警察庁は、都道府県警察が警ら活動、災害救助活動等を実施するための回転翼航空機(以下「回転翼機」という。)について調達を行って、都道府県警察本部に国有財産として配備している。
都道府県警察は、上記の回転翼機を山岳救助活動の際に高い高度で使用するなど、一般の回転翼機よりも厳しい条件下で飛行させるなどしており、このような条件下における救助活動等に使用することができなくなった場合には、都道府県警察本部が警察庁の承認を得た上で売却している。
警察庁は、平成23年4月から27年10月までの間に、18都道府県警察本部において国有財産である回転翼機22機を用途廃止しており、同月末までに、12都道府県警察本部(注1)においてこれらのうち16機を計18億4404万余円で売却している。
警察庁は、回転翼機の配備に合わせて、修理等を行う際に必要となる回転翼機に係る装備品等についても調達を行って、都道府県警察本部に配分している。
警察庁は、物品管理法(昭和31年法律第113号)等に基づき、その所管に属する物品について、供用等の目的に従い分類を設けることとしており、その細分類については、重要物品、備品及び消耗品としている。そして、物品管理官である警察本部長等は、物品管理簿を備え、その管理する物品についての異動等を記録しなければならないこととなっている。
警察庁は、配分する装備品等のうち、回転翼機の修理等の際に取り外された装備品に代えて取り付けるための装備品については、物品の細分類を消耗品として取り扱うことを都道府県警察本部に通知している。
これらの装備品の中には、航空機の安全性を確保するための重要な装備品として、部品単独の状態で国土交通省が検査をするなどして耐空性を認める証明(以下「予備品証明」という。)が必要とされるものがあり、予備品証明を受けた装備品でも回転翼機に取り付けてしまえば予備品証明の効力を失うため、再び機体から取り外された際には修理等を行うなどした上で再度予備品証明を受けることにしている。
このように回転翼機の装備品の中には、修理等を繰り返すことにより長期間にわたり循環的に使用される重要な装備品(以下「循環装備品」という。)がある。
都道府県警察が保有する循環装備品は、国の所有に係る物品(以下「国有物品」という。)としては、①警察庁が回転翼機の配備に合わせて配分したものと、②回転翼機の配備当初に搭載されていてその後に取り外されたものとがあり、都道府県警察の所有に係る物品(県有物品)としては、循環装備品が不足する場合に都道府県警察が国の補助を受けるなどして購入したものがあり、回転翼機が用途廃止されると、国有物品については、物品管理官が、物品管理法等に基づき、管理換するなどして適切な処理を行い、これができないときには、不用決定することができることとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性、有効性等の観点から、用途廃止された回転翼機の売却について、都道府県警察本部が回転翼機を売却する際に付している条件は適切なものとなっているか、国有物品である循環装備品について、物品管理は適切に行われているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、回転翼機の売却に関しては、前記の用途廃止された22機のうち、27年10月末までに12都道府県警察本部において売却された16機(売却額計18億4404万余円)を対象として、7都道府県警察本部(注2)において契約書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、警察庁に契約等の状況について調書の作成及び提出を求めたり、回転翼機の売却条件に係る見解を聴取したりするなどして検査した。また、循環装備品に関しては、上記16機のうち11機、27年11月以降に売却された3機及び28年7月時点で売却の手続中である2機、計16機のほか、28年5月に用途廃止され関係書類が保管されている1機を加えた計17機に係る循環装備品のうち、取得価格又は取得価格相当額(注3)(以下「取得価格等」という。)が50万円以上のもの計149品目227点(取得価格等計12億6048万余円)を対象として、12都道府県警察本部(注4)において搭載用航空日誌(注5)等の関係書類により会計実地検査を行うとともに、警察庁に循環装備品に係る細分類の設定等に係る見解を聴取するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
