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  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

政府開発援助の実施に当たり、事業実施後、整備した施設の需要が低下して使用を停止するなどした際に、事業目的に沿って有効活用されるよう事業実施機関に適切な働きかけを行うなどして、援助の効果が十分に発現するよう意見を表示したもの


会計名及び科目
(1) 一般会計 (組織)外務本省 (項)経済協力費
独立行政法人国際協力機構 一般勘定
(2) 独立行政法人国際協力機構 一般勘定
(3) 独立行政法人国際協力機構 有償資金協力勘定(平成11年10月1日から20年9月30日までは国際協力銀行 海外経済協力勘定、11年9月30日以前は海外経済協力基金)
部局等
(1) 外務本省、独立行政法人国際協力機構
(2) 独立行政法人国際協力機構
(3) 独立行政法人国際協力機構(平成11年10月1日から20年9月30日までは国際協力銀行、11年9月30日以前は海外経済協力基金)
政府開発援助の内容
(1) 無償資金協力
(2) 技術協力
(3) 有償資金協力
検査及び現地調査の実施事業数並びにこれらの事業に係る贈与額計、経費累計額又は貸付実行累計額
(1) 40事業  319億8405万余円(平成15年度~27年度)
(2) 53事業  139億8882万余円(平成18年度~27年度)
(3) 14事業 4548億6058万余円(昭和63年度~平成27年度)
計 107事業
援助の効果が十分に発現していないと認められる事業数及びこれらの事業に係る贈与額計、経費累計額、調達価格計又は貸付実行累計額
(1) 4事業 20億6057万円(背景金額)
(平成15、16、17、21、23各年度)
(2) 1事業 8966万円(背景金額)
(平成19年度~23年度)
1事業 511万円(平成23、24両年度)
(3) 2事業 299億8317万円(背景金額)
(平成11年度~21年度)

【意見を表示したものの全文】

政府開発援助の効果の発現について

(平成28年10月28日付け

外務大臣
独立行政法人国際協力機構理事長

宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 政府開発援助の概要

我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助を実施している。

そして、外務省は、援助政策の企画立案や政策全体の調整等を行っている一方、独立行政法人国際協力機構(以下「機構」という。)は、開発途上にある海外の地域(以下「開発途上地域」という。)に対する技術協力の実施、有償及び無償の資金供与による協力の実施等を行っている。このほか、各府省庁がそれぞれの所掌に係る国際協力として技術協力を実施するなどしている。

無償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、返済の義務を課さないで資金を贈与することにより行われるものである。無償資金協力は、平成20年9月までは外務省が実施し機構がその一部の実施の促進に必要な業務を行っていたが、同年10月以降は、外務省が実施する一部の無償資金協力を除き、機構が実施することとなっている。そして、外務省が実施する無償資金協力のうち、草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下「草の根無償」という。)は、比較的小規模なプロジェクトに対して、在外公館が資金を贈与するものである。

技術協力は、開発途上地域からの技術研修員に対する技術の研修、開発途上地域に対する技術協力のための人員の派遣、機材の供与等を行うもので、機構や各府省庁が実施することとなっている。

有償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、資金供与の条件が開発途上地域にとって重い負担にならないように金利、償還期間等について緩やかな条件が付されている資金を供与することなどにより行われるもので、機構(11年10月1日から20年9月30日までは国際協力銀行。11年9月30日以前は海外経済協力基金)が実施することとなっている。

27年度におけるこれらの実績は、外務省及び機構が実施した無償資金協力1662億2770万余円、機構が実施した技術協力814億0891万余円及び有償資金協力9715億0511万余円となっている。

2 本院の検査及び現地調査の結果

(検査及び現地調査の観点及び着眼点)

本院は、外務省又は機構が実施する無償資金協力、技術協力及び有償資金協力(以下、これらを合わせて「援助」という。)を対象として、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から次の点に着眼して検査及び現地調査を実施した。

