【意見を表示したものの全文】
預金保険機構の金融機能早期健全化勘定における利益剰余金について
(平成28年10月28日付け 内閣府特命担当大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
国は、我が国の金融機能の早期健全化を図り、金融システムに対する内外の信頼を回復することなどを目的として、平成10年10月に「金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律」(平成10年法律第143号。以下「金融機能早期健全化法」という。)を制定した。金融庁(13年1月5日以前は金融再生委員会)は、金融機能早期健全化法に基づき、10年10月から14年3月までの時限的な措置として、預金保険機構及び株式会社整理回収機構(11年3月以前は株式会社整理回収銀行。以下「整理回収機構」という。)を通じて、金融機関が発行する優先株式等の引受け等の措置(以下「資本増強措置」という。)を実施した。そして、金融機能早期健全化法に基づき、32金融機関に対して計8兆6053億0510万円の資本増強措置が実施された。
預金保険機構は、金融機能早期健全化法に基づく優先株式等の引受け等の業務(以下「早健法業務」という。)を整理回収機構に委託して実施している。そして、預金保険機構は、早健法業務に必要な資金について、政府保証が付された金融機関等からの借入れ又は預金保険機構債の発行によって調達し、これを整理回収機構に貸し付けている。金融機能早期健全化法によれば、早健法業務に係る経理については、預金保険機構において、その他の経理と区分し、金融機能早期健全化勘定を設けて整理しなければならないこととされており、同勘定に係る資金は、早健法業務以外の用途には使用できないこととなっている。
金融機能早期健全化法に基づく資本増強措置の枠組みは、図1のとおりである。
図1 金融機能早期健全化法に基づく資本増強措置の枠組み
金融機能早期健全化法によれば、預金保険機構は、整理回収機構から利益が納付されるなどして、毎事業年度の損益計算上利益を生じたときは、金融機能早期健全化勘定において積立金として整理しなければならないこととされている。そして、同勘定は、早健法業務の終了により廃止されることとされており、同勘定の廃止時において剰余金がある場合には、国庫に納付しなければならないこととされていて、同勘定が廃止されるまでの間は国庫に納付することができないこととなっている。
国は、金融機能の強化を図るために、金融機関の業務の健全かつ効率的な運営及び地域における経済の活性化を期することなどを目的として、16年6月に金融機能の強化のための特別措置に関する法律(平成16年法律第128号。以下「金融機能強化法」という。)を制定した。金融庁は、金融機能強化法に基づき、16年8月から20年3月末までの時限的な措置(20年12月の金融機能強化法の改正により24年3月末まで延長)として、預金保険機構及び整理回収機構を通じて資本増強措置を実施した。そして、預金保険機構は、金融機能強化法に基づく優先株式等の引受け等の業務(以下「強化法業務」という。)を整理回収機構に委託して実施している。また、金融機能強化法によれば、強化法業務に係る経理については、預金保険機構において、その他の経理と区分し、金融機能強化勘定を設けて整理しなければならないこととされている。
その後、23年3月に発生した東日本大震災の被災地域における金融機能を維持・強化するなどのために、国は、同年7月に金融機能強化法を改正(以下、改正後の金融機能強化法を「改正金融機能強化法」という。)し、資本増強措置の申込期限を29年3月末までの5年間延長することとした。そして、東日本大震災によって経営基盤が著しい影響を受け、財務の状況を確実に見通すことが困難となったと認められる信用金庫、信用組合等の協同組織金融機関(以下「特定震災特例協同組織金融機関」という。)については、信金中央金庫、全国信用協同組合連合会等の協同組織金融機関の中央機関(以下「協同組織中央金融機関」という。)が、特定震災特例協同組織金融機関から優先出資等の引受け等を行い、当該優先出資等を信託して信託受益権(注1)を取得した上で、預金保険機構から委託を受けた整理回収機構が信託受益権等の一部を協同組織中央金融機関から買い取ることにより、預金保険機構と協同組織中央金融機関が共同して特定震災特例協同組織金融機関に対して資本参加を行う枠組みが設けられた。
そして、改正金融機能強化法によれば、特定震災特例協同組織金融機関等は、原則として資本参加が行われた後10年を経過するまでに、主務大臣である内閣総理大臣から委任を受けた金融庁長官に対して、「経営が改善した旨の認定」又は「事業再構築(注2)に伴う資本整理(注3)を可とする旨の認定」のいずれかの申請を行わなければならないこととされている。これらの認定のうち、「事業再構築に伴う資本整理を可とする旨の認定」は、上記の資本参加が行われた後に、財務状況が悪化して、資産の額が負債の額に整理回収機構が買い取った信託受益権等に係る優先出資の額を加えた額を下回り、参加資本の償還が困難となった特定震災特例協同組織金融機関等が金融庁長官に対して申請することができることとされており、金融庁長官がその認定を行った場合には、特定震災特例協同組織金融機関等は、事業再構築に伴う資本整理を行うことができることとされている。
