き、各年度末の保有残高を試算したところ、図6のとおり、26年度末時点に保有する長期国債の残高が、量的・質的金融緩和導入前の24年度末時点の90兆1823億円を下回る規模となるのは6年後の32年度末となった。
図6 平成26年度末に日本銀行が保有する長期国債の26年度以降の残高の見込み(本院の機械的試算)
ウ 日本銀行が保有するETF及びJ―REITへの影響
(ア) 日本銀行によるETF及びJ―REITの買入方法
日本銀行は、自らを受益者として信託銀行を受託者とする金銭の信託を行い、これに係る信託財産として、ETF及びJ―REITを信託銀行に指図して市場価格で証券会社から買い入れることとしている。買入れの対象となるETFは、TOPIX、日経225又はJPX日経インデックス400に連動するように運用されるもの、また、J―REITは、これを発行する投資法人の債務が適格格付機関からAA格相当以上の格付けを取得していることなど日本銀行が適格と認めるものであることなどの要件を満たすものとなっている。そして、ETF及びJ―REITの買入価格は、原則として金融商品取引所における売買高加重平均価格又は当該価格を目途として受託者が取引する価格とし、その買入れは、銘柄ごとの時価総額におおむね比例して行われるよう日本銀行が定める範囲を限度として行うこととなっている。また、J―REITについては、上記買入限度額は、銘柄ごとの発行済投資口の総数の5%以内に定めることとなっている。
(イ) 日本銀行が保有するETF及びJ―REITの状況
24、25、26各年度末の日本銀行のETF及びJ―REITの保有残高(時価ベース)をみると、表2のとおりとなっており、24年度末においてはそれぞれ2兆0941億円及び1908億円であったものが、26年度末においてそれぞれ6兆8754億円及び2880億円となっている。
表2 日本銀行が保有するETF及びJ―REITの状況
区分 | 平成24年度末 | 25年度末 | 26年度末 |
---|---|---|---|
保有残高 | 2兆0941 | 3兆8485 | 6兆8754 |
株式会社東京証券取引所等に上場されているETFの純資産総額 | 3兆0667 | 8兆1617 | 12兆9440 |
区分 | 平成24年度末 | 25年度末 | 26年度末 |
---|---|---|---|
保有残高 | 1908 | 1921 | 2880 |
株式会社東京証券取引所等に上場されているJ―REITの時価総額 | 7兆2481 | 7兆5845 | 10兆7157 |
(ウ) 日本銀行におけるETF及びJ―REITの評価方法等
日本銀行は、金銭の信託により買い入れているETF及びJ―REITについて、金融政策目的で買い入れたものであり、その保有目的や実態が民間企業等とは異なることを踏まえて、原価法により評価を行うこととしている。
ETF及びJ―REITは、国債のように償還期限が設定されるものではないため、その保有残高は処分又は減損処理によって減少することとなるが、処分においては、ETF及びJ―REITの貸借対照表価額と処分価格との差額が損益として計上されることとなる。
日本銀行は、保有等に伴う損失発生可能性に備え、ETF及びJ―REITの時価の総額がそれぞれの帳簿価額の総額を下回る場合、その差額に対してそれぞれ引当金を上半期末及び事業年度末に計上することとなっている。さらに、ETF及びJ―REITの上半期末又は事業年度末における時価が著しく下落した場合には、減損処理を行うこととなっている。
そして、ETF及びJ―REITの24、25、26各年度末の時価、貸借対照表価額及び含み損益をみると、図7のとおり、株式市場の情勢により、各年度末とも、時価が貸借対照表価額を上回り、含み益が発生している。
図7 日本銀行が保有するETF及びJ―REITの時価、貸借対照表価額及び含み損益の状況
ア 日本銀行の損益への影響
日本銀行の経常収益の主なものは、金融調節等を通じて取得した長期国債、短期国債、貸出金、外貨建資産等の金融資産から生ずる利息等となっている。24年度から26年度までの損益の状況をみると、図8のとおり、24年度においては、外貨建資産から生ずる為替差益又は為替差損(以下「外国為替関係損益」という。)が経常収益に対して最も大きな割合(43.2%)を占めている。しかし、量的・質的金融緩和の導入及びその拡大に伴う長期国債残高の増加により、長期国債利息が、24年度に6005億円(42.9%)であったものが、25年度に7761億円(49.1%)、26年度には1兆0331億円(49.7%)となり、両年度とも経常利益の額に与える影響が最も大きくなっている。