① 外務省及び機構は、事前の調査、審査等において、援助の対象となる事業が、援助の相手となる国又は地域(以下「相手国」という。)の実情に適応したものであることを十分に検討しているか、また、交換公文、借款契約等に則して援助を実施しているか、さらに、援助を実施した後に、事業全体の状況を的確に把握、評価して、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。

② 相手国等において、援助の対象となった施設、機材等は当初計画したとおりに十分に利用されているか、また、事業は援助実施後においても相手国等によって順調に運営されているか、さらに、援助対象事業が相手国等が行う他の事業と密接に関連している場合に、その関連事業の実施に当たり、は行等が生じないよう調整されているか。

(検査及び現地調査の対象及び方法)

本院は、外務本省及び機構本部において協力準備調査報告書等により援助対象事業の説明を聴取するなどして会計実地検査を行うとともに、在外公館及び機構の在外事務所において事業の実施状況について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。

さらに、本院は、援助の効果が十分に発現しているかなどを確認するために、28年次に11か国(注1)において、無償資金協力40事業(贈与額計319億8405万余円)、技術協力53事業(経費累計額139億8882万余円)、有償資金協力12事業(貸付実行累計額4248億7740万余円)、計105事業を対象として、外務省又は機構の職員の立会いの下に相手国等の協力が得られた範囲内で、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況を確認したりして現地調査を実施したほか、27年次に現地調査を実施した1か国(注2)について、引き続き機構本部において、有償資金協力2事業(貸付実行累計額299億8317万余円)を対象として事業実施後の状況について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。また、相手国等の保有している資料で調査上必要なものがある場合は、外務省又は機構を通じて入手した。

(注1)
11か国  アゼルバイジャン共和国、ベナン共和国、コスタリカ共和国、インドネシア共和国、メキシコ合衆国、モロッコ王国、ミャンマー連邦共和国、パラグアイ共和国、ルーマニア、セネガル共和国、タイ王国
(注2)
1か国  フィリピン共和国

(検査及び現地調査の結果)

検査及び現地調査を実施したところ、無償資金協力4事業(贈与額計20億6057万余円)、技術協力2事業(経費累計額8966万余円、調達価格計511万余円)及び有償資金協力2事業(貸付実行累計額299億8317万余円)については、援助の効果が十分に発現していなかった。

(1) 無償資金協力

ア コトヌ零細漁港開発計画

(ア) 事業の概要

この事業は、ベナン共和国(以下「ベナン」という。)コトヌ市コトヌ漁港において、ベナン政府が、零細漁業の振興を図ることを目的として、船揚場、陸揚岸壁、荷捌場、多目的共同利用施設、製氷・貯氷庫、冷凍倉庫等の施設等を整備するものである。

外務省は、15年9月及び17年1月にベナン政府との間で取り交わした交換公文に基づき、この事業に必要な資金として15年度3431万余円、16年度7億4052万余円、17年度2億7208万余円、計10億4692万余円をベナン政府に贈与している。

(イ) 検査及び現地調査の結果

検査及び現地調査を実施したところ、17年11月の供用開始後、船揚場、陸揚岸壁、荷捌場、多目的共同利用施設及び製氷・貯氷庫は引き続き使用されていたが、冷凍倉庫(床面積約29m2)及びそれに付属する冷凍機、冷却塔、冷却水循環ポンプ、制御盤、発電機等の設備計14台は、供用開始後約5年半が経過した23年5月から使用が停止されていた。

冷凍倉庫等の使用を停止した理由について、事業実施機関である農業牧畜漁業省漁業局(以下「漁業局」という。)は、漁業者等が20年頃から魚を即売することが多くなり冷凍倉庫の需要が低下したこと及び22年4月に電気料金が値上げとなったことによるとしている。そして、漁業局はこれらの状況に変化がなければ、使用する見込みはないとしている。