また、改正金融機能強化法によれば、「事業再構築に伴う資本整理を可とする旨の認定」を受けた特定震災特例協同組織金融機関等は、資本整理として信託受益権等に係る優先出資の消却を行う必要があるときは、預金保険機構に対して、当該消却を行うために必要な金銭の贈与を申し込むことができることとされている。預金保険機構は、この申込みがあったときは、特定震災特例協同組織金融機関等に対して、負債の額と信託受益権等に係る優先出資の額を加えた額から資産の額を差し引いた額に相当する額の金銭を贈与することによって、信託受益権等に係る優先出資を消却するために必要な剰余金を保有できるよう、預金保険機構の一般勘定から金銭の贈与を行うこととされている。そして、預金保険機構は、一般勘定から支出する金銭の贈与額のうちペイオフコスト(注4)相当額を超える額について、この額の範囲内において金融機能早期健全化勘定から一般勘定に繰り入れることとされている。
また、事業再構築が行われた後、清算により預金保険機構の参加資本に残余財産が分配されないなどして預金保険機構の金融機能強化勘定に損失が生じた場合には、預金保険機構は、当該損失の額のうちペイオフコスト相当額を超える額について、この額の範囲内において金融機能早期健全化勘定から金融機能強化勘定に繰り入れることができることとされている。
このように、金融機能早期健全化勘定の資金は、特定震災特例協同組織金融機関等が資本整理を行う場合の金銭の贈与及び金融機能強化勘定の損失処理のための財源として活用できることとされ、改正金融機能強化法により、この場合の繰入れは、早健法業務とみなすこととされている。
特定震災特例協同組織金融機関に対する預金保険機構の資本増強措置は、23年度に6特定震災特例協同組織金融機関に対して861億円実施されているが、それ以降は実施されていない。
これまでに預金保険機構及び整理回収機構を通じて実施されてきた資本増強措置の実施状況を、その根拠法別に示すと表1のとおりであり、28年3月末までに64金融機関に対して合計で13兆0455億0510万余円の資本増強措置が実施されている。
表1 資本増強措置の実施状況(平成28年3月末現在)
根拠法 (資本増強措置の申込期間) |
資本増強額 | 金融機関数 注(1) |
資本増強時期 | 資本増強の方法 | 27年度末における預金保険機構の勘定名 |
---|---|---|---|---|---|
金融機能安定化法 注(2) (平成10年2月~同年10月) |
1,815,600 | 21 | 10年3月 | 預金保険機構が整理回収機構に委託して実施 | 金融再生勘定 注(3) |
金融機能早期健全化法 (10年10月~14年3月) |
8,605,305 | 32 | 11年3月~14年3月 | 預金保険機構が整理回収機構に委託して実施 | 金融機能早期健全化勘定 |
預金保険法 (恒久措置13年4月~) |
1,960,000 | 1 | 15年6月 | 預金保険機構が実施 | 危機対応勘定 |
組織再編法 注(2) (15年4月~16年7月) |
6,000 | 1 | 15年9月 | 預金保険機構が整理回収機構に委託して実施 | 金融機能強化勘定 注(4) |
金融機能強化法 (16年8月~29年3月) |
658,600 | 30 | 18年11月~27年12月 | 預金保険機構が整理回収機構に委託して実施 | 金融機能強化勘定 |
計 | 13,045,505 | 64 | / | / | / |
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、平成23年度決算検査報告において、金融機能早期健全化勘定の利益剰余金については、早健法業務に使用する見込みがない資金(以下「余裕資金」という。)の見積りが可能と判断された場合は、速やかにその有効活用を図る方策を検討する必要があることなどについて、特定検査対象に関する検査状況として掲記した。
そして、平成23年度決算検査報告への掲記から約4年が経過し、この間の公的資金の返済等の進捗に伴い、27年度末の金融機能早期健全化勘定の利益剰余金の額は、1兆5991億1794万余円となっていて、23年度末の利益剰余金の額の1兆5606億0711万余円より更に増加している。
