法務省の施設等機関である入国者収容所並びに地方支分部局である地方入国管理局及び支局(以下、これらを「入国管理局等」という。)は、出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)等に基づき、有効な旅券を所持していないなど同法に違反すると疑うに足りる相当の理由があるため収容令書が発付されるなどした外国人を、収容施設に収容している。
入国管理局等は、収容施設の被収容者がり病し、又は負傷したときは、被収容者処遇規則(昭和56年法務省令第59号)に基づき、医師の診療を受けさせ、病状により適当な措置を講じなければならないこととなっている。そして、収容施設に医師又は看護師を配置している場合には当該医師の診療等を受けさせるほか、収容施設外の病院又は診療所(以下「外部医療機関」という。)における受診が必要と判断された場合は、外部医療機関の利用実績、当該傷病、症状等に対応する診療科の有無、収容施設からの距離や診療受入体制等の保安上の支障等を勘案して外部医療機関を選定し、被収容者を通院させたり、入院させたりしている。
被収容者に対する診療は、国が被収容者に対して行動の自由を制限し、生活の全般にわたって規制を行っていることから、国の責務として、国の費用により行われている。また、外部医療機関における被収容者に対する診療は、保険診療(公的医療保険の保険給付として行われる診療をいう。以下同じ。)に該当しないことから自由診療として行われている。
このため、外部医療機関は、被収容者に対する診療に係る医療費を自由に算定して請求できるが、実際の医療費の算定については、保険診療の場合に倣うことなく行っている外部医療機関があるものの、多くの場合、保険診療の場合に倣い、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)により算定した所定の診療点数に、1点当たりの単価を乗じた額等により行っている。また、この1点当たりの単価については、保険診療の場合は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、健康保険法(大正11年法律第70号)等の規定に基づき10円と定められているものの、自由診療の場合は特段の定めがないため、外部医療機関が任意に定めている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
前記のとおり、外部医療機関における被収容者に対する診療は自由診療として行われており、自由診療の場合は1点当たりの単価について特段の定めがないことから、被収容者に対する診療については、1点当たり10円のほか15円、20円等の単価により算定した医療費を請求する外部医療機関も見受けられる。
そこで、本院は、経済性等の観点から、入国管理局等が被収容者を外部医療機関で受診させる場合に、外部医療機関により1点当たりの単価に差があることを踏まえた上で外部医療機関を適切に選定しているかなどに着眼して、13入国管理局等(注1)が平成26、27両年度に支払った被収容者に対する診療に係る医療費1億5771万余円を対象として、9入国管理局等(注2)において外部医療機関からの請求書、診療報酬明細書等の書類を確認したり、関係職員から外部医療機関の選定方法について聴取したりするなどして会計実地検査を行うとともに、4入国管理局等については、上記書類の提出を受けて、その内容を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
13入国管理局等は、26、27両年度における被収容者に対する診療について、148外部医療機関に対して診療点数に基づいて算定した医療費として1,316件、計1億3787万余円を支払っていた。このうち、診療点数に全て1点当たり10円の単価を乗じて算定している外部医療機関(以下「1点10円の単価の外部医療機関」という。)は95外部医療機関となっていて、残りの53外部医療機関に対しては、1点当たり10円を超える単価(12円、15円、20円等)を乗ずるなどして算定した医療費として420件、計6379万余円を支払っていた(表参照)。
表 外部医療機関が診療点数に基づいて算定した医療費の13入国管理局等における支払状況
入国管理局等 | 年度 | 外部医療機関が診療点数に基づいて算定した医療費の支払状況 | 左のうち1点当たり10円を超える単価を乗ずるなどして算定した医療費の支払状況 | ||||
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外部医療機関数(注) | 件数 | 支払額 | 外部医療機関数(注) | 件数 | 支払額 | ||
入国者収容所東日本入国管理センター | 平成26 | 20 | 154 | 20,302,387 | 3 | 21 | 15,510,287 |
27 | 17 | 196 | 15,556,866 | 4 | 24 | 10,268,926 | |
入国者収容所西日本入国管理センター | 26 | 14 | 59 | 2,573,095 | 6 | 34 | 1,363,285 |
27 | 1 | 1 | 821 | 1 | 1 | 821 | |
入国者収容所大村入国管理センター | 26 | 5 | 22 | 902,400 | 1 | 1 | 12,280 |
27 | 3 | 20 | 1,856,090 | ― | ― | ― | |
札幌入国管理局 | 26 | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
27 | 2 | 2 | 83,288 | 2 | 2 | 83,288 | |
仙台入国管理局 | 26 | 3 | 9 | 67,771 | 1 | 7 | 46,071 |
27 | 1 | 1 | 3,780 | 1 | 1 | 3,780 | |