前記の事態について、機構は、26年10月に、水産分野の専門家が現地を視察した際、冷凍倉庫等の使用が停止されている状況を確認したことから、在ベナン日本国大使館(以下「ベナン大使館」という。)にその事実を報告しているが、それまで、ベナン大使館はその事実について把握していなかった。そして、ベナン大使館は、27年2月に、使用が停止された冷凍倉庫等について漁業局との間で協議を行ったとしているが、それ以降は、冷凍倉庫等の今後の活用方法等について検討を行っておらず、漁業局とも冷凍倉庫等の有効活用等に向けた新たな協議を行っていなかった。

イ 緊急給水計画

(ア) 事業の概要

この事業は、セネガル共和国(以下「セネガル」という。)において、気候変動の影響で干ばつや洪水等の被害を被っている地域の住民に対して安全で衛生的な飲料水を供給するとともに、適切な災害対策を行うことを目的として、クレーン付トラック等の給水施設管理用機材及び水中ポンプ、発電機等の地下水揚水用機材の整備を行うなどするものである。

機構は、外務省が21年3月にセネガル政府との間で取り交わした交換公文に基づき、この事業に必要な資金として21年度に10億円をセネガル政府に贈与している。

そして、機構は、同年8月に、調達機材が持続的に維持管理され、有効活用されていることを確認するために、事業実施機関であるセネガル住宅都市化・水道・衛生省維持管理局(以下「DEM」という。)との間で、DEMが、調達機材の使用者である傘下の各維持管理センター等から毎月1回調達機材の使用状況を記載した使用状況報告書の提出を受けて、毎年1回これらを取りまとめた使用状況報告書を機構に提出するなど、調達機材の使用状況を確認することについて合意している。

(イ) 検査及び現地調査の結果

検査及び現地調査を実施したところ、次のような事態が見受けられた。

DEMは、22年6月から26年6月までの間に、維持管理センター等にクレーン付トラック7台、エアーコンプレッサー5台、移動式溶接機5台等の給水施設管理用機材及び水中ポンプ68台、発電機61台等の地下水揚水用機材を配備し、使用させていたが、23年12月から28年3月までの間に、これらの機材のうち、クレーン付トラック3台、エアーコンプレッサー2台、移動式溶接機4台、水中ポンプ2台及び発電機2台、計13台が故障するなどしており、現地調査実施時(28年4月)においても使用されていない状況となっていた。

そして、機構は、上記の故障するなどして使用されていなかった給水施設管理用機材等計13台について、一部を除き、その状況を把握していなかった。

そこで、機構において、DEMから毎年提出されることとなっている使用状況報告書の提出状況等についてみたところ、機構は、それぞれの機材調達後に、DEMから使用状況報告書の提出を受けておらず、DEMに対して提出の督促も行っていなかった。また、各維持管理センター等から毎月DEMに提出されることとなっている使用状況報告書についても提出されていなかった。

(2) 草の根無償:バクー市第2職業訓練校金属溶接科・木工科整備計画

ア 事業の概要

この事業は、アゼルバイジャン共和国(以下「アゼルバイジャン」という。)バクー市に所在するバクー市第2職業訓練校(以下「第2訓練校」という。)において、労働市場に必要とされる最新技術を習得する環境を創出し、若年層の就業及び起業の可能性を広げることを目的として、老朽化した金属溶接科及び木工科の実習棟(床面積約780m2)の改修工事を行うものである。

在アゼルバイジャン日本国大使館(以下「アゼルバイジャン大使館」という。)は、事業実施機関であるアゼルバイジャン青年啓発協会との間で23年10月に贈与契約を締結して、同月に実習棟を改修するための資金として99,990米ドル(邦貨換算額889万余円)を贈与している。

そして、アゼルバイジャン大使館は、本件草の根無償の事業計画において、第2訓練校の電気系統の整備を含めた改修工事を実施することにより、アゼルバイジャン教育省(以下「教育省」という。)から供与される予定の最新訓練機材の使用環境が整って学生の定員枠を広げることが可能となることから、金属溶接科の定員130名を155名に、木工科の定員45名を65名にそれぞれ増員する想定としていた。

