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  • 平成27年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第3 内閣府(内閣府本府)|
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  • 補助金

原子力発電施設等緊急時安全対策交付金事業により整備した太陽光発電式電子線量計の設計が適切でなかったもの[内閣府本府](1)


(1件 不当と認める国庫補助金 15,309,000円)

  部局等 補助事業者等
(事業主体)
補助事業等 年度 事業費 左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める事業費 不当と認める国庫補助金等相当額
          千円 千円 千円 千円
(1) 内閣府本府 島根県 原子力発電施設等緊急時安全対策交付金 26 15,309 15,309 15,309 15,309

この交付金事業は、島根県が、原子力発電施設等緊急時安全対策交付金交付規則(昭和55年科学技術庁・通商産業省告示第3号)、原子力災害対策指針(平成24年10月原子力規制委員会決定)等に基づき、中国電力株式会社島根原子力発電所からおおむね30km圏内の区域において原子力災害による環境放射線の状況に関する情報収集、防護措置の実施の判断材料の提供等のために行う緊急時モニタリングの体制を整備することを目的として、空間放射線量率を常時測定して伝送する機能を有する装置である簡易型電子線量計を観測局として15か所に整備するなどしたものである。

原子力規制庁が示した簡易型電子線量計の仕様に関する考え方によれば、一次電源は商用電源又は代替電源による供給とすること、一次電源喪失時にはバッテリにより1週間以上の稼働が可能なことなどとされている。これを受けて、同県は、簡易型電子線量計の一次電源は代替電源である太陽光発電による供給とすることとし、調達仕様書において、簡易型電子線量計の仕様を、太陽光パネルの充電機能と内部バッテリにより稼働させること、緊急時に備えて常時測定することから年間を通じた全天候に耐え得るようにすること、太陽光パネルによる自動充電機能が停止した場合には内部バッテリで7日間以上の連続稼働が可能なことなどとしていた。

そして、同県は、上記の仕様に基づく簡易型電子線量計(以下「太陽光発電式電子線量計」という。参考図参照)等の製作、附帯工事等について、設計を含めて受注者に行わせることとして契約を締結して、契約締結後に受注者から提出された設計図書に承諾を与えていた。その後、受注者は、出力50Wの太陽光パネル、容量105Ahの内部バッテリ等を備えた太陽光発電式電子線量計を15台設置し、同県は、これらを検査した上で平成27年3月に引渡しを受けて、同年4月に測定を開始していた。

しかし、同県は、受注者から提出を受けた設計図書の承諾に際して、太陽光パネルの発電電力量や内部バッテリの蓄電量等の具体的な設計上の値が示されていないなどしているのに、調達仕様書で定めた空間放射線量率を常時測定するという機能の実現可能性について十分に審査、確認等を行っていなかった。そして、上記のとおり太陽光パネルの発電電力量や内部バッテリの蓄電量等の具体的な設計上の値が明らかでなく、また、測定を開始した27年4月から空間放射線量率を測定できない事態が発生していたことから、本院が設計の考え方について同県を通じて受注者に確認したところ、受注者は、試験結果により算出された太陽光発電式電子線量計の1日当たりの消費電力量148.32Whを太陽光パネルの出力50Wで除することにより、太陽光発電式電子線量計を1日間稼働させるために必要な日照時間は2.97時間とした上で、これと松江地方気象台における過去15年間(平成12年から26年まで)の年間日照時間のうちで最も少ない1,518.4時間(平成15年)を365日で除することにより求められる1日当たりの日照時間4.16時間とを比較して、1日当たりの日照時間の方が上回ることから、出力50Wの太陽光パネルで常時稼働させることができるとしていた。また、太陽光発電式電子線量計の1時間当たりの消費電流量0.515Ahに168時間(7日間)を乗じて得られる86.52Ahが、内部バッテリの容量105Ahに安全率0.85を乗じて得られる89.25Ahを下回ることから、7日間以上の連続稼働が可能であるとしていた。

そこで、太陽光発電式電子線量計が設置された前記の区域において気象庁の気象観測統計により日照時間を確認することができる松江地方気象台及び鹿島観測所における日ごとの日照時間の平年値を確認したところ、上記の2.97時間を満たしていない日が松江地方気象台で12月から2月までの間に68日間、鹿島観測所で11月から2月までの間に86日間連続する状況となっていた。また、太陽光発電システムに係る発電電力量の推定方法について規定した日本工業規格の計算式を用いて、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が太陽光発電システムの発電電力量を推定する際に活用できるようにインターネット上の「日射量データベース閲覧システム」で公開している松江及び鹿島の両地点における斜面日射量の値を基に太陽光パネルの発電電力量を計算したところ、両地点において、1年のうち9か月は、1日当たりの発電電力量が消費電力量148.32Whを下回る結果となった。

さらに、上記の閲覧システムで得られる日ごとの斜面日射量の値を基に発電電力量を算出し、1日当たりの消費電力量を踏まえて内部バッテリの蓄電量の推移を試算したところ、両地点で蓄電量が0Whとなる日が1年のうち100日以上となるなどして、太陽光発電式電子線量計の安定した稼働に必要な電力を確保することができない状況が発生することが想定される結果となった。

そして、測定を開始した27年4月から断続的に空間放射線量率を測定できない事態が15か所全ての観測局において発生しており、同月から28年3月までの1年間において測定できなかった時間を観測局ごとにみると、最大で計112,604分(78日間以上に相当)、最小でも計54,866分(38日間以上に相当)となっており、中には、測定できなかった時間が計37,278分(25日間以上に相当)となっている月がある観測局もあった。

したがって、同県が整備した太陽光発電式電子線量計は、安定した稼働に必要な電源に係る設計が適切でなかったため、空間放射線量率を常時測定する機能を維持することができない状態になっていて、太陽光発電式電子線量計等(事業費15,309,000円)は整備の目的を達しておらず、これに係る交付金15,309,000円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同県において、太陽光発電式電子線量計の電源の設計について安定した稼働に必要な電力を確保することの検討が十分でなかったことなどによると認められる。

(参考図)

太陽光発電式電子線量計の概念図

太陽光発電式電子線量計の概念図 画像