そこで、本院は、有効性等の観点から、金融機能早期健全化勘定の利益剰余金を対象として、余裕資金の見積りが可能かどうかを適切に判断して、余裕資金の有効活用を図る方策が検討されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、金融庁及び預金保険機構において、金融機能早期健全化勘定における余裕資金の見積りの状況、保有する資金の必要性等について、また、整理回収機構において、金融機関から引き受けた優先株式等の処分状況、預金保険機構への納付金の納付状況等について、見解を徴したり、関係資料の提出を受けたりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
金融機能早期健全化勘定の利益剰余金は、金融機能早期健全化法に基づく資本増強措置の実施により整理回収機構が引き受けた優先株式等の処分において、その処分価額が取得価額を上回ったことなどにより生じたものであり、金融システム安定化の果実として公的資金から生じた利益である。金融機能早期健全化勘定が設置された10年度以降の利益剰余金等の推移をみると、図2のとおり、その額は年々増加傾向で推移しており、19年度に大幅に増加し、21年度以降は1兆5000億円を超える額で推移している。
図2 金融機能早期健全化勘定の利益剰余金等の推移(平成10年度末~27年度末)
金融機能早期健全化勘定の27年度末の資産、負債及び純資産の状況は、表2のとおりである。
表2 金融機能早期健全化勘定の資産、負債及び純資産の状況(平成27年度末)
資産の部 | 負債及び純資産の部 | ||
---|---|---|---|
科目 | 金額 | 科目 | 金額 |
(流動資産) | 1,563,938 | (流動負債) | |
現金・預金 | 381,173 | 未払金 | 1 |
有価証券 | 1,182,442 | ||
仮払金 | 0 | (固定負債) | |
未収収益 | 322 | 退職給与引当金 | 5 |
未収金 | 0 | (負債合計) |
6 |
(固定資産) | 35,185 | (剰余金) | |
有形固定資産 | 1 | 利益剰余金 | 1,599,117 |
無形固定資産 | 0 | 積立金 |
1,596,942 |
投資その他の資産 | 当期未処分利益 |
2,175 | |
協定銀行貸付金 |
35,183 | (純資産合計) |
1,599,117 |
資産合計 | 1,599,124 | 負債・純資産合計 | 1,599,124 |
同勘定の資産に計上されている現金・預金は、27年度において国債の利回りがマイナスになるなどして資金の運用が困難となったことなどから、日本銀行の当座預金に預け入れている資金等であり、有価証券は、資金を国債により運用しているものである。
また、預金保険機構は、業務を委託している整理回収機構が27年度に実施した優先株式の処分に伴い損失が生じたことなどから、28年6月に、整理回収機構に対して、金融機能早期健全化勘定から損失補填金82億9649万余円を交付している。
27年度末時点で、金融機能早期健全化法に基づく資本増強措置に係る公的資金の返済が終了していないのは株式会社新生銀行(12年6月に株式会社日本長期信用銀行から行名変更。以下「新生銀行」という。)のみとなっており、改正金融機能強化法による特定震災特例協同組織金融機関に対する資本増強措置は、23年度に6特定震災特例協同組織金融機関に対して実施されたもののみとなっている。このため、金融機能早期健全化勘定における今後の損益は、新生銀行に係る公的資金の未返済分に係るもののほか、改正金融機能強化法による6特定震災特例協同組織金融機関に対する資本参加に係るものに損失が生じる場合等に影響を受けることが見込まれる。そこで、新生銀行及び6特定震災特例協同組織金融機関の財務の健全性等について、22年3月期以降の純資産額及び自己資本比率の状況を検査したところ、それぞれ次のような状況となっていた。
純資産額については、新生銀行では、22年3月期は5559億余円であったものが、毎期増加し、28年3月期は7764億余円となっている。6特定震災特例協同組織金融機関では、22年3月期の合計額で312億余円であったものが、資本増強直後の24年3月期以降は、6特定震災特例協同組織金融機関とも毎期増加していて、28年3月期の合計額で1311億余円となっている(表3参照)。
また、自己資本比率については、新生銀行では、22年3月期は11.4%となっていたものが、上昇傾向で推移して、28年3月期は15.8%となっている。6特定震災特例協同組織金融機関では、22年3月期の平均値で11.4%(最高15.3%、最低7.4%)となっていたものが、資本増強直後の24年3月期以降は、6特定震災特例協同組織金融機関とも高い水準で推移していて、28年3月期の平均値は34.2%(最高49.0%、最低16.9%)となっている。
このように、新生銀行及び6特定震災特例協同組織金融機関の財務状況は、いずれも改善してきている。
表3 新生銀行及び6特定震災特例協同組織金融機関の純資産額及び自己資本比率の推移(平成22年3月期~28年3月期)等
金融機関名 | 区分 | 平成22年3月期 | 23年 3月期 |
24年 3月期 |