そして、経常費用の主なものは一般事務費、銀行券製造費等の経費であり、24年度においては経常費用の71.2%を占めていたが、25、26両年度においては63.9%及び54.2%となり、一方、超過準備額等の残高に対して発生する補完当座預金制度に係る支払利息が、量的・質的金融緩和の導入及びその拡大に伴う日銀当座預金の増加により、24年度に315億円(11.8%)であったものが、25年度に836億円、26年度には1513億円となり、経常費用のそれぞれ28.0%及び41.5%を占めるようになっている。
図8 量的・質的金融緩和導入前と導入後の日本銀行の損益の状況
イ 保有長期国債の利回り等及び補完当座預金制度に係る支払利息への影響
24年度から26年度までの日本銀行が保有する長期国債の利回りなどの状況をみると、図9のとおり、25、26両年度とも、24年度に対する長期国債の平均保有残高の増加率が51.5%及び122.2%となっているのに比べて長期国債利息の増加率は29.2%及び72.0%と小さくなっており、保有長期国債の利回りは低下傾向で推移している。
図9 日本銀行が保有する長期国債の利回りなどの状況
そして、24年度から26年度までの補完当座預金制度に係る支払利息等の状況をみると、図10のとおり、25年度以降は、長期国債を中心とする多額の金融資産の買入れが行われたことなどに伴い、26年度における超過準備額等の平均残高が154兆3941億円と24年度の約4.7倍に増加し、それに伴い26年度における支払利息の金額も1513億円と24年度の約4.8倍に増加している。
図10 補完当座預金制度に係る支払利息等の状況
この結果、長期国債利息に対する補完当座預金制度に係る支払利息の割合を計算してみると、24年度においては5.2%だったものが、26年度には14.6%と増加している。
ウ 当期剰余金の処分への影響
(ア) 当期剰余金の処分の概要
日本銀行は、取得した金融資産に関し、保有等に伴う損失発生可能性に備えるため、外国為替等取引損失引当金(注3)等の積立てについて、また、ETF又はJ―REITに係る引当金の積立てを含む財務諸表について、財務大臣の承認を受けて、上記の引当金の積立額について内部に留保している。
日本銀行の各事業年度の剰余金(以下「当期剰余金」という。)は、経常利益から上記の引当金の積立て又は取崩し等を特別損益として加減したものから、法人税等を差し引いた額となっている。そして、日本銀行は、当期剰余金から、原則として当該当期剰余金の5%に相当する額(特に必要があると認められるときは、財務大臣の認可を受けて、当該額を超える額)を準備金(以下「法定準備金」という。)として積み立てるなどした後の残額を、国庫に納付することとなっている。
(イ) 当期剰余金の処分の状況
日本銀行は、24年度から26年度までにおいて、財務大臣の承認を受けて、表3のとおり、特別損失として外国為替等取引損失引当金に積み立てるなどした結果、24年度から26年度までの当期剰余金は、それぞれ5760億円、7242億円及び1兆0090億円となっている。
そして、日本銀行の法定準備金積立額は、表3のとおり、25、26両年度において、それぞれ当期剰余金の5%に相当する額を超える1448億円及び2522億円となっている。これらは、日本銀行が、財務の健全性確保の観点から、量的・質的金融緩和の導入及びその拡大に伴い資産規模が拡大していることにより、従来よりも収益の振幅が大きくなると見込まれる状況を踏まえて、財務大臣に対して上記法定準備金の積立ての認可申請を行い、同大臣の認可を受けて、25年度は当期剰余金の額の20%に相当する額を、26年度は25%に相当する額を積み立てたものである。
また、24年度から26年度までにおいて、当期剰余金から法定準備金積立額等を控除した額5472億円、5793億円及び7567億円がそれぞれ国庫に納付されている。
表3 当期剰余金の処分の状況
区分 | 平成24年度 | 25年度 | 26年度 | |
---|---|---|---|---|