イ 検査及び現地調査の結果

検査及び現地調査を実施したところ、第2訓練校の金属溶接科及び木工科の実習棟改修工事は24年5月に完了していた。しかし、24年9月以降、第2訓練校の学生数は年々減少傾向となっており、27年9月以降は、金属溶接科は0名、木工科は20名となっていて、事業計画において想定していた学生定員数に比べて大幅に少ない状況となっていた(現地調査実施時(28年5月)における学生数も同じ。)。そして、実習棟の一部については、金属溶接科の学生が全くいなくなってしまったため、27年9月頃から、本来、別棟の校舎で実習を行うことになっている同校の電気科の学生15名程度が実習に使用していた。

アゼルバイジャンでは、教育省が企業からの職業訓練校出身者に対する需要を踏まえて職業訓練校の学生定員数等を決定することになっており、近年、企業からの職業訓練校出身者に対する需要が減少傾向にある中で、教育省の方針により、第2訓練校と、その周辺に所在する他の職業訓練校2校との間で学生定員数の集約化が行われることとなった。その結果、25年9月以降、教育省から第2訓練校に対して新入生の定員の割当てがなくなるなどしていたため、第2訓練校の学生数が少なくなっていた。

しかし、アゼルバイジャン大使館は、事業計画策定時に、教育省を通じて、職業訓練校出身者の需要について確認していなかった。

(3) 草の根無償:ゲンダール地区女性と子供の家建設計画
技術協力:サンルイ零細漁村女性と子供の地位向上プロジェクト

ア 事業の概要

これらの事業のうち草の根無償は、ゲンダール地区女性と子供の家建設計画として、セネガルのサンルイ市ゲンダール地区において、女性と子供の地位及び生活の向上を図ることを目的として、職業訓練、識字教育、託児所等の場として使用する2階建ての多目的施設「女性と子供の家」を建設するものである。

また、技術協力は、サンルイ零細漁村女性と子供の地位向上プロジェクトとして、草の根無償で建設した上記の「女性と子供の家」を拠点に、持続的な形で女性と子供の能力向上を図ることを目的として、機構から長期専門家1名及び短期専門家1名を派遣して、職業訓練、識字教育、流通改善等の技術指導を実施したり、機材供与等を実施したりするものである。

草の根無償について、在セネガル日本国大使館は、事業実施機関であるサンルイ市との間で18年3月に贈与契約を締結して、「女性と子供の家」を建設するための資金として34,947ユーロ(邦貨換算額475万余円)を贈与している。また、技術協力について、機構は、19年6月から23年7月までの間に8966万余円を支出して技術指導等を行っている。

そして、本件技術協力の事業計画において、「女性と子供の家」の運営主体である水産加工女性組合は、同施設を拠点として行う活動に必要な資金を水産加工品を販売することなどにより確保して「女性と子供の家」を持続的に運営管理することとなっている。

イ 検査及び現地調査の結果

検査及び現地調査を実施したところ、草の根無償として実施したゲンダール地区女性と子供の家建設計画については、20年に「女性と子供の家」が完成しており、25年頃までは事業の目的である職業訓練、識字教育、託児所等の場として使用されていたが、それ以降は、水産加工品の販売や「女性と子供の家」の活動による収入だけでは、同施設の活動に必要な資金を賄うことができなくなったため、職業訓練、識字教育等の活動は行われなくなっていた。そして、現地調査実施時(28年4月)には、「女性と子供の家」は、託児所や会議等の場として一部が使用されるだけとなっていた。

また、技術協力として実施したサンルイ零細漁村女性と子供の地位向上プロジェクトについては、上記のように「女性と子供の家」の持続的な運営管理が行われていないことから、機構から派遣された専門家により実施された技術指導のうち、職業訓練、識字教育等に係る技術指導については十分にいかされていない状況となっていた。

(4) 技術協力:ティエス地方病院整備計画フォローアップ協力

ア 事業の概要

この事業は、セネガルのティエス州ティエス市内に所在する中核病院であるティエス地方病院(以下「病院」という。)において、過去に我が国の無償資金協力等を通じて設置された施設及び機材の機能回復を支援するなどのフォローアップ協力として、10、11両年度の我が国の無償資金協力「ティエス地方病院整備計画」(以下「過去の協力」という。)により供与された医療機材のうち電圧変化の影響等により故障した麻酔器等の医療機材の更新等を行うものである。