25年 3月期 |
26年 3月期 |
27年 3月期 |
28年 3月期 |
資本増強 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
年月 | 公的資金残高 | 根拠法 | |||||||||
新生銀行 | 純資産額 | 555,947 | 618,705 | 644,178 | 665,893 | 699,483 | 736,733 | 776,450 | 平成 | 120,000 | 金融機能早期健全化法 |
自己資本比率 | 11.4 | 12.5 | 13.1 | 14.3 | 15.3 | 16.3 | 15.8 | 12.3 | |||
6特定震災特例協同組織金融機関 | 純資産額計 | 31,274 | 28,641 | 100,132 | 109,553 | 117,988 | 125,930 | 131,119 | 24.1 ~ 24.2 |
86,100 | 金融機能強化法 |
自己資本比率平均 | 11.4 | 10.7 | 38.0 | 35.5 | 35.0 | 34.4 | 34.2 | (99,000) |
前記のとおり、改正金融機能強化法に基づく資本増強措置の申込期限は29年3月末まで延長された。現時点において、申込期限はいまだ到来していないが、東日本大震災の発生から約5年が経過して、前記のとおり、6特定震災特例協同組織金融機関の財務状況も改善してきている中で、今後、上記の申込期限までの間に新たに資本増強措置の申込みが行われ、特定震災特例協同組織金融機関に対する資本参加が行われる可能性は低いと考えられる。
また、6特定震災特例協同組織金融機関は、前記のとおり、原則として資本参加が行われた後10年を経過するまでに、金融庁長官に対して、「経営が改善した旨の認定」又は「事業再構築に伴う資本整理を可とする旨の認定」のいずれかの申請を行わなければならないこととなっており、現時点において、その期限までにはなお5年超の期間が残されているなど、金融機能早期健全化勘定が廃止されるまでには相当の期間が見込まれる状況となっている。
この間には不確定要素もあることから、27年度末時点において、今後の早健法業務の実施により金融機能早期健全化勘定において使用する可能性のある資金の額について、特定震災特例協同組織金融機関に対する新たな資本参加がないものとして、発生し得る損失を最大限見込んで次のとおり機械的に試算した。
金融機能早期健全化法に基づく資本増強措置は、14年3月をもって終了しており、今後、金融機能早期健全化法に基づく新たな優先株式等の引受け等は実施されることはない。また、金融機能早期健全化法に基づく資本増強措置に投入された公的資金は、新生銀行に係る1200億円を除いて全て返済が終了している。そして、新生銀行に係る優先株式は、普通株式に引き換えられた後、整理回収機構は、当該株式の時価が著しく下落して回復する見込みがないと判断して減損処理を実施し、当該株式の簿価は198億円となった。このため、仮に、上記公的資金1200億円の全額が回収不能となり、預金保険機構が整理回収機構に損失を補填することとなった場合でも、金融機能早期健全化勘定で使用する可能性のある資金の額は198億円となる。
6特定震災特例協同組織金融機関の財務状況は改善してきているが、仮に、6特定震災特例協同組織金融機関が資本整理を行うこととなった場合に、資本整理に伴い信託受益権に係る優先出資を消却するための金銭の贈与が行われた場合は、金融機能強化勘定に損失は生じないことなどから、金融機能早期健全化勘定の資金を繰り入れる際の額が最も多額となるのは、6特定震災特例協同組織金融機関全ての資産全額が毀損して、信託受益権に係る優先出資を消却するために必要な金銭の贈与が一般勘定から行われた場合である。そして、その場合に使用する可能性のある金融機能早期健全化勘定の資金の額は、6特定震災特例協同組織金融機関の27年度末における負債の額等を基に試算すると、6特定震災特例協同組織金融機関の信託受益権に係る優先出資を消却するために必要な金銭の贈与額1兆1501億余円から、ペイオフコスト相当額6756億余円を差し引いた額となり、6特定震災特例協同組織金融機関の合計で4745億余円となる(次式参照)。
すなわち、早健法業務の実施により金融機能早期健全化勘定において使用する可能性のある資金の額は、27年度末時点において、特定震災特例協同組織金融機関に対する新たな資本参加がないものとして、発生し得る損失を最大限見込んで試算すると、アにおいて試算した額198億円に、イにおいて試算した額4745億余円を加えた4943億余円となる(次式参照)。
したがって、27年度末における金融機能早期健全化勘定の利益剰余金1兆5991億余円から前記の28年6月に預金保険機構が整理回収機構に交付した整理回収機構の27年度実施業務に係る損失補填金82億余円を差し引き、さらに、上記早健法業務の実施により金融機能早期健全化勘定において使用する可能性のある資金の額4943億余円を差し引くと、1兆0964億余円となり、同額の余裕資金が金融機能早期健全化勘定に生じていると認められる(次式参照)。