売却した回転翼機16機について、契約における売却後の回転翼機の使用に係る条件等をみると、警視庁は、日本国内では航空の用に供さないこととして、3機を計7億9143万余円(3契約)で売却しており、また、11道府県警察本部は、国内外とも航空の用に供さないこととして、13機を計10億5260万余円(12契約)で売却していた。
同一型機の回転翼機であっても、その機体の状態、需要状況等により売却額は異なることになるが、上記のうち、警視庁が売却した回転翼機は、輸出することにより海外で航空の用に供することができるのに対して、11道府県警察本部が売却した回転翼機は、国内外とも航空の用に供することができないため、使用可能な航空機部品を採取するにとどまることになる。
入札希望者は、回転翼機の売却契約の締結に当たり、海外で航空の用に供することができる場合は、購入後の修理額等も考慮した航空の用に供する場合における価値と航空機部品の採取のみを前提とした価値とを比較検討するなどして入札額を決定すると想定されるのに対して、国内外とも航空の用に供することができない場合は、航空機部品の採取を前提として入札額を決定すると想定されることから、この入札額は、海外で航空の用に供することができる場合の入札額以下となることが想定される。
そこで、警視庁が売却した回転翼機3機種(エアバス式AS332L1型、ベル式412HP型及びベル式206L―3型)3機の各売却額と11道府県警察本部が売却した回転翼機13機のうち、警視庁が売却したものと同一型機である8府県警察本部の8機の売却額とを比較すると、表のとおり、いずれも警視庁の回転翼機の売却額が各府県警察本部の売却額を大幅に上回っていた。
表 売却契約において用途指定の内容が異なる同一型機の売却額の比較
型式 | 警視庁(日本国内では航空の用に供さない) | 8府県警察本部(国内外とも航空の用に供さない) | |||||||||
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航空機名 | 用途廃止 年月日 |
売却契約 年月日 |
飛行時間 (時間) |
売却額 (円) |
警察本部名 | 航空機名 | 用途廃止 年月日 |
売却契約 年月日 |
飛行時間 (時間) |
売却額 (円) |
|
エアバス式AS332L1型 | おおぞら2号 | 平成
24.9.10 |
25.6.27 | 5,940 | 497,700,000 | 大阪 | おおわし | 平成
24.5.14 |
25.1.7 | 3,811 | 280,127,426 |
ベル式412HP型 | おおとり3号 | 25.12.2 | 26.9.25 | 6,195 | 223,099,920 | 宮城 | まつしま | 26.1.22 | 26.12.2 | 7,461 | 115,392,870 |
新潟 | こしかぜ1号 | 25.12.2 | 26.12.15 | 7,330 | 117,304,848 | ||||||
ベル式206L―3型 | はやぶさ2号 | 25.12.2 | 26.9.25 | 6,900 | 70,638,586 | 福井 | くずりゅう | 23.12.22 | 24.8.20 | 7,113 | 44,205,000 |
徳島 | しらさぎ | 23.6.30 | 23.11.15 | 6,863 | 47,250,000 | ||||||
佐賀 | かささぎ | 26.3.28 | 26.12.9 | 8,140 | 66,268,800 | ||||||
長崎 | さいかい | 25.1.7 | 25.6.5 | 6,581 | 69,512,106 | ||||||
宮崎 | ひむか | 23.11.1 | 24.2.3 | 6,238 | 52,724,700 |
そして、航空機の安全に関しては、航空法等に基づく耐空証明(注6)による証明制度があり、さらに、重要な装備品に係る整備内容は網羅的に搭載用航空日誌等に記録されているため、入札希望者は、この記録を確認した上で、航空機の安全に係る耐空証明を得て使用することを決定できることなどを考慮すると、道府県警察本部において回転翼機の売却の際に国内外とも航空の用に供さないとする条件を付すことに合理的な理由はなく、このような売却条件を付すことは、売却額の引下げにつながると認められた。
警察庁は、循環装備品を配分する際に、前記のとおり物品の細分類を消耗品としていた。このような取扱いとしたのは、物品管理法施行令(昭和31年政令第339号)等によれば、修繕用部品については、物品管理簿に物品の異動を記録しないことができることとされており、循環装備品はこれに該当すると判断したことなどによるものであった。