機構は、23、24両年度に7578万余円を支出して調達した医療機材を、24年3月から同年10月までの間に事業実施機関である病院に供与している。

イ 検査及び現地調査の結果

検査及び現地調査を実施したところ、本件フォローアップ協力により供与された医療機材のうち麻酔器等4台(調達価格計511万余円)は、電圧変化の影響等により電気系統が故障して使用できない状況となっていた。

機構は、本件フォローアップ協力の実施に当たり、上記医療機材の中には、停電が回復するときに生ずる異常な高電圧等によって故障する可能性がある機材が含まれていることや過去の協力の際に停電発生時にプラグを抜くなどの指導をしたものの、これが十分に行われていなかったことなどから、セネガル国内で一般的に使用されている電圧安定化装置を一部の医療機材と併せて供与するとともに、電圧が変化するなどの状況下での医療機材の取扱いに関する指導を医療機材利用者等に改めて行ったとしていた。

しかし、本件フォローアップ協力において供与された上記の電圧安定化装置はセネガル国内で生ずる異常な高電圧等に確実に対応できるものではないため、故障の発生を少なくするためには停電発生時にプラグを抜くことなどを確実に行うことが必要となるが、本件フォローアップ協力において、機構が医療機材利用者等に対して行った指導は、過去の協力と同様の指導にとどまっており、これを確実に行うことの必要性や重要性についての意識付けが徹底されておらず、過去の協力で供与された医療機材の電気系統の故障の教訓がいかされたものとはなっていなかった。

(5) 有償資金協力:コンテナターミナル整備事業(バタンガス港開発事業(II)、スービック港開発事業)

ア 事業の概要

これらの2事業は、フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)において、マニラ港のコンテナ貨物等の処理能力の限界が懸念されることから、マニラ港周辺の交通混雑の緩和等に寄与することを目的として、マニラ港からそれぞれ南に約110km及び北西に約80km離れた地点に所在するバタンガス港及びスービック港(以下「2港」という。)に、マニラ港の代替・補完港として外国貿易コンテナ貨物を取り扱うコンテナターミナルを整備するものである。

機構は、外務省がフィリピン政府との間で取り交わした交換公文に基づき、フィリピン政府と表1のとおり貸付契約を締結して、事業に必要な資金を貸し付けている。

表1 貸付けの概要

事業名 交換公文
締結年月
貸付契約
締結年月
貸付年度 貸付実行累計額
バタンガス港開発事業(II) 平成10年9月 10年9月 11~19年度 143億0001万余円
スービック港開発事業 12年8月 12年8月 12~21年度 156億8316万余円

イ 検査及び現地調査の結果

検査及び現地調査を実施したところ、機構は、貸付けを行う際に、マニラ港は既に混雑しており、これ以上の同港の拡張が困難であることなどから、マニラ港の代替・補完港の整備が必要であるとしていた。そして、機構は、マニラ港が所在する地域の経済成長予測等を基に地域全体で取り扱うことが予測される貨物量の一定割合が新規に整備される港のコンテナターミナルで取り扱われるなどとした需要予測に基づき、事業計画を策定して、貸付けを決定していた。

また、機構は、バタンガス港開発事業(II)については24年に、スービック港開発事業については27年に、それぞれ事後評価を実施しており、その中で、新規に整備された2港のコンテナターミナルの稼働率が低く、目標としていたコンテナ貨物取扱量を大幅に下回るなど効果は限定的であるなどと評価し、また、利用促進に係る提言や教訓等を記述している。

そして、機構は、開港前から2港の利用促進に関する調査を行ったり、日系企業を中心に港湾物流に関するセミナーを開催したり、フィリピン政府に対して利用促進に関する働きかけを継続して行ったりするなどの取組を行ったとしている。