経常利益(a) | 1兆1316 | 1兆2805 | 1兆7137 | |
特別損(△)益(b) | △2950 | △2988 | △3622 | |
うち外国為替等取引損失引当金繰入額(△) | △3018 | △3097 | △3800 | |
法人税、住民税及び事業税(c)注(1) | 2606 | 2573 | 3424 | |
当期剰余金(d)=(a)+(b)-(c) | 5760 | 7242 | 1兆0090 | |
法定準備金積立額(e) | 288 | 1448 | 2522 | |
積立率(e)/(d) | 5.0 | 20.0 | 25.0 | |
配当金(f)注(2)H3-CHU2 | 0 | 0 | 0 | |
国庫納付金(d)-(e)-(f) | 5472 | 5793 | 7567 |
(ウ) 自己資本比率の状況
日本銀行は、将来の損失発生に備えて、自己資本を保有し、財務の健全性の維持に努めている。そして、自己資本比率(注4)を財務の健全性に関する指標としており、この比率が10%程度となることを目途としておおむねその上下2%の範囲内となるように特別損益の経理において外国為替等取引損失引当金等の積立て又は取崩しを行い、当期剰余金の処分において法定準備金の積立てを行うこととしている。
日本銀行の自己資本比率は、表4のとおり、24、25両年度末は7%台となっていたが、26年度末は、当期剰余金の額の25%(25年度は20%)に相当する額について法定準備金の積立てを行うなどした結果、8.20%となっている。
表4 自己資本比率の状況
区分 | 平成24年度末 | 25年度末 | 26年度末 | |
---|---|---|---|---|
資本金勘定(a) | 2兆7415 | 2兆8863 | 3兆1386 | |
資本金 | 1 | 1 | 1 | |
法定準備金等 | 2兆7414 | 2兆8862 | 3兆1385 | |
引当金勘定(b) | 3兆3396 | 3兆6493 | 4兆0294 | |
債券取引損失引当金 | 2兆2433 | 2兆2433 | 2兆2433 | |
外国為替等取引損失引当金 | 1兆0963 | 1兆4060 | 1兆7861 | |
自己資本残高(c)=(a)+(b) | 6兆0811 | 6兆5357 | 7兆1680 | |
日本銀行券平均発行残高(d) | 81兆5695 | 84兆4116 | 87兆3941 | |
自己資本比率(c)/(d) | 7.45 | 7.74 | 8.20 |
日本銀行による量的・質的金融緩和の導入及びその拡大に伴い、日本銀行の資産及び負債の規模は過去に例をみない規模で急速に拡大している。これに伴い、資産から得られる収益も増大し、当期剰余金も増加している。しかし、長期国債の利回りが低下傾向で推移していく中、保有長期国債の平均保有残高の増加率に比べて長期国債利息の増加率は小さくなっており、また、超過準備額等の残高に対して発生する補完当座預金制度に係る支払利息は、長期国債を中心とする多額の金融資産の買入れによる日銀当座預金の大幅な増加に伴って増加している。そして、量的・質的金融緩和の導入及びその拡大に関して、日本銀行は、「日本銀行の収益に及ぼす影響としては、資産及び負債の規模が縮小していく、あるいはいわゆる出口の過程では、収益が押し下げられる方向はある」としている。
したがって、日本銀行においては、引き続き、量的・質的金融緩和の導入及びその拡大に伴い取得した金融資産について、保有等に伴う損失発生可能性に備えて適切に引当金の積立てを行うとともに、金融資産及び日銀当座預金の規模の拡大等に伴い、従来よりも収益及び費用の振幅が大きくなると見込まれる状況を踏まえて、当期剰余金の5%に相当する額を超える金額を必要に応じて法定準備金に積み立てるなど更に財務の健全性の確保に努めることが重要である。また、財務省においては、日本銀行から上記引当金の積立てを含む財務諸表等の承認又は上記法定準備金の積立ての認可の申請があった場合には、量的・質的金融緩和の導入及びその拡大後の日本銀行の財務の健全性等を勘案した上で、国民に還元されるべきとされている日本銀行の利益の特質等に留意しつつ、引き続き適切に承認又は認可を行っていくことが必要である。
本院としては、今後の金融経済情勢の変化を踏まえつつ、今後とも日本銀行の財務の状況について引き続き検査していくこととする。