金融庁は、金融機能早期健全化勘定の利益剰余金の活用については、金融資本市場の状況や関連する制度、これまでに金融システムの安定化のために設定された預金保険機構の勘定において国民負担が確定しているものがあるというこれまでの経緯等も踏まえて、次のような点について総合的に検討する必要があるとしている。
すなわち、有効活用の検討に当たっては、①金融資本市場の状況等に留意するとともに、預金保険機構内において、これまでに金融システムの安定化のために時限的に設けられた勘定の状況等を総合的に勘案して検討することが適当であり、②また、金融システムの安定化のための緊急対策等として、預金の全額保護等の特例措置を行うため、預金保険機構の特例業務勘定(14年度末に廃止され、廃止の際に同勘定に属していた資産及び負債は、預金保険機構の一般勘定に帰属することとされた。)に対して、国から13兆円の国債が交付され、預金保険機構は、交付された国債13兆円のうち10兆4326億4320万余円の償還を受けており、当該償還額は国民負担となっていることにも留意する必要があるとしている。
そして、上記の①については、預金保険機構の勘定のうち、特別公的管理銀行(注5)の処理等の業務を経理する金融再生勘定において、27年度末現在、1155億6997万余円の欠損金が生じており、また、同勘定では、保有する資産に含み損が3652億0845万余円生じている状況であるのに、同勘定設置の根拠法である金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(平成10年法律第132号。以下「金融機能再生法」という。)には、同勘定の廃止時において、剰余金がある場合は国庫に納付する規定がある一方、欠損金がある場合の欠損金の処理に関する規定がないことや、国の厳しい財政事情等を踏まえる必要があるとしている。
しかし、金融機能早期健全化勘定の資金は、早健法業務以外の用途には使用できないこととされていることから、金融庁が、上記余裕資金の活用について検討する際には、財政規律の確保を目的として各勘定を区分経理することとしている金融機能早期健全化法の趣旨を踏まえて、その必要性、根拠、規模等を十分に勘案した上で検討していく必要があると認められる。
(改善を必要とする事態)
金融機能早期健全化勘定においては多額の余裕資金が生じていると認められる状況であり、また、同勘定が廃止されるまでには相当の期間が見込まれる状況となっているにもかかわらず、余裕資金について、同勘定が廃止されるまでの間は国庫に納付することができないなど、有効活用を図ることができないこととなっている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、平成23年度決算検査報告において、余裕資金の見積りが可能と判断された場合は、速やかにその有効活用を図る方策を検討する必要があるとの所見を示した後、改正金融機能強化法に基づく資本増強措置の申込期限である29年3月末が目前に迫っているなど余裕資金の見積りが一定程度可能と判断される状況となっているのに、預金保険制度を所管する金融庁において、金融機能早期健全化勘定における余裕資金の有効活用を図ることについての検討が十分でないことなどによると認められる。
金融機能早期健全化法に基づく資本増強措置は、14年3月をもって終了し、資本増強措置に係る公的資金の返済が進んでいて、金融機能早期健全化勘定においては多額の利益剰余金が保有されている。本院の試算によれば、今後の早健法業務の実施により金融機能早期健全化勘定において使用する可能性のある資金の額について、特定震災特例協同組織金融機関に対する新たな資本参加がないものとして、発生し得る損失を最大限見込んだとしても、なお金融機能早期健全化勘定においては多額の余裕資金が生じている状況となっている。
現下の厳しい国の財政状況等に鑑みれば、金融機能早期健全化勘定における多額の余裕資金については、必要な制度を整備するなどして有効活用を図ることが必要である。
そして、金融庁は、前記のとおり、金融機能早期健全化勘定の利益剰余金の活用については、金融資本市場の状況や関連する制度、これまでに金融システムの安定化のために設定された預金保険機構の勘定において国民負担が確定しているものがあるというこれまでの経緯等も踏まえて、総合的に検討する必要があるとしているところである。
ついては、金融庁において、預金保険機構と共に、金融機能早期健全化勘定における余裕資金の額を把握した上で、当該余裕資金の有効活用として、適時に国庫に納付したり、財政規律の確保を目的として各勘定を区分経理することとしている金融機能早期健全化法の趣旨に留意しつつ、預金保険機構の財務の健全性を維持するために活用したりするため、必要な制度を整備するなど抜本的な方策を検討するよう意見を表示する。