文部科学本省(平成27年10月1日以降はスポーツ庁。以下「本省」という。)は、開催地が東京に決定した2020年オリンピック・パラリンピック競技大会の成功には日本選手団の活躍が不可欠であることから、当該年に活躍する年代の競技者を計画的に発掘・育成・強化することが必要であるとして、2020ターゲットエイジ育成・強化プロジェクト(ジュニア競技者の育成・強化)事業を実施している。この事業は、国内合宿、海外遠征等を実施し、各競技のターゲットエイジの育成・強化を確実に行うことをその内容としており、本省は、26年4月に、企画競争による随意契約により公益財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)に事業の実施を委託している(以下、この委託によりJOCが実施する事業を「委託事業」という。)。
委託契約書によれば、JOCは、「2020ターゲットエイジ育成・強化プロジェクト委託要項」(平成26年2月スポーツ・青少年局長決定)等に基づき委託事業を実施しなければならないとされており、この要項において、委託費の対象は、人件費、一般管理費、再委託費等の委託事業に要する経費とすることとなっている。そして、本省は、委託事業の完了に伴いJOCから提出された委託事業完了報告書を審査するなどした上で、603,819,352円の委託費をJOCに支払っている。
JOCは、委託事業のうちジュニア競技者の強化合宿等の育成・強化活動の実施を、JOCに加盟する競技団体(以下「スポーツ団体」という。)に再委託することとして(以下、この再委託によりスポーツ団体が実施する事業を「再委託事業」という。)、27スポーツ団体との間で再委託契約を締結している。
再委託契約書において、再委託費の総額が定められており、JOCは、再委託事業の終了後に各スポーツ団体から提出された事業実施報告書を精査するなどして再委託費の額を確定し、各スポーツ団体にこれを支払っている。
再委託費の対象となる経費(以下「対象経費」という。)は、JOCが本省から民間スポーツ振興費等補助金の交付を受けて実施する選手強化事業のために定めた「平成26年度選手強化NF事業(国庫補助事業)要項」(以下「NF事業要項」という。)に準ずることとなっており、渡航費、滞在費等の費目がその対象となる。また、再委託事業の実施に係る収入の取扱いについて、使途が特定の費目に指定・限定されている収入の場合は、該当費目の支出額から当該収入額を差し引いて対象経費を算出することとなり、使途が特定の費目に指定・限定されていない収入の場合は、原則として、対象経費の総額から当該収入額を差し引いて再委託費を算定することとなる。
本院は、合規性等の観点から、委託費が適正に算定されているかなどに着眼して、本省が26年度にJOCに支払った前記の委託費603,819,352円を対象に、本省及びJOCにおいて、委託事業に係る委託事業完了報告書、再委託事業に係る事業実施報告書等を確認するとともに、JOCに対して各スポーツ団体における再委託事業の実施に係る収入に関する調書の作成及び提出を求めるなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
JOCが再委託契約を締結した27スポーツ団体のうち6スポーツ団体(注)は、26年度に実施した再委託事業計16件において、合宿参加者等から使途が特定の費目に指定・限定されていない収入として負担金計4,571,883円を徴収していた。しかし、6スポーツ団体は、この収入について、NF事業要項に準じた前記の取扱いをせずに、収入として計上しなかったり、対象経費の総額からではなく再委託費の対象とならない経費から当該収入額を差し引いたりして、再委託費を算定し、これにより事業実施報告書をJOCに提出していた。JOCは、これらの事業実施報告書に基づき6スポーツ団体に対して再委託費計60,175,295円を支払うとともに、これらの再委託費の額等に基づいて委託事業完了報告書を本省に提出していた。そして、本省は、この委託事業完了報告書に基づきJOCに対して委託費603,819,352円を支払っていた。
したがって、上記の収入額を対象経費の総額から減じて6スポーツ団体に対する適正な再委託費の額を算定すると、表のとおり計55,603,412円となり、本省がJOCに対して支払うべき適正な委託費は599,247,469円となることから、前記の委託費603,819,352円との差額4,571,883円が過大に支払われていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、JOCにおいて6スポーツ団体から提出された事業実施報告書に対する審査及び確認が十分でなかったこと、本省においてJOCから提出された委託事業完了報告書に対する審査及び確認が十分でなかったことなどによると認められる。
表 6スポーツ団体に対する適正な再委託費等
スポーツ団体名 | 再委託事業数 | 再委託費 (対象経費の総額) (A) |
NF事業要項に準じた取扱いをしていなかった収入額 (B) |
適正な再委託費 (A)-(B) |
---|---|---|---|---|
公益社団法人
日本ボート協会 |
4件 | 12,813,150円 | 1,699,000円 | 11,114,150円 |
公益財団法人
日本体操協会 |
4件 | 15,586,052円 | 663,100円 | 14,922,952円 |
公益社団法人
日本馬術連盟 |
1件 | 3,507,403円 | 250,000円 | 3,257,403円 |
公益財団法人
日本バドミントン協会 |
1件 | 2,983,810円 | 390,000円 | 2,593,810円 |
公益社団法人
全日本アーチェリー連盟 |
3件 | 12,921,251円 | 1,125,000円 | 11,796,251円 |
一般社団法人
全日本テコンドー協会 |
3件 | 12,363,629円 | 444,783円 | 11,918,846円 |
6スポーツ団体計 | 16件 | 60,175,295円 | 4,571,883円 | 55,603,412円 |