東京入国管理局 | 26 | 15 | 81 | 30,648,670 | 6 | 25 | 11,485,700 |
27 | 12 | 66 | 38,211,621 | 6 | 19 | 16,902,681 | |
名古屋入国管理局 | 26 | 16 | 152 | 7,771,220 | 5 | 60 | 1,280,230 |
27 | 26 | 268 | 9,869,925 | 12 | 118 | 3,045,525 | |
大阪入国管理局 | 26 | 9 | 22 | 411,990 | 4 | 11 | 251,330 |
27 | 15 | 36 | 4,450,234 | 3 | 14 | 952,924 | |
福岡入国管理局 | 26 | 2 | 10 | 327,780 | 1 | 9 | 314,930 |
27 | 3 | 11 | 389,920 | 1 | 9 | 344,410 | |
東京入国管理局成田空港支局 | 26 | 7 | 52 | 1,184,073 | 4 | 28 | 1,001,033 |
27 | 13 | 97 | 1,992,866 | 4 | 20 | 584,056 | |
東京入国管理局羽田空港支局 | 26 | 3 | 7 | 119,224 | 2 | 3 | 101,244 |
27 | 2 | 6 | 39,872 | 1 | 1 | 14,072 | |
東京入国管理局横浜支局 | 26 | 8 | 16 | 391,530 | 1 | 2 | 40,080 |
27 | 13 | 27 | 711,123 | 4 | 9 | 177,093 | |
名古屋入国管理局中部空港支局 | 26 | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
27 | 1 | 1 | 7,265 | 1 | 1 | 7,265 | |
計 | 26 | 100 | 584 | 64,700,140 | 32 | 201 | 31,406,470 |
27 | 108 | 732 | 73,173,671 | 40 | 219 | 32,384,841 | |
合計 | 148 | 1,316 | 137,873,811 | 53 | 420 | 63,791,311 |
そして、13入国管理局等は、収容施設に医師等を配置している場合には当該医師等が、配置していない場合には被収容者の処遇を担当する入国警備官が、外部医療機関における受診の必要性を判断した上で、原則として、入国警備官が、前記のとおり、利用実績、当該傷病、症状等に対応する診療科の有無、距離等を勘案して外部医療機関を選定することにしていた。
しかし、13入国管理局等は、当該傷病、症状等に関して利用実績が多い外部医療機関を優先的に受診先の候補とし、何らかの理由により当該外部医療機関での受診が困難とされた場合に初めて、順次、他の外部医療機関に連絡して受診の可否を照会するなどして受診先を選定していた。このため、1点10円の単価の外部医療機関以外の外部医療機関(以下「1点10円を超える単価の外部医療機関」という。)を受診先の候補とした場合は、当該外部医療機関での受診が可能であれば、そこで受診させていた。
このように、13入国管理局等は、受診先となる外部医療機関の選定に当たって、1点当たりの単価を考慮するなどしていなかった。また、13入国管理局等のうち、東日本入国管理センター等の9入国管理局等は、収容施設ごとに外部医療機関の情報を記載したリストを作成していたものの1点当たりの単価に係る情報を記載しておらず、4入国管理局等は当該リストを作成していなかったため、13入国管理局等全てにおいて、1点当たりの単価に係る情報について組織的に把握していない状況であった。
一方、1点10円を超える単価の外部医療機関から受領した診療報酬明細書に記載された傷病名をみたところ、特殊な先進医療等を必要としない一般的なものであり、必ずしも当該外部医療機関でなければ受診できない傷病ではなかった。また、前記のとおり、13入国管理局等が26、27両年度に医療費を支払っていた148外部医療機関のうち、95外部医療機関(全体の6割以上)は1点10円の単価の外部医療機関であり、13収容施設の所在地域には、95外部医療機関のほかにも、被収容者の傷病、症状等に対応可能な診療科を有し、保安上の支障等がない1点10円の単価の外部医療機関が相当程度存在すると思料された。
そこで、13入国管理局等が、1点10円の単価の外部医療機関を選定したとして算定すると、53外部医療機関に対して支払った医療費計6379万余円は計3539万余円となり、2839万余円の開差が生ずることになる。
このように、入国管理局等が収容施設の被収容者を外部医療機関で受診させる場合に、外部医療機関により1点当たりの単価に差があることを踏まえた上で外部医療機関を適切に選定していなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、13入国管理局等において、経済性を考慮した外部医療機関の選定を行うことについての認識が欠けていたことなどにもよるが、法務省において、入国管理局等に対して、被収容者を外部医療機関で受診させる場合に、外部医療機関により1点当たりの単価に差があることを踏まえた上で外部医療機関を適切に選定するよう指示していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、法務省は、28年9月に入国管理局等に対して通知等を発して、収容施設の所在地域の外部医療機関の診療科、1点当たりの単価等の情報を調査するなどして、当該情報を反映した外部医療機関のリストを作成した上で、被収容者を外部医療機関で受診させる場合には、被収容者の健康に支障を及ぼすなどの特段の事情がない限り、当該リストの中から、1点10円の単価の外部医療機関を選定するなど、経済性を考慮した外部医療機関の選定を行うこととする処置を講じた。