そこで、2港について、コンテナ貨物取扱量の実績を確認したところ、表2のとおり、コンテナ貨物取扱量(TEU(注3))の27年の実績は、増加がみられるものの、既に開港後の経過年数(以下「開港後年数」という。)が事業計画で設定された取扱目標値の開港後年数を超えているにもかかわらず、取扱目標値に対してバタンガス港で32.5%、スービック港で26.6%と依然として低いままとなっていた。

(注3)
TEU  Twenty‐foot Equivalent Unit(20フィートコンテナ換算)。長さの異なる複数の大きさのコンテナの合計取扱量を計算するため、他の全てのコンテナを長さ6.1mのコンテナ(幅2.4m、高さ2.4m)に換算した場合のコンテナ個数の単位

表2 コンテナ貨物取扱量の実績等

(単位:TEU)
港湾名
(開港年)
取扱能力 取扱目標値
(開港後年数)
平成25年実績
(開港後年数)
<実績/取扱目標値>
26年実績
(開港後年数)
<実績/取扱目標値注(2)
27年実績
(開港後年数)
<実績/取扱目標値注(2)
バタンガス港
(19年)
410,000 410,000
(4年目)
11,400
(7年目)
<2.7%>
98,310
(8年目)
<23.9%>
133,261
(9年目)
<32.5%>
スービック港 (20、24年) 600,000 436,000
(2年目)
34,848
(2年目)
<7.9%>
73,884
(3年目)
<16.9%>
116,168
(4年目)
<26.6%>
マニラ港(参考) 3,778,861 3,810,437 3,975,752
注(1)
スービック港には、2ターミナルがあり、平成20年、24年に順次開業している。
注(2)
取扱目標値に対する実績の割合については、スービック港の26年実績及び27年実績は全ターミナル開業後2年目の取扱目標値に対する実績の割合を記載している。

一方、拡張が困難であるとされていたマニラ港では、コンテナバースが増設されるなどしていて、そのコンテナ貨物取扱量は継続して増加しており、事業の目的の一つである周辺の交通混雑等は解消されていなかった。

このような状況となっていたのは、上記マニラ港の拡張に加えて、マニラ港は、既に多数の航路が開設されていたり、コンテナ貨物の需要が発生するマニラ首都圏に所在していたりするなど2港に新規に整備されたコンテナターミナルに比べて海運会社や荷主等の港湾利用者(以下「港湾利用者」という。)にとって利点が多いことなどによると思料された。

このように、港湾利用者にとって、既存港が新規整備コンテナターミナルに比べて一般的に利点が多いことを踏まえると、新規整備コンテナターミナルで取り扱われるコンテナ貨物取扱量の需要予測に当たっては、港湾利用者の需要等や既存港の拡張可能性等について検討を十分に行う必要があった。

(改善を必要とする事態)

援助の効果が十分に発現していない事態は適切ではなく、外務省及び機構において必要な措置を講じて効果の発現に努めるなどの改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

  • ア コトヌ零細漁港開発計画については、無償資金協力実施後に、魚の即売が多くなったことから、冷凍倉庫の需要が低下するなどしたことにもよるが、外務省において、事業実施機関が冷凍倉庫等の使用を停止していたのに相当期間が経過するまでその事実を把握しておらず、事実を把握した後においても、冷凍倉庫等の今後の活用方法等について検討するなどしていなかったこと
  • イ 緊急給水計画については、機構において、事業実施機関から毎年提出されることとなっている使用状況報告書が提出されていないのに、事業実施機関に対して提出の督促を行っていないなど、調達機材の維持管理の状況を適切に把握していなかったこと
  • ウ バクー市第2職業訓練校金属溶接科・木工科整備計画については、外務省において、事業計画策定時に、学生定員数の算定に当たり、教育省を通じて相手国における企業の職業訓練校出身者に対する需要を把握していなかったこと
  • エ ゲンダール地区女性と子供の家建設計画及びサンルイ零細漁村女性と子供の地位向上プロジェクトについては、外務省及び機構において、事業計画策定時に、施設の持続的な運営管理についての具体的な検討を行っていなかったこと
  • オ ティエス地方病院整備計画フォローアップ協力については、機構において、医療機材利用者等に対して、電圧が変化するなどの状況下で使用する医療機材について、停電発生時にプラグを抜くことなどを確実に行うことの必要性や重要性についての意識付けが徹底されておらず、過去の協力を通じて供与された医療機材に生じた故障に対して再発防止を確実に行うための指導を行うことの理解が十分でなかったこと
  • カ コンテナターミナル整備事業については、相手国において2港の利用促進に関する取組が十分でなかったなどの事情もあるが、機構において、2港で取り扱われることとなるコンテナ貨物取扱量の需要予測に当たって、港湾利用者の需要等やマニラ港の拡張可能性等の検討を十分に行うなどしていなかったこと