このため、都道府県警察本部の物品管理官は、物品管理簿に国有物品である循環装備品の保有数等を記録しておらず、その現在高等を把握できない状況となっていた。
そこで、搭載用航空日誌には、循環装備品の交換作業の実施年月日、交換部品名、部品個体番号(シリアル番号)等が記録されていることから、回転翼機の売却手続を進めている最中であるなど搭載用航空日誌が保管されていて、循環装備品のうち国有物品の保有状況が判明した5道県警察(注7)の6機について国有物品の保有数を検査したところ、用途廃止時に保有していた循環装備品のうち国有物品は、警察庁が回転翼機の配備に合わせて配分したものが69品目93点(取得価格等計5億6904万余円)、回転翼機の配備当初に搭載されていてその後取り外されたものが78品目107点(取得価格等計6億2908万余円)計129品目200点(取得価格等合計11億9812万余円)であることが判明した。
循環装備品について検査した17機のうち、8都道県警察の8機に係る循環装備品については、他の都道府県警察本部に対して管理換要望の有無についての確認が行われていなかった。
そして、上記8都道県警察の8機のうち、派生型機又は同一型機が運用されていて、用途廃止された回転翼機に係る循環装備品を現在使用できるのは、3道県警察(注8)の3機であり、これら3機に係る国有物品である循環装備品の保有数は68品目87点(取得価格等計5億5613万余円)となっており、これらは全てアにおいて国有物品であることが判明したものであった。
そこで、これら3道県警察の3機に係る上記の循環装備品68品目87点について、28年7月現在で派生型機又は同一型機を運用している14都道府県警察本部に対して、当該循環装備品の管理換要望の有無を警察庁を通じて確認したところ、50品目57点(取得価格等計2億3997万余円)については管理換要望があった。
また、上記68品目87点の中には、警察庁から配分された後、おおむね20年程度の回転翼機の運用期間を経過して一度も使用されていないものが18品目21点(取得価格等計7571万余円)あった。このほか、36品目42点(取得価格等計2億8231万余円)は、修理が行われ予備品証明が取得されており、これらの計54品目63点(取得価格等計3億5803万余円)は直ちに使用できるものとして保有されていたが、これらの情報について、都道府県警察本部において共有されておらず、適切に活用されていない状況となっていた。
このように、回転翼機の売却に当たり、合理的な理由がないのに国内外とも航空の用に供さないとする条件を付していた事態及び国有物品である循環装備品について、細分類を消耗品としていて物品管理官において現在高等が把握されていないため、用途廃止の際に管理換要望の確認が行われていなかったり、長期間未使用等となっているのに情報の共有がなされずその活用が図られていなかったりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、警察庁において、国内外とも航空の用に供さないとする条件を付す必要性についての検討が十分でなかったこと、循環装備品の細分類の決定に当たり、物品の個々の性質等についての検討が十分でなかったこと、都道府県警察本部において、適切に管理換要望の確認を行うことに対する認識に欠けていたこと、警察庁において、長期間未使用等となっている循環装備品の有効な活用に向けた適切な方策について検討を行っていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、警察庁は、各警察本部長等に対して、27年11月及び28年9月に通達等を発して、回転翼機の売却が適切に行われるなどするよう、次のような処置を講じた。
ア 回転翼機を売却する際に、航空の用に供さないとするなどの条件を付さないこととした。
イ 回転翼機の循環装備品の細分類について、重要物品又は備品とすることとした。
ウ 都道府県警察本部が回転翼機を用途廃止する際には、保有している国有物品である循環装備品を報告させ、その報告に基づき他の都道府県警察本部等に管理換要望の有無について確認を行うこととし、要望があったものについては、管理換の命令を行うこととした。
エ 都道府県警察本部から、毎年、年度末に国有物品である循環装備品の保有状況を報告させて、その結果を都道府県警察本部に提供し、都道府県警察本部においては、必要な循環装備品があった場合には、当該循環装備品を保有する都道府県警察本部と調整した上で管理換することとした。