3 本院が表示する意見

援助の効果が十分に発現するよう、次のとおり意見を表示する。

  • ア コトヌ零細漁港開発計画の事態を踏まえて、機構において、今後、無償資金協力で冷凍倉庫等の施設等を整備するに当たって、事業実施後、冷凍倉庫の需要が低下して事業実施機関が使用を停止するなどした際に、事業実施機関からその事実について速やかに報告を求めるとともに、冷凍倉庫等の今後の活用方法について検討するなどして、当該冷凍倉庫等が事業目的に沿って有効活用されるよう事業実施機関に適切な働きかけを行うこと
  • イ 緊急給水計画については、機構において、事業実施機関に対して、調達機材の維持管理状況を把握する体制が機能するよう十分協議を行ったり、故障するなどして使用されていない調達機材について早急に修理するなどして有効に活用させるよう働きかけを行ったりするとともに、今後、無償資金協力を実施するに当たって、調達機材が持続的に維持管理され、有効活用されていることを使用状況報告書等により確認することとしている場合、それにより調達機材の維持管理の状況を適切に把握すること
  • ウ バクー市第2職業訓練校金属溶接科・木工科整備計画については、外務省において、事業実施機関等に対して、第2訓練校の金属溶接科及び木工科の学生数を増加させるなど実習棟が有効に活用されるよう働きかけを行うとともに、今後、草の根無償で職業訓練校の実習棟の改修等を行う事業を実施するに当たって、教育省等の関係機関が企業からの需要を踏まえて職業訓練校の学生定員数を決定している場合、事業計画策定時に当該関係機関を通じて企業の需要を把握すること
  • エ ゲンダール地区女性と子供の家建設計画及びサンルイ零細漁村女性と子供の地位向上プロジェクトについては、外務省及び機構において、「女性と子供の家」が女性と子供の地位及び生活の向上等に資するために有効活用されるよう、事業実施機関等に対して働きかけを十分に行うとともに、今後、草の根無償で施設を建設して、技術協力で当該施設を拠点とした職業訓練等の技術指導を実施するに当たって、事業計画策定時に施設の持続的な運営管理についての具体的な検討を十分に行うこと
  • オ ティエス地方病院整備計画フォローアップ協力については、機構において、医療機材利用者等に対して、電圧が変化するなどの状況下で使用する医療機材について停電発生時にプラグを抜くことなどを確実に行うことの必要性や重要性についての意識付けを徹底するなど十分な指導を行うとともに、今後、フォローアップ協力を実施するに当たって、過去の無償資金協力等を通じて供与された医療機材が電圧変化の影響等により故障したため更新等を行う場合、医療機材利用者等に対して、過去の無償資金協力等における故障の教訓を踏まえた取扱いを確実に行うための指導を行うこと
  • カ コンテナターミナル整備事業の事態を踏まえて、機構において、今後、有償資金協力を実施するに当たって、既存港を代替して補完するコンテナターミナルを整備する場合、港湾利用者の需要等や既存港の拡張可能性等についての検討を十分に行うなどして、新規整備コンテナターミナルで取り扱われることとなるコンテナ貨物取扱量の需要予測の検討を適切